二十八話 不足と望み
か、かけました。
誤字脱字すみません。
よろしければどうぞ。
「取り消せ」
その声に導かれるように私達は門の前までたどり着く。
そこには確かに雪灰がいた。
だけど何故だろう雪灰の雪のような白い髪が濁り灰のような色に染まっていく。
それに何か怒ってる?
灰色の瞳も黒が混じってー漆黒に染まろうとしていた。
明らかに雪灰がおかしいーーー行かなきゃ!
私は思ったが早いか雪灰に向かう。
ーーだけど。
「姉さん」
立ち止まったシャロに手を繋いでいた私も立ち止まる。
意識がはっきりしていなくても繋いだ手は強く握られ走りだそうとした私の力にもビクともしない。
私より一回り小さなシャロの力にも私は適わない。
私の手を握ったままのシャロの瞳には私と同じようにあの雪灰が映っていて。
「ーーうそーーそんな」
繋いだ手は震えていた。
私が言葉をかけようとするとその前に先ほどよりも大きな声が私達の耳にこの場に響いた。
「私の大切な舞奈や妹を傷付けるのは許さない!」
「姉さん!」「雪灰!」
その言葉に私は勿論震えていたシャロも今度こそ雪灰の元に飛び出す。
あのままにしておけない。
あんな色は雪灰じゃない!雪灰が望んでる筈が無い!
私は震える背中を刺激しないようにそっと抱きしめる。
「私達を想ってくれるのは嬉しいなーー雪灰」
強張るその背中を抱きしめながら私はそっと耳元で囁く。
背中から見えるのは真っ黒な鱗のーーいや間近で見ると黒い光達が輝く雪灰の腕。
とても嫌な感じのするその腕に纏わり付く光達。
解らないものに対しての感覚が私に雪灰の腕に光には触れるなといっている気がした。
たぶんこれがシャロの言ってた消し去る力なんだろうけど。
「は!離して!舞奈!」
私だと気付いた雪灰が私を引き剥がそうと暴れる。
地味に力が強いけど背中にしがみついて必死に引き剥がされるのを拒む。
だけどこのままじゃ何時離してしまうか。
だけど雪灰が息をのむ声が聞こえたと思うと動きが止まる。
「ダメ!姉さん!」
見えたのはあの黒い光に包まれた雪灰の手を握るシャロだった。
「姉さん、駄目です」
涙を流しながら力強く握るシャロ。
その腕が徐々に黒い光達が浸食していく。
『ーー器ーーー元にーーー』
おそらく元の器のシャロに戻ろうとしているのかもしれない。
『ーーーーない』
だけど浸食は止まっていた。
間近だからこそ見える。
シャロさんの手を緑の光達が守るのを。
あの光は確かサファリで私の傍にいた。
ーーーーそっか、あの時守ってくれてたのはシャロだったんだね。
「私の大切な者を奪うな!『私に従え!」』
その声に従うように雪灰の腕の光達は忽然と消え失せた。
だけど、何故だろう雪灰とは別の声が重なっていたような?
聞き違いだろうか?
「―—っつ、なんて無茶するんだ!舞奈!シャロ!」
いつもの真っ白な雪灰に戻ったと思ったら私達を離して叫んだ。
いわゆる説教が始まった。
————何故?
「何が?私は背中に張り付いただけでしょ?」
背中だったら良いかと?
ちゃんと気を回したつもりだったんだけど。
「何がって!シャロに聞いたんだろう?私はお前を消せるんだ!」
そういう雪灰の瞳がまた寂しそうな辛いというように滲む。
私をシャロについて行かせた時にはもう過去を知らされるとわかっていたんだろう。
自身の危険な力の事も。
ーーでも、私にとってそんなことはどうでもいい。
私は雪灰と一緒にいると決めて友達になった。
まだいえないこともお互いにたくさんあるけど。
それでも、力の事で雪灰から離れるなんてしない。
むしろ関わるわ。
危険な力は一人で抱え込んではイケない。
大きな力にはそれ相応の代償も重さもある。
一人でなんて壊れるだけだから。
「そう?でも消えてないじゃない?」
今目の前に雪灰の目の前で存在しているそれは雪灰の私達を消さないという意思の表れだと思うから。
その事実だけで私には十分だから。
消されてもそれは雪灰の意思なんかじゃないと思えるから。
私は関わることを止めないよ。
そう伝わるようにそっと笑みを向ける。
「っつ!」
涙をこらえるように上を向いてしまった雪灰。
雪灰が落ち着いた頃合いを見て私が口を開く。
「それで?この状況はなに?」
あの時の青い爪と鱗を持つ男性と折られたであろう腕を拒まずにその場に座り込む女の子。
「そ、それは」
言い辛そうに言葉を濁す雪灰は私を背中に隠すように立つ。
確かにあの時の男性だけど、どう見ても意思が感じられない瞳。
明らかにおかしい状態、いったい何が?
「神様!お父さんを許してください!」
捕まれた腕の痛みに耐えながら涙を流し私を見て懇願する男性と同じ青い少女。
「許すって?何を?」
「コイツは舞奈をーー神を傷付けた代償に『天罰』が下ったんだ」
「何、それ」
「不可抗力でも舞奈は傷を受けて血を流した、それで心界が傷を移したんだ」
私の視界から見えないけど男性の足下には今も血だまりが大きくなっている。
それは出血が続いていることに他ならない。
「な!でもあれは私が間に入ったから!この人は悪くないじゃない!」
そうよ、あれは私が自分の意思で雪灰を庇った。
だから、なんで傷が移されたの!
「鏡様は神です、神を傷付けられれば心界は神を守ろうと致します」
そしてそれは生命の危機だから、あの傷もあのままだったら私は死んでいたと言うことだ。
そう再度認識すると背筋が冷たくなるのを感じる。
「で、でも、傷が移ったなら天罰は終わったんでしょう?私の許しって?」
傷を移しただけならCHIMERAの男性なら傷がふさがっても可笑しくないはず。
雪灰だって怪我が私とは違って直ぐに治っていた。
だからあれから何日も経ってるのに傷が塞がっていないのはおかしい?
「天罰によって移された傷は神の許しなく塞がることはありません」
「な!だったら許すから!」
許すって言うのも可笑しいけど、でもあの傷に出血早くしないと!
『許しーー不足ー-』
私が許すと言っているのに心界は不足と言う。
「なんで!」
「その獣が神様をサファリに連れて行ったから!お父さんは謝れずに!」
私の許しが無ければその天罰で負った傷は神の血を奪い獣へと近づける。
それがまさしく目の前の状態。
「ちょ!なんで雪灰のせいに!」
雪灰は私を守ろうとしてた。
「いいんだ、舞奈、その子が言ってるのは事実だ」
「雪灰?」
「舞奈が起きたら直ぐに会いに行って貰えばよかった」
だけどキアの実を届けに行く度に意思を無くしていった男性に会わせるのが怖かったのだと。
とても辛そうに手を握り口を噛んでいる。
「ーーーそっか」
ずっとキアの実を持って夜中に何処かに行っていると思ってたけど。
この人の所だったんだ。
目の前の男性はもう意思が感じられない。
確かに庇って怪我をした私を、その原因、しかも意思を無くした人の前に連れて行くなんて。
考えても連れて行ける訳ないよね。
雪灰は優しいから、それは嫌と言うほど一緒に過ごして分かり始めていたのに。
何で私は傷の事とかこの男性のことを考えなかったんだろう。
そんな考えが及ばなかった自分に嫌気がさす。
「―—父さん!お願い正気に戻ってよ!」
腕が折られてもなお、父親を振り解かない私達より遙かに幼いであろう少女。
目の前の男性は娘の折れた腕を掴んだまま離さずにいる。
「ねえ?何で振りほどかないの?」
多分振りほどけるよね?
小さいと言えどもCHIMERAの子なら多分。
「父さんを振りほどけるわけ無いじゃない!——父さんは家族で獣になんて成るはず無かった!」
家族だと痛むであろう腕を放さずに涙を流す少女。
「獣よ」
実の娘である貴女の骨を砕いたのだから。
それに目の前の理性を無くした瞳。
あの時無防備な雪灰が獣と言っていたのなら——目の前の彼は。
「むしろ化け物じゃない?無抵抗の雪灰を獣と呼ぶくらいだもの?違う?」
「ーーー!でも彼女が心界に入ってきたから!」
だから父親は当たり前の事をしたんだと言う少女。
「そうね、でも人気の無いとき、私を案内して来ただけ」
「な!!」
知らない事実に驚きを隠せない少女。
「そんな雪灰を貴方は獣と言った、そして貴女の父親も」
「しかし!それが当たり前の事です!」
神の遺伝子が少なくなった者はサファリに行き容易に心界に立ち入ってわはイケない。
それが当たり前の常識だと、ルールだと。
「でも、雪灰は意思はちゃんとしているーーそんな雪灰を追い出そうとして、何故父親だからと庇うの?」
「そ、それはーーか、家族でーーー」
何を当たり前なことを?
家族だから?
「それなら自分の家族じゃないから雪灰は獣だと言うの?」
神の血が少なく神に愛されていないから?
思ったよりも低い声が出てしまった。
少女が悪いわけでは無いーーだけどこの感情は抑えられなかった。
無知で常識もその事を受け入れられない私自身にも。
かといって受け入れるつもりも無いそれが偽善であっても。
でなければ雪灰に関わるなんてしてはイケないから。
私が真っ直ぐに少女の瞳を見つめる。
「か、神様——だけど——だけど!」
そのまま泣き崩れてしまう少女だけど私は何も言葉をかけない。
この世界ではそれが常識なのかもしれないけど私にはどうしても受け入れられそうも無い。
だからこそ私は傷つけると解っていてもあえて少女の父親を化け物と呼ぶ。
それが私が感じた素直な想いだから。
だけど、これは私の勝手なわがままが原因ーーなら責任は私にある。
「何が不足だというの」
そう私が語りかけると機械的な言葉が返ってくる。
『主の願いーー不足』
主ーー私の願い。
『この子の名前は雪灰!』
そうだあの時の私は雪灰が名前を呼ばれないのが許せなかった。
だったらーーもしかしたら。
私は雪灰の背中から出て近づいていく。
「舞奈!」
私は雪灰の制止を無視して親子の繋がれた腕を解く。
思ったより力が入っていなくてあっさりと解けた。
だけどその行動が刺激になったのか固まっていた父親の爪があの時のように私の方に向けられる。
「―—う———」
つい目を瞑るが痛みは一向に来ずに悲痛な声が漏れる。
「な!雪灰!」
目を開けると私を庇うように片腕が真っ白な鱗に覆われた腕で止めてくれていた。
その腕はあの時のような嫌な感じはしなかった。
真っ白な綺麗な鱗の腕だった。
「馬鹿!コイツはもう自我が無いに等しいんだぞ!」
必死に押さえながらも私だけで無く父親も傷付けないように守る雪灰。
そんな雪灰は絶対に獣でも名無しでも無い。
「でも!それは私の身勝手で!」
そうだ、このままほっとける訳が無い。
私は制止を聞かずに近づく。
「ーーーなにをしたいんだ!」
「私はこの人から聞かなきゃイケないのよ!『雪灰と!』」
驚いたように目を見開き私を見つめる雪灰。
だけど私と目があうと呆れたようにそう言って押さえたままでいてくれる雪灰。
「それが不足だって言われる原因なんだな?」
「たぶんね」
寧ろそれ以外私は彼に願った謝罪なんてない。
傷は不可抗力なのだから。
「ーー押さえておいてやる、さっさと聞いてみろよ」
近づくのは許してくれないけど雪灰を挟んだこの距離なら十分声がお互いに聞き取れる。
「有難う」
「お願い、貴方の声を言葉を聞かせて」
「ーーうあーーあこはーー」
問いかけても男性は言葉にならない嗚咽を響かせるだけ。
暴れるだけで何を言っているのか分からない。
「舞奈!離れるんだ!シャロ!」
少女を遠ざけて野次馬の人たちにあけわたしていたシャロが雪灰に呼ばれて私に駆け寄る。
さっきとは逆に私の腕を掴んで放させようとするシャロ。
押さえ込んでいる雪灰の腕も血が流れる。
「だけど!この人の口から聞かないと!」
不足の原因はただ一言彼から聞けば無くなるはずなのに!
「あんな状態じゃもう言葉なんて話せない!」
「だけどーー光達!彼に神の血を戻しなさい!」
そうよ戻せば!言葉がいえる筈!
『不足ーー許しを』
無慈悲な返答に私は絶句する。
「な!こんな状態で!」
私はこんな状況望んでいない!ただ雪灰が名前で呼ばれてほしかった。
ただのわがままにこの人は付き合わされただけーーこんなの!
ーーーー私は何も出来ないの!
関係を壊すことしか私は出来ないの!
嘘でも言葉で、一度でも雪灰と呼んでくれれば!
直ぐに認めろなんて言わないから。
私はこの人の言葉を聞かないとイケないの!
目の前の涙を流す男性、必死に何かを言おうとしている。
なのに私は理解できない。
この人は必死に抗ってるのに!
心はまだ残ってるーーココローーー。
その考えがよぎると私は頭痛に見舞われる。
『いいかい、舞奈、その願いは願ってわいけないよ』
そんなお祖母さんの言葉が私の頭をよぎる。
痛みを伝える言葉。
頭に直接響いてくる声に私は頭を押さえて踞る。
久しく聞いていなかった声に私は痛む頭を押さえる。
私が願ってはいけない事を考えた時に必ず響いてくる言葉。
その言葉は痛みをつたえ私を落ち着かせる。
踏み留ませる。
だけど、私は!
「ーーー私は!」
「舞奈!」「鏡様!」
崩れそうになる私をシャロが支え、雪灰が父親を押さえながら心配そうに振り返る。
そんな痛みに耐える私の背に痛みを忘れさせる言葉が響いた。
「お父さん!」
野次馬に取り押さえられているあの少女がお父さんに手を伸ばそうとする。
必死に呼びかけている。
だけど野次馬も雪灰達も諦めている。
それが当たり前なんだと言うように。
目の前の状況に私は、私の中の迷いが断ち切られた。
そしてそれと同時に私の口から自然と言うのを躊躇った言葉が紡がれる。
「知りたいーー」
そう口ずさむと私の周りを光達が包み込む。
そして光達に導かれるように私の体は私の意思に関係なく父親に向かう。
勝手に動く自身の体。
自分の意思ではない行動を取る私。
まるで操り人形のようだ。
訳がわからないーーだけど。
『ーーーるよーー舞奈』
鈴のような透き通った声が耳に響くと私の中から恐怖は無くなった。
代わりに悲しく、そして懐かしい感覚を味わった。
誰かも解らない声なのにーー。
それなのに私はその声に導かれるように男性の胸に光りに包まれた自分の腕を伸ばす。
その腕は父親の体を通り抜けて入っていく。
驚く余裕も拒む事も出来ない私の体。
そして私の手が何かを掴んだと思うとそれを一気に抜き出した。
それは青く鼓動を刻む小さな結晶だった。
また書け次第と言うことで。
読んでくださり有難う御座います。
ではまた。




