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二十五話 忘れられた思い出

前の話から空いてしまいましたがシャロのターンです。


『―—もう、大丈夫。』

そういって私をなでて落ち着かせてくれる優しい声に笑顔。

体の弱い母さんの変りに私の傍にいてくれた大切な家族。

私の頭をなでてくれたあの人はもういない。

苦しかった時、一緒にいてくれたあの人はもういない。



『この子には多くの力が行き過ぎた』

私は双子の弟のように神に愛されなかった。

弟はドラゴンの姿にはなれない代わりに神の人の血がとても強かった。

だからこそ、母さん達の傍にずっと居られる。

兄さんと姉さんは二人とも母さんの血を深く継いでいた。

兄さんはとても強く、守り戦うために闇の精霊をその身に宿した。

姉さんは皆の反対を聞かずに何物にもその身に宿そうとしなかった。

とても精霊から好かれていたのに。

「私この白い髪が好きだもの、それに私は精霊たちをその身に閉じ込めたくないから」

精霊をその身に宿す事は精霊の宿り木になる事、精霊と同じになるという事。

それは精霊にっとって宿る場所を得るとともに離れられなくなる事。

精霊は宿り木を求めるもの、それを閉じ込めるという姉さんは少しずれていた。



『私はお父様を守るのでやっとだから、精霊さんを宿せないの』

母さんは創生の無の力を宿す。

その力は無を生み出し、何かを生み出す力。

お父様の消失の力とは非対称の力でありお互いに力を消し去りながらともに愛し合った。

だけど年を重ねるごとに母様は弱っていった。

母様は生み出すごとに寿命が減っていく。

逆にお父様は消し去るたびに寿命が延びる。

本当に正反対な二人も今はお互いのために離れ離れとなっている。母さんと同じように優しく、とても変わった姉さんだった。

そんな私の家族の中で私だけ——父さんの力を多く受け継いだ。

消失の力を。

その力はとても危険なもの、幼い私には到底扱い切れるものじゃなかった。

私は幼きお父様と同じように奪うだけの化け物になる筈だった。

—————。 

———。

『―—大丈夫、シャロは消えさせない』

どうして、そう小さい私は思った。

その手にするものは唐突に消え去る。

大切なおもちゃも、本も。

私は怖かった、何時か誰かを——自分を消してしまいそうで。

何かを消し去るたびに私の中で何かが壊れて行った。

そのたびに私は私でなくなっていった。

なのにどうしてあの人は。

「来ないで!ほっといて」

この力の副作用で激しい痛みと熱。

そうやって魘されている私を看病してくれた姉さん。

自身が消される可能性を考えていないのか?

最初から姉さんだけは私に触れるのを躊躇わなかった。

「無理よ?大切な妹だもの?」

そういって何時も優しい笑顔で私を支えてくれた。

だから諦めないで済んだ、だけど私は幼過ぎた。

私の体は耐えきれない程に病んでしまった。

気持ちだけで、体は付いてこなかった、私は死ぬはずだった。

だけど、ほっとしてた、誰かを消してしまう前に消えられる。

これで苦しまずに済む、そう思って居たのに、あの人は——、

———。

「どうして?」

苦しむ意識の薄れる中で私を抱きしめる姉さん。

『―—私の方においで』

そういって笑う姉さんの言葉を最後に私の意識は刈り取られた。



次に目を覚ました私は自分のベットで兄さんと弟のガルに見守られながら目を覚ました。

二人ともすごく心配そうに。

「―——兄様?ガル?」

どうして、上半身だけおこすとすぐに違和感に気付く。

苦しくない。

それに———ずっと私の中にいたあの子がいない?

「目覚めたか?」

「姉ちゃん!」

「―———ここは?姉さんは?」

眠るまえは確かにいたはずなのに?

居ない姉さんを不思議に感じ兄さんに聞く。

「あの落ちこぼれか?もうサファリに落とされたぞ?」

何気ないように言う兄様?

姉さんが落ちこぼれ?いったい何を言ってるの?

姉さんは二人の自慢の姉さんで、精霊に愛されていたじゃない!

そういうのに、私は熱で可笑しくなったんだと聞いてくれなかった。

二人のなかでは姉さんは父さんの力を扱えずにサファリに落とされた落ちこぼれ。

私は精霊を宿した副作用で数週間眠っていたと聞かされた。

私にあの子が宿っていたことが忘れ去られている。

夢だったの、今までの私の苦しんだことが?

そんな筈ない!

「精霊?——だって?」

お父様と同じ消の力で精霊を宿せない筈なのに?

「姉ちゃん、綺麗だぜ?お日様みたいだ」

そしてガルが私の姿が見えるように手鏡を持ってくれた。

見せられた姿に私は飛び起きて急いで向かう。

聞かなければいけない。




「お父様!」

『―——入るな、お前はもう私の力を失っている』

お父様と同じ力を持っているからこそ傍に行けていた。

だけどお父様は部屋に入ることも許さず私を近づけない。

それは今でも同じ、あの時から私達家族はお父様に会えない。

あの時鏡に映った私の髪はお父様のような黒い髪に灰色の眼ではなくなっていた。

とても明るい金色の髪に緑の瞳。

その色は今まで私が受け付けなかった精霊たちが宿った証拠。

暖かな風と光が私を包んでくれている。

これは姉さんが友達だと言っていた精霊たち。

『これで、大丈夫ね、精霊たち、私の妹をどうか見守って、私はもう消えるから』

っつ!

———姉さんが私に精霊を宿した?

姉さんが消えるって何がどうなっているの?



「お母さま!お姉さまが!」

唯一の手掛かりを求め療養する母のもとに来ると母さんは穏やかでそして悲しい顔をした。

「―——そう、貴女には残っているのね、『  』の事が」

「え?何て言ってるの?」

姉さんの名前を言っている筈なのに聞こえない。

そして私も知っている筈なのに言えない、思い出せない。

「あの子はシャロ貴女の中のお父様の力の根源をその身に映しました」

「な!そんな!」

「その代償は記憶、あの子の中からも、私達の、家族の中から今までのあの子は消え去りました」

母さんは創生の無の力を宿す。

その力は無を生み出し、何かを生み出す力。

それは記憶をも生み出すことが可能だという事。

「記憶を書き換えたのですか?何故?」

「私とお父様の力は生まれたばかりの無垢な者にしか宿りません」

そう、だから私やお父様のお力は他人に与えられない、移せない。

受け入れられなければ死ぬだけだった。

だけどその力は無くなることはない、すぐに誰かの中に現れる。

「まさか!」

「そうです、記憶を書き換え生まれた頃から自身に力が宿ったことにしたのです」

その移す時に『  』としての人格を消されてしまった。

だからこそ不安定な姉さんを置いておけずにサファリに落としたという。

何も知らない赤子に力の根源が宿る、それはこの心界の中では数少ない脅威。

だからこそ姉さんは被害が少ないサファリに落とされた。


「シャロ、これを」

母様が私に何かを握らせた。

それは母様の核の一部を宿したペンダント。

お父様のモノより小さいけど、これは寿命を縮める。

何故?これを私に?

「母様?」

「『   』に届けて、あの子には必要だから」

「っつ——はい」



「母様から預かりました。お受け取りを」

目の前の姉さんは私の知る姉さんではなかった。

生まれたばかりの赤子のようで、そのペンダントをすがるように涙を流しながら抱え込んでいる。

私はその姿を見て居られずに立ち去ろうとする。

「―—あ、ありがと」

「っつ———」

振り返って聞きたかった。

どうしてそんなふうに自身を無くしてまで私を救ったの。

それなのにその答えを知る『  』はもう呼びかける事が出来ない。

私が知るのはわずかに記憶を無くされる前の記憶と姉さんだったという知識だけ。

だから私は振り返らず。

『  』さようなら。

「―—さようなら、姉さん」

私はもう貴女の事を姉さんとしか呼べない『  』だけど『  』ではない貴女を。





「―—っつ!」

それから私は巡廻者となり気づかれないようにサファリで遠目から見守っていた。

あくまで見守るだけ近づく事は許されず気付かれるわけにもいかない。

何時私が記憶の欠片を呼び起こさないように。

母様と同じ白い髪はそのままなのに、透明で済んだ無色の瞳が灰色と変わっていた。

今の姉さんは家族に見放されたという記憶と、神の血に愛されなかったという記憶が植え付けられている。

母様のあのペンダントはその記憶を安定させる母様の核の一部。

母様は今まで以上に寝たきりになった。

その核を戻すように言ったのだが母さんは一向に首を縦に振る事もなく。

いまだにこんなに離れた核に力を使って姉さんを守っていた。

母さんに戻してしまったら姉さんの記憶は不安定になり力を暴走させる。

そうなれば姉さんを殺さなければいけない。

だから私は巡廻者になった。

サファリに行き来も出来て姉さんを見れる場所にいれる巡廻者に。

何時姉さんが暴走しても私が殺せるように。

———私を救った『  』はもういない。

だけどそんな『  』だった人を他の人の手で消し去ってほしくなかった。

私が『  』を殺したのと同じなのだから。

だから私は見守り最後の時は私が手を下す。

それが私が決めた事だった。



だけど、あの人は変わった。

変えられた。

『―——舞奈』

姉さんを庇った貴族の女性。

私が数年入りこめなかった姉さんの傍に唐突に現れた。

そして姉さんのあの姿で抱かれ無事でいられる——。

それはありえない事、だって人は神っだけど弱い筈。

なのにどうして?

消し去る力のその腕に抱かれて消えない。



涙を流しながら飛んで行った姉さんを追いかける彼女。

そしてサファリでは反応しないはずの光達が彼女を導いた。

そして姉さんのいる場所まで行こうとする。

その道のりは危険なのに―ー。

『―—緑よ、風よ、彼女を守護せよ』

そう呟き彼女を守るように光達をまとわせる。


その光達を通して見えた二人の表情。

「いいよ、友達になろ」

「うん」

初めてみた姉さんの笑顔と穏やかな顔。


だからだろう、こんなにも興味を惹かれるのは。

兄様たちの所に連れて行く前に話したいと思ったのは。

だからこそ、私は宿舎に彼女を招き入れた。

本当なら兄さんやお父様の所にいち早く連れて行かなければいけないのに。

だけど聞きたくなったのだ。



「何故?姉さんと一緒にいるのですか?」




のろのろですみません。

またかけ次第と言う事でお付き合いください。

読んで下さりありがとうございます。

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