mission 1 エピローグ
トレーラーで輸送されるアーマードナイト「ネームレス」。
そのコックピット内で、俺は夕食を取っていた。
戦闘区域からの帰還中ではあるが、戦争中なのだ、いつ何時敵に襲われるとも限らない。
そのため、敵を補足次第すぐに出撃できるように、コックピット内での待機を命じられていた。
干し肉を噛みちぎり、その塩気で黒く固いパンを口の中に流し込んでいく。
塩気とパンで喉が渇くので、水袋の水を一気にあおる。
至福の時だ。
やはり働いた後の飯は美味い。
しかし、携帯していた量では少し足りなかった。
アーマードナイトに貨物を入れられるスペースはない。高速で動く兵器のため、固定して置くスペースがないのだ。
それに、戦闘力の高いアーマードナイトをわざわざ輸送に使うこともないだろうが、もし仮にその必要ができたとしても、アーマードナイトの手で運べばいいのだ。
そのような多種多様な目的をこなすため、アーマードナイトは忠実に人型を模していて、メサイアである俺たちの意志に忠実に動く。
メサイアにその技術とその気さえあれば、そこらに生えている丸太を抜き取り、ナイフで彫刻ですら作れるだろう。
つまり、このような遠征のときには食料の持ち込みは限られてしまうということであり、それは俺にとって明日の活力の源が減ってしまうということ。
どうするべきか……。
悩んでいると、魔道通信が入り、ディスプレイにアデラの姿が表示された。
『メサイアさん、アデラです』
見ればわかる。
しかし、アデラのいる場所が不思議だった。
通信の背景から見たところ、ネームレスのコックピットのすぐ横、搭乗口のあたりから通信してきているらしく、魔剣と接続していない現在、ディスプレイは表示されていないが、仮に周りが見えていたなら彼女の姿が間近にあることに違いない。
『えっと……なんて言ったらいいのでしょうか?
親睦を深めに来ました?』
小首をかしげながら言う彼女。
この場合、俺は何をすればいいのだろうか?
困っている顔を見た彼女が、笑いながら言う。
『とりあえず、開けてくれると助かります』
言われた通りに、コックピットのドアを開けると、アデラは中へと入ってきた。
元々コックピット内は狭いので、自然と彼女との距離は近くなる。
良い匂いがした。肉の焼けた匂いだ。
干し肉もいいものだが、新鮮な肉もいい。
トレーラーの人員が狩ってきたのをどこかで食べてきたのだろうか? 近く、俺もご相伴にあずかれるかもしれない。
期待に胸が膨らんだ。
「えっと、こんばんは。メサイアさん」
肉の匂いを嗅ごうと、鼻をスンスンと動かしていると、困惑した表情で彼女は言った。
そういえば、彼女の生声は初めて聴いた気がする。
今日の戦闘中、ずっと聞いていた声というだけあり、すでに彼女の声音は心に馴染むものとなっていた。
「申し訳ないのですが、メサイアさんのファイルは見させていただきました。
食事が好きなのですよね? こんなものしかないのですが、どうでしょうか?」
持っていたバスケットをアデラは差し出してくる。
受け取って開けてみると、肉と野菜が白いパンで挟まれているものが、ぎっしりと敷き詰められていた。
「サンドイッチ、知りませんか?」
俺は首を振りながら、漂っている匂いを嗅ぐ。
肉だけではなく、野菜の匂いや、胡椒の匂いまでする。いい匂いだ。
これを食べてもいいのだろうか?
「どうぞ。私の手作りで申し訳ないのですが……」
なぜ、彼女の手作りなのが申し訳ないことなのかわからなかったが、それを聞くのももどかしく、俺はバスケットに顔をうずめて、サンドイッチなるものにかじりついた。
「え? ちょ、ちょっとストップです!」
途端にアデラに制止され、思わず恨めし気な目を向ける。
「うっ……そんな目で見ないでください。
食べていいんです。食べていいんですが、サンドイッチはこうやって食べるんですよ」
そう言いながらアデラは白いパンの部分で、肉と野菜を片手で挟み込んで持って見せた。
「こうすると、手が汚れないで食べられるんですよ。
……はい」
そのままアデラは俺の口元に手を差し出す。
鼻先にやってきた匂いに釣られるように、俺はサンドイッチを頬張った。
美味い。
「幸せそうな顔ですね……」
幸せだからな。
美味いものが食べられる。この世にそれ以上の幸せがあるものか。
「はい、これもどうぞ。まだまだたくさんありますからね。
ふふ、餌付けしてるみたい……」
その後もアデラの手でサンドイッチを食べさせてもらい、俺は幸せな気分のままコックピット内での待機任務を終えたのだった。
たぶん、お気づきのとおり、この作品のヒロインはオペレーターのアデラさんです。