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ニイタカヤマノボレ

高天ヶ原女子高等学校 茶道部日記 第九話です。


軽~く読める百合っ子コメディです。


とは言っても、女子高生の日常をだらだらと書いいているだけなので、過度な期待はしないで下さい(^^;)>


翔子が撃沈して、今回は遥・弥生の連合艦隊がリターンマッチを仕掛けるのですが……


 高天ヶ原女子高等学校 茶道部日記

 

    第九話 ニイタカヤマノボレ 


 桜の花弁が散り、花水木の蕾が開き始めた今日この頃。

 遠くの山が春霞に煙るのを眺めながら気だるい暖かさを感じると、シホンケーキのソファーでお昼寝がしたい気分になる季節。

 そんな緩々(ゆるゆる)とした朝の教室で、少女達が屈託無い笑みを浮かべ他愛無いお喋りを楽しんでいる中、翔子だけが眉間にしわを寄せていた。

「一度は断られたけど、少しでも可能性があるなら、やって見る価値はあると思うの……」

「たしかにぃ……時間も無いもんねぇ……」

「……」

 真剣な顔の翔子が、遥と弥生の二人と顔を突き合せて、

「駄目もとなんだから、目標は伊達さんのままで良いわね」と、作戦の確認をしていた。

「あ、あの、でも……」

 言い難そうに口篭る弥生に、

「なに?」と、翔子が目線だけを弥生に向けた。

「あっ……いえ……」

 睨み付ける様な翔子の視線に、弥生は何も言えなかった。

「もう、翔子ちゃんたらぁ、弥生ちゃん怖がってるでしょぉ」

 そんな険悪な雰囲気を察して、

「まるでぇ、この世の終わりを見たような目ね……」と、遥が呆れながら言った。

「えっ?」

「あのね翔子ちゃん、顔に出てるわよ」

「何が?」

「切羽詰ってますって」

「……」

 遥に指摘されて翔子は不機嫌そうに唇を尖らした。

「だって、しょうがないもん……」

 唇を尖らしたまま顔を背ける翔子に、

「はいはい、困ったチャンでしゅねぇ……」と、遥が翔子の頭を撫で撫でした。

「ぐっ、あんたねぇ……」

 上目使いで睨み付ける翔子に、

「もう、指揮官がそんなんじゃ、全体の士気にも係わるわよぉ」と、睨み返した。

「……なにそれ、指揮官に就いた記憶はございませんが……」

「とにかく、今回のぉ“攻め”はぁ弥生ちゃんで行くわけね」

「うん……」

 力無く頷く翔子は、

「畠山さん達の情報から考えて、それしか無いでしょ」と、肩を落として呟く様に言った。

「あ、あの、でも、わたし……」

「分ってるわよ」

 戸惑いながら訴える弥生を見て、

「弥生ちゃんが伊達さんの事、苦手だって知ってるわよぉ……」と、遥は再び腕を組んだ。 

「まあぁ、委員長押し付けられたりぃ、なんとなく伊達さんから被害は受けていたものねぇ」

「あ、いえ、そんな、被害だなんて……」

「中学の時は、どうだったのぉ?」

「えっ?」

「伊達さん」

「……その、ちょっと、強引な所はあったけど……」

 遥から目線を逸らして俯いてしまった弥生に、

「伊達さんの強引さにぃ、気の弱い弥生ちゃんはぁ、断る事も出来ないで言い成りになっていたわけでしょ」と、尋ねた。

「……」

 事実その通りなのだが、弥生は返事に困ってしまった。

 授業開始のチャイムが鳴って弥生と遥かは自分の席に戻り、一時間目が終わると再び翔子の所に集まった。

「考えたんだけど……」

「なにをぉ?」

 難しい顔をしている翔子に二人が注目すると、

「私達の選択基準って、根本的に間違っていない?」と、翔子が自信無気に尋ねた。

「基準って?」

 何の事か分らずに尋ねる遥かに、

「そもそも伊達さんって、茶道に興味を持っているのかしら?」と、翔子が尋ねた。

 遥かは暫くの間、時間が止まってしまった様な空間で無表情のまま翔子を見詰めていたが、徐に弥生の方へと向いて、

「弥生ちゃん、伊達さんの事だけどぉ……」と、話題を逸らした。

「おい!」

「なによ!」

「何で無視するのよ!」

「何を今更言ってるのよ!」

 険悪な雰囲気で睨みあう二人を見て、弥生はチワワの様におろおろとしていた。

「一番大切な事じゃないの!」

「なにがよ!」

「茶道部に誘うのよ!」

「そうよ!」

「だったら、茶道に興味が有るのか無いのか、それが一番重要でしょ!」

 拳を握り締めて力説する翔子を見て、

「……ふっ」と、遥が大きく溜息を付いて窓の外を見た。

「な、なによ……」

「ふっ、これがぁ若さゆえ、と言うものか……愚かなり……」

「なによ、それ……」

 意味の分からない翔子が遥を見ていると、遥は突然、翔子の方へと向いて指差し、

「クイズ!女子高生100人に聞きました!」と、にこやかに言った。

「はぁ?」

 何かが取り付いた様に豹変した遥かの発言に、二人の目が点になった。

 ハイテンションな遥は、呆れている見ている二人に構わず、

「貴方は何がきっかけでクラブに入りましたかぁ?」と、続けた。

「答えは六つ!」

 答え等考える積りの無い、白けた目で冷ややかに見ている二人を他所に、

「さあぁて、正解は!」と、遥かは一人で盛り上がっていた。

「友達に誘われてぇ、30人!」

「えっ?」

 自分が思っていた事とは違う意外な答えに、翔子が少し驚いた。

「健康の為にぃ、25人!」

「はぁ?」

「その種目が好きだからぁ、15人」

「なんで……」

「趣味を持ちたくてぇ、10人」

「……」

「雰囲気が良さそうなのでぇ、5人」

「……」

「何と無くぅ、5人」

「……」

「その他ぁ、少数意見、10人」

「……その、少数意見も聞きたいわね……」

「えっとぉ、脅迫されてぇ、脅されてぇ、弱みを握られてぇ、恥ずかしい写真を……」

「……もう良い……聞くんじゃなかった……」

「まあぁ、こんなものよ、現実はぁ」

「……嘘臭い……」

 不信感いっぱいの目で見詰めている翔子に、

「なにようぉ……」と、遥かは頬を膨らませる。

「翔子ちゃん、己の胸に手を当てて、よおぉく、考えて見るが良いぃ」

「なにを?……」

「翔子ちゃんだってぇ、茶道が好きで茶道部に入ったの!」

「うっ……」

 翔子に人差指を突き出し問い詰める遥かに、翔子は言葉が無かった。

「だいたいね、最初から好きでやってる子なんてぇ、全体の15パーセントぐらいだぁって事ぉ」

「そう……なの?……」

「島津さんに畠山さん、それにタミちゃんなんかは、マジ組みだろうけどぉ」

「うん……」

「私達なんかぁ、典型的な“友達に誘われて”組みよぉ、そうでしょぉ」 

「……確かに……」

 眉唾臭さがぷんぷん臭うが、自分の事を考えると遥かの言葉には妙に説得力があった。

「別に、不真面目って意味じゃないのよぉ」

「うん……」

「きっかけはどうあれぇ、熱真に活動している子も沢山居るわぁ」

「うん……」

「だから、伊達さんだってぇ、茶道に興味が有るか無いかなんて事は問題じゃないのぉ」

「そう……かな?……」

「仲良く出来る子がぁ、クラブに居るか居ないかが一番重要なのぉ」

「……」

「良い例がぁ、アニメなんかで訳の分らないクラブ作っているのがあるじゃない?」

「うん……」

「結局、友達同士が集まってワイワイやってだけなのよねぇ」

「そうだね……」

「あれって、きっとぉ、学生時代に友達の居なかった作者の願望ね」

「おい……なんでそうなる……」

「そんなのが売れてるって事は、友達の居ない子が沢山居るって事なのよねぇ……」

「……あんた、今、沢山の敵を作ったわよ……」

 危険な自論を持つ遥かに、二人の顔が青褪めた。

 ともあれ、二時間目のチャイムが鳴って遥かと弥生は自分の席にへと戻って行った。

 二時間目の授業中、弥生は思いっきり後悔していた。

「どうしよう……」

 気が弱くて断れなかった訳では無く、ご褒美に釣られて受けてしまった伊達を勧誘する役。

「やっぱり、無理……」

 ご褒美が無くても、翔子が望めばどんな事でも無条件でそれを喜びを持って受け入れたい弥生だったが、事が苦手な伊達相手となると話は違っていた。

「やっと、翔子様や遥ちゃんと普通にお話出来る様になって来た所なのに……伊達さんを誘うだなんて……」

 苦手意識の強い伊達の前に立つと、蛇に睨まれている蛙を見た事は無いが、きっと自分も蛙と同じに成ってしまう事は目に見えている。

「分かってるもん……私なんか、蛙……」

 綺麗な伊達に比べて、自分の容姿が劣っていると弥生はコンプレックスを持っていた。

 容姿だけでは無く、誰とでも話せる社交性、自分の意見をどんな時にでも主張出来る意志の強さと自信、しかも、学年で常にトップ5に入る成績。

 翔子も、整った容姿にファションモデル並みのスタイル、社交性と強い意志を持っていて、成績もトップ10の常連ではあったが、弥生から見れば伊達は別格の存在だった。

「どうせ、私の言う事なんか……」

 そう、憧れる事も許されない別格の存在。

「なんだか、怖くなって来ちゃった……」

 色々なコンプレックスが入り混じり心が萎縮して、弥生は伊達に対して恐怖感をも感じる様になっていた。

 二時間目の授業が終わり、

「弥生ちゃん、お手洗いに行く?」と、斜め前に座る弥生に声を掛けた。

「うん」

「翔子ちゃんはぁ?」

 今度は、斜め二つ後ろの席に座る翔子に声を掛けると、

「……うん」と、暗い雰囲気で翔子が答えた。

 トイレに向かう途中、

「翔子ちゃん、伊達さん誘う時、なんて言ったのぉ?」と、遥が尋ねた。

「なんてって言っても……普通に、茶道部に入って、って言ったけど……」

「……そうかぁ……」

 何やら考えている遥に、

「なんなの?」と、翔子が怪訝そうに尋ねた。

「特に、脅すネタも無いものねぇ……」

「……あんたね」

「やっぱりぃ、部室に連れ込んで恥ずかしい写真撮ってぇ……」

「おい、小悪魔……尻尾が出てるわよ」

「あら、ごめんあそばせ」

 にこやかに微笑みながらお尻を押さえる遥を見て、

「……自覚あるんだ……」と、翔子は呆れた。

「でもね、既に色仕掛けでも無いしぃ……」

「……」

「脅迫も駄目となるとぉ……」

「おい……」

「正攻法で正面攻撃しか無いかぁ……」

 遥から当たり前の意見がやっと出て、

「最初から、そう言えないの……」と、翔子は脱力感から肩を落とした。

「だけどぉ正面突破って、兵の損耗率が高いわよぉ」

「分かってるわよ、既に私は撃沈したもん……」

「うん……」

 二人の後ろを着いて来る弥生に振り向いて、

「弥生ちゃんは、どう攻める積もりなの?」と、遥が尋ねた。

「……」

 遥の声が聞こえていないのか、弥生は黙ったまま下を向いて歩いていた。

「弥生ちゃん?」

「えっ?」

 遥の声にやっと気付いて、弥生か顔を上げると、

「どうかしたのぉ?」と、遥が心配そうに尋ねた。

「あ、ごめん……何でも無いの……」

「……」

 不安そうな弥生の顔を見て、

「やっぱりぃ、弥生ちゃんは“攻め”に向いていないかぁ……」と、遥が呟いた。

「弥生ちゃんは“受け”だからねぇ……」

「……うん……」

 遥の話を聞いて、

「受け?」と、翔子が頭の上に?を並べた。

「何でもないの」

 翔子の方を見ないまま遥があっさり言うと、

「うん、分かったわ」と、弥生の肩を叩いた。

「私もぉ、一緒に行ってあげる」

「えっ?」

 少し驚いた様に見ている弥生に、

「此の際、玉砕覚悟でぇ共同戦線を張りましょうぉ」と言って、遥は弥生の両手を握った。

「お互い、受け同士だもん」

「遥ちゃん……」

「大丈夫よぉ、二人で行けば何とかなるって」

「……うん、ありがとう」

 遥の申し出で、心の重みが少し軽くなった弥生の顔に少し笑顔が戻った。

 用を済まして教室に戻った三人は、再び作戦会議に入った。

「二人で行って玉砕したら、もう後が無いのよ」

 不安そうな翔子に、

「だからと言って、兵を分散させるメリットも無いのよ」と、遥がきっぱりと言い切った。

「それはそうだけど、全兵力を投入するリスクは高すぎるわ」

「何を言ってるの、私達には、いえ、翔子ちゃんには時間が残っていないのよ」

「……分かってるわよ……」 

 三時間目の授業中、翔子は思い悩んでいた。

「遥と弥生ちゃんが行って駄目だったら……どうしよう……」

 近い将来の不安に押し潰されそうになりながら、

「コ、コスプレなんて、しなくても良いわよね……」と、現実逃避に走った。

 が、その時、脳裏に浮かぶ琴音と蛍の顔。

「だ、駄目だ……あの二人が見逃してくれるはずが無いわ……」

 体のサイズを測る事にでも手段を選ばない相手に、翔子は抗えない事を悟った。

「……逃げよう……うん、茶道部辞めれば良いんだ……」

 自分が居なくなる事で廃部に成りかねない現状だが、

「大勢の生徒の前で、SMの女王様姿を晒すんだったら、裏切り者と罵倒された方が気が楽だわ……そうよ、裏切り者と呼ぶが良い!卑怯者と罵るが良い!はっはっは、裏切り上等!」と、追い詰められて自暴自棄に陥っていた。

 が、しかし。

「あっ……」

 翔子は我に帰りある重要な事に気付き、

「い、いかん……」と、顔色が青ざめた。

「来年、二年生から私、理数系コースに行く積りなのに、そうしたら、物理で桜木先生に……」

 部活から逃げた所で、完全に縁が切れない事に翔子は恐怖し、

「ううう……せ、せめて、もう少しソフトな物に変えて貰えないかな……女王様だけは絶対に嫌……」と、未練たらしく、有りもしない希望に縋る翔子であった。

「あっ、そう言えば……」

 斜め二つ前に座る遥の後姿を見て、

「やっぱり、遥は文系コースに行くのかしら……小学校3年生の時から、8年間同じクラスだったのにな……」と、少し寂しい気持ちが湧き上がった。

 小学3年生の時、父親の転勤がきっかけで転校して来た遥。

「あの頃って、なんか嫌な思い出だな……でも、いっかぁ、結局は遥と仲良くなれて……」

 子供の頃を思い出していた翔子が、

「でも、日曜日の事……」と、遥の告白を思い出した。

「遥の事は、可愛いと思ってるし好きだけど……好き、だけど……」

 翔子は、もやもやした頭の中で、

「好き、じゃなくて、愛……」と、呟いた。

「遥は、私の事を愛しているって……だけど、何処までが『好き』で、何処からが『愛』なの……それとも、全然違うものなの……」

 同性同士の恋愛に否定的な翔子だったが、

「愛とは少し違うと思うけど、私は遥が好き、誰よりも好き……」と、遥に告白されて、否定しきれない自分が居る事に悩んでいた。

「やっぱり、ちゃんと話し合わ無いと……」

 とは言うものの、

「だけど、何を話せば良いのよ……」と、更にもやもやの底に沈んで行った。

 三時間目が終わり、

「では、行って参ります」と、遥と弥生が翔子に敬礼をした。

「武運を祈る……」

 神妙な顔で敬礼を返す翔子に、

「ありがとうございます、先に靖国で待っております」と、頭を下げた。

「……必ず、生きて、帰れ……」

 叶わぬ願いと知りながら、万感の思いを込めて見詰める翔子を見ながら、

「はい……」と、遥は迷いの無い笑顔を浮かべた。

「弥生ちゃん」

 静かに声を掛ける遥へ、

「……はい」と、弥生は真っ直ぐな目を向ける。

 遥が弥生の手を取り、

「行くよ……」と言うと、弥生は無言で頷いた。

 お互いの決意を確認して、遥は体を翻し弥生の手を引き、

「伊達さあぁぁん!」と、スキップを踏みながら、にこやかに伊達の方へと向かった。

 そんな遥と弥生を見送る翔子は、

「だ、大丈夫……かな……」と、不安を膨らませた。

 伊達の所までやって来た遥が、

「ちょっとぉ、お話が有るんだけどぉ」と、小首を傾げながら可愛らしく言った。

「毛利さん、高倉さん……」

 突然やって来た二人を見て少し驚いていた伊達が、

「な、なにかしら?」と、少し嬉しそうに微笑んだ。

「茶道部に入ってぇ」

「えっ!」

 何の前触れも無く特攻する遥の言葉を聞いて、弥生は驚き、

「あ、あの、遥ちゃん、そんな、行き成り……」と、遥の袖を引っ張り、伊達の顔をちらちらと見ながら戸惑っていた。

「行き成りも何もぉ、結果が同じなら回りくどい言い方したってぇ同じよぉ」

 怯えている様な弥生にあっさりと言うと、

「当たってぇ砕けろってね、ねっ、伊達さん」と、微笑みながら伊達の方へと向き直った。

「えっ?ええ、そうですわね」

 呆れた様な笑顔を浮かべる伊達に、

「出来ればぁ、早く返事を貰えれば嬉しいんだけどぉ」と、伊達に顔を近付けた。

「あ……」

 近過ぎる遥の顔を見て、伊達が少し顔を赤くしながら、

「そ、その件は、昨日、久遠寺さんには、お断りしましてよ……」と、恥ずかしそうに顔を逸らした。

「だからぁ、私達がぁ、もう一度、お願い!って来たのぉ」

「そんな……何度来られましても……」

「ええぇ、そんなぁ……」

 翔子ほどでは無いが、背の高い伊達の前で、小柄な遥が上目遣いで悲しそうに見詰め、その遥の後ろに半分隠れながら、更に小柄な弥生が、上目遣いの大きな目で伊達を怯えながら見ていた。

 そんな、ポメラニアンとチワワの様な二人をチラッと見て、

「そ、そんな目で、み、見られても、あの、私、困ります……」と、伊達が顔を赤くしてそっぽを向いた。

「あ、あの、誘って頂いて、う、嬉しいのですけど……」

 なぜか焦っている伊達の言葉がフェードアウトして行くのを聞いて、

「何か事情でもあるのぉ?」と、遥が尋ねた。

「……ええ」

 そっぽ向いていた伊達が、寂しそうな顔で振り向いて、

「私、色々と習い事をしていますの、だから部活をする様な時間がありませんの……」と、遥を見ながら言った。

「でもぉ、少しぐらいの時間も無いのぉ?」

「えっ?」

「何も毎日来なくてもぉ、週に何回か顔を出すだけでも良いのよぉ」

「……」

 困った様に黙ってしまった伊達を見て、

「ほらぁ、弥生ちゃんも説得して」と、後ろに隠れている弥生を伊達の前に押し出した。

「いっ!」

「うっ!」

 キスの準備段階の様に接近した二人が、お互いに顔を赤くした。

 近過ぎる距離で、弥生は伊達の目を見詰めながら『どどどどどうしよう……』と、焦っていた。

 何をどう言えば良いのか分からず『だ、駄目、怖い……』と、恐怖が湧き上がって来た。

「あ、あの……」

 伊達も近過ぎる弥生を見て戸惑っていたが、

「毛利さんと仲良く成れましたのね」と、にっこりと微笑んだ。

「あ……」

 その笑顔が、とても優しかったので、弥生の緊張が少し解けて、

「あ、あの、伊達さん……」と、勇気を振り絞って切り出した。

「はい?」

「あの、忙しいでしょうけど、お、お昼休みなら……」

「お昼休み?」

「ええ、その、少しだけお時間を、頂けないでしょうか」

 決死の思いで話している弥生を、伊達は微笑みながら見ていた。

「何かしら?」

「あの、その、部室を……そう、茶道部の部室を一度見てください!」

「えっ?部室?」

 自分が翔子達に誘われた時の事を思い出し、

「とても素敵な所なんです」と、訴えた。

 弥生は少し慣れて来たのか笑顔で、

「小さいんですけど、日本庭園みたいな所にお茶室が有るんです」と、続けた。

「お茶室が有りますの?」

 高等部に上がって間もない時期で、伊達も茶室の事は始めて知った。

「大学との境目にぃ、竹やぶがあるでしょう」

「ええ……」

 弥生の後ろから遥が説明を付け加えた。

「そこに建っているぅ数奇屋が、お茶室兼部室なのぉ」

「そうですの……存じませんでしたわ」

 伊達が、何やら興味を示した事に遥と弥生は『しめた!』と、心の中で拳を握った。

「ねぇ、一度いらっしゃいよぉ」

「そうですわねぇ……」

「み、見るぐらいの、時間なら、あの、なんとか、なりませんか?」

「……」

 伊達は暫く弥生の顔を見詰めて、

「分かりましたわ、お昼を頂いたら、一度伺わせてもらいますわ」と、微笑みながら言った。

「ありがとう!伊達さん!」

「えっ!」

 伊達の両手を握って嬉しそうにしている遥を見て、

「あ、あの、み、見るだけ、ですからね……」と、恥ずかしそうに顔を逸らした。

「良いようぉ、とにかく来て欲しいのぉ」

「ええ……」

 顔を逸らしている伊達を見ながら、遥の心の中では小悪魔がむくむくと起き上がり「ふっ……」と、何やら良からぬ陰謀を画策していた。


最後まで読んでいただいてありがとうございます。

一言いただけましたら嬉しいです。

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