二十七話 臆病者の足掻き
か、かけました!
前に宣言したとおり雪灰ターンです!
出会ってから今までずっと一緒にいた彼女が私の目の前からいなくなった。
彼女に出会う前の私だったら不安で一杯に成っていたことだろう。
それが無いのは恐らくシャロについて行く前に振り返り言い残した言葉。
「大丈夫、今日中に戻ってくる。そしたら一緒にご飯食べよう」
あの笑顔はとても安心出来たんだ。
だからこそ同意して、今私は残っている。
舞奈は私がまだ心界の、家族の元に行くのを躊躇っているのを知っている。
その優しさが感じられるから私は信じることにした。
「雪灰よ、よく舞奈を行かせたな?」
今まで黙っていた長が私に語りかけてきた。
舞奈と友になって暫くして長は私たちを名前で呼んでくれるようになった。
それがとても嬉しかったのを今でも覚えている。
つい目の前で涙を流してしまったくらいだ。
「うん、舞奈は帰ってくると言ったから」
それにシャロは舞奈を傷つけない。
舞奈は私の友達で、シャロは私の妹なのだから。
「そうか、お前が始めて手にして守ろうとする者だな」
「ーーーうん」
正直私には過去がある。
シャロと過ごした記憶も、家族との記憶も。
だけど、それは何故か自分であって他人ーー第三者から見た記憶のような。
今まで自分自身、本当にシャロの姉なのだろうかと言う不安が何処かにあった。
本当にこれは自分の記憶なのだろうかと。
今までの私の中ではそんな不安と、家族のもとに帰りたいという矛盾の想いがあった。
だけど、今の私は前より気にしなくなった。
舞奈との絆は私自身が望んだ絆だから。
初めて私からつかんだ絆。
過去ではなく、雪灰としての絆だ。
私の過去とは別の絆、だけど過去を無くした訳でも無い。
「舞奈が私を見てくれてる、それがとても安心するんだ」
私が始めて求められて求めた関係ーー繋がりだから。
自分で信じられる記憶で想いが出来たから。
「ーーそうか、お前はお前だーー雪灰、我が子よ」
雪灰と呼んでも我が子と呼ぶことも止めない長。
その想いがとても心地いい。
「うん、でもまだーーまだ区切りがついていない」
そう言って私はキアの実を持ち二人が出て行った出口に向かう。
「ーー、好きにするといいーーだがお前が行ってもアイツは死ぬぞ舞奈に言えばいいだろうに」
「判ってる、だけど、舞奈は悪くないからーーそれに怖いんだ。」
それに今のあの状況で舞奈が行けば、もし最悪の結果になったら。
そう思うと私は時間稼ぎという逃げ道に頼ってしまう。
早くしなければと想うのに、臆病なのはなかなか治りそうも無い。
「行ってくるよ」
「ああ」
あの日、舞奈が目覚めてから私は舞奈が眠っている間に心界に通っていた。
キアの実を持参して。
「ーーー」
ある一角の住まいの開いている窓から部屋に入ると其処には息苦しそうに横たわる男性がいた。
そう、この人はあの時私を追い出そうと爪を振り上げ舞奈を傷つけた者だ。
神を傷つけた代償、心界の機能で天罰。
神を傷つけた者にそれに見合った代償がかされる。
死にかけるような傷を受けた舞奈ーー数日傷が無くなっても眠っていた舞奈。
そんな傷が移された男性。
気になって来てみると案の定舞奈から移された傷は酷くなることは無いが治ることが無い。
極端にCHIMERAの中の神の加護が薄れている。
CHIMERAだからこそ、こうしてまだ生きているがーーいずれは。
『貴女が来なければ!お父さんが何したって言うのよ!』
始めて来てからキアの実を置いていったのだが、あるとき閉まっていた扉から入ったのが間違いだった。
その時男性の娘と鉢合わせになり罵倒と涙と爪をたてられた。
こんな風に少し傷付けられただけでもこんなにも痛むのに。
舞奈はどれだけ痛かったのだろう。
こんな状況だけどそんなにしてまで守ってくれた舞奈の事をとても愛おしく想った。
だが、もう無理はさせない。
そしてその痛みに耐える男性。
泣き叫ぶ娘に私は抵抗せずに泣き疲れ気を失うまで黙っていた。
だけど、そんな傷を負った状態で帰ったとき。
『雪灰!ーーーお帰りなさい」
最初は驚いた彼女だが何も聞かずに向かい入れてくれた。
だからこそ心配をかけないようにもう娘に会わないようにキアの実だけを置いて直ぐに帰ることにしたのだ。
「ーーまた加護が薄れてる」
少しでも加護が回復するようにこっそりとキアの実を枕元において去ろうとする。
「ーーうーーまーーくれ名無し」
背を向けた私にかかる声。
振り返ると苦しそうに上体を起こす男性がいた。
「あ、あのーーー『また来たの!獣が!』ーーっつ!」
私は返答する前に娘が入ってきて問いかけるのをやめて私は慌てて窓から飛び去る。
関わっちゃ駄目だ。
これ以上傷付けたくないーーだけど舞奈を連れて行けない臆病な私を許して。
何度も連れて行こうとした。
だけどーーあの傷ついた舞奈の姿を思い出すだけで私の中の押さえられない力が顔を出そうとする。
それにまた舞奈が傷付けられたらと想うとーー命がかかっているのにーー。
やっぱり私は臆病者でーー獣なのかもしれない。
自分の大切なものを差し出せない。
「ま!待ちなさいよ!」
今回は珍しく門まで追いかけてきた。
飛び去って逃げることも可能なのだけどーー。
「何?まだ殴り足りない?」
私は幾ら罵倒されようが爪をたてられても良いけど。
またあの顔をする舞奈は見たくないんだけど。
「なんで!貴女が神に守られてーー父さんは死にかけてるのよ!」
つい最近まで獣でここに来ることさえ出来なかった私。
名無しの私を舞奈は友と呼び傍にいる。
だけどそんな獣だった私を追い出そうとした君の父親が苦しんでいる。
娘にとっては訳のわからない事だろう。
「ーーー」
だけど私は何も言葉が見つからない。
すまないとも、舞奈を連れてくるともいえない。
私にはそんな権利も勇気も無いから。
「なんで何も言わないのよ!」
あの時と同じように黙るだけの私に言い寄る娘。
「私には何も無いからーーでも舞奈は大切だ、連れてくる訳にはいかない」
例え弱っていてもCHIMERAはCHIMERAだ。
また傷付けられてしまってまた助かるとは限らない。
もし、私が消してしまったらと思うとーーごめんなさい。
「父さんはどうなっても良いって言うの!ただ獣を追い出そうとしただけなのに!」
「ーーーあぁ、私はもう名無しでも獣でも無い」
ーー雪灰だ。
「ふざけないで!そんな神を利用する獣め!」
父親似の真っ青な鱗と鋭い爪のある手の平が私に迫る。
「ーーー」
受け入れようとした痛みが来ない?
「な。なんで?」
傷付けられそうになった私の前にあの男性が立って私を庇うようにたっていた。
「な!」
だけどその娘の手を掴んでいるのに娘が悲痛に顔を歪める。
「ーーうう」
うめき声ーーそれは何度も聞いてきた獣になった者の声。
「お、お父さん、い、痛いよ」
どんどん力を強くしたのかゴキっと腕の骨が折れた音が響く。
「いやーーーーー」
そんな娘の声が届かないのかーー掴んで離さない男性。
「な、なんで?」
「お前が父さんを獣に!お前がいたせいで!巡回者なのに獣を庇うシャロ様も!神様もこんな仕打ちーー殺してやる!」
その娘の涙が怒りと復讐に満ちている。
だが私は彼女の言葉に負の感情が表に出る。
「取り消せ!」
広場に響く大きな声で言う。
誰であっても私のーーー。
「私の大切な舞奈や妹を傷付けるのは許さない!」
私はその言葉を引き金に自分が自分で無くなるのを感じる。
いけないと解っているのにーーでも。
黒く染まった腕を目の前の二人に向ける。
「ーーう」
何故か骨を折っておきながら離さない娘を今度は庇うようにする男性。
その顔には今まで見えなかったが涙が浮かんでいる。
何かに耐えるようなーー何かに抗っているような?
「っつ!」
止めようとするのに私の中の力が二人を消そうとする。
『神にあだ名す者に死をーー消滅を』
光達が何故か私を囲いこんでーー止めさせてくれない。
むしろ消させようとしている。
駄目!
怖くなって目を瞑った私の耳に信じられない声が届いた。
「私達を想ってくれるのは嬉しいなーー雪灰」
背中から優しい温もりが私を包む。
今の私は!
「は!離して!舞奈!」
今の私に触れたら!
そう思って居るのに私の背中の温もりは離れない。
「ダメ!姉さん!」
そして私の腕をつかむのは——嘘!
「姉さん、駄目です」
涙を流しながら力強く握る鼓動が伝わってくる。
これが——舞奈とーーシャロ。
私の大切な者達の鼓動ーー消させない!
「私の大切な者を奪うな!『私に従え!」』
そういう私に反応して自分の中の力が引いていった。
今の声って——自分?
————それとも?
『ーーもう直ぐ全て私の思い通りに!さ、早く来なさい!私のーーー』
歓喜に震える人物がいる事を私達はまだ知りもしなかった。
私自身、舞奈達に翻弄されオロオロです。
今回もお読みくださり有難う御座います。
ではまた書け次第お会いできればと。




