プロローグ
初投稿です。
最後まで読んでいただけると幸いです。
カーテンの隙間から朝日が差し込み小鳥の囀りが何処か遠くから聞こえてくる。
時刻は朝の7時、俺はとある家の一室で布団に包まっている。
俺は朝が強い方ではない。
なので、何時もは遅刻ギリギリまで家で寝ている。
だが、今日は何時もとは違った。
「シュウちゃーん! 学校いくよー! 」
階下から聞き慣れた女の声がする。
「もう! 早く行かないと先生に怒られるよー! 」
声の主は階段を上り俺の部屋の前まで来る。
「シュウちゃーん! 開けるよー! 」
と、声は掛けるものの一切返事を待たずに扉を開ける彼女。
答えを聞く気がないのなら声をかけないでほしい。
それがいつも通りという顔をしながら部屋へ入ってくる彼女は俺の幼馴染の女である。
「もうっ! いつまで寝てるのよっ! 」
勢い良く布団を引っぺがし無理矢理夢の世界から俺を現実に引き戻す。
「んー……あと五分……」
と、朝弱い人の決まり文句を呟き目覚めに細やかな抵抗を試みる俺。
俺の名は柊 脩哉。
「はいはい。起きよーねー。」
そして、俺の言った言葉を軽く無視し彼女、九条 和は制服を出したり時間割を合わせたりと、俺が学校へ行く準備を着々と進めていく。
「ぃくしっ! 」
布団を剥がれ、急速に周囲の温度が下がった俺はくしゃみをしながらようやく行動を開始する。
「つーか、なんで和が俺の部屋にいるんだ? 」
今更ながらに当たり前の疑問を自身の代わりに登校準備をしている和にぶつける。
「昨日先生に遅刻が著しく目立つからって指導されたでしょ?」
「あぁ……そーだった……」
俺は何時も遅刻ギリギリで登校しているため、少しでも気をぬくとすぐに遅刻をしてしまうのだ。
そして昨日、担任に遅刻が多過ぎると怒られ、遅刻をしない打開策として無遅刻無欠席を貫く和に担任が、
『この遅刻魔が遅刻しないように朝、迎えに行ってやってくれ。』
などと抜かしたが故だ。
無論、要らぬ御世話ではあるので断ろうと試みたのだが、
「次、遅刻したら留年な。」
などと理不尽極まりないことを担任に言われた為、泣く泣く和に頼んだのである。
「悪りぃな……」
わざわざ御足労願った挙句、自室まで起こしに来てもらい罪悪感が多少なりともあったので謝ったのだが、
「気にしてないからいいよー」
などと、笑顔で言ってくれる。
昔から思っていたのだが、やはり和はいいヤツだ。
多少の面倒事も嫌な顔一つせずに快く受け、尚且つ、完璧にこなすのだ。
自慢の幼馴染である。
「さ、それじゃあ、そろそろ行こうか? 」
「そーだな。」
和に促され家を出る。
何時もよりとても早く家を出たので何時もよりややゆっくり通学路を歩く。
「こーやって並んで学校に行くの久し振りだねぇ……」
「ん? あぁ……そーいえばそーだな。」
今、俺達は同じ高校に通って大方2年経つが、思い返せば一緒に登校した事があるのは入学式ぐらいだ。
実に約2年振りである。
「シュウちゃん、朝弱いもんねー。」
「その代わり夜は強い。」
「威張れることじゃないよ?それ…」
溜息交じりにいう和。
実を言うと、俺が朝が弱いのは夜更かしが過ぎるからである……と、思っている。
「深夜は素晴らしい! アニメは重宝されるべきだ! 」
何を隠そう、俺はオタクである。
アニメやゲーム、漫画や小説をこよなく愛している。
「はいはい。そーだねー。」
これまた溜息交じりに言う和。
そんな他愛もない会話をしながら学校への道を行く。
俺達に迫り来る日常の終わり。
非日常が始まるなどとこの時は思いもしなかった……
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「……やっぱさ、異世界って存在すると思うんだよ。」
学校の帰り道、ふと思ったので口に出してみる。
「……はぁ……またその話? 」
そんな俺に心底呆れた様子の和。
「いつも言ってるけど、そんなのあるわけないでしょ。」
小さな子供に何かを諭す母親の様な口調で話す和。
だが、そんな言葉に諭される俺ではない。
信じて疑わない異世界を肯定しにかかる。
「いーや、あるね! まだ見たことがないってだけで必ずこの世界のどこかにあるはずだ! 」
「そう言うのを世の中ではないっていうのよ」
熱弁し出した俺に正論をぶつける和。
「そ、そんなはずはないっ!」
正論をぶつけられやや引け腰になりつつあるが、なんとか返す。
そんな俺に和は、
「そもそも、あったところでシュウちゃんじゃ行けないでしょ? 」
と含み笑いをしながら言う
「そ、そんなことはないぞ? 俺は必ず異世界に行けるって信じているからな! 」
「信じただけで異世界に行けるならそーゆー考えの人みんなが異世界に行ってるわよ……」
なおも食い下がる俺に呆れ顔の和は言葉を紡ぐ。
「……ていうか、それならこの世の中すべてが異世界じゃない……はぁ……」
あからさまに大きなため息をつく和。
これ以上続けてもらちがあかないとでも思ったのか和は話題を変える。
「そういえばさ、シュウちゃん。」
「……ん? なんだ? 」
どうしたら異世界に行けるのか思案していた俺に和は問う。
「今週末ってさ、予定……空いてる? 」
ややはにかみながら言う和。
その理由が俺には分からなかったが、そんなのは関係ないなと思い今週末の予定を伝える。
「夜に一度道場には入らないといけないけど……それまでなら空いてるぞ? 」
道場、というのは俺の家にある武道場のことである。
俺の家は道場を経営しており、祖父と父が師範をしていたため幼少時より武術全般を嗜んでいるのである。
今では齢17歳にして大抵の武術で実力が師範代クラスにまで上り詰めていると自負している。
また、和も幼少時より俺の家の道場に通っている。
祖父母が俺の祖父母と仲が良く、和の祖父も俺の祖父と一緒に師範をしていたからでもある。
その和自身の実力も全国屈指である。
「じゃあさ、一緒に買い物……行かない? 」
やや遠慮がちに言う彼女の頬は若干赤らんでいるような気がする。
今更遠慮などすることもないのに……
「ん? 別にいいぞ? 」
そう思い、俺は軽い調子で答える。
「本当っ?! じゃあ、朝シュウちゃん家に迎えに行くねっ! 」
喜びが声色に滲み出る和。
上機嫌に鼻歌を歌いながら隣を歩く和を見ると何かに似ているような気がする。
何に似ているのだったかと考えてみる。
……あぁ、そうだ。ずっと欲しかった玩具を買ってもらえる時の子供に似てるんだ。
やっと適当な例を見つけ一人得心のいく俺。
そんなこんなで他愛もない話をしながら俺達は家まで帰った。
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俺は自室で何をするでもなくベッドに横たわる。
意識が徐々に微睡みかけて来た頃、ふと何かの声が聞こえてきた。
『……だ……ぐ……る……』
なんだ? 空耳か?
やや訝しみながらも本能の赴くままに意識を落としていく。
『…もうすぐ、つながる……』
今度はややはっきりと声が聞こえるが、既に俺の意識は深い暗闇の中へと落ちていた。
ーーーーその眠りで俺は久し振りに夢をみた。
日本ではないどこかで俺と和は旅をしていた。
2人は楽しそうに、だが、どこか物寂しそうな顔をしていた。
着ている服は見たこともないような服。
2人の腰には剣と杖が提げてある。
おかしい。明らかにおかしい。
俺は剣など道場でしか持ったことはない。
しかも、基本は木刀だ。
真剣を帯刀したことなど生まれてこの方一度もない。
和にしてもそうだ。
棒術を習ってはいるが、棒術の棒は和の身長よりも長い。
腰に提げられる程の長さの杖など使ってはいない。
なのに、何故そんなものを2人が持っているのだろうか……
そもそも、なぜ俺は俺と和の2人を遠くから見ているのだろうか……
……あぁ、これは夢だ……夢だから、なんでもいいんだな……
俺はそこで考えることをやめた。
すると、再び暗闇の中へと意識が落ちていった……
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週末……何時ものようにゆっくり寝ているといきなり部屋のドアが開き和が入ってきた。
「早く起きてよ! ほら! 行くよ! 」
と、何やら急かしてくる和。
「なんだよ和……もう少し寝かせてくれ……」
まだまだ寝足りないのでもう少し寝かせて欲しいと俺は懇願する。
昨夜も深夜アニメをライブで見ていたため寝不足なのである。
「だめよ! 早く起きて! 買い物に行く約束でしょ! 」
やや怒り気味の声でそう訴える和。
……そうだった……今日は和と買い物に行く約束をしてたんだった……あんな約束するんじゃなかった……
今更後悔しても後の祭りである。
すでに約束をしてしまっているので無視して眠ることも出来ない。
不承不承、俺は意識を覚醒させる。
「……んで? どこ行くの? 」
安眠を早々に諦め行き先を和に聞いてみる。
和は一度決めたことはやり通すのだ。
抵抗しても無駄である。
「隣町のショッピングモール! 」
また遠いところを選ぶ……
隣町へは電車に乗らないといけない。
いや、いけないこともないのだが普通に遠い。
電車で行くのが一般的な学生の手段である。
準備を済ませ俺達は駅までの道を歩いて行く。
道すがら和に何を買うのか聞いてみた。
「今日は何を買いに行くんだ? 」
「んー……服とか? 」
決めていなかったらしい。
自分から行こうと誘っておいて何を買うか決めていないとは……
少々呆れてしまう。
「向こうで適当に見て回りたいのっ! 」
ショッピングはショッピングでもウィンドウショッピングだったみたいだ。
まぁ、本人が楽しめるのであれば何でもいいが。
駅のホームで電車を待っているとよく知った声が訳の分からん冷やかしを言ってきた。
「よう! おふたりさん。デート? 」
「いや、違うから。」
振り返りながら訂正をする。
声の主はにやけ顏で 照れんなよ とか言っているが無視だ、無視。
ほら、和が激昂して顔を赤くしている。
和はこういった冷やかしを好まないのだ。
「お前こそ、こんな所で何してるんだ? どこかへ遊びにでも行くのか? 」
そう俺は声の主、東雲 颯太に聞く。
「あぁ、ちょっと隣町にな。」
颯太も隣町に行くらしい。
いや、大方予想は付いていたが……
俺達の様な学生が駅を利用する理由など大抵が隣町に行くことぐらいである。
「なら、一緒に行くか? 俺達も丁度隣町に行くところだったしな。」
何故か和に睨まれた。
怖かった。
「生憎だが、俺は遠慮しとくよ。」
断られてしまった。
少し悲しい。
「じゃあな。」
そう言って去っていこうとする颯太。
その背を見送っていると……不意に頭の中に声が聞こえた。
『やっと、繋がった……』
その声が消えた瞬間、俺の、いや、俺と和2人の足下に白い何かが浮かび上がった。
「……え? 」
「何……? これ? 」
眩い光を放つそれは徐々に光を強くしていく。
異変に気付いたのか周りの人が皆こっちを見ている。
前を見ると颯太が何かを叫びながらこちらへ走ってくる姿が見える。
「……や………み……‼︎ 」
何を叫んでいるのだろうか?
あぁ、意識が……段々と遠のいていく……
和……和は……
薄れゆく意識の中で俺は和の手を取り自身に引き寄せた。
なご……み……
そこで俺の意識は完全に途切れた。
最後までお読み頂き有難う御座います。
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