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mission 1

 魔剣を核にした魔導兵器、アーマードナイト。その存在は、この世界の戦場を大きく塗り替えた。


 通常魔道兵器の積む、魔力ジェネレーターでは成し得ないエネルギーを用いた防御魔法、攻撃魔法は既存の兵器を一掃し、意識を直接つなげることにより、体を動かすのと変わらない操作性とその自由度からありとあらゆる作戦をこなせる。まさに万能兵器と呼ぶにふさわしい。


 その外見は巨大な鎧だ。


 魔剣とその適合者であるメサイア。そのメサイアがフレームと呼ばれる素体に接続され、魔剣からメサイア、メサイアからフレームへとその意識と魔力が流れ込む。

 そのフレームに、魔力ジェネレーターでは扱いきれない、強力な防御魔法を組み込んだ装甲、そして魔道武器を装着。


 こうしてアーマードナイトは戦場で、その猛威を振るうのだ。


『敵、魔道兵器。数は二十五です。

 アーマードナイトの姿はなし、楽勝です』


 国境近くの山中、奇襲をかけるために見つかりづらい森の奥深くまで運ばれてきたはずだが、魔剣との接続をしていない現在、アーマードナイトは待機状態にあり、周囲の状況を確認するためのウィンドウも真っ暗なままだ。


『まだ起動していないから真っ暗ですよね。今、魔剣との接続を開始しますね』


 魔剣という無尽蔵のエネルギー源がありながら、なぜ常に起動状態にしていないのか。それは単に、魔剣の持つ魔力が人が扱うには膨大すぎるということに起因する。

 いくら魔剣に適合するメサイアと言えども、魔剣の魔力はその肉体に大きな負荷をかける。


 だからこそ、戦闘直前までオペレーターの手によるロックがかかるのだ。

『名もなき魔剣ネームレス』


 聖皇国に出自となる資料が遺されておらず、暫定でつけられた名前をアデラが呼ぶ。


『起動しなさい!』


 その声とともに、心臓の鼓動が大きく、力強く脈打つ感覚に襲われる。

 思わず歯を食いしばる。気を抜くと、体が破裂してしまいそうだ。


『やはり適合率が低いせいでしょうね。負荷が大きい……。

 でも耐えてください。あなたならやれるはずです』


 アデラは勝手なことを言う。

 しかし、耐えるほかないことは事実だ。


 俺は歯を食いしばって、通信越しのアデラに笑顔を見せた。

 大丈夫だ。俺は戦える。


『良い笑顔です。

 出撃まで残り一分ほどです。覚悟を決めてください』


 覚悟など、とうに決まっている。

 それでも深呼吸をしながら、その長い一分を待った。


『出撃まで残り二十。十九……』


 動きやすいような体制を取ろうと思い、機体を動かしてみる。

 アーマードナイトは、自分の体を動かすかのように、スムーズに動いてくれる。


『良い動きです。八……七……』


 巨大な魔道銃を片手で構え、機体の各所についたブースターをいつでも噴かせられるように起動しておく。


『三……二……一……アーマードナイト、ネームレス。出撃!』


 出撃。その言葉を聞いた瞬間、俺は隠れていた木々の中から上空へ飛び出した。

 遠くの街道沿いを敵の部隊は移動していた。


 トレーラー。巨大な箱を、魔導ジェネレーターを積んだ馬車で運ぶ。

 旧式だが、理に適っている構造の、一般的な輸送用魔導兵器だ。


 武装は上部に取り付けられた魔導銃が一門。きわめて簡素だが、魔導ジェネレーターの出力のほとんどを移動に費やしていることから、仕方のないことでもある。


 そしてその周りを囲んでいるのが、タンクと呼ばれる魔導兵器だ。


 防御魔法を常に展開し、高い防御力を誇るほか、その余剰を主砲にチャージさせることにより高威力の魔弾を放つ砲を有している。

 防御主体のため、チャージの時間がかかるのが難点ではあるが、生身の人間、もしくは通常魔道兵器では苦労する相手だ。


 そう、あくまで通常魔道兵器での話だが。


『情報通り、敵の魔道兵器の数は二十五ですね。

 せっかく待ち伏せで奇襲できたのですから、先制攻撃でいくらか減らしましょう』


 アデラの助言通りに、魔道銃を手近な敵に発射する。

 そして同時にブースターを噴かせ、高機動戦闘を開始した。


 視界の端、魔弾の当たったタンクが爆散する。

 アーマードナイトの高い魔力を用いた魔弾は、通常魔道兵器の持つ防御魔法を易々と貫通する。

 だが、その破壊は敵兵器の破壊のみを目標とし、地形をむやみに破壊しないようにコントロールされていた。

 現に、地面に空いた穴は先ほどのタンクと同じ程度の大きさであり、街道脇に生えている木などを切り倒したり等はしていない。


『命中です。いい腕です。

 それにすぐに高機動戦闘に移った当たり、よく勉強されているみたいですね』


 アデラに褒められたが、いちいち礼を言ってもいられない。

 すぐ横をタンクの魔弾が通り過ぎ、思わず目を瞑ってしまう。


『大丈夫ですよ。アーマードナイトなら通常魔道兵器の攻撃は、そのほとんどを無力化しますから』


 その通りだった。目を瞑った瞬間、肩付近に被弾したようだったが、ディスプレイに表示されるデータにDAMAGEと表示されてようやく気づくくらい、振動すらなかった。


『しかし、あまり被弾されると、メンテナンスが大変なので、頑張って避けてくださいね』


 防御魔法の刻み込まれているアーマードナイトの装甲だが、攻撃を受けるごとに僅かずつ刻まれている魔法陣が劣化していくらしい。

 そのことを言っているのであろう。


 再び敵の魔導兵器から砲撃音が響き、魔弾が射出される。

 今度は目を瞑ったりしない。当たる前に避ける。


『いい調子です。

 そろそろ慣れてきたでしょうし、攻撃に移りましょう』


 自分の体を通って、莫大なエネルギーがフレームに充填され、それはフレームに接続されている魔導銃へと流れていく。


 そして発射される魔弾は、敵の防御魔法をただの紙のように貫く。


『これだけ的がいるんです。練習にはもってこいでしょう?』


 ブースターを常に噴かせた高機動戦闘の中で、特に誘導性能のない魔弾を当てることは難しい。訓練を始めたばかりの頃では、まともに当てることすらできなかった。


 しかし、一発撃つごとに、敵の魔道兵器は爆散していく。


『訓練は役に立ちましたね。命中率は百パーセント。

 残り敵。これで最後です』


 最後の魔弾を放ち、ブースターを逆向きに噴出しながら地面を滑る。


 強力なGと共に、振動が体への負担となるが、魔剣と接続している今なら、肉体にダメージを受けることはない。


『ミッション完了です。お疲れさまでした』


 アデラの声を聞きながら、緊張でいつの間にか早くなっていた呼吸を整える。


 これで、今日の夜も腹いっぱいに飯を食えることだろう。


『ネームレス、停止します』


 起動前と同じく、真っ暗になっていくコックピットの中で、俺は安堵のため息をついていた。

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