よっつめ
ミーンミンミンミン・・・
暑いというのに、黒い正装の行列が続く。
「まさかな。C介が・・・。」
呟いたのは、C介とつるんで悪さしてた仲間のD也だ。
先日、川で溺れ死んだC介の告別式に参列していた。
先月、電話で近況を報告しあったばかりだ。
実感が湧かない。
柩の顔も、事情があるらしく、対面する事は叶わなかった。
何か、冗談のようだ。
ボンヤリと遺影のC介を視界に捉えていると、近くで話す人達の声が耳に入った。
「・・・あらやだ。そうなの?
偶然にしても凄いわね。3人目だなんて。」
「そうよね。A子ちゃんもだし、あの酒屋さんのB太くんだっけ?」
・・・。
ぞわり。
D也は、背筋に冷たい汗が流れ落ちた。
「A子にB太・・・。」
無意識にその名を口にする。
D也は、見る間に蒼白になってゆく。
心無しか、微かに震えているようにも見える。
「どうしました?ご気分でも優れませんか?」
声を掛けてきたのは、葬儀社の社員のようだ。
「あ・・・、いえ、だ、大丈夫です。」
D也は、急いでその場を離れた。
――――。
はっ。
D也は、無意識に小学校まで来ていた。
今は、廃校の。
最後の卒業生は、D也たちの年代だった。
D也は、恐る恐る廃校舎に踏み入れる。
真夏だというのに、校舎内はヒンヤリと寒い。
D也の長袖の喪服の下の肌は、全身、総毛立っていた。
空気も淀んでいるように思う。
――カシャン・・・
何処かの教室で、硝子の割れる音が響いた。
「う・・あ・・あ」
D也には、判ったのだ。
あの教室だ。
浮かされたように、フラフラと廊下の奥へ奥へ。
突き当たり、右側の階段の一段目に足を掛ける。
「ひぃっっ!!」
D也の脳内では、ガンガンガンガンと警鐘がなっている。
固まったまま、視線を下げる事が出来ない。
掴まれているのだ。足首を。
ギリギリと力が加わる。
きつく目を閉じる。
ギリギリ・・・・
ふと、掴まれていた足が、解放された。
「・・・」
離れた・・・・・。
D也は、額から流れた冷や汗を拭い、足下に視線を向ける。
ニタァり。
「ああぁぁぁぁぁぁあ!!」
足下のナニかと目が合った、瞬間、D也は駆け出した。
やって来た廊下を戻る。
ガシャーーン。
パリーーン。
ガシャーン。
至るところから、硝子の割れる音がする。
そんな事には構わず、只管に出口を目指す。
あと少し。あと数歩で出口に・・・。
ガンガンガンガンガンガン!!
ガンガンガンガンガンガン!!
校舎全体が、一斉に震えだした。
窓、壁、屋根、至るところが、外側から叩かれる。
「ああ・・あ・・ぁぁ・・」
まともな言葉すら、今のD也の口からは出てこない。
出口、昇降口の引戸に手を掛けて、力一杯開く。
ピクリともしない。
尚も、懸命に開けようとするが、手を掛けている取手に巧く力が、入らなくなっている。
焦れば、焦るほど空回りする。
ズルリ・・・ズルリ・・・
ナニかが這いずる音が、焦るD也の脳に直接に響いてきた。
ズルリ・・・ズルリ・・・
ガタガタっ。
開いてくれっ。
開いてくれっ。
焦る。
ズルリ・・・ズルリ・・・
ガタガタっ。
ズズ。
背後、直ぐそばで音が止む。
D也が、恐る恐る振り向く。
ゴギッ。
グシャリ。
硬いモノが砕ける音と、熟れたトマトが潰れた音が響いた。
ズルリ・・ズズ・・ズルリ・・ズズ・・
D也は、割れた蛍光灯が並ぶ廊下の天井を、引きずられながら眺めた。
しかし、白濁した瞳では・・・。
※
はい。ご気分が悪いのかと思いまして、声をお掛けしたんですが。
ええ。近くの廃校舎に。
いえ。お一人でした。
えっ。昇降口から引きずられた跡が??
故人様とは、小学校からのご学友だったとか。