表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

つぶらやの休日~考察する創作の姿勢~

 三月三十一日。

 最終決戦を終えて、今日、つぶらやの会社は休みだ。

 つぶらやはパソコンを立ち上げたまま、寝落ちをしていることに気がついた。

 どうも休みの前日だと、不摂生極まりない。


 今日は出かけるのだ。

 とは言っても、大仰なものではない。ちょっと映画を見るだけだ。

 寝起きに歯を磨きつつ、「なろう」をのぞき、皆さんの活動報告を見て、無事に過ごされていることに感謝をする。


 つぶらやの「なろう」巡回スタイルは、天啓だ。

 出会うままに作品を濫読する。


「う、うめえ。なんだ、この文章? 信じらんねー……」

「くそォ、こんな展開、反則だろ!」

「いちゃつけ……もっと、いちゃつけ……」

「全員そろったぞ! 片っ端からボコせ! 最初に逃げた奴がホシだァ!」

「命を削る必殺技? 早く使え! そのためにお前は生まれ変わったんだァ!」

「ロリババアとショタジジイを、絡ませるだとォ!」

「そんなにハグしたいのか、あんたたちはァ!」

「よっしゃー! 待ってたぜA様!」

「カワイイー! 最高だ、Bちゃん!」

「キャー! Cくん、カッコイー!」

「……What? Is this Japanese GENGO? Really? I cannot understand. HAHAHA!」


 さまざまなセコンドを画面越しに送るので、常時大興奮。

 外に出たら五秒で捕まる変態ぶりで、皆さんの作品を楽しませてもらっている。

 

 一応、かなりぼかしたつもりだが、もし上記の発言を見て「え、これ俺、僕、私の作品じゃね?」と思ったら、アクセス解析してほしい。

 とんでもない時間に、ぽつんと1だけPVがあったら、つぶらやだ。

 しかも同じシーンを何度も見返すべく、行ったり来たりする。


「なんだ? 毎日PVがほとんどない連載作品なのに、真夜中の一時間で30以上もページを見ている!? なんなんだ、こいつは!」


 あえて言わせてもらおう。つぶらやこーらであると。

 更に疲れとテンションによっては、読むスピードが著しくトロい。


「なにこれ? 真夜中から一時間ごとに五時間。PVが1でグラフが続いてる。……キモ」


 すまない、それもつぶらやだ。


 休みの日のつぶらやの朝食は、卵かけごはんと魚肉ソーセージと野菜ジュース。

 あまり手間をかけてはいられない。午前は映画を見て、午後は図書館で調べ物の予定だ。


 電車で、いくつか隣の駅へ向かう。

 この車内でつぶらやは、自分の魔法力を鍛える訓練をしているのだ。

 席に座り、自分に背を向けて立っている乗客に視線をぶつける。

 ぶつける。

 ぶつける。

 「振り向け〜、振り向け〜」と念じながら。

 成功率は30パーセントくらい。皆さんの想像する、睡眠誘発魔法には到底及ばないが、これでも実力は上がっているのだ。

 振り返った時に目が合うと気まずい。振り返る気配がすると、目線をそらしたり、文庫本ガードを発動したりする。

「なろう」にいる紳士淑女の皆さんが、電車内で妙な視線を感じ、振り返った時に、あやしの動きをしている人物がいたら、それが、つぶらやだ。

 ぜひ、コメントやメッセージなどで「○○線に何時ごろ、いましたよね?」と突っ込んでほしい。絶対にごまかすであろう。


 つぶらやが通う映画館は、スクリーンが一つだけのシアトル。こぢんまりとしていて、お気に入りだ。

 自動券売機より、従業員さんが手渡ししてくれることに、風情を感じるのは年のせいなのだろうか。

 中に入ると、やや後方の席に、お年を召したカップルがいらっしゃる。金婚式を迎えてそうな雰囲気で、いかにもおしどり夫婦といった感じだ。

 うらやましい、と思う。

 件のカップルの少し前方に、つぶらやが座る。延長線上からずれているので、邪魔にはなるまい。

 ところが、開演間近。一組のカップルが、つぶらやの更に前方に腰を下ろした。

 若い。制服カップルだ。授業をフケて、デートと言うわけか。

 フィクションの中だけだと思っていたぞ、つぶらやは。


 だが、この状況。

「年の差カップル」に挟まれた、つぶらやである。

 ひどくみじめだ。

「なろう」の淑女のどなたかがいてくれればなあ、と妄想する。

 もちろん、紳士のどなたかでも大歓迎だ。男同士で、存分にバカ話をしよう。

 つぶらやは手帳にそっと「年の差サンドイッチ」という単語を書き、映画を見る。


 しかし、いざ映画が始まるとおかしなものだ。

 あるシーンでは、前の少女と、後ろの老人が同時に笑い、またあるシーンでは、前の少年と後ろの老女が同時に笑うのだ。

 お前ら、結婚しろよ、と頭で突っ込みながら映画を見る。

 ネタの強さはいいが、山場は今一つといったところだ。特定が怖いので、詳しくは書かない。


 映画が終わり、昼ご飯を食べて、色々な店を冷やかし、図書館に寄って、つぶらやは家に帰る。

 今日は、創作料亭「つぶら屋」のゴールデンタイム進出の日。

 下ごしらえの時間だ。

 手帳をめくっていると、ふと、後輩の顔が浮かんだ。彼女もまた、小説を書くのが好きな子だった。

 彼女から聞いた話、今年度の創作ラストにさせてもらおう。


『こーら先輩、どうして小説を書くんですか』


 まずは突っ走る、一気に結末まで。


『そりゃ、尊敬する人がいるからさ。あと、感銘を受けた作品があるんだ』


 できた。次は贅肉をそぎ落とす。


『でも、その作品。世間じゃメタメタな評価ですよね』


 違う、しっくりこない。

 考えろ。

 リズムが悪い。読みづらい。

 気に入らないところを消す。


『いいんだよ。好きなんだから。それに俺があんなに感動したの、尊敬する人以来だ』


 なんだ、このくどい説明は。読者の皆さんをバカにしているのか。


『憧れで書くなんて、辛くないですか?』


 席を立つ。冷蔵庫にストックしてある、つぶらやの命。

 コーラをラッパ飲み。


『辛くないといえば、うそになる。でも書き始めたら止まらない。どんだけ中二だろうとな』

 

 栄養補充。思考がつながった。

 いける。


『先輩の作品。青臭さが出てますもんね。別に悪口じゃないですよ』


 読書をしない人でも分かる。

 読書をしている人でも楽しめる。

 これなら、どうだ。


『俺は伝えたいんだ。世界中のみんなに。時間と場所を越えて。だから』


 よし。あとはギリギリまで推敲する。


『筆を執るんだ』


「今日のゴールデンタイム進出。新しい人、来るかなあ?」


『まだ知らない誰かを感じながら』


「いつも見てくれている、あの人。読んでくれるかなあ?」


『みんながやさしい』


「――明日を頑張れる力になれたら、いいな」


『おだやかな気持ちでいられる』


「――ようこそ、創作料亭『つぶら屋』へ!」


『そんな世界を夢見て』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 自身の感情を、破綻なく纏めあげて文章にするところは流石ですね! [一言] つぶらやさんとて、私をはじめとする沢山の人の支えになっておられるのです。 私の行動原理は『愛する彼女に格好つけたい…
[良い点] 尊敬する人……つぶらやさんも尊敬する方がいらっしゃるんですね。 ……実は、私の尊敬する人の中に、つぶらやさんも入ってたりします。 [一言] 夜分遅く、こんばんは。 いつでもどこでもいつまで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ