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盈―ミチル―  作者: 鷹真
7/18

いつつめ

茜の空に群青色が溶け込む頃、E美は走っていた。

人通りのまばらな、寂びれた商店街。

駅まで延びた、整備されているとは、言い難い道を急ぐ。

「大変。遅れちゃう。」

E美は、待ち合わせ場所に行くために、電車へ乗る予定だった。

この辺りを走る電車は、多い時間帯でも一時間に一本しかない。

余裕を持って、家を出てきたのだが、途中でバッタリと叔母に会ってしまったのだ。

叔母は、お喋り好きで、なかなか放してもらえなかった。

おかげで、現在、走る羽目になってしまった。

久しぶりに彼と過ごせる時間が出来たというのに。

だが、時間は待ってはくれず、刻一刻と流れる。


駅の古ぼけた改札が見えた。

あと少し。

電車は、まだ来ていない。

よかった。間に合う。

定期を改札に通して、ホームに入る。

「はぁ、はぁ。」

時計を確認する。

2分前。

馴染みの放送で、電車がホームへ滑り込んで来た。

はぁあああ。と、一際大きく息を吐く。

三両しかない車両の一番後ろに乗り込む。

車両には、誰も乗っていなかった。

それでも気にせずに、E美は座席に腰を落ち着けると、買ったばかりのスマホをバッグから取り出した。

ガ・・ガガガ・・ピィーー・・・。

車内に不快な機械音が流れた。

「えっ?なに?」

いつもは、こんな事がない。

車内放送が流れるまでには、まだ距離があったのに。

キィィィーー・・・ィィン・・・

甲高い、不快音。

「やだ、なにコレ。」

思わず、眉間に皺を寄せて、意味もなく車内を見回す。

・・・と、前の車両に行くための扉のガラス部分が、黒く靄が掛っていた。

なにあれ・・・。

外は既に群青が広がって、薄暗くなっていた。

しかし、車内は明るく見通せる。

前の車両が見えないはずはない。

E美は、固定されたかのように、前の扉を見つめる。

・・・と、靄は蠢いていた。

微かに、ユラユラとしているように見える。

ピィーー・・・ガガガ・・ガガ・・・。

不快音は流れ続ける。

E美は、靄から目が離せない。

魅せられたように。見つめ続ける。

ピィーー・・・ガガガ・・ガガ・・・。

カーブに差し掛かって、車両がガタガタと揺れる。

次の駅との間に、短いトンネルがある。

その手前で、ゆるいカーブになっているのだ。

ピィーー・・・ガガガ・・ガガ・・・。

不快音。

ガタガタガタガタガタガタガタ・・・。

異常に揺れる車両。

ユラユラユラユラユラユラユラ・・・。

揺らめく靄が、形取られていく。

・・・人だ。黒い・・・人。

靄と目が合った。

ニヤァ。靄が嗤う。

「・・・っ!!」

E美は、たった今、目覚めたようにはっとする。

そして、その異常に気がつく。

ピィーー・・・ガガガ・・ガガ・・・。

不快音。

ガタガタガタガタガタガタガタ・・・。

異常に揺れる車両。

嗤う、人影・・・・。

背筋に悪寒が這いあがる。

全身総毛立つ。

走る車内、逃げ場はない。

ガタガタガタガタガタガタガタ・・・。

バンバンバンバンバンバンバン!!!

車両の窓、すべてが黒い手に外から叩かれた。

「い・・・いやぁぁぁぁあああ」

車両の隅、縮こまって堅く目を閉じ、耳を両手で塞ぐ。

買ったばかりのスマホは、投げ出され、あちらこちらと床を滑る。

ピィーー・・・ガガガ・・ガガ・・・。

ガタガタガタガタガタガタガタ・・・。

バンバンバンバンバンバンバン!!!

一瞬、目を開けると、ニタニタと嗤う貌が大きく膨れた。

いやあああ。たすけて。たすけて。たすけて。

ガタン!!

一際、大きな音とともに、揺さぶられ・・・。


点検時には、異常はありませんでした。

はい。勿論、手を抜くことなんてありません。

はあ。確かに、接合部分がねじ切れている様でしたね。

鉄ですよ?よっぽどの圧力をかけないと、ああいう風には・・・。

ええ。そうです。前二つの車両は、なんともないです。

一番後ろの車両だけが、外れて、脱線したんです・・・。

そして、そのままトンネルに・・・・。

乗客は、一人でした。


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