つぶらやの休日~考察する創作の姿勢~
三月三十一日。
最終決戦を終えて、今日、つぶらやの会社は休みだ。
つぶらやはパソコンを立ち上げたまま、寝落ちをしていることに気がついた。
どうも休みの前日だと、不摂生極まりない。
今日は出かけるのだ。
とは言っても、大仰なものではない。ちょっと映画を見るだけだ。
寝起きに歯を磨きつつ、「なろう」をのぞき、皆さんの活動報告を見て、無事に過ごされていることに感謝をする。
つぶらやの「なろう」巡回スタイルは、天啓だ。
出会うままに作品を濫読する。
「う、うめえ。なんだ、この文章? 信じらんねー……」
「くそォ、こんな展開、反則だろ!」
「いちゃつけ……もっと、いちゃつけ……」
「全員そろったぞ! 片っ端からボコせ! 最初に逃げた奴がホシだァ!」
「命を削る必殺技? 早く使え! そのためにお前は生まれ変わったんだァ!」
「ロリババアとショタジジイを、絡ませるだとォ!」
「そんなにハグしたいのか、あんたたちはァ!」
「よっしゃー! 待ってたぜA様!」
「カワイイー! 最高だ、Bちゃん!」
「キャー! Cくん、カッコイー!」
「……What? Is this Japanese GENGO? Really? I cannot understand. HAHAHA!」
さまざまなセコンドを画面越しに送るので、常時大興奮。
外に出たら五秒で捕まる変態ぶりで、皆さんの作品を楽しませてもらっている。
一応、かなりぼかしたつもりだが、もし上記の発言を見て「え、これ俺、僕、私の作品じゃね?」と思ったら、アクセス解析してほしい。
とんでもない時間に、ぽつんと1だけPVがあったら、つぶらやだ。
しかも同じシーンを何度も見返すべく、行ったり来たりする。
「なんだ? 毎日PVがほとんどない連載作品なのに、真夜中の一時間で30以上もページを見ている!? なんなんだ、こいつは!」
あえて言わせてもらおう。つぶらやこーらであると。
更に疲れとテンションによっては、読むスピードが著しくトロい。
「なにこれ? 真夜中から一時間ごとに五時間。PVが1でグラフが続いてる。……キモ」
すまない、それもつぶらやだ。
休みの日のつぶらやの朝食は、卵かけごはんと魚肉ソーセージと野菜ジュース。
あまり手間をかけてはいられない。午前は映画を見て、午後は図書館で調べ物の予定だ。
電車で、いくつか隣の駅へ向かう。
この車内でつぶらやは、自分の魔法力を鍛える訓練をしているのだ。
席に座り、自分に背を向けて立っている乗客に視線をぶつける。
ぶつける。
ぶつける。
「振り向け〜、振り向け〜」と念じながら。
成功率は30パーセントくらい。皆さんの想像する、睡眠誘発魔法には到底及ばないが、これでも実力は上がっているのだ。
振り返った時に目が合うと気まずい。振り返る気配がすると、目線をそらしたり、文庫本ガードを発動したりする。
「なろう」にいる紳士淑女の皆さんが、電車内で妙な視線を感じ、振り返った時に、あやしの動きをしている人物がいたら、それが、つぶらやだ。
ぜひ、コメントやメッセージなどで「○○線に何時ごろ、いましたよね?」と突っ込んでほしい。絶対にごまかすであろう。
つぶらやが通う映画館は、スクリーンが一つだけのシアトル。こぢんまりとしていて、お気に入りだ。
自動券売機より、従業員さんが手渡ししてくれることに、風情を感じるのは年のせいなのだろうか。
中に入ると、やや後方の席に、お年を召したカップルがいらっしゃる。金婚式を迎えてそうな雰囲気で、いかにもおしどり夫婦といった感じだ。
うらやましい、と思う。
件のカップルの少し前方に、つぶらやが座る。延長線上からずれているので、邪魔にはなるまい。
ところが、開演間近。一組のカップルが、つぶらやの更に前方に腰を下ろした。
若い。制服カップルだ。授業をフケて、デートと言うわけか。
フィクションの中だけだと思っていたぞ、つぶらやは。
だが、この状況。
「年の差カップル」に挟まれた、つぶらやである。
ひどくみじめだ。
「なろう」の淑女のどなたかがいてくれればなあ、と妄想する。
もちろん、紳士のどなたかでも大歓迎だ。男同士で、存分にバカ話をしよう。
つぶらやは手帳にそっと「年の差サンドイッチ」という単語を書き、映画を見る。
しかし、いざ映画が始まるとおかしなものだ。
あるシーンでは、前の少女と、後ろの老人が同時に笑い、またあるシーンでは、前の少年と後ろの老女が同時に笑うのだ。
お前ら、結婚しろよ、と頭で突っ込みながら映画を見る。
ネタの強さはいいが、山場は今一つといったところだ。特定が怖いので、詳しくは書かない。
映画が終わり、昼ご飯を食べて、色々な店を冷やかし、図書館に寄って、つぶらやは家に帰る。
今日は、創作料亭「つぶら屋」のゴールデンタイム進出の日。
下ごしらえの時間だ。
手帳をめくっていると、ふと、後輩の顔が浮かんだ。彼女もまた、小説を書くのが好きな子だった。
彼女から聞いた話、今年度の創作ラストにさせてもらおう。
『こーら先輩、どうして小説を書くんですか』
まずは突っ走る、一気に結末まで。
『そりゃ、尊敬する人がいるからさ。あと、感銘を受けた作品があるんだ』
できた。次は贅肉をそぎ落とす。
『でも、その作品。世間じゃメタメタな評価ですよね』
違う、しっくりこない。
考えろ。
リズムが悪い。読みづらい。
気に入らないところを消す。
『いいんだよ。好きなんだから。それに俺があんなに感動したの、尊敬する人以来だ』
なんだ、このくどい説明は。読者の皆さんをバカにしているのか。
『憧れで書くなんて、辛くないですか?』
席を立つ。冷蔵庫にストックしてある、つぶらやの命。
コーラをラッパ飲み。
『辛くないといえば、うそになる。でも書き始めたら止まらない。どんだけ中二だろうとな』
栄養補充。思考がつながった。
いける。
『先輩の作品。青臭さが出てますもんね。別に悪口じゃないですよ』
読書をしない人でも分かる。
読書をしている人でも楽しめる。
これなら、どうだ。
『俺は伝えたいんだ。世界中のみんなに。時間と場所を越えて。だから』
よし。あとはギリギリまで推敲する。
『筆を執るんだ』
「今日のゴールデンタイム進出。新しい人、来るかなあ?」
『まだ知らない誰かを感じながら』
「いつも見てくれている、あの人。読んでくれるかなあ?」
『みんながやさしい』
「――明日を頑張れる力になれたら、いいな」
『おだやかな気持ちでいられる』
「――ようこそ、創作料亭『つぶら屋』へ!」
『そんな世界を夢見て』




