二話 現れたのは貴族?
二話、まったく進まず説明ばかりですがよければどうぞ。
「役立たず」
「来るなよ神に見放された忌子がサファリに帰れよ!」
私が何をした?
兄妹は何であそこに家族とずっといられるのに何で私はあそこに行けない?
何で私だけそこにいない。
「ごめんね、貴方は神様に愛されなかったの」
「ごめんね、貴方はもうここにはいられないの」
ごめんね、ごめんね―——そればっかりの母さんの悲しい顔。
「何故、お前のようなものが生まれたんだ」
「呼吸すらままならなくなったか、もう諦めなさい俺達のドラゴンの血が近いうち神の血を蝕むだろう」
最初の頃はどうにかしようとするけれど私の体は弱る一方。
諦めの言葉を発する父さん。
「弱いから悪い」
兄さんはとても強い肉体に精神に恵まれ神にも愛されて。
「早くいなくなれ、お前ばっかりかっまてられないんだよ」
弟は神の血に強く愛され。
「まだいたの?」
妹は私と同じようにドラゴンの血が強いが精神が強く血が固定され制御した。
そんな家族として傍にいることを許された兄弟たちの言葉。
家族との楽しい記憶なんてない。
だけど一緒にいたくて、必死に頑張った。
だけど報われなくて、いっその事すべて忘れられればいいのに。
なのにこんなにもはっきりと思い出せる。
神様だってこんな事できないのに何でそんなに偉いのだろうか。
苦しいだけだった。
だけど―――———。
あそこにいたかった。
傍にいたかったんだ。
それだけだったのに、どうしてダメなんだ。
私が神の血が少なくて固定できないから?
だったら固定できれば兄さん達のように神様の近くで家族一緒に暮らせるの?
『我が子よ、今日もあの者らの近くまで行くのか?』
私とは違う原種のドラゴンの育ての親はそう私に向かって問いかける。
捨てられた私を育ててくれた恩人であり今の私の大切な家族だ。
「うん、長、少しずつでも慣れて行かないと」
このサファリではいいけど、スラムに行くだけでまだ息苦しい。
このままだと貴族界なんて夢のまた夢だ。
『しかし、何時までそうするつもりだ?お前の中の神の血は減っても増えはしない、神と呼ばれても神は心界の外では弱い存在に変わりはしない、ましてお前の中のドラゴンの血はとても濃い、いくら神の血でも何時かは食い殺される。』
そう、ドラゴンの血は強力で今までも私と同じようにサファリに捨てられた者たちも次々と細胞に食い殺され、運よく死ななくてもそれはもう神の血のない原種に近い獣。
感情も記憶すらない。
ただの処分対象でデータだ。
「そんなのやってみなきゃ!妹だって!」
そうだ妹だってあんなに最初は私より弱弱しかったのに都会に行き来できるくらいに安定して今は巡廻者として時々スラムやサファリに顔を出している。
実際捨てられてから会えたのは妹だけ、ほかの家族は風の噂で聞くくらいだ。
妹も口を利くことはない。
むしろ目も合わせてくれない。
『お前の妹は確か巡回者だな、それでも固定されたからだ、お前は固定どころか着実に減っている。その守りの加護も進行は遅らせても止めることはないのだから』
長の言葉に無意識に自身の首からかかっているペンダントを握りしめる。
捨てられてしばらくしてから一度だけ妹が私に届けてくれた母さんからの贈り物。
最初の頃は脈打っていた結晶の光も今はわずかな鼓動を刻むだけで光も弱い。
私にとっての大切な唯一の繋がり。
『お前の本当の親はけしてお前を見ぬ、たとえ安定したところでスラムに居続けるのがやっとだ。貴族の親が下界に降りることはない』
そう、神に愛された貴族は貴族界から下界に降りることはない。
私にとって心界の中が毒なら貴族達には下界が毒になるのだから。
「だけど―————もういい」
これ以上話したくなくて私は話を切って長に背を向け外にむかう。
『世界樹様に挨拶はしていくんだぞ、その核も世界樹の気が癒しとなる』
ペンダントが鼓動を止めないようにサファリで一番心界に近い世界樹の傍に毎朝行く。
そうすると少し輝きが戻るから。
「はーい、わかってるよ」
私だってこの光は消したくない。
母さんも父さんも兄妹も私を見ない。
むしろいなかった、死んだ存在となっているだろう。
そんな事わかってるこのペンダントを貰って、もう何年もスラムに通っても会えない。
長が言ってた通り、貴族で都会に暮らすあの人たちがスラムに来ることなんてめったにない、ましてサファリに出てくるなんて皆無だ。
「私はデータじゃない、絶対にあそこに入って家族なんだと認めさせてやる」
ま、粋がってもスラムの中も少ししたら気分悪くなるし、いまだにスラム以上には入れた試しがないんだけど。
そして毎日この湖を苗床にして育つ世界樹に通う。
ドラゴンの姿の私ですら小さく見える多いなる大樹。
心界によく似た場所だけど私が入っても苦しくならない場所。
「ねえ、世界樹様はこんなところでずっとたたずんで楽しいのかい?私だったらたえられ—―な!」
世界樹様が突然光ったと思ったらその光が私の少し離れたところに集まったと思ったら拡散していきその光の中には――。
「な!女の子、何で?」
光の粒に囲まれた場所にいたのは黒い髪の女の子だった。
見る限り神様の血が濃いみたいだ。
「——っつ、は」
彼女が発したであろう荒い呼吸が耳に入り我に返って彼女に走り寄る。
その子は荒い呼吸を繰り返し胸を強くつかんで苦しんでいた。
「おい!君大丈夫かい!」
いくら声を掛けても、ゆすっても、その子は苦しそうに呼吸を繰り返すだけで起きてくれない。
「何でこんなところに?それに今の光って?」
よくわからないけど、貴族のようなしっかりとした服にCHIMERAの中でも珍しい黒髪。
「君は貴族なのか?だったら何でこんな下界くるんだい?」
訳が分からない。
意識のない彼女に問いかけても何か分かる訳でもない。
「————たい」
「?」
彼女が荒い呼吸の中で何かをつぶやくが小さく聞き取りずらい、私は彼女の口元に耳を寄せる。
「きえたい――ごめん―——」
聞き取れたのは私にとって信じられない言葉だった。
「っつ!」
消えたいだって?貴族のくせに!
なんだよ!私なんて―――——何なんだ!
「消えたきゃ、死にたきゃ死ねよ!——っつ!くそ!—―——な!」
怒りで彼女から離れようとするけれど離れる前に彼女が私を引きよせた。
突然のことで避けられず彼女に倒れこむように引き寄せられる。
何とか踏ん張って衝撃は防げたけど。
荒い呼吸で意識がないくせに強くそして暖かな抱擁。
彼女はただ苦しいから近くにいた私にしがみついただけだろう。
「―—ご、ごめん―——いっしょ—―いら—―なくて」
間近で聞こえた悲しい謝罪の言葉。
この時の私はきっと可笑しかったんだ。
久しぶりの温もりに可笑しくなったんだ。
「死ぬなよ、おい、え?——―——母さん」
今まで光を失っていた私のペンダントが少しだけ光って彼女を包んだ。
「コイツを救えっていうのか?母さん」
少し呼吸が戻った彼女とは非対称にペンダントの光はまた消え僅かに脈を打つ。
「何か食べないと、家に戻っても貴族様だし、ここが安全だよな?」
私は自分を包む黒いマントを彼女にかぶせる。
『待ってろ、何か食べ物とかとってくるから』
急ぐためドラゴンになって飛び立つ。
だけど戻ったら起きていた彼女にホットしたのも束の間あんな悲鳴を上げるってどうなの。
失礼じゃないか?
驚きすぎてせっかく集めた果実を握りつぶしちゃったじゃないか。
加減できないのもいけないけどさ。
私が食べれなくなるわけじゃないからいいけど、そんなにもう顔色も悪くなさそうだ。
さっきの彼女からは創造もつかない程血行はよくなってるみたいだし。
心配して損したかな。
「——私の姿可笑しいか?」
貴族様なら普段原種に会う事もないだろう。
むしろドラゴンすら見ないのだろうか?
私のようにドラゴンの姿になるものは少ない、実際兄さん達も手や足といった体の一部を変える事が多かった筈だ。
「あ、いえ、えっと」
いまだに目をあちこちに泳がせ混乱しているようだ。
「焦らなくていい、それともやっぱりこの姿だと話しずらいかい?」
実際私も目線が違いすぎて変な感じだったしCHIMERAの姿を取った方がいいだろう。
「え?」
「これならいいかな?君に合わせて――」
CHIMERAの姿だと彼女との身長差はあまりない、彼女の方が少し高いけどそこは気にしない。
「ひ、人にもなれるの?」
まるで神の姿に近いCHIMERAになれないだろうと馬鹿にされた気がした。
「当たり前だろ!私はCHIMERAの中でも原種に近いといえど神の血がはいってるもん」
「神?え、でもその姿人でしょ?」
CHIMERAを知らない?嘘でしょ?
この姿を人って?
神様をバカにしてるのか?
私もバカにしてたから人の事言えないけど。
「君、貴族だからって神様を人扱いはだめだよ?」
人は弱いって意味合いで皆神って呼んでるんだ、ずっと昔は人だったけど、今は原種達も神って呼ぶくらいだし。
心で思っても口に出すなんて神の冒涜だって言われても可笑しくない。
「は?だって人は人でしょう?」
さも当然のように首をかしげる彼女に私は頭を抱えたくなる。
「——君、頭大丈夫?」
「な!失礼な!これでも成績は悪く、っつ!」
威勢よく突っかかてきた彼女は突然胸を抑えるようにうずくまる。
「お、おい!」
「だ、大丈夫よ、いつもの発作だもの」
「そうか?なら君はどうして世界樹に?光の中から突然出てきて」
「へぇこのでっかい樹世界樹っていうの」
この国に住んでいる誰もが知ってる世界樹を知らない?
「―—————」
「な、なに?」
「君、やっぱり変」
「ちょ、私にしてみたら人を神とか、ドラゴンから人の姿になる貴女のほうが変よ!」
何当たり前の事を変だという―——やっぱり頭をぶつけたんだろうか?
や、獣化の影響?それにしては言動はおかしいにしても意思疎通してるし。
「やっぱり君変だ、この世界はCHIMERAの世界でそれを生み出した人は神様なんだよ、もう絶滅してしまったみたいだけど」
何時までも絶滅した人を神様っていうのも変だけど生みの親であるのは変わらないし。
「まって!今なんて、キメラ?人が生みの親で絶滅したって?」
「そうだよ?さっきからそういって」
「ね、ここは何処なの?キメラって、何なの!」
「ここはドラゴン族が取り仕切るリューリヤって島国の下界にある世界樹だよ、CHIMERAは人が―—神様が生み出した存在さ」
「———あそこに見えるのは?」
彼女が示す先には遠いが心界に守られた天に聳え立つ神殿が見える。
「は、君がいた場所だろ?心界すら忘れたの?それにあれは神殿、神だけが入ることを許された場所だよ」
「う、知らないわよ、多分私まったく別のところから来たんだもの、むしろ夢だと思うくらいだわーーっつ!い、いはい――何するのよ!」
思いのほか伸びた彼女の頬を離す。
「痛いなら夢じゃないだろ?」
「な、た、確かにそうだけど」
「そんなことよりいつまでここにいるんだ?」
世界樹が心界に近い働きをしてくれるからってここにいては原種もくるし、何もない。
私のようにペンダントを清めにきているわけではないだろうし。
「さあ」
本当に何も考えてないとジェスチャーする彼女に少しイラっとした。
そしてこれ以上話しても無駄だとも感じた。
「はあ、送ってやる、丁度行くつもりだったんだ」
貴族界は無理でもスラムから田舎に入る心界の境の門まで連れて行けばそこからは自分で何とかするだろう。
「え?どこに?」
「心界の中、お前どう見ても貴族だろう?その服だって上質だ」
そんな綺麗な服下界で来てたら浮くし標的にされる。
「え、制服だけど」
当たり前だろうと首をまたかしげる。
もういちいち反応するのも面倒だ。
「制服?ほら、行くぞ――と、君、翼ないよな」
ドラゴンの姿で驚くくらいだしあったら自分で飛んで行ってるだろうし。
「ないわよ、それに君じゃないわ!舞奈よ鏡 舞奈」
思った通り翼はない、このリューリヤでは珍しいが他の種族のCHIMERAなのだろう。
そして彼女が言った言葉で私の中で彼女は貴族だと確信した。
何故なら名前は貴族のもの、下界の者たちが持つものではないからだ。
「かがみまいな?変な名前だな?」
今まで自分の中にある家族や見聞きした名前とは似て非なる名前に問い返す。
「鏡は苗字よ舞奈が名前、あ、苗字は家名の事よ」
家名、貴族でも上の位か、今の私には遠い存在だ。
本当にこんなところに現れたのが不思議でならない。
「そうか、私は――——ドラゴンの名無しだ」
名乗ろうにも今の私に名前はない。
「へ、何よその名前?」
「私に名前なんてない」
「え?」
また何か問い返そうとするのを遮って彼女に手を伸ばす。
「ほら、行くぞ」
「きゃ!」
返事を聞かずドラゴンになり彼女の腕を引っ張り自分の腕に抱え込みそのままの勢いで空に羽ばたく。
「ね!」
風を切り飛んでるさなかにかなり大きな声で彼女が語り掛けてくる。
「飛んでるときに話しかけるな、落とすぞ」
軽く脅して黙らせる。
それに送っていったらもう会う事もないのだから会話なんてもう必要ない。
「———どうして?————あ、ヤバいかも――」
そんな彼女の小さなつぶやきは風に流され私の耳には届かなかった。
読んでいただきありがとうございます。