表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盈―ミチル―  作者: 鷹真
3/18

ふたつめ

「まいどー。○○酒店ですーーー。」

張りのある大きな声で、古ぼけて立付の悪い引き戸をガタガタいわせながら開く。

「ああ、○○さんね。」

のっそりと現れたのは、米寿を迎えたばかりのお婆さん。

まだまだ元気に一人暮らしをしている。

「これ、台所まで運びますね。」

酒のケースを持って、勝手知ったる他人の家へ運び入れる。

古い家で、B太が歩くたびに廊下がギシギシと悲鳴を上げた。

「いつも、ありがとね。」

にこにこしながら、いいよと軽く返す。


配達を済ませて、店の配達用の軽トラックに乗り込む。

「あちぃ。」

真夏の太陽にさらされていた車内は、熱気が立ち込めていてまるでサウナだ。

ウィンドウを全開にして、アクセルを踏み込む。

車を走らせても、流れ込むのは、生ぬるい風だけ。

拭っても、拭っても、額から流れる汗は引かない。

暫く走っていると、B太の携帯電話から着信を知らせる機械音が流れた。

車を路肩に寄せて、止めてから着信画面を覗く。

表示は非表示だった。

訝しいと思いながらも、通話ボタンを押す。

「もしもし?」

『・・・・。』

無言。

「誰だよ。」

『・・・・。』

無言。

B太は、通話を打ち切った。

「なんだよ。今の・・。」

チッと舌打ちをして、再び車を走らせた。


プシュッ。

濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながら、B太はビールのプルタブを上げる。

タオルをダイニングテーブルの椅子に掛けると、勢いよく缶ビールを呷った。

「ぷは。くー、やっぱ暑いときは、キンキンに冷えたビールだよな。」

などとひとりごちていると、キッチンで洗い物を終えたらしい母親がやってきた。

「あらぁ。お父さんそっくりね。」

ほわっと柔らかいく笑いながら、しみじみと言う。

ま、親子だからな。

「そういえば、親父は今日は遅いのか?」

「どうでしょうね。久しぶりに学生時代の親友が帰ってきたって、はしゃいでたからね。」

そうか。と頷いて、ソファーに座る。

テレビのリモコンを手に取ろうとした時、ローテブルに置いてあった携帯電話が着信を告げた。

「・・・」

まただ。

また非通知の着信。

厭な気分になり、着信を無視する。

無視を決め込むと、すぐに音は止んだ。

イライラして、携帯電話の電源をOFFにして、自室へと引っ込んだ。


トゥルルルルルトゥルルルルルトゥルルルルル・・・

無意識に携帯電話に手を伸ばして、通話を押す。

「う・・はい・・もしもし?」

『・・・』

は。

B太は、一気に覚醒した。

そして、携帯電話を放り投げて、奇妙なモノをみるように、それを見た。

「なんなんだよ。・・・」

携帯電話の電源をOFFにしたままだった。

そう思い出したら、背筋がゾッとして、身震いした。

な・・なんだよ。なんなんだよ。

ガタガタと体が勝手に震える。

吐く息が白い・・・。

寒い。

凍えるくらい、寒い。

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ・・

止められない。

震えを止められない。

寒すぎて、感覚がマヒしてきた。

痛い。頭が痛い。

次第に意識が薄らいでいく・・・。

霞む視界に映ったのは、無数の・・・。

貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。

醜く歪んだ、貌。

拉げた頭部から、脳漿を垂らしている、貌。

ゲラゲラと裂けた口で笑っている、貌。

貌。貌。貌。貌。・・・・・・・。


は。

B太は、パチリと目を開けた。

・・・・

ゆ・・夢?

心臓は、飛び出しそうなくらい、バクバクしている。


トゥルルルルルトゥルルルルルトゥルルルルル・・・

部屋の片隅に放り投げられていた、電池パックの外れた携帯電話から着信音が響く。

あ・・あ・・・ああああ。

凍りついた、B太は、叫び声さえもろくに上げられない。

ポタリ・・・。

頬にやけに生臭い、泥のようなモノが垂れた。

あ・・あ・・・・。

視線を上へと向ける・・・・。

貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。

貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。貌。

・・・・・・・・・・・・・・・・


よく働く、いい子だったのにね。

ああ、耄碌した婆より、先に・・・。

そんな様子なんて、なかったのにね。

心臓麻痺だなんて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ