やっつめ
呼び出し音に、安眠を妨げられた。
「・・・っんだよ。」
H雄は、買い換えたばかりのスマートフォンの画面を見遣る。
時刻は、02:47と表示されていた。そして、着信には。
「非通知かよ・・。誰だよ・・・。」
悪態をつきながらも、通話を開始すべく操作する。
「・・はい。もしもし?」
・・・。ガガ・・。・・・。
「おーい。誰だよ。」
・・・。ガガガ・・。・・・。
チッ。と舌打ちをして通話を終了する。
頭をガシガシと掻きながら、H雄はスマホの電源をOFFにした。
ぽいっと、ベットの枕元に投げると、自分の頭も枕に沈め、目を閉じた。
・・・ピピピピピピッピピピピピピッ・・
静まり返った暗い部屋の中で、仄かに光を発して着信音が響く。
「・・・ん・・ん?」
H雄は無意識に手を伸ばし、操作して通話を開始する。
「・・はい・・。どちらさん?・・」
半ば夢の中で、目も閉じたままである。
「・・・・・・・・・・・す。」
「んあ?何?・・よく聴こえないんだけど。」
微かに囁かれるように聴こえてくる聲は、聞き取りにくくてH雄を苛立たせた。
「・・・・・・・・・・・す。」
「なんだってんだよ!!聴こえねー・・・・。」
苛立って完全に目が覚めたH雄は、先程自分でスマホの電源をOFFにした事を思い出した。
・・・・。
か、勝手にONになっちまうのか?
そうだ。壊れてんだな、コレ。文句言ってやんねーとな・・・。
と、無理やりな理屈を捏ねる。
しかし、耳から離す事が出来ないままに、聴こえてくる微かな聲を聞いていた。
雑音混じりの。低い、低い聲。
背骨に沿うように、つつーと冷や汗が滑り落ちる。
「ここにいますよ。あなたのちかくにいます。」
はっ。
ガバリと布団を跳ね上げて、半身を起こすH雄。
ものすごい量の汗を掻いているが、それをそのままに辺りを見回す。
部屋の中は、暗闇で何も見えず、しーんと静まり返っていた。
・・・は、はは。夢か。
手探りで、枕元のスマホを探る。
・・・あれ?確かに、この辺に投げたよな・・。
枕元に投げだしたはずのスマホは、見つからない。
明りを点けて探すか、探すのは朝になってからにしてこのまま寝るか。
・・・。
H雄は、身体をベッドに横たえた。
・・・が、目が冴えてしまって、眠れない。
ゴロゴロと寝返りをうってみるが、一向に眠気が戻って来なかった。
はぁ。
溜息をついて、明りをつけようと起き上がりかけ・・・。
ピピピピピピッピピピピピピッ・・
突如、着信音が響いた。
恐る恐る、見回して在処を探すが、見当たらない。
そろりとベッドから片足を下す。
ガシッ。
「ひっ!!」
凍るように冷たい手に、足首を掴まれる。
咄嗟に振り払おうと足を振るが、強い力でギリギリと掴まれ、足首に指が食い込む。
ベッドから転げ落ち、部屋の床に尻もちをつく。
見てしまった。
自分の足を掴んでる手の先・・・ベッドの下を。
上半分の半月がふたつ。
ニタリと嗤った目だ。生きている人のソレとは違った・・・。
「ひ・・ひぃい・・・」
後ずさるH雄。
足首を掴んだまま、這いずるソレ。
「・・・・・・・・・・・す。」
ソレが何か、言葉を発した。
怖気の走る、低い聲。スマホから聴こえた聲だった。
「ここにいますよ。あなたのちかくにいます。」
ニタリ。
その瞬間、H雄の足首を掴んでいた手に更に力が加わった。
「う・・・あああああああああああああああああ」
ズルズルとベッドの下へ引きずり込まれていく。
床に爪を立てて、必死の抵抗を試みる。
ガリッ・・ガガガガガッ・・・。
床に傷跡を残しながら、それでも身体は止まらない。
ズルズル・・・。
「た・・たすけて・・たすけてくれ・・・」
暗闇に空しく響くH雄のか細い・・・・。
ガツン。腰をベッドに強打する。
・・・が、止まらない。
ズルズル・・・。
「ああああぁぁぁぁぁぁああああああああああ」
H雄の渾身の叫びか、最後のヨスガか。
グシャリ。
辺りは何事もなかったように静寂に包まれている。
ただ、濃い血の臭いが充満していたが・・・。
※
ええっ。またなの?
そうよ。こんどのも酷い有様だってね。
そうそう、ベッドの下から見つかったらしいわ。
ええ?なんでそんな狭そうな所。
ね。でも、実際に見つかったのよ。
なんでも、ベッドの下に詰まってる感じだったって・・・。




