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盈―ミチル―  作者: 鷹真
13/18

やっつめ

呼び出し音に、安眠を妨げられた。

「・・・っんだよ。」

H雄は、買い換えたばかりのスマートフォンの画面を見遣る。

時刻は、02:47と表示されていた。そして、着信には。

「非通知かよ・・。誰だよ・・・。」

悪態をつきながらも、通話を開始すべく操作する。

「・・はい。もしもし?」

・・・。ガガ・・。・・・。

「おーい。誰だよ。」

・・・。ガガガ・・。・・・。

チッ。と舌打ちをして通話を終了する。

頭をガシガシと掻きながら、H雄はスマホの電源をOFFにした。

ぽいっと、ベットの枕元に投げると、自分の頭も枕に沈め、目を閉じた。


・・・ピピピピピピッピピピピピピッ・・

静まり返った暗い部屋の中で、仄かに光を発して着信音が響く。

「・・・ん・・ん?」

H雄は無意識に手を伸ばし、操作して通話を開始する。

「・・はい・・。どちらさん?・・」

半ば夢の中で、目も閉じたままである。

「・・・・・・・・・・・す。」

「んあ?何?・・よく聴こえないんだけど。」

微かに囁かれるように聴こえてくる聲は、聞き取りにくくてH雄を苛立たせた。

「・・・・・・・・・・・す。」

「なんだってんだよ!!聴こえねー・・・・。」

苛立って完全に目が覚めたH雄は、先程自分でスマホの電源をOFFにした事を思い出した。

・・・・。

か、勝手にONになっちまうのか?

そうだ。壊れてんだな、コレ。文句言ってやんねーとな・・・。

と、無理やりな理屈を捏ねる。

しかし、耳から離す事が出来ないままに、聴こえてくる微かな聲を聞いていた。

雑音混じりの。低い、低い聲。

背骨に沿うように、つつーと冷や汗が滑り落ちる。

「ここにいますよ。あなたのちかくにいます。」


はっ。

ガバリと布団を跳ね上げて、半身を起こすH雄。

ものすごい量の汗を掻いているが、それをそのままに辺りを見回す。

部屋の中は、暗闇で何も見えず、しーんと静まり返っていた。

・・・は、はは。夢か。

手探りで、枕元のスマホを探る。

・・・あれ?確かに、この辺に投げたよな・・。

枕元に投げだしたはずのスマホは、見つからない。

明りを点けて探すか、探すのは朝になってからにしてこのまま寝るか。

・・・。

H雄は、身体をベッドに横たえた。

・・・が、目が冴えてしまって、眠れない。

ゴロゴロと寝返りをうってみるが、一向に眠気が戻って来なかった。

はぁ。

溜息をついて、明りをつけようと起き上がりかけ・・・。

ピピピピピピッピピピピピピッ・・

突如、着信音が響いた。

恐る恐る、見回して在処を探すが、見当たらない。

そろりとベッドから片足を下す。

ガシッ。

「ひっ!!」

凍るように冷たい手に、足首を掴まれる。

咄嗟に振り払おうと足を振るが、強い力でギリギリと掴まれ、足首に指が食い込む。

ベッドから転げ落ち、部屋の床に尻もちをつく。

見てしまった。

自分の足を掴んでる手の先・・・ベッドの下を。

上半分の半月がふたつ。

ニタリと嗤った目だ。生きている人のソレとは違った・・・。

「ひ・・ひぃい・・・」

後ずさるH雄。

足首を掴んだまま、這いずるソレ。

「・・・・・・・・・・・す。」

ソレが何か、言葉を発した。

怖気の走る、低い聲。スマホから聴こえた聲だった。

「ここにいますよ。あなたのちかくにいます。」

ニタリ。

その瞬間、H雄の足首を掴んでいた手に更に力が加わった。

「う・・・あああああああああああああああああ」

ズルズルとベッドの下へ引きずり込まれていく。

床に爪を立てて、必死の抵抗を試みる。

ガリッ・・ガガガガガッ・・・。

床に傷跡を残しながら、それでも身体は止まらない。

ズルズル・・・。

「た・・たすけて・・たすけてくれ・・・」

暗闇に空しく響くH雄のか細い・・・・。

ガツン。腰をベッドに強打する。

・・・が、止まらない。

ズルズル・・・。

「ああああぁぁぁぁぁぁああああああああああ」

H雄の渾身の叫びか、最後のヨスガか。

グシャリ。

辺りは何事もなかったように静寂に包まれている。

ただ、濃い血の臭いが充満していたが・・・。


ええっ。またなの?

そうよ。こんどのも酷い有様だってね。

そうそう、ベッドの下から見つかったらしいわ。

ええ?なんでそんな狭そうな所。

ね。でも、実際に見つかったのよ。

なんでも、ベッドの下に詰まってる感じだったって・・・。

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