序
寂として音は無く。
耳に痛い程の静寂。圧迫する漆黒。
闇に呑まれる・・・・。
呵々大笑。
前触れのない哄笑。
呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。呵々。
音はいつしか泣音となった。
鬼哭啾々。
凍りつくような泣き声。
啾々。啾々。啾々。啾々。啾々。啾々。
寒々とした残響を残す。
嫋々。嫋々。嫋々。嫋々。嫋々。嫋々。
そして、また寂寞たる闇に呑まれた。
※
天は荒れ狂う。鳴神の怒りに触れて。
雷霆が無尽に空を嘗め、雷鳴を轟かす。
凄まじい閃光は、見る者を恐怖に慄かす。
光が消えると、辺りは漆黒に覆われる。
闇、闇・・・どろりと澱んだ重たい闇。
生温い空気と鉄錆に似た臭い、そして腐臭。雷鳴とともに再び閃光が、その凄惨な様を浮かび上がらせる。
屍。屍。屍。屍。屍。屍。屍。屍。
何体もの屍が積み重なって、腐っていた。
首は千切れ、内臓はどろり溶け赤黒い床を犯す。
無残に拉げた頭からは、脳漿が流れ出て、眼球は飛び出している。
傷の無いモノは、一つ足りとない。
音を発する事の出来るのモノなどいない。
だが、聞こえる。
聞き入れてはならない声が。
憎しみが。嫉妬が。狂気が。
怨嗟の声が空間を震わせ、ぐにゃりと歪ませていた。
理に背いたモノたちの・・・・。
器を失っても猶、現し世に囚われているモノたちの。
憎悪に縛られどろどろに澱となったモノたちの。
尽きる事のない、恨み辛み。
積み重なって、凶悪の存在と化す。
バラバラの悪意は、いつの間にか一塊となって膨れ上がる。
そして、潔癖な白い魂を引きずりこむ。
意思を持ち始めた塊は、悪意と恐怖をばら撒き、現し世を混沌の世界へと誘う。