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盈―ミチル―  作者: 鷹真
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ひとつめ

先程までの晴天が、嘘のように、空は分厚いベールに覆われていた。

まだ、昼を少しばかり回ったところなのに、辺りは、薄暗い。

生温い、湿った空気が気持ち悪い。

太陽に晒されていないのに、べったりと汗をかいてしまう。

肩にかけたハンドバックから、白いハンカチを取り出して、丁寧に額の汗を拭う。

「厭な天気・・・。」

誰に聞かせるでもない言葉が、ぽつりと漏れる。

ハンカチを手に持ったまま、A子は気鬱に空を一瞥する。

そうして、再び目的地までの道のりを歩きだす。


暫く歩いて行くと、景色はだんだんと淋しくなっていく。

民家が少なくなって、緑が増えてきた。

A子は、ふと立ち止まった。

あれ?

あんな所に工場なんてあったっけ?

その視線の先、疎らな痩せた木々が生えている雑木林。

その木々の隙間から、工場らしき建物が見える。


A子は、大学へ入るとともに、故郷を離れて一人暮らしを始めた。

そして、卒業して数年になるが未だに帰郷することは無かった。

今日は、祖母の七回忌の法事を行う為に、呼び戻された。

祖母のお葬式以来の帰郷だ。

その数年の間に、田舎の開発でも進んだのだろうか。


A子は、視線を進行方向に戻すと、そのまま工場の事を忘れた。


法事も無事に終わった夜。

喧騒に慣れたA子は、静かすぎて眠れなかった。こんなに静かだったのだろうか?

自分の記憶よりも、静かすぎると思った。

そっと縁側に出る。

見上げた空には、月はおろか星さえも一つもない。

これでは、点けていたテーブルライトの灯りを消してしまったら、

本当に何も見えない。

他家の灯りさえも全く見えなかった。

本当の闇。

なぜか怖い。闇は怖い。

ブルっとする身体を無意識に抱きしめた時、テーブルライトの灯りが消えた。


ねっとりと絡み付く闇。

A子は、ふらふらと歩いている。

何かに誘われるように・・・。

虚ろな瞳には、何も映っていない。

ゆっくりと、ゆっくりと近づいて行く・・・。工場へ。


真っ暗な闇の中、工場だけがやけに浮かび上がって見える。

A子は、工場の中に踏み入れた。

その瞬間、目覚めたように瞬きを繰り返した。

・・・えっ?

な・・なに?なんで?

覚醒したA子は、パニックに陥る寸前だった。

ゾワリと背筋に悪寒が走る。

呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。

笑い声が木霊する。

「い・・いやぁ・・・」

A子は、この場から逃げ出そうと廻りを見渡すが、何も見えない。

真っ暗で何も見えないのだ。

呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。

呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。

声は止まない。

何処から聞こえてくるのかもわからない。

パニックになるA子は、ガクガクと震える足を動かして、逃げようとした。

グニャリ。

適度な弾力をもった何かを踏んだ。

足から伝わる感覚に、全身総毛立つ。

パニックで気が付いてなかったが、先ほどから厭な臭いもする。

吐き気を催す臭い。

とても濃い・・・血臭と腐臭。

うっ・・・。

吐きそうになり、両手で口と鼻を覆う。

闇雲に動き回って、ドアの取っ手にぶつかった。

出られる・・・。

そう思ったら、そのドアノブを回し、ドアを開ける。

ぐちゃり・・・ぐちゃり・・・。

後ろから聞こえる。

何か・・・水分を多く含んだ・・何かが近づいて来る。

いやぁ・・いやぁ・・来ないで!!

勢いよく飛び出して、ドアを閉める。

その瞬間。

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!

内側からドアを思い切り殴りつけられた。

いやぁ・・・。

震える足は、ほとんど言う事を聞かない。

崩れるように、へたり込んでしまった。

に・・逃げないと・・・。

A子は、後ずさるように這った。

その間にもドアを叩く音は止まない。

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!

後ずさるA子。

ドアから目が離せない。


ふいに音が止んだ。

先ほどからの腐臭も消えた。

ただ静かな闇に戻ったのだ。

た・・・助かった・・。

は・・はは。

まだ、ガクガクする膝を撫でるようにして、立ち上がる。


!!!!!べちゃり。

背後から、A子に何かが覆いかぶさった。

いやぁぁぁぁぁぁあああああ・・・・

あああああああああああああああああ。


可哀相にね。

おばあさんの法事で帰ってきてんですって。

聞いた話によると、もう誰が解らないくらい・・。

そうそう、着てたもので判断するしかなかったんでしょう?

怖いわね・・・。


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