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5話 願いと風雲(2)

「さてエディール、何があった?」


「え?」


「司祭長殿と私が会話していた時、なぜ殺気を出したのだ?」


「…」


 1人居残りを命じられたエディールは、ミフネの質問に答えようとはしなかった。


「答えれぬのか。まぁ良い、何か理由があるのだろうが…さて、それとは別の話だがお主も例の剣術大会に参加するでいいな」


「…はい」


「それでだ、この前に稽古を見学していた者がいたのは覚えているな?」


「確か、帝国軍の偉い人ですよね?」


「そうだ。実は彼は元々私の弟子にあたるのだが、お主の腕前を見て軍に入隊しないかと勧誘してきた。もちろんあと3年後の話だが、便宜を図ると言っている。早急に答えを出す必要はないが…」


「お断りします」


「…よく考えてから答えろと言ってるのだ」


「それでもお断りします」


 エディールの即答に、師匠もため息を出すほかない。


「まったく、いい話ではあるのだが…。で、孤児院を卒業したら何かなりたい事でもあるのか?」


「…いえ、それはまだ…」


「…別に無理強いているわけではないし、今将来を即決する必要はないのだが、そこまで頑なに軍を嫌いになる必要もあるまい。私だって軍にいたのだからな」


 ミフネは元々帝国軍の軍人である。わけあって退官したわけだが、軍への思い入れは決してないわけではない。だが、嫌がる人間を強制的に入隊させようとするような狂信的でもない。帝国軍には軍人であるというだけで威張り散らす者もいたが、ミフネは決してそういう事はしない。もっとも、エディールに即答で軍人になることを拒否されたことは面白くなかったかもしれないが。


「だが、どちらにしろその感情を強く出すのはよくない。相手に読まれてしまえば、いざ自分を守るときに妨げになる。さっきのナルクと同じことだ。」


 そう言いつつも、ミフネはエディールの剣術の飲み込みの良さには舌を巻いている。彼自身、軍にいたときは指折りの剣の使い手であったが、それでもこの歳でこれほどまで上達はしていなかった。ミフネ自身、彼女の将来を期待しており、見続けたいと願っている。


 だからこそ、彼女に剣術大会に出て、己の力量を知ってもらいたいと思っている。弟子たちに参加するよう命じているが、一番期待しているのがエディールであった。


 剣術大会は2年に1度開催されており、主に成人の部と少年少女の部に分かれる。剣術と一概に言っても多くの流派があり、自身の流派が優れていることを証明するのに格好の場となる。言ってしまえば、優秀な成績を残した流派のもとには多くの弟子がやってくることになり、それは安定した経営が約束されたものとなる。ミフネはそうした世俗など気にしておらず、今までに弟子たちを参加させるようなことはしていなかった。だが、元弟子にあたる軍の将軍ハーツマンが参加することを勧めてきた。


「彼女の剣の筋は、ただ単純に優秀という表現だけでは済みません。ですが、この時期に今までに出会ったことのない剣の使い手に出会えずにいれば、井の中の蛙となりましょう。先生が剣術大会を否定する気持ちも分からぬとは言いません。しかし、それが彼女や今の弟子たちのためになりましょうか?」


 弟子の言葉に彼は納得せざるを得なかった。確かにこのままでは過信する可能性だって否定はできない。彼女は素直で優しい子であることは重々承知しているが、将来どう転じるかは分からない。これは剣術だけのことを言っているのではない。己を知ることこそ大事であるという言葉に否定することはできなかった。


 だが、この年の剣術大会は結論から言うと中止となったのである。



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