五十話 隠れて見つかって
僕は王殿の自室で兄さんや母さんに叱られていた。
「ガル、あの巫女を刺激するなアイツは俺が認めた者だ」
「そうよ、あの方はこの世界の道しるべとなられる」
「--殺されかけたんだぞ!」
母さんは直に体験しただろう!
あの殺意だけでできたような空間。
あんなに苦しい思いをしたのは初めてだった。
ーー覚悟してたはずなのにーー。
苦しいのは苦しかった。
死にそうになるのは苦しかった。
「―—俺は見ていないが、確かにアイツの中には何かある」
兄さんもアイツの中の何かに気付いてる。
だったら何で?
「そうね、あの方の中で得体のしれない何かが存在してる、けれど救われたのは事実」
「解ってる、アイツのお陰で僕は生きてる」
アイツがその気になれば僕らは生きて居ない。
簡単に死をもたらせる存在。
それはあの苦しみで嫌と言うほど理解できる。
「そう、私はあの方の中にある得体のしれない者を抑える舞奈さんを信じます」
何より娘たちを信じると、何か吹っ切れた母さんの表情。
こんな清々しい表情の母さんは何時ぶりだろう?
むしろ今までこんな顔をしたことがあったかな?
ーーーだけど、そんな事よりも。
「確かに、アイツの危うさと強さ、だがアイツは僕らにないモノを持っている」
期待するようにアイツの事を言う兄さん。
「どうしてーーー」
どうして壊してしまうんだよーー今迄の僕らを。
この人たちは誰だ?
何今迄の事をなかったように言うんだよ?
「だからガル貴方もーーえ?」
涙をこらえる僕を見て母さんも兄さんも
「でも僕に死ねって言い続けたのも事実だろう!」
そう言いたくないのに僕は大切な母さんに言ってしまう。
悲しませてしまうのを解っている筈なのに、言わずには居られなかった。
「ーーガル、私は、私達がーーーガル!」
聞きたくない、何も、だから僕は逃げた。
「ーーーっつ」
僕は生きたくなかったーーーどうして。
僕は生きて居るーーなんでなんだよ!
不可能な事じゃなかったのかよ!
僕はどうしたらいいんだよ!
僕は、死ぬために生まれたんだ。
兄さんは神子様のお世話役。
父さんも母さんも神子様の少ない繋がりを持つ者。
消えて良いはずが無い。
姉さんだって、犠牲になったところでたかがしれている。
消えた姉さんーーー唐突に現れて、本当の神様に愛された?
あんな突然現れた奴が神だけでは無く巫女様?
ふざけるな!
光達を操り、この国を救う。
僕の役割を奪っていながら。
なんで生きてるんだ?
結局僕はここに来る。
この星空にーーー。
何もかも忘れさせる。
一人だけの空間ーーーーだったのに?
何で?
「見つけた」
僕を覆い隠していた光達が散らばっていく。
「何で生きているんだ?ーーお前は!」
僕は死ななければ救えない!
それが使命だと言われて居たのに!
何故?
お前は生きているんだ!
「さあね?でも私は生きてるわ、貴方も」
「僕は死ななければ意味が無いじゃないかーーふへ?」
何故か目の前のコイツは僕の頬をこれでもかと伸ばしやがった!
「よく伸びるわね?」
「ふ!ふざけるな!」
頬を引っ張り続けるコイツの手を払いのけて睨み付ける。
グルルル―———。
喉から威嚇音が生理的に勝手に出る。
見た目は人、神に近いけど僕には強いドラゴンの血も確かに流れているのだから。
「あ、御免?だって馬鹿なことばかり言うもの?止めたくてつい?」
首を傾げながら悪気なさそうに言う。
「な!僕は神に愛されたものだぞ!こんな事してーーっつ!」
僕の意思で光達が姿を見せる。
僕がこの国で一番光達に愛されているんだ!
「止めてよ?光達出すの、明るくて眩しいからせっかくの夜空が見えない」
なにを言うのかと思えば星が見えない?
―——確かに静かな夜の暗闇が光達によって照らされ夜空なんて見えなかった。
「な!ーーう」
確かにあの星空が見えないのはーー嫌だ。
そう思うと光達は消えていた。
「ここ、良いね、凄く綺麗」
「あ、当たり前だ!此処は愛されたものしか入れない場」
小さい頃から一人になりたいときは此処に来ていた。
此処なら誰も来ないはずだった。
なのにーーーコイツはずかずかと当たり前のようにここに居る。
気にくわない、僕の当たり前をどんどん壊していく。
「怖い?」
暫く二人でなぜかじっと夜空を見上げる中唐突に問いかけてきた。
脈絡のない問いかけ。
怖い?
「知らない私が、壊す私が」
まるで僕の心を読んだかのような切り返し。
「っつ!僕に怖いものなんてーーお前は何なんだ!」
「私は舞奈、鏡 舞奈、多分、ううん、この世界とは別の世界から来た」
「しってる、イブ、アダムの召喚だろう?だったら必要以上関わるな」
別世界の人間がこの国をかき乱すな!
「あ、無理、私召喚されたって自覚ないもの、ま、逃げてきたんだけど」
「は?」
それから聞いたのは弟と喧嘩して唐突に現れた光達に身をゆだねた事。
「ーーバカなのか?無鉄砲すぎるだろう?」
「確かにね」
召喚された先で目覚めた時は世界樹の根元。
最初に出会ったのがあの出来損ない。
「あぁ、刷り込みか?最初に会って助けてくれたのがあの出来損ないーーいってぇ!」
頬を引っ張るだけじゃ無く、今度は思いっきり抓りやがったぞ!
しかも光達は反応もしないし!
何でだ!
「少なくとも、私は貴方の傍で目覚めても信用はしないし友達にもならなかったわ」
あくまでもあの出来損ないだったからだと言う。
「馬鹿なのか?」
「うん、馬鹿かもね、でも私は雪灰に変えて貰った」
「は?お前が変えたんじゃ無いのか?}
「うん、さっきまで私もそう思ってた」
「?」
「でも私も君も色んな人と関わって変わるし変えられる、当たり前の事なんだ」
「変えるのは神や神子の特権だろう!」
「そうかもね、でも私は変えるし変えられてるよ」
「だったら、―——僕は生きて良いのかよ!」
「!」
「今まで死ぬのが当たり前だったんだ、変わった今、俺は如何したら良いんだよ!」
「好きにすれば良い、その時間は今の君にはあるんだよ」
「解らないんだ、僕はーー僕は」
言っているうちに涙が勝手に流れてきた。
「———」
何故か無言で抱きしめられた?
「これから考えていけば良い、生きていれば自分なりの答えが見つかる」
「本当に勝手だな、お前も神も」
「そうね、勝手よ」
「だったら僕も勝手にする」
「?」
「お前が僕の大切な物を悲しませ壊すならその前に僕がお前を壊す!」
命に代えても守りたいと思ったこの国や家族。
その思いは本当だ。
だから悲しませるのは絶対させない。
愛された僕なら目の前のコイツを壊せる。
自分も死ぬかもしれない、だけどそれは今までと同じだ。
「ぷ!」
僕の覚悟を聞いて目を見開いたコイツは何を思ったのか噴出した。
は?
「な!何だよ!」
馬鹿にしてるのか?
壊せないと思ってるのか?
「ううん!私を守りたい生かしたいって言われてたけど、はは」
「?」
「壊したいなんて言われたの初めてで」
壊す、安易に殺すという僕の発言を笑って喜ぶ?
訳が分からない?
ーーーだけど、何故かーー。
「お前、おかしいな!」
何故か僕たちはいつの間にか笑っていた。
さっきまで訳が解らなかったのに、何故か笑えた。
あの時のコイツは怖かった、だけど目の前のコイツの笑顔や笑っている表情。
ただの女に見えた。
ーー少しわかった、コイツは壊れてるけど、コイツはコイツ何だと。
自分に正直何だと。
ーー少し、もう少し考えても、生きてコイツを見ていてもいいかもしれない。
死ぬために生きてきた僕に新しい目的が出来た。
「ーーーーとう」
何故かこの言葉が言いたくなった。
一度も家族にすらいう事のなかった言葉。
「?」
何故か聞こえていなかったのか首を傾げられてしまう。
「ありがとうと言ったんだ!」
自分でも初めて口にした言葉に顔がなぜか熱くなる。
一言なのに。
「あ、うん?」
「家族が皆生きてる、それだけは僕は感謝する」
変わったけど、まだ混乱しているけど。
「雪灰の事も少しずつでいい、見てあげて」
「ーーいやでも見るさ、お前の傍にアイツは居るからな」
お前を見張るならいやでもアイツを見ることになるだろう?
「はは、雪灰は私にとって大切な友達よ」
やっぱり可笑しい奴だ、友達?
「いや、お前の守護者だろう?」
本人が皆に言ってたしな?
兄さんも認めてたし?
「え?」
また首を傾げる?
聞いてなかったのか?
それともーーあの夜にこの場で見た光景を思い出し問い返す。
死ぬ前の夜に白いアイツの背に乗る星空を漂う姿を。
「それとも恋人なのか?」
ドラゴンの背に乗るのは家族の証、守と誓った身内のみだ。
誰でも乗せられるわけではない。
「!」
何故か顔を真っ赤にして首を高速で横に振る。
「だってお前達ーーな!」
背に乗っていたじゃないかと言おうとした僕の視界の端に白が映りこんだ。
「え?」
驚く僕の視線を追って振り返る。
「ガル、舞奈を返せ」
何故かそこには白い翼を広げドラゴンの姿に成った雪灰が飛んでいた。
「はは、取り戻しに来たのか?」
「何言ってるんだ?舞奈は友達だ」
「うん」
「ーーーーま、僕には関係ないか」
「?」
「見てるぞ、舞奈に雪灰」
そんな僕の言葉に驚いた二人。
「ええ、お願いね」
「好きにしろ、戻るぞ、私も限界だ、寝たい」
「わかったわよ、って抱えなくてもーーっつ」
少し暴れた舞奈はすぐに眠気に襲われた。
「眠れ、あとは私達に任せろ、明日から大変だぞ」
「--え?ーーーすうーーー」
腕の中で眠る舞奈はとても安らかだ。
安心しきっているのは僕にもわかる。
「早く帰れ、ここは僕の場所だ」
「ああ」、ガルも休めよ」
「————」
「--ガル?ーーっつ」
戻った部屋で僕に近寄ってきた母さん、だけど少し距離を空けられてしまう。
触れるのを躊躇う様に。
母さんの眼は腫れていた。
「さっきはごめん」
「っつ!いいのよ、私達もごめんさない、ガル」
「ーー僕は生きるぞ、母さん」
その言葉を聞いて母さんは僕を強く抱きしめた。
ああ、コレが温もり何だな、生きてるって事なんだ。
そういってまた僕は涙を流した。
「ああ、生きるってこんなに暖かいんだな」
御読みくださりありがとうございます。
ではまた。
そろそろ翔達と関わらせたいーーと思ってはいます汗




