1・女神さまらしい人に会ってるんだが
俺には願望がある。中二病な願望だから誰にも言ったことが無い。
事故って死んだら転生する。今やラノベの定番だが。俺の願望はそれだ。
普通に生きてりゃ毎日遊んで暮らすってわけにはいかないだろ?そりゃあ、富豪の家で何不自由なく遊んでるとかいうやつも居るかもしれんが、そんなのは例外だ。
まあ、それは良い。
転生と言えば、剣と魔法の世界へ行って冒険者になって魔王を討伐してみたり、どこかの国の王族になって周辺を征服してみたりってのがよくあるよな。歴史上の人物になって歴史を変えるのもあったか。
でも、それってせっかく転生できたのに何か損してる気がしないか?
いや、魔王討伐や国の統一が面白くないとは言わないよ。しかし、そんな働き詰めってどうなの?
転生って特典だと思うんだ。せっかくの特典でわざわざそんな危険な選択しなくてもよくないか?もっと遊んで暮らせる方が楽しいと思うんだよな。
少なくとも俺は、魔王討伐や国の統一なんてやらずに済むところへ行きたい。そして、一生何不自由なく遊んで暮らしたい。
別にハーレムなんかなくてもいいし、チートだって必要ない。戦う必要が無いのにチートなんか持ってても仕方がないじゃないか。ハーレムなんて複数の異性の機嫌とったり相手するの大変じゃないか。
ああ、かといって、スローライフがやりたい訳じゃないぞ?
あれだって立派な労働だ。
人が居ない辺境の森で一人で開墾したりするのは寂しくないか?どこかの片田舎でってのもさ、領主や代官に目を付けられて身ぐるみはがされるのは嫌だぞ。
平和な国の王様とか、国の中央に関係ない辺境の貴族辺りが良いな。そんな平穏な生活が良いんだよ。
「ご希望は分かりましたが、あなたにお勧めの転生は、趣味の知識が生かせる冒険者です」
少し現実逃避していた。
今、目の前にはお役所の窓口の様に淡々と業務をこなす仕事の出来そうな女性が居る。多分、女神さまとかいう職業の方ではないだろうか。普通にスーツだ。羽衣もまとってはいないし、過度の露出もない。
と、言うか、人の話を聞いてくれていない。冒険者なんて真っ平御免だ。
「しかし、『遊んで暮らしたい』というのは解釈の問題ではありますが、天国へ行きたいというご要望として処理することになります」
だから、天国ではなく、遊んで暮らせる場所を希望していると、さっきから再三再四言ってるんだけど。
そう言うと、困り顔で女神さまが俺を見る。
「あなたの趣味、或いは知識を前提にした場合。開拓、冒険者、逆転人生といった転生しかご用意できません」
なぜかこのやり取りがずっと続いている。いつから続いているのかも忘れたが。
「もう一度、こちらの資料に目を通してください」
それは数々の転生先に関する説明だった。
開拓というジャンルにも種類は多数ある。本当に人の居ない森の中から始めるモノ。田舎の寒村から始めるモノ。寂れた街から始めるモノだ。
だが、どれもこれも楽して遊べやしない。
冒険者は魔法や剣の世界で魔王討伐やランク上げを行うものだ。魔王なんか関係ない世界もあるようだが、どこまで行っても冒険者には違いない。
逆転人生モノが一番意味不明だ。亡国の王子になって国を取り返すだとか、傾いた国を建て直すだとか、挫折した歴史上の人物として歴史を変えるだとか、そう言うヤツだ。
どれもこれも話にならない。もっと他にありそうなもんだがな。一応辺境だが、自ら騒ぎを起こさなければ平穏無事に過ごせる転生だってラノベにあったぞ?
「そうは言われましても・・・、でしたら、これなどは如何でしょうか?」
そう言って女神さまが資料をめくっていく。
そこにあったのは、比較的小さな国の平和そうなお話だ。問題は、転生したのち、隣の大国が攻めてきて滅ぼされるってところか。
「ここでしたら、少なくとも転生後、王となるまでは遊んで暮らせるかと思います」
いやいや、それ、おかしくないか?
「あなたには武器に関する知識や農業に関する知識がありますので、平和な間に武器の開発や内政の改革を行う事で亡国は回避できると思います」
女神さまはそう言うが、遊びたいと言ってるところに働けと言われても、無理ではなかろうか?
「そこまで重労働ではありません。あなたはその知識を使えばよいのです。実際に働く者は用意出来ますので、その者に働かせればよいのです」
なんだろう、ものすごく魅力的な提案じゃないか。国が亡びるという部分を知らなければの話だが。
「国が亡びるか否かはあなた次第です。優秀な技術者や将軍、勤勉な農民はお付けします」
だったら人質で貴女もついて来いと言いたい。
「残念ながらそれは出来かねます」
漫画やラノベの様に女神さまを巻き込むことは出来ないらしい。じゃあ、その技術者や将軍、農民とやらをよほどチートにしてもらわんとどうしようもないな。
「それではこちらへの転生という事でよろしいですね?」
女神さまはようやく仕事が終わると、顔がそう主張していた。