10・なぜそうなったか謎だが、結果よければすべてよし
「どう、と言われましても。現状では使いようがありません」
いや、アッケラカンとそんな事を言われてもだよ。それならどうすんだよ、これ。
「こんな細工をすることが出来るのは素直にすごい。ところで、これをどうしたらよいと思う?」
通貫は弾の改良には熱心だ。何と言っても今では釣鐘弾も木栓弾もかなりの精度に仕上げてきている。特に、今では釣鐘弾は浅い溝のみだが、木栓弾は深い溝を刻んでさらに抵抗を減らしに来ている。完全にその形状はライフルド・スラッグそのもので間違いないほどに。
そこまでできるのに、何故に銃の外観に興味がわかないか、想像力がそこへ向かないか、謎で仕方ない。
「そうですね。銃の後方の栓を開閉可能として、後方からコレを仕込み、栓をすると良いかもしれませんが、開閉可能な栓でガスの圧力を受け止める良い固定方法が思いつきません」
惜しいなぁ~もう少し、もうすこしだよ、あと一歩でスナイドル銃だ。だが、解決法は言わないでおく。
「それでは仕方がないな。まさか、コレを銃口から落とし込んでも、回収が出来ないのでは次弾が撃てない」
と、話しを合わせておいた。
中世の大砲にフランキ砲という元込め式の大砲があった。大友宗麟の「国崩し」と言えば分かる人も多いかもしれない。砲身とは別に、火薬と弾を詰めた弾倉が存在し、大砲後部の穴に弾倉を差し込んで発射する構造だった。今の目で見れば、先込め式より進んでいるように見えるが、実はそうではなかったようで、16世紀ごろに登場しながら、その後、青銅から鉄に大砲の素材が転換されると作られなくなってしまう。
今の感覚でいえば、リボルバー式けん銃のように、砲身と火薬が爆発する薬室が少々隙間があっても問題ないように思うのだが、そうではなかったようだ。ガス漏れが酷くてあまり強力な大砲が作れなかったらしい。まあ、それだけ隙間だらけだったという事なんだろう。
例えば、通貫にフランキ砲の知識があれば、火縄銃をフランキ砲のように後部を切削して、薬莢を銃身に差し込み、その後ろから蓋をする。要するにスナイドル銃のメカニズムが思い浮かんで来そうなもんだが、この世界にフランキ砲は無いんか?
しかしまあ、年単位の時間をかけて作り出した代物は、雷管を飛び越えてリムファイア式薬莢って、この変人、やはりどこかがおかしい様だ。
まあそれは追々何とかしてもらうとして、まずは現状の問題だ。弾の精度はどんどん向上していて、200メートル近い射程ですら命中が期待できる。ただ、この距離で威力を発揮するには、兵筒が良いだろうね。せっかく作った20ゲージ、間筒ではあるが、この距離では甲冑に弾かれる恐れがある。
「銃身に線条を刻むか」
独り言のようにそう言う。
「資村さま、我々も以前より線条を刻めば矢のように安定するとは思っております。そして、幾度も試しました。特に、釣鐘弾はまさにうってつけの弾です。ただ、何分、線条を施すのは人ですので、一本毎にまるで違う線条になり、精度の安定がありません」
という事らしい。
ライフリングは確か15世紀だかには存在したらしい。ただ、それを量産することが出来るのは18世紀後半以降になる。
1740年代に実用的なライフル銃が発明されるまで、「効果は分かっているが・・・」という状態だったようだ。
まあ、今でも回転方向や施条本数、回転数など、考え方はまちまちではあるが、反動や使用弾薬の種類によって、だいたいの回転方向や回転数が決まっているという話は読んだことがあった気がする。
まあ、この辺はライフリングマシーンみたいなのが開発されるのを待つしかないのかもしれんね。
「そうか、試してはいるのか。ならば、銃身の先、銃口側にのみ同じような線条を刻むことは出来るか?奥まで刻まなくて良い、半回転もあればよいと思う」
散弾銃には銃身すべてにライフリングを刻んだものもあるが、日本では法律で散弾銃とは認められていない。ライフル銃に分類されるため、所持には制限が付く。法律上の見解として、銃身の半分のみライフリングを刻んだ銃であれば、散弾銃として認められるため、ライフリングを銃身の半分にそぎ落とした銃が輸入されているという。
この、ライフルド散弾銃が誕生したのは19世紀後半の話で、当時、先端にのみライフリングを施していたという。近年では散弾銃の銃身は先端部分がネジ式となり銃口部分が交換できる構造になり、使用目的や使用する弾丸に合わせた銃口部品へと交換可能になっている。競技に特化して銃口部を広げたり、鳥撃ち用に銃口部を狭く絞ったりなど、その一つにライフリングを施したものが存在している。
ライフルド・チョーク程度の僅かな距離の施条ならば、今の技術で出来るかもしれない。なにせ、釣鐘弾という、ミニエー弾モドキがあり、その弾がライフル銃に使えることも分かっているのだから。
ただ、銃口の先端部に施条を施すだけなので、ライフル銃の様に900メートルという遠距離で威力を発揮できるわけではないだろう。精々、今よりも弾道が安定する事で300メートル程度の距離で敵を倒せたる様になれば良いといったところではないだろうか。
そんなことを思いながら、その日の練習を終えた。
その夜の話だ、翔の所で働いている音野から、弦能に託した蒸気機関だが、これまで強度面で難航していたものが、翔の大活躍で、もうすぐ完成するという話を聞いた。
「それは凄い。いっそ、翔が銃も作ってくれると良いんだがなぁ。例えばだ、銃身の後部はネジで栓をするんだが、そこに継ぎ手を持った金棒を差し込んで、対になる銃身側の継ぎ手と嵌め合わせて固定して反動を受け止めるような構造が出来れば・・・」
などと、遅々として進まない元込め銃開発への不満から、ボルトアクションの基本的な構造を音野に愚痴っていた。
どうしてそうなった?
「資村さま配下の鍛冶師、翔殿から提案があった継ぎ手式尾栓を用いて作りました試作銃でございます」
たった三か月後にはボルトアクション式銃が出来てしまったでござる。意味が分からん。
しかも、例のリムファイアに厚紙包装がなされ、どこかで見たことのある散弾銃の薬莢然としたモノまで完成してやがった。これ、底部が金属だから、紙薬莢を使っていたドライゼ銃より進んだボルトアクション銃だよな?金属薬莢だから、ドライゼ銃の様に紙薬莢の先端にある弾の底部に取り付けた雷管を叩く長い撃針が必要な訳ではない為、使用しているうちに撃針が破損してしまうなんて事態も回避できそうだ。
ははは、何かやってしまった感が強いぞ。




