うだる太陽に雨の粒を
ランランと、照りつける太陽から逃げるようにして私はそこに座っていた。
『あづ〜い…なんでこんな所で足止め食らわないといけないのよぉ〜!』
一番涼しそうな席に座って澄ました顔で通り過ぎるウェイターを呼び止める。
『すみません。注文いいですか?』
「…はい。御注文をどうぞ。」
アイスココアを注文すると、暑さでか少し溶け出しているソフトクリームののった
美味しそうなココアが出てきた。
『…ふふ。』
さっきまでの私の様に項垂れているソフトを見て顔を綻ばせるとスプーンで
それをすくい上げて一口、二口とソフトを口に運んだ。
『ハァー冷たくて美味しい!もう元気になった!』
空になった器を少し残念な気持ちで見つめると、用事があったのを思い出して
急いで会計を済ませた。
『あ〜!時間過ぎちゃった!!急がないと!』
腕時計を見つめるとさっきまで上がっていた眉もハの字に下がってしまう。
カンカンと靴を鳴らして走っていると、すぐ横を通り過ぎた高校生くらいの男の子に
目を奪われた。
『…なにあれ。』
一見すると淡い水色のリュックを背負って、イヤホンをしているよく居る青年なのだが
彼は太陽が出ているにも関わらず、綺麗な虹色の雨傘をさして歩いて居るのだった。
私にとってそれがあまりにも驚いた事だったのか、足を捻って地面に尻餅を
ついてしまっていた。
『いッたぁ〜!』
あまりにも大きな声でそう言ってしまったのか、前を歩いていたその不思議な青年が
イヤホンを外してこちらを振り返った。
【あ…僕ぶつかりましたか?すみませんでした。】
『あ、いえ、私がこけただけなので!』
立ち上がろうと地面に手をつくと、青年が申し訳なさそうに笑って手を差し伸べてくれた。
【僕、ぼーっとしてる事が多くて、、それじゃあ僕はこれで。】
私の足がなんともない事を確認すると、安心した様にまた歩き出してしまった。
太陽の光でキラキラと反射する虹色の雨傘が気になって小走りで青年に追いつくと
思い切って質問をした。
『あの!なんで晴れてるのに雨傘をさしてるの?』
そう言って彼の頭の上を指さすと少し眠たそうだった彼の目が驚いた様に見開かれた。
【…これが、この傘が見えるんですか…?】
青年の言葉に少し遠慮がちに頷くと私の背に合わせて足をかがめ雨傘を私に差し出してきた。
『ん?』
【この傘は差してる人だけに、雨を降らせるんです。】
整った顔付きに似合わず無邪気に笑うと、私の手を取って傘の中に入れた。
『え…!本当に降ってる。』
手を中に入れると、シトシトと雨が傘の中だけ降っていて
青年も髪の毛から靴の先まで濡れていた。
『なにこれ…魔法…みたいな?』
半信半疑、苦笑いしながらそう聞くと、一瞬目を丸めてすぐに顔を緩めた。
【はは…面白いね。そんなんじゃないですよ】
『?でも、雨降ってて風邪引くよ?そんな変な傘閉じればいいじゃない』
不思議な雨傘を見つめてそう言うと青年がナイショだよと言う様に
口元に人差し指を当てて微笑んで、雨傘を肩に預けてクルッと回した。
『あ!雨が…。』
さっきまでうだる様な暑さが続いていたのに急に薄い雲が張って
とても弱く優しい雨が道行く人たちの頭、肩を励ます様に撫でた。
『もしかして…』
ニコニコと笑いながら雨が降るのを見守っている青年の方を見て
口を開くと、おっとりした優しい声色に塞がれた。
【僕、雨を嫌がる人を見ていると、なんで嫌なんだろう…
綺麗なのにってよく考えるんです。】
『そんなの簡単よ!雨なんて濡れるし、気分も落ち込むもの。』
私がそう答えると、困ったように笑った。
【太陽だって、雨だって励まそうと一生懸命働いているんです。
…僕はそう思ってます。】
そう私に言うと、差していた虹色の傘をおもむろに閉じ始めた。
【見てて下さい!僕の仕事の中で一番綺麗なんですよ】
『仕事?』
私が首をかしげるのと同時に、雨粒を弾かせる様に閉じていた傘を
思いっきり開いた。
『あっ!』
その瞬間私の目の中が虹色の光で一杯になって空に飛んで行った。
光を追いかけてすっかり雨が止んで青をたたえている空を見ると
綺麗に曲線になった虹が出ていた。
【綺麗でしょ?僕も一番好きなんです。雨と太陽があってこその景色なんです。】
『あ…傘の柄が』
青年が肩で回している雨傘を見ると、綺麗な虹は消えて代わりに薄い雲の柄が
付いていた。
【どうですか?雨も、太陽も捨てたものじゃないでしょ?】
そう笑った彼の瞳は、ランランと照りつける太陽を傘を差しながら
嬉しそうに見つめていた。