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盈―ミチル―  作者: 鷹真
11/18

ななつめ

カシャッ。カシャッ。

軽快な音ともに、フラッシュが走る。

「あの・・・。」

覗いていたレンズから目を離し、G香は声の主に視線を移した。

そこに居たのは、詰襟の黒い学生服を着た中学生の男の子。

この暑い中にも拘わらず、きっちりと首元を締めている。

「何?」

そっけないG香の返答に、少年はやや怯んだ。

後ずさりしそうな足を必死に堪えている。

G香は、その少年の手元、その少年が手にしているカメラを凝視した。

「・・・ライカM3・・。」

ボソリと呟くと、少年は嬉しそうに話しだした。

「祖父が僕にくれたんです。祖父は、写真館をやっていたんです。」

写真館。

・・・あ、この小さな町の写真館と言えば、思い当たるのは一か所しかない。

G香がまだこの町に居た頃、お世話になった・・・。

G香にカメラを教えてくれた・・あの写真館のおじさん。

「お祖父さんは・・・?」

少年は、ちょっと暗い顔になってうつむきがちに答える。

「・・・二年前に、亡くなりました。」

そう・・・。

G香は、目を伏せる。

「あ、あの。僕に写真を教えてください。」

少年は、真っ直ぐにG香を見つめて言った。

「教える・・・たって、・・・。」

その真っ直ぐな視線に、今度はG香がたじろぐ。

「あ、・・お仕事の邪魔はしません。だから、えっと・・・。」

ちょっと、困って眉毛を掻く、その姿に誰かを見た気がした。

「ふ。ふふ。いいよ。この町にいる間だけなら。」

そうG香が言うと、少年はぱぁっと明るく笑った。

「はい!!ありがとうございます。」


町の撮影を行いながら、カメラの扱いや知識を少年に教える。

G香は、いつになく楽しんでいた。

「・・と、今日はそうねぇ。建物でも撮ろうか。」

G香は、ふと自分の通っていた小学校を思い出した。今は廃校の。

校舎の中は無理でも、校庭ぐらいなら入れるんじゃないかな。

そう考えて、少年を乗せたG香の車は、小学校へと道を進んだ。


西陽が校舎を赤く染めていた。

校庭には、すんなりと入る事が出来たが、校舎入口は固く閉ざされていた。

立入禁止の立て札まであった。


G香は、立入禁止の立て札が、フレーム内に入り込まない位置を探した。

「うん。この辺りがいいかな。」少年を呼ぶと、少年に自分のデジカメを渡して撮ってみるように促す。

自分も一眼レフで、撮影を開始する。

カシャカシャ。

ピピピッピピピッ。

二つのカメラのシャッター音だけが、静かな校庭に響く。

ある程度シャッターを切ると、G香はカメラの再生で、撮った写真を確認し出した。

ピ。ピ。ピ。

「やだ・・・なにコレ・・・」

G香は撮影したばかりの写真を見て、表情を強張らせた。

「どうしたんですか?」

少年も画面を覗き込む。

「真っ暗・・・?」

少年は、首を傾げた。

どの写真も、真っ暗で何が写っているのか解らない。

ただ、何かが光っを反射しているようにしか・・・。

「目・・・」

ぽそりとG香が、呟く。

「レンズを間近で見つめ・・・」ぞわっ。

ソレは、レンズをくっ付けるようにして、覗き込んだ、人の目。

ファインダー越しにも、勿論、目視でも二人意外にそこにはいない。

カメラを持つ手が震えて、落としそうになった。

少年も撮った写真を確かめる。

「うわぁ!!」

そちらの写真には、沢山の手、手、手。

こちらに向かって、捕まえるように、伸ばされていた。

ガシャン!

とうとう、G香がカメラを落とした。

「G香さん・・?」

G香は、フラりと校舎に近付いて行く。

まるで何かに誘き寄せられるように。

少年は、G香を追う。立入禁止の立て札のある、昇降口にまで来た。

すうっと扉が開いた。

G香は、沢山の腕に引っ張られて、中へ引き込まれて行った。

「G香さん!!」

少年も中へ入ろうと、扉に手をかけ・・・。

ブツン。

少年の記憶は、甲高いG香の叫び聲とともに、ブラックアウトした。


ええ、男の子の方は、意識不明だけど、命に別状はないみたいよ。

あら、そうなの?じゃあ、意識が戻ったら、何があったか判るわねぇ。

本当ね。

でもねぇ、女性の方は・・・、気の毒よねぇ。若かったのに。

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