四話 彼女の名前は雪灰
あけましておめでとうございます。
今年初めての投稿です。
リバースシーンあります。そこまでひどくないですが、お食事中はお気を付けください(笑)
ではどうぞ。
彼女が私を抱えて飛んで暫く私の下を森や湖様々な自然が通り過ぎる。
どう見ても私が居た場所ではない。
だけど、そんな事今の私には二の次だ。
何かが口から出そうになるのを抑えるのに必死で声すら出せない。
なのに彼女は気づかずに飛ぶ、人生初のドラゴンによる飛行を楽しむ余裕など在りはしない。
「———う」
地上に下ろされたと同時に私はその場に膝をつき口を手で抑える。
ようやく下ろされ気が抜けるとさらに吐き気が――う、動けない。
「着いたぞーーって聞いているのか――お、おい」
人の姿に変わって私を振り返った彼女も私の異変に気付いて駆け寄ってくる。
「————うぷ――」
彼女に応える余裕はない様子の私を理解して慌てる彼女。
「わ!」
反射的に私から離れる彼女、いくら何でもそんなに勢いよく避ける事ないじゃない?
ちゃんと口までで押えたわよ、気持ち悪いつんとする味が口いっぱいに広がってるけど。
「も、無理――う」
「ま、待て!今水場に『―———さん?」!」
私に黒いマントを着せ隠したと思うと私を抱きかかえ走り出す。
いわゆるお姫様抱っこ、流石ドラゴンだけはある。
うん、状況が状況で恥じらいすらないが。
そんなお互いにお互いの事で精いっぱいの私達には朝一で人通りが少ない中私達に気づいて追いかけてくる影に気付かなかった。
――――――――———しばらくお待ちください。
―——セーフ?
「お、おい平気なのか?」
彼女の汲んできてくれた水で口の中を洗い流す私。
その間も彼女は若干嫌な顔をしながらも座り込む私の背を摩ってくれた。
「う、―—ず、随分ましになったわ」
そういって顔を上げるけどもう少しは立てそうもない。
「す、すまない、誰かを持って飛んだ事が久しぶりで」
そういって今度は本当に悪いといった表情で誤ってくれる。
「でしょうね、う、車酔い――ドラゴン酔い?」
私はもとから乗り物酔いはするがドラゴンでも酔うものなんだ。
学んだが――これはもとの場所で役立つのだろうか?
「くる?ま、いいや、ここがスラムだ、少し中心に行くにつれて心界の力が強まって神の血が濃いものが暮らしている」
ここは中心に向かって外側からスラム→田舎→都会→王城→神殿そして心界の働いていない場所をサファリと呼ぶらしい。
ちなみにサファリは下界。
スラム~田舎は下町。
都会~王城は貴族界。
神殿を神界と呼ばれ区別される、ここ以外にもほかの種族の仕切る国があるが心界の階層はほぼほぼ同じらしい。
どんな場所にも差別階級はあるもんなんだ。
「それでここがスラム?」
「あ、あぁ、それであれが――『その女性から離れなさい!」——な!お前?」
彼女が示す先にはまた門のようなものが見えるがその説明をする前に彼女の言葉を誰かの声で遮られる。
その声に反応した彼女が驚いた様子で立ち上がったのだが――。
私達の間に入ってきた白い影が立ち上がった彼女を勢いよく蹴り飛ばす。
彼女はついさっき水を汲んでくれた少し寂れた噴水まで吹っ飛んで行き水飛沫を上げた。
「は?」
実際私の口からそんな言葉しか出なかった。
人があんなに飛ぶほどの脚力って?
や、そもそも何で蹴り飛ばされてるの?
「貴女大丈夫ですか?どこか怪我は?」
慌てた様子で私の肩をつかんで問いかける白いローブで顔を覆う多分彼女。
「あ、あの」
貴女はいったい、それに――。
「―—ふざけんな!何すんだよ!」
全身びしょ濡れで出てきた彼女、透けるが黄ばんだ服がぴちっとして全身のラインがまるわかり。
細いが肉好きはいい——そして―——―—負けた。
女のプライドも何故かズタボロにされた私であった。
彼女にはそんな気はないんだろうが。
「それはこちらのセリフです。こんな朝っぱらからこんな処で女性に手を上げるとはそこまで獣に落ちましたか――姉さん」
成程、こんな朝っぱらから黒いマントに包まれた私を抱きかかえこんなところで体調崩してれば変に誤解されても可笑しくないけど―——ん?
今聞き逃せない単語が出た気がする?
「―—は?姉?」
まって?姉妹なの?
話題についていけていない私を措いて二人だけで会話が進んでいく。
「シャロ、お前か変な誤解をしてるようだが、そいつがサファリに紛れこんでいたから連れてきただけだ」
「信じられません、貴方の言葉など」
私を庇うように伏せるシャロと呼ばれた彼女に私は口を挿む。
実際彼女に助けられたのは本当だし、あのままでいたら私はどうなってたかわからない。
世界樹からここまでずいぶんな距離があったはずだし、湖を苗床にしている世界樹の周りは勿論水だし、
泳ぐにしては無謀、こんなに早くに人の居る場所にはたどり着けなかっただろう。
「あ、あの、それはホントです。世界樹にいた私をここまで連れてきてくれて」
「え?」
振り返ったシャロは拍子の抜けた声を上げ私をローブ越しに見つめる。
「だから言っただろ―—そいつを頼むよ、私はこの先には行けないし、そろそろ人目に付く」
彼女はそういうと私達に背を向ける。
「え、ちょ!待ってよ」
当事者の私を措いて話を進めて何、勝手に決めてるのよ!
それに知らない場所に彼女以上に知らない人に任せるって?
「来るな、お前がいるべきはそっちだ、私の事は忘れるんだな、そこの巡廻者についていけばいい」
そういう彼女はそういって走り去ってしまった。
「ま、待って『だめです』」
彼女を追いかけようと立ち上がり駆け出すが腕をつかまれその後ろに引かれる力によって思うように動かない私の体は彼女ごと倒れ込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
下敷きにしてしまった彼女からの心配する声。
「う、はい、でもあの私彼女にお礼すら言えてないんです」
だから追いかけないと、そういって立ち上がろうとするが彼女につかまれた腕によってそれは阻まれてしまう。
「だからだめです。彼女は獣、貴女のような神の血が濃い人が一緒に居て良い訳ありません」
そういった彼女は自身のローブを下し顔をさらす。
綺麗な金のパーマっ気のある髪に緑の綺麗な瞳の幼さの残る女の子。
あれ?でも彼女は白い髪に灰色の瞳?
「あれ、でもさっき姉さんって?」
「そうですね、そういった消したい事実もあります」
幼い彼女から想像も出来なかった冷めた声で悲しい事を言う。
そして私が思い出さないようにしていた翔の事も抉り出してくるそんな冷めた言葉。
まるで自分に言われているような彼女の、シャロの言葉。
「な!自分の姉を消したいって!何言って」
ホント、何言ってるんだろう。
私だって弟の翔に消えたいと消えてきたばっかりなのに自分の事は棚に上げて。
本当に自分が嫌になってくる。
「彼女は私が五才の時にサファリに落とされた神に愛されなかった出来そこないです」
自分の姉を出来損ないって、どうして?
何でそんなに神にこだわるの?
姿かたちなんてそんなに大事なの?
「な、そんなに神が人が大事なの!姉妹よりも」
「はい、当たり前です、神が居なければ私達は存在しないのですから」
淡々と話す彼女に躊躇いも躊躇もない。
本当に心からそう思っているという様に。
「な、何なのよ、貴女も貴女のお姉さんも神を――人がそんなに偉いの!人としてこんなの変よ」
私の知る私と同じ人が神?ふざけるんじゃないわよ!
「貴女は何を言っているのです?神を人としかも貴女自身が人と言っているような言動、彼女のような獣と一緒にいたから変に下界の毒に置かされたのですね?早く都会に行きましょう」
都会に行けば心界によって毒も消えるだろうと。
なりふり構わずにシャロは彼女の私達が来た方向とは逆に中心向かって歩みを進める。
ま、待ってたら。
あっという間に彼女が教えてくれようとしていたスラムと田舎の境の門を抜けどんどん進んでいく。
「もうすぐ、ほらあそこの門を潜れば都会です――え?」
彼女が立ち止まったと同時に私は思いっきり腕を振り払う。
「―—行かない」
「な、何言ってるんです!貴女はどう見ても貴族の方です。なら貴族界に行くのが当たり前です!大丈夫です、すぐに貴女の家族がみつか——『見つからないわよ!』え?」
「見つかる訳ないじゃない!私の家族はもう目を覚まさない両親と――弟も私はおいてきたんだ!」
そうだ、置いてきたんだ。
私は何もかも!
逃げてきたんだ、私は逃げて――一人なんだ。
だからここに私の家族がいるはずない。
居ないんだ。
私の中で様々な感情が混ざって涙があふれてくる。
私は涙を見られたくなくて来た道を戻るように駆け出す。
戻る場所なんてないのに、だけどこの先の都会にもシャロにもついていきたくなかった。
そしてなぜかそんな時に頭の中に浮かんだのは彼女の――翔のように病弱的な白い色ではなく、まるで雪のようにまっさらな白い髪に灰色の瞳の彼女の寂し気な顔だった。
「な!待ちなさい!———『巡廻者!ちょどいいところに伝達だ』あ、はい」
遅い私の走りも門番らしき人に呼び止められた彼女に追いつかれることなく私は来た道を走って戻る。
もういないかもしれない、だけど私は今彼女に会いたい、とても。
ただ寂しいだけかもしれない、だから最初に私を見付けてくれた彼女にすがりたいだけなのかもしれない。
だけど彼女のもとに向かう歩みを私は止めることができなかった。
この後追いついた私が見た彼女の現実とこの世界の摂理を知ることになるとは知らずに。
戻った私が彼女を見付けたのは田舎に入る門の前だった。
そこには人だかりができていて。
「―—また来たのか?この出来損ない!」
「名無しが早くサファリに戻れよ!」
「まだ、獣になってなかったのか」
そこには彼女のほかに大人や子供が彼女を囲う様に立って彼女を貶す言葉を叫び何人かは一部鱗と鋭い爪をもった腕を彼女に向けていた。
今にもその腕を振り下ろしそうだった。
彼女はその中心で耳をふさぐようにびしょ濡れの体を丸めてうずくまっていた。
その髪は濡れていて遠目からだろうか黒に近い灰色に染まっていた。
とても痛々しい歪んだ光景に私はなりふり構わすにその人だかりを無理やりこじ開けて中心までおどり出る。
「やめて!」
私は精いっぱい声を張り上げ彼女を庇う様に抱きしめる。
「っつ!」
突然の間に入った私の背中を鋭い爪がかすめていった。
「な、何で」
顔を上げた彼女が怯えた目に私を映し問いかける。
その震える体を私は今一度しっかりと抱きしめ周りをにらみつけた。
「やめてよ、同じ人でしょう、何でこんな事するのよ!」
姿かたちは違うけど皆生きてるのに!
「なんだ!お前はそいつは獣だ!スラムに来る事すら許されないんだよ」
「そうだ、そうだ」
「名無しは帰れ!」
何で入ったらいけないの?
彼女が何をしたのよ?
獣って何よ、ドラゴンの事?
貴方たちの腕だってドラゴン何でしょ、どこが違うのよ。
名前名前って『名前なんてない――名無しのドラゴン』
―——だったら!
「何よ!それ!名無しって!名前がそんなに重要なの!だったら名前があれば文句ないの!」
そうよ名前があればいいんじゃない。
「は!何言ってんだよ!名前は神に愛されてる―—『雪灰彼女の名前は雪灰』」
雪のように白い髪に灰色の瞳だから雪灰――安直かもしれない、だけどもうこれで彼女を名無しなんて呼ばせない。
私のこの場所での大切な——。
「私の恩人の雪灰をもう傷つけないで!———あれ?」
急に走って叫んだ、こんなの生まれて初めてかもしれない。
でも何でだろう視界がぐらつく。
「お!おい!まいな!」
--覚えてくれてたんだ、名前――うれしいな。
でもごめん、もう無理そう。
私は人生で初めて見る自身の血だまりに倒れ込む。
――ああ、こんな血母さん達の事故以来かなーー母さん達もこんな風に――。
―——私もこのまま眠れば――いけるかな?
「舞奈!」
遠ざかる意識の中で最後に聞こえたのは私の名前を必死に叫ぶ彼女の声と温もりだった。
読んでいただきありがとうございます。思いつきなのでその都度改正していきます。
すみません、こんな作者ですがこれからもよろしくお願いします。
ではまた。