門扉のシュヴァリエ
わたくしの仕事は門扉を守ることだ。もちろん、本業は戦場で槍を振るうことだ。だがそれは常にあるわけではない。だからこそ、平和な時に出来ることをわたくしはしたい。
それにしても居住街区と皇民街区では、通る人の種族も身分もまるで違うものなのだな。わたくしは主に皇民街区を歩いている。だからこそ、普段とは違った見方が出来るのかもしれぬな。
「まあ! お姉さまではありませんか。こんな所で何をされているのですか?」
「も、門番だ。お前こそ、何故ここを通る?」
「わたしは下々の生活を見学に行っただけのことですわ。アルレットお姉さまこそ、何故高貴なる騎士が門番なんかをされているのか、ご説明願いたいですわ……」
「わ、わたくしに構うな! す、好きでここに立っているのだ。マリオン、は、早く城へ戻れ。わ、わたくしは忙しいのだ」
まずい奴に見られてしまった。何故この日に限って、普段は寄り付きもしない居住街区門を使うのだ。早くここから去って欲しいというのに。
「槍を持たせれば敵なしのお姉さまが門番ですの? 妙ですわ。一体何を……あ。ははーん、そういうことでしたのね。最強すぎるお姉さまにも見ていることしか出来ないだなんて、可愛いですわ」
「マリオン、さ、去れっ! あの方がここを通られるのだ。ここに騎士はふたりもいらないぞ」
「すぐにお気づきになられると思いますけれど、お姉さまがウブな騎士であるということをお知りになられるいい機会ですわね」
「――も、もうすぐ」
普段そこに立っているはずの無い騎士が街区の門に立っている。それに気付く皇子一行。チラリとその騎士に目を見やり、その近くにいた同じく騎士のマリオンに目配せをしていたようだった。
「はー……す、素敵であらせられた」
「うふふ……お姉さま。脈ありですわよ? 良かったですわね」
「な、何のことだ? そ、そんなことよりお前は早く城へ戻れ」
「ええ、戻らせて頂きますわ。お姉さまも、程々にしてお戻りくださいませね。少なくとも、今日はもうここをお通りにならないみたいですし」
「だ、だから、何の話だ」
「ふふっ、まさに最強にして可憐な門扉のシュヴァリエですわね」
わたくしは門扉のシュヴァリエ、アルレット。人民と皇民を護る騎士だ。いつか、皇子に直接お会いして想いを伝えたい。今はまだ、門を通られる皇子の横顔を眺めるだけでいい。