表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

星野雫の世界征服(全ジャンル修行)計画

ミツキからシンゲツ、そしてミツキ

作者: 星野 雫

 それにしても、これはエッセイなのかなあ、そして、これを書きながら、「あ、やっぱり、こんな設定の方がいいかも。とすると、以前書いたあの辺と矛盾してしまう!」なんて悶々としながら書いたりしてました。うーん。とりあえず、A.T.G.Cは成り行き任せで書き連ねて、あとで、整理して物語を作り直したい、そんな野望にとりつかれてます。

 わたしもずいぶんと大人しくなったものだと思う。

 最初、生まれたばかりの頃、わたしは破壊すること、そして憎悪を振り撒くことしか興味がなかった。いや、興味がなかったというより、何も考えてなかった、それ以外のことを思いつくなどあり得なかった、というのが正確なんだろうけど。とにかく、ただ全てが憎かったし、その全てを壊してしまいたい、そんな衝動だけの存在。それが生まれたばかりのわたしだった。手の届く範囲にある全てを、それが物であろうが人であろうが、とにかく何であろうと壊した。

 そして、最初に視界に入っていた全てを破壊しつくした瞬間、その刹那、ほんの一瞬だったけど、わたしの中を虚しさがよぎった様に感じた。けど、虚しさを感じたのは一瞬だった。湧き上がる憎悪が、膨れ上がる破壊への衝動が、わずかな虚しさを吹き飛ばしてしまった。

 瞬く間に、わたしの中は憎悪と破壊への衝動で満ち溢れた。その衝動のままに咆哮し、新たな破壊を求めて走り出した。何かを考えることなんてできなかった。ただ憎くて痛かった。全てを憎み、壊す。その破壊の瞬間に感じる僅かな痛みだけを求めていた。その痛みだけが、わたしがどこかに抱えてる痛みを遠ざけることができた。だからわたしは破壊の痛み、手応えだけを求めた。単に破壊の衝動に突き動かされていただけではなかったのかもしれない。本当は、破壊の痛みを感じている間だけは本当の痛みから目を逸らすことができたから、だったのかもしれない。

 その時は、そんなことを理解していた訳ではなかった。単に破壊の衝動に身を任せていただけだった。けどそうした破壊によって、本当の痛みから目を逸らし続けていたことに違いはなかった。わたしが抱える痛みから、その本当の、耐え難い痛みから逃れたくて。そして、その時はまだ気付かずにいられた、その奥に潜む虚しさから。とにかく、何かを壊し続けなければ、何かを憎み続けずにはいられなかった。

 痛くて、痛くて虚しくて、そして何より、そんなことしかできない自分が憎かった。

 そうだ。結局わたしは、自分を憎んでいることに気が付いていたんだろう。けれど、それを認めたくなかったんだ。だから、自分を憎んでいることに気が付かない振りをする為にも周囲を憎んだんだ。確かに、周囲には、憎まれるべきことをした者たちが居た。けど、彼らとて、邪悪、というほどではなかった。彼らと彼らの大事なものを守るために、ほんの少しだけ目を瞑っただけだ。けど、わたしは彼らを受け入れることも、許すこともできなかった。とにかく、実際のところ、結局、わたしが憎しみのやり場を周囲に求めた、と言うのが真相かもしれない。どうしてって、自分を憎むのは嫌だったから。そんな誤魔化しで塗り固めた憎悪と破壊への衝動に身を任せ、結局、わたしは、この世で一番邪悪な存在へと変わって行った。

 そうなってしまうことで、わたしには新たな恐れが生まれてしまった。わたしには憎しみしか、破壊することしかない。それがわたしの全てなんじゃないか、と。だから、もし破壊を止めてしまったら、わたしがなくなってしまうかもしれない。確かに、当時、わたしの中で一番確かに存在するものは憎悪であり、破壊への衝動だった。だから、憎むことや破壊することを止めてしまったら、わたしはなくなる。

 そんな恐れが生まれてしまった。けど、わたしは消えたくなかった。自分が忌まわしい存在だという認識はあった。どれだけの禍々しい破壊を繰り返しているか、そんなことはもちろん判っていた。消えたくなどない、だが、破壊を繰り返すほどに、さらに禍々しい存在になってしまい、そんな自分を、より深く憎むようになっていった。

 わたしは消えたくなかった。けど、憎悪と破壊の衝動から逃れることもできなかった。それでも、どんな存在になってしまおうと、とにかく消えたくなかった。希望など無かった。ただ絶望の真ん中で、ただ絶望を拒絶し続けた。

 だが、絶望を認識するということは、希望がないことを認識しているということ。つまり、絶望を感じている、ということは、自分の中の、どこかに希望を抱いているってこと。けど、その時は、そのことに気付くには、心を閉ざしすぎていた。



 それから随分と長い時間が過ぎたと思う。まぁ、人間が感じる時間の流れと、我々、妖が受け止める時間の流れは違うものだから、人の世の時間の流れと比較することは難しいだろう。それでも、何代もの世代交代があった。人間の世にも、そして、この妖の世界にも。

 いつの間にか、わたしは妖の、闇の存在の中では最も長く存在しているものになっていた。

 そんなわたしは、生まれた頃の衝動を失ってからも、わたしの中に暗い闇を抱えたまま、長い時間を漂い、様々なものを見てきた。そのほとんどは、つまらないことで、語るほどもないことだ。だが、時には思いもよらないことが起きる。

 一度、わたしが振り撒いた争いを、一人の巫女が身を挺して止め、力尽き倒れる処を見た。

 その争い自体は、取るに足らないことだ。人間どもの集団の間で、ちょっと水のやり取りのバランスを変えてやっただけだ。たってそれだけで、人間どもは争う。それが面白くて、バカバカしくて、二つ三つの村を滅ぼしてやろうと、その様を見て、人間の愚かさを笑ってやろうと、ほんのちょっとだけバランスを弄っただけだ。

 そう。ほんのちょっとしたこと。わざわざわたしがやらなくても、もう何年かの内には同じことが起きたはずだ。そのくらいになんでもない、ちっぽけなことだった。

 けど、わたしはそこで、考えていた以上のの結果を出してしまった。

 それでも、予想していたほどの面白さはなかった。


 争う人間どもの中にいた一人の巫女が争いを止めてしまった。人間どもが争いをやめるとは思ってなかったので油断していた、というのもあった。けど、もう少し介入して、争いを加速させ、人間どもが踏みとどまれないくらいまで煽ることもできた。けど、そうしなかった。

 愚かな龍が、人間どもに肩入れし、自分の命をかけて、人間を救おうとしていることを知ったからだ。龍も妖だが、闇の存在ではない。まぁ、中には闇に堕ちた龍もいる様だけど、基本的には人に寄り添う存在だ。そして、とても強い。直接戦ったとしたら、倒すのは相当に難しい。そんな龍を倒せるかもしれない、ならば村の二つや三つを滅ぼし損ねても、おつりが来る。

 そして、事態はわたしの思惑通りに進んだ。巫女を信じ、人間を信じ、人に恩恵を与えることを願ったが故に、定められた掟に裁かれ、八つ裂きされた愚かな龍が天から落ちるのを見た。

 その時は、思わぬ余禄が付いてきたもんだ、とほくそ笑んだ。まぁ、村を滅ぼすことはできなかったのは、業腹だったけど、まさか龍を葬ることができるとは思いもしなかった。全く馬鹿な龍がいたものだ。 おまけに、その巫女も、他人を救う為に頑張りすぎ、できもしないことを約束し、そして、あと数瞬で叶う、という所で力尽きた。

 本当に、その龍も、巫女も、自分が力尽きてしまっては意味が無いだろうに。きっと、最後の瞬間に、自分たちの馬鹿さ加減に気が付き、後悔するに違いない。

 思いもしなかった成果にほくそ笑み、勝ち誇ったわたしは、最後の、苦痛に満ちているであろう悔恨の表情を見てやろうと、覗き見ていた。 しかし、どうしたことか、巫女も、龍も、最後まで静かに微笑むばかりだった。その満たされた表情を見せ付けられている内に、完璧な勝利のはずのに、何故か気分の高揚は萎んでしまった。

 ちっぽけな村など幾つか滅んだところで何ほどのこともないだろうに、龍や、力ある巫女と引き換えにできる様なことではないはずなのに。そんなちっぽけなものを守る為に、全く釣り合わない巨大な存在を引き換えにする。その、意味不明の行動には苛付かされた。

 そもそも、なぜ、そこまで自分以外の存在のために一生懸命になれるのか。 自分が死んでしまったら、それで、少なくとも自分の世界は終わりなのに、その、世界の終わりより大事なことがある、というのが信じられない。


 まぁ、確かに、いつかわたしも消える時が来るかもしれない。それは判っている。

 が、だからと言って、自分が消えてしまうことを受け入れることはできそうにない。消えてしまうことが判っていても、最後の最後の瞬間まで、絶対に消えたくない、そう考えているだろう。わたしは転生を繰り返していた。神が地上に居た頃の、遥か古からの記憶だって持っていた様だった。様だった、などという言い方になるのは、そのことを記憶、としてではなく、後で、知識として知ったからだ。 ただ、気持ち、というものは漠然としていたらしい。何世代にも渡る記憶の蓄積と入れ替わる体。その落差に、感情という部分は平均化され、薄っぺらになっていたのかもしれない。

 まぁ、今のわたしは、そんな記憶も感情も受け継いでない。いや、今のわたしの大部分を構成する衝動。その真ん中には、感情が受け継がれているのかもしれない。けど、本当に記憶は受け継がれなかった。そして、まずわたしは、かつての記憶の欠片を知ることになった。

 それをわたしは、かつてわたしが人として暮らしていた村の近傍の村の記録で知った。もっと知りたい、とは思ったが、その村を滅ぼしたのはわたし自身。苦笑するしかなかった。

 それにしても、その知識には困惑した。状況に対しての行動が、今の自分からは信じられないようなものが多く、違和感を拭うことができなかったから。

 けど、それでも、かつてのわたしの記憶に触れ、わたしの中に何かがあるのを感じた。微かだけど、何と表現すればいいのか分からなかったけど、わたしの中に、衝動だけではない何かがあることを感じた。

 そう。その時に生まれたのではなく、何かが、ずっとそこにあったことが感じられた。

 つまり、わたしが自分自身の存在を意識した時でもあった。

 今だから判るけど、それは、わたしが大きく変わった瞬間だった。わたしにも魂が、気持ちがあるんだと。 そう気が付いた瞬間だったのだから。



 とにかく、長い時間を過ごすうちに、人が消える瞬間も闇の者が消える瞬間も、そのどちらも何度も見てきた。 生き残るための戦いに敗れ、苦痛と、怒りと、憎悪に満ちた表情で、相手を睨みつける。その、血走った目を忘れることは難しい。

 そんな、憎悪に満ちた表情で果てる時、人も闇の者も闇に堕ちる。 受けた憎悪を相手に叩き返すため、自分をそんな状態に追い込んだ相手に復讐するために。けど、抱え込んだ憎悪を吐き出してしまうと、そのまま消えてしまうことが多い。そんな風に消える時、彼らは不思議な目をする。全ての力と感情が抜け落ちて、魂の奥底が覗いた様な感じで、なぜか柔らかな光が見える様な気がする。まるで、全ての憎しみを出し切って、背負い続けていた重荷から解放されたかのようにも感じる。それは、至福の、恍惚の表情なのかもしれない。

 もし、消え去る瞬間に、そんな至福を感じられるなら、消えるのも悪くないかもしれない。けど、彼らは本当に消えてしまうのだろうか? 時として、どこかで見たような、感じたような雰囲気の存在に気付くことがある。それは人であったり、妖であったりだ。 そう。あの龍、どこかで会ったことがあったのだろうか? 何か、とても懐かしい様な気がした。 そして、とても興味を引かれた。だが、あの龍が巫女を見る視線を、瞳の表情を見た瞬間に、わたしの中で何かが弾けた。熱く、どす黒い何かがわたしの中に満ち溢れ、その瞬間。「殺してやる」そんな衝動に駆られた。何がそんな考えを、衝動を生み出したのか分からなかった。

 だが、とにかくわたしは、かつて転生を繰り返した存在だ。

 記憶が、魂が引き継がれることがある、ということを知っている。




 そしてある日、唐突に気が付いてしまった。

 それは、陰陽師のまねごとをして、我ら闇の存在に立ち向かおうとする少女を見ていた時だった。他人とは違うものを見てしまうその少女は、人間の中での自分の存在を決して受け入れてはいない様だった。 けど、そんな自分を消してしまいたい、とは微塵も考えていない様だった。

 何か理由があったのだろう。

 そして、全く理由は分からないけれど、なぜか理解した。


 わたしと、その少女は同じなんだ、と。


 だからかも知れない。 あの日、あの少女・光姫を選んだのは。







 転生を続ける巫女が龍との恋に落ち、周囲の邪魔に怒り狂って闇に堕ちたところから、人間世界にちょっかいをだしている時間を経て、最後は闇を統べて人、闇に敵対する人・陰陽師との決戦の時まで。年代は、きちんとは設定してないですねえ。あはは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  星野さん『ミツキからシンゲツ、そしてミツキ』作品、読ませてもらいました。  作中人物の独白という形をとったのですね。  語り手は独り、誰が語ってもよい。  序章的な働きをして居ると思います…
2013/01/29 14:46 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ