12・試作は出来たがそこからが難しい様だ
蒸気機関の試作はスムーズだったが、ボルトアクション銃の方は試行錯誤が続いている。
最も苦労しているのが薬室と銃身の関係らしい。
先込め式銃の場合、銃身を根元で蓋するだけで後は火薬と弾を詰めれば何の問題もなく撃てるのだが、元込め式の場合、薬莢というモノがあるので、銃身全体を薬莢の外径に合わせたのでは弾が銃身より小さくなり、うまく発射ガスを受け止めて飛ぶことが出来ない。どうしてもガスが弾の隙間から逃げてしまう。
それを防ぐためには薬莢が装填される部分の外径を銃身より大きくする必要があるが、あまり考えなしでやると強度が無くなる。いくら階納出身の鍛冶師たちが携わっていると言っても、多くは蒸気機関の開発にまわっており、銃の試作は翔をはじめとした少数が担当しているに過ぎない。
というのも、元々蒸気機関の様な大型機械は鉄橋建造に携わっていた恵夢志一党の得意分野であり、恵夢志の下で建造に携わっていたベテラン組はそのウデを買われて大型の蒸気ボイラー開発を行っている。翔が携わったシリンダーにしても、その腕はベテラン組の方が上と言える。
結局、指揮を弦能に任せ、翔や若い鍛冶師たちは銃の試作へと別れてきている。
もちろん、これまで銃開発に携わっていないベテラン組であっても、元込め式銃を簡単に完成させる術は持っていないだろうが。
では、なぜ蒸気機関がそうも容易に完成したかって?
それは、そもそも階納では通常の水車ではなく、山の上から導水管で水を落としてその強力な水圧を利用して大型鉄鎚を駆動していた経験があったからだ。
高水圧に耐える導水管や水車を製造していた階納にとって、蒸気機関は分野を同じくするものだった。しかし、銃器はまた別だった。
銃器自体は久邊通貫ら屋島の鉄砲鍛冶に一日の長があった。もちろん、鉄砲が作れたら蒸気機関が作れるかというとそうでないのはこれまでの経緯を見ればわかる。
そう、翔といえど、あくまでその加工技術によって、ボルトアクション式銃の部品を作り出せたに過ぎない。
さて、話を戻すが、翔がその技術を生かして薬莢に合わせて銃身を削ったのだが、案の定問題が起きた。
その可能性を通貫は懸念していたが、実験してみない事には分からないという事で、実際に試作してみると、僅か数発で銃身に僅かな亀裂が走った。もちろん、次撃てば暴発間違いなしの状態。
ならばと銃身自体を厚く作って薬莢が収まる薬室部を切削して作ると、これはこれで銃が重くなりすぎる。先込め式の倍の重量にもなってしまうのでは意味が無い。
なにせ、一般的な先込め式が4㎏弱に対し、ボルトアクション式は構造物が増えた関係で4.5㎏を越えている。銃身を肉厚にすれば容易に7㎏程度になってしまう。それではさすがに一般兵に持たせるには重すぎる。
そこでまず考えられたのが薬莢を底部のみプレス加工で製造して、そこに厚紙の胴を糊付けして製造しているものを全金属製へと変更する事だった。素材は現在の底部素材同様に、加工性から銅が選ばれた。
しかし、問題は解決しなかった。結局、その程度では強度が足りなかった。
そこで、薬室部分のみ肉厚にして、銃身部分は従来通りとすることになった。
すると、銃身自体の問題は解決したが連続して射撃していると薬莢が薬室に張り付いて抜き出せなくなる事態が発生した。
薬莢自体の問題も疑われたが、この問題は意外と早く解決した。薬室肉厚がまだ薄すぎたのだ。
それを改善するとほぼ問題は無くなった。
そんなこんなでボルトアクション式の開発には1年近くがかかっている。しかし、まだ解決できていない問題がある。
リムファイア式自体の問題点として、不発が発生しやすくなっている。
これが小口径の6ミリ程度の薬莢ならそこまで問題は無いのだろうが、15ミリもある薬莢ではリムの雷汞の起爆がスムーズに火薬全体に広まらず、不安定になる。そして、そもそも発射出来ないことも起きてくる。
これを解決する方法として今では普通に見かける薬莢の底を見ると真ん中にヘソがあるアレ、あそこが雷管になっているセンターファイア式の開発が必要という話が出てきた。
これまで銃の外観に関してはこれと言って何もしなかった通貫がここにきてあれこれすごく良い案を出している。薬室の肉厚問題も薬莢の張付き問題も、そしてセンターファイア式も、彼の功績だ。俺は特に何もやっていない。たまに試作銃が出来ればその説明を受けるだけだった。
「新たに完成しました銃になります」
通貫がそう言って持ってきたのはセンターファイア式の薬莢を使う新たな試作銃だった。すでに銃自体の信頼性はあるので、俺が撃っても問題ない。
薬莢はボルトアクションとか小銃と聞いて思い浮かべる口が絞り込まれたアレではない、拳銃弾用と同じ寸胴だ。というか、初期の散弾銃の金属製薬莢と言った方が良いのだと思う。これを小銃だと思ってはいけない。ボルトアクション式散弾銃くらいに考えるべきだ。
そう思って撃ってみる。なかなか良いんじゃない?
まあ、後の時代からすると不思議に思うだろう。小銃と言えば、7.62ミリだとか7.92ミリだとかいう口径が有名だ。
しかし、あれは無煙火薬という化学技術によって作り出された火薬だ。木炭と硫黄と硝石を混合して作る黒色火薬とは別物。
小銃というのは長い銃身を持つが、黒色火薬はほぼ瞬時に爆発してしまうため、銃口まで万遍なくエネルギーを持続させることは出来ない。それに対し、無煙火薬は比較的爆発が遅い。そのため、銃口から弾が抜けるまでずっと新たなガスを作り続けて弾を押し続けている。どちらが威力があるかは言わずともわかるだろう。
この無煙火薬の発明で、それまで主流だった15ミリ前後から8ミリ弱へと口径をほぼ半減することに成功している。それは当然、銃身が細くなることで銃を軽くした。5㎏近かった重量は4㎏程度と先込め式と変わらないところまで軽量化され、小口径化した銃弾は弾倉への多装填が容易になり、5~10発を弾倉に備える連発銃が常識となっていく。
できるならそこまでやってもらいたいものだが・・・
しかし、それ以前に、ボルトアクション銃を量産できる体制を敷かないといけないな。




