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ヘビーレイン

 高天ヶ原女子高等学校 茶道部日記

 

  第六話 ヘビーレイン


 日曜日の早朝。

 既に平野部を照らしている太陽が、山の稜線から少し遅れて顔を出すと、春の()らかな光が、キラキラと空気を輝かせて庭のテラスに注ぎ込む。

 可憐な草花が(えが)かれた、フローラ・ダニカシリーズのティーセットを、テラスの白いテーブルに並べ、遥は、自分の存在さえ消えてしまいそうな静かな空間で、眼下に広がる箱庭の様な風景を眺めていた。

 日が昇るにつれ、テラスから見える林の中にも光が差し込み、小鳥達が歌い出したのを合図に、庭の景色が目覚め出す。

 プリムラが、そよ風に踊る広い芝生の庭に、休日のゆっくりとした時間が流れる中、遥が、アールグレイブレンドの茶葉をティーポッドに入れて、少し熱い目のお湯を注ぐと、オレンジペコの妖精達が舞い踊り、ポッドからベルガモットの香を振り撒いた。

 朝の気だるい空気と芳醇な香とのハーモーニーに心を酔わせながら、遥は、ゆっくりとした仕草でポッドのお茶をカップに注ぎ、妖精達の魔法を楽しむ。

 アネモネに戯れるモンシロ蝶達に微笑を送りながら、遥は徐にスライスしたラスクを一つ手に取ると、柔らかな薔薇色の唇へと運ぶ。

 露草が描かれたティーカップの縁に、そっと口付けをする様に唇を添えて、一口、渋みの少ないストレートティーを口にすると、メイプルシロップでアレンジされたラスクの余韻とが口の中で一つと成り、遥は、甘く透明な幸福感に包まれた。

「よう!健作ちゃん、これから耕すんか?」

「おお、信二か、もうトマトを植えんといかんでなぁ」

 ファーマー達の朝は早い。

 家の前の、マッチョな十tダンプが手を繋いで通れる位の広い道路に、逞しい耕運機と藁を積んだ働き者の軽トラックが並び、その前で長靴を履いたジャージ姿の青年二人が話をしていた。

「今年の冬は、寒かったからなぁ」

「そやの、早い目に、耕しといた方がええな」

「ほな」

「ほな」

 黒煙を上げて力強い爆音と共に耕運機は、道路を挟んだ家の前の田んぼへと降りて行き、不釣合いなアルミホイールを履いたお洒落な軽トラックは、藁埃を舞い上げて走って行った。

「……」

 春のそよ風に乗って飛んで来た藁埃を手で払い退け、遥は再びラスクを口にする。

「おっ、速いの、もう、やっとんのか?」

 可愛らしい子豚を積んだ、小汚いトラックが家の前に止まると、

「おお、則之、子豚どうすんや?」と、耕運機を押していた青年が、道路へと出て来た。

「今年は、ようさん生まれてな」

「おお、ええやんけ!」

「隠居の太助んっとこに、分けてやるんや」

「ははは、えらい気張って、ぱっこんぱっこんしょったなぁ」

「ははは、俺も頑張って、二人目作らんとな」

「はははは、頑張れやぁ」

「ほな」

「ほな」

 小汚いトラックは、子豚を気使うように静かに走り去り、青年は再び、力強い爆音を響かせ耕運機を押し始めた。

「……」

 耕運機の爆音が鳴り響く中、春のそよ風に乗って漂ってくる子豚の香を感じて、遥は、ドンっとテーブルに片足を乗せて、

「ファキン!アスホォールッ!」と、スカートが乱れているのも気にせず中指を高く突き立て、年頃の女の子としては、とてもお見せ出来ない姿を晒した。

 そんな頃。

 朝の儀式を済ませた翔子が、あくび交じりに洗面所から出てくると、

「翔子、奈良の国立博物館に行かないか?」と、上の兄が声を掛けて来た。

「えっ?」

 急に誘われて驚き振り向くと、

「おい、兄貴!翔子は俺がUSJに誘う積りだったんだぞ!」と、下の兄が割り込んだ。

「なに、俺が先に誘ったんだぞ!武仁(たけひと)は引っ込んでろ!」

「黙れ!俺は、前売り券まで買ってんだぞ!」

「そんなの、関係ねぇ!」

「やっかましい!」

 身長、百八十cmを越えるマッチョな二人が叫び、同時に見事なクロスカウンターが決まった。

「うっ、くっそう……」

「ちっ……」

 ダブルノックアウトで倒れている二人の所に、

「やめんか!このシスコン兄弟が!」と、翔子の姉と言っても違和感の無い、歳の割には若く見える母親が、仁王立ちになって怒鳴り付けた。

「お、お母さん!シスコンって何だよ!」

「そうだよ!妹を可愛いと思って何が悪い!」

 床に転がったまま、激しく抗議する二人に、

雅仁(まさひと)、武仁、物にはね……」と、母親が静かに言って二人を睨み付け、細く美しい足を高く振り上げると、

「限度って物があるの!」と、長兄の雅仁の後頭部に踵落としを決めて、そのまま体を倒し込み、次兄の武仁の頭上にエルボーをめり込ませた。

「がっ!」

「ぐっ!」

 二人の兄が白目を向いている所で、母親は徐に立ち上がり。

「いい加減にしなさいよ!」と、持っていたお玉で二人の頭を殴って覚醒させた。

 母親の前で、ばつの悪そうにしている二人に、

「でかい図体で暴れて、家を壊す気!」と、更に母親が怒鳴り付けた。

「でも、俺、親父の会社で働いてて、休みなんて、たまにしか取れないのに!」

「そんなの、理由になるか!」

「黙れ!大学生のお前なんかに、社会人の苦労が分かるか!」

 二人は同時に飛び起きたかと思うと、

「こっのおぉぉ!」

「やっろうぅぅ!」と、再び、クロスカウンターが決まり、同時に床に崩れ落ちた。

「まったく……」

 倒れている二人の前で、

「翔子ちゃん、朝ごはん出来ているわよ」と、母親が微笑みながら言った。

「はぁい……」

 倒れている二人の兄を見ながら、

「ごめん、お兄ちゃん、今日は、遥と約束してるんだ」と、翔子が手を合わせて謝った。

「何!」

「遥ちゃんと!」

 翔子の言葉を聞いて、二人の兄が同時に飛び起き、

「全然OK、遥ちゃんも一緒に博物館行こ!」

「あほ!遥ちゃんとは俺が行くんだ!」と、翔子に迫ると、お互いの視線で火花を散らし、

「なんだとぉ……」

「この野朗ぉ……」と、拳を構えて間合いを取る。

 一発触発の二人に、

「やめんかぁ!」と、母親が再び持っていたお玉で二人の頭を殴った。

「この、シスコンの上にロリコンか!あんた達!」

「ロ、ロリコンなんかじゃねぇよ!」

「そうだよ、遥ちゃんは翔子と同じで、可愛い妹みたいで……」

「黙れ!」

 又々、母親はお玉で二人を殴り、

「そんな事だから、何時まで経っても彼女が出来ないのよ!」と、怒鳴り付けた。

「歳が離れてるから可愛いと思うのは分かるけど、いい加減あんた達、妹離れしなさいよ!」

「……」

 母親に怒鳴られ、黙ってしまった二人の横を、

「ははは、ごめんね、お兄ちゃん……」と、翔子が謝りながら通り過ぎた。

 そして、時を同じくして。

 委員長はベッドの中で、翔子との濃厚なプレイが繰り広げられる夢を見ながら、

「でへ……でへ……」と、薄笑みを浮かべ、大量のよだれでシーツを濡らしていた。

 夢の中では、女王様姿の翔子が、容赦無く与える愛の篭った加虐を、

「うふ……わふ……ふみぁ……」委員長は、喜びに打ち震えながら全てを受け止めていた。

 高笑いする翔子から、ご褒美の数々を受けて、甘く身を焦がす様な電撃が全身を貫いた時、

「あっあぁ、いいぃ……翔子様ぁ……」眠っている委員長の鼻から、熱い血潮が一筋流れた。

 午前九時過ぎ。

 緩やかな山裾に、大きなお屋敷が点々と並んでいる一軒から、

「行ってきまぁす」と、スリムのジーンズにグレーのトレーナー姿の翔子が玄関を出て、門の方へと走って行く。

 旧村の、車が一台通れる位の狭い道を抜け、段々畑が広がる広い道路へと出て、更に三百m程行くと、バブルの時に売り出された可也広い区画の新興住宅地が有った。

 未だに、売れ残りが目立つ疎らな住宅街にある、小洒落た洋館の前まで来て、翔子がインターフォンのボタンを押すと、暫くして遥が出て、

「今行きまぁす」と、告げて、更に暫く待つと、門が開いて、

「おまたせぇ」と、パステルピンクのワンピースにベージュのカーディガンを羽織った遥が、元気に出て来た。

「あれ、おじさん達居ないの?」

 何時もガレージに止めてある車が無い事に気付いて翔子が尋ねると、

「昨日からぁ、金沢の実家にぃ、お母さんと一緒に帰ってるのぉ」と、遥が答えた。

「遥は行かなくても良かったの?」

「まぁ、従姉妹の婚約祝いだからぁ」

「へぇ、おめでたいじゃない」

「うん、まぁ、結婚式の時には行くかなぁ……」

「そんなもんだね」

 そして、翔子達はバスに十分程乗って駅に着くと、大阪市内行きの電車に乗る。

 日曜日の車内は、座席に寝転がれるぐらい空いていた。

「高倉さんとはぁ、難波の高島屋前でぇ、待ち合わせね」

「うん……」

「……どうかしたの?」

 上の空で返事をする翔子に、遥が尋ねると、

「あのさ、遥……」と、翔子は暗い顔をして、

「昨日、言っていた色仕掛けって何なのよ」と、尋ねた。

「ああ、あの事ね」

「私に、何をしろって言いたいのよ?」

「まぁ、それはぁ順を追ってぇ説明するからぁ」

「なによ、それ……」

「それよりぃ、今日はぁコスプレの見学会よ」

「私にしたら、そんな事より重要なの」

「まぁまぁ、焦らないぃ、焦らないぃ」

「焦ってないわよ、困ってるの」

「うむ、翔子ちゃんとしてはぁ、深刻なんだぁ」

「当然でしょ」

 翔子は不機嫌な顔で腕を組んで、

「第一、女同士よ、おかしいと思わないの?色仕掛けなんて……」と、遥を睨み付けた。

 そんな翔子に、何時もの事だと物怖じもせず、

「だからぁ、翔子ちゃんはぁ、もっと自分を知るべきよ」と、さらっと言った。

「何を知れと言うのよ」

「背が高くてぇかっこ良くてぇ、男の先生達にもぉ遠慮しないその根性ぉ……」

「根性って……」

「憧れている子は沢山居るわよぉ」

「あのね、私にとっては、背が高いとか根性が有るとかって、褒め言葉じゃないのよ」

「なんでよう……」

「私だって、女なのよ、女性としての評価が欲しいの」

「どんな?」

 翔子の顔を覗き込んで尋ねる遥から、

「……」翔子は目線を逸らした。

 黙っている翔子に、

「ねぇ、どんな?」と、遥が更に尋ねた。

「例えば……」

「例えば?」

「……」

「ねぇ、ねぇ、例えばぁ?」

 翔子の肩を揺すって執拗に尋ねる遥から目線を反らしたまま、

「……可愛いとか……」と、翔子は頬を染めながら、ぼそっと答えた。

 遥は翔子の答えを聞くと、

「うぅん……」と、腕を組んで深刻そうに考え、

「それは、難しいわね……」と、結論付けた。

「おいっ……」

「人は長所を伸ばすべきよ」

「はぁ?」

「決して、翔子ちゃんがぁ、可愛く無いとぉ、否定している訳では無いのようぉ」

「……」

「モデルさんみたいなぁ綺麗なスタイルだしぃ……」

「……そりゃ、どうも……」

「胸は無いけどぉ……」

「あんたもでしょ!」

 怒鳴る翔子を無視して、

「綺麗でぇ凛々しい顔立ち……」と、遥が続ける。

「宝塚のぉ男役さんみたいな感じなんだからぁ、そっちの方向にぃベクトルを延ばすべきなのぉ」

「ベクトル?」

「そう、まるでナイトの様なぁ、強さと優しさでぇ、か弱き乙女をぉ包み込むぅ……」

「……」

「せっかく胸も無いんだから……」

「おいっ!」

「翔子ちゃんはぁ、そう有るべきなの」

「……わけわからん……」

 翔子は、遥から顔を逸らして、

「でもね、そう言うのって、嫌なのよ……」と、不機嫌な顔で腕を組んだ。

「そりゃ、自分が女らしく無いって、自分でも分かってるけど……」

「……」

「だから、中学一年の時に、ずっと習ってた空手も止めて……」

「……」

「女らしくしようと、努力はしてる積りなんだけどねぇ……」

 俯いてしまった翔子に、

「そんな事無いよぉ、翔子ちゃん、女の子として十分素敵よぉ」と、遥が寄り添って言った。

「翔子ちゃんのぉ理想では無いかも知れないけどぉ、とても素敵よぉ」

 翔子の腕に抱き付き微笑む遥に、

「遥……」翔子は苦笑いを送った。

「だからぁ、自分の長所を生かしてぇ、部員を勧誘するの」

「はぁ?」

「まぁ、私としてはぁ不満だけどぉ、この際、我慢してぇ……」

「はぁ?」

「色仕掛けにぃ、協力する事にしたの」

「いや、だから、女子校だよ、女同士だよ、それで、何をどうしろと言うのよ」

「いやいやぁ……その手の女の子はぁ、何人か居るからぁ」

「なによ?『その手』って……」

「うぅん、つまりぃ、女の子をぉ好きな女の子ぉ」

「……それってぇ……レズって事?」

「もうぉ……下品な言葉使わないでよぉ」

 不機嫌そうに頬を膨らませる遥に、

「だって、そうでしょ……」と、翔子も唇を尖らせる。

「確かにぃ、ガチで同性愛にぃ走ってる子も居るけどぉ……」

「居るの?……」

「大抵はぁ、そこまで重症じゃ無いわよぉ」

「でも……」

「大丈夫、その手の女の子にぃ、翔子ちゃんがぁ、優しく口説いてやればぁいちころよぉ」

「やめてよ」

「えっ?」

 突然、翔子は険しい顔になり、

「なによ、私に、そんな子を相手にしろって事なの」と、きつい口調で言った。

「そんな、女なのに女が好きだ何て……そんな子を、私に口説けって言うの」

「翔子ちゃん……」

「嫌よ、そんなの……」

「……」

「気持ち悪い……」

「えっ……」

 二人の間に沈黙が流れた。

 翔子は、不機嫌な顔で窓の外を見ている。

 遥は、そんな翔子を悲しそうな顔で見詰めていた。

 そして、電車は終点の阿倍野橋に着き、二人は地下鉄へと乗り換えた。

 平日ほどではないが、込み合っている御堂筋線の車内で、二人は何故か無言だった。

 難波駅に着いて、二人は地上へと上がり、待ち合わせの場所に辿り着くと、其処には委員長が待っていた。

「あっ、高倉さん」

 フリルが沢山付いた若草色のワンピースに白いカーディガンを羽織った委員長を見付け、翔子が声を掛けると、委員長は翔子達に気付き手を振った。

「待った?」

「ううん、私も、ほんの少し前に着いたの」

「そう、良かった」

 にこやかに挨拶をする二人の横で、遥は黙ったまま立っていた。

「あ、あの毛利さん、どうかしたの?」

 心配そうに尋ねる委員長に、

「べつに……」と、遥は素っ気無く答えた。

 気分屋の遥が、何かへそを曲げたのかと翔子は思い、

「あっ、あの、行きましょうか」と、委員長を気遣って笑顔で言った。

 何となく気まずい雰囲気の中、翔子達は、でんでんタウンの方に向かって歩き出し、狭い歩道の人ごみを掻き分けるように進んで、堺筋の西側に有るオタロードへと着いた。

 二車線の広い道路は、歩行者天国でも無いのに、人が道幅いっぱいに広がって無秩序に歩いていて、暴走自転車が歩行者と衝突ギリギリの所で擦り抜けて行き、車が人ごみに囲まれながら、遠慮がちに進んで行く。

「なんか、無茶苦茶ね……」

「車、通れないね……」

 その時、翔子達の後ろから、明らかに、危ない筋の人が乗っていそうな高級車が、クラクションを鳴らしまくって乱暴に走って行った。

「危ないわね……」

 乱暴な車を見ていた翔子に、

「この辺、昔からやくざやさんが多いから」と、委員長が説明した。

 三人は人の流れに乗って進んで行くと、交差点にメイドさん達が、手にビラを持って立っていた。

「あれね、メイドカフェとか言う奴でしょ」

「うん」

 メイドのイメージから掛け離れた、ケバい化粧の女達が手に持ったビラを配りながら客引きをしている。

「なんか、イメージ違うな……」

 苦笑いをしながら眺めている翔子に、

「まあ、水商売みたいな物だから……」と、委員長が説明した。

「それに、なにあれ……」

「えっ?」

 翔子の視線を追って委員長が見ると、其処には、ピンクのセーラー服を着た女が客引きをしていた。

「あの人って、確実に、二十歳越えてるでしょ」

「ははは、まあ、コスプレですから……」

「でも、違和感あるわね」

「赤やピンクのセーラー服って、アニメだとそんなに変じゃないけど……」

「現実で見ると……風俗嬢みたいね」

 翔子と委員長が話しながら歩いていると、広いコインパーキングが見えて来た。

「おおっ、あれが痛車と言う物か……」

 パーキングには、ロリ顔巨乳のアニメキャラで飾られた車が沢山並んでいた。

「ある意味凄いわね……車に、あんなの描くなんて……」

 翔子が感心して見ていると、

「あれは、キャラをプリントしたシートを貼っているのよ」と、委員長が説明した。

「へぇ、張ってるの」

「うん、ペイントだと高く付くし大変だから」

「でも……私も結構アニメとか見ているけど、全然知らないキャラばかりね……」

 物珍しさで熱真に車を眺めている翔子に、

「……あ、あれは、その……ギャルゲーとか、あの、エ、エロゲーとかのキャラで、あまり一般の人は知らないと思うの」と、委員長が少し言い難そうに説明した。

「えっ?エロ……それって、思いっきり痛い……」

「うん、でも、コアな人達には、それがステータスみたいで……」

「そうなの……」

 翔子は、自分の知らない世界を垣間見て、絶対、自分とは理解し合えない世界だと感じた。

「あの絵は、結構有名なギャルゲーのキャラでね……」

 日頃は大人しく口数の少ない委員長だったが、憧れの翔子との初めてのお出かけが、自分のホームグラウンドの様な場所だと言う事で舞い上がり、今日は良く喋っていた。

 オタロードを進みながら、コスプレしている客引き達の説明を委員長から聞いて、翔子は理解出来ない世界に戸惑っていた。

 あちこちの店にも入りながら、コスプレしている客引きを観察していると、お昼時となり、翔子達はマクドナルドに入って昼食を取る事にした。

「はぁ……やっぱり恥かしいよ……コスプレなんて……」

 カウンター席に並んで座り、ポテトを抓みながら、溜息混じりに翔子が言うと、

「普通はそうよね……」と、翔子の隣に座る委員長が苦笑いした。

「あの人達は仕事だからね」

「仕事でも、出来ないわよ、私には……」

「でも、人には変身願望みたいなのがあって、私は、以前から、ちょっと興味は有ったの」

「ええぇ……そうなの?」

 怪しい者を見るような目で見ている翔子に、

「へへへ、でも、やっぱり恥かしくて……」と、委員長は少し顔を赤くして俯いた。

「普通そうでしょ、ねぇ遥……」

 翔子が隣に座る遥に振向き尋ねると、

「……」遥は黙ったまま前の壁を見詰めていた。

「遥?」

 ずっと黙ったままの遥に、

「もう、ちょっと、何が原因か知らないけど、何時までふて腐れている積りなの……」と、委員長には聞こえない様に尋ねた。

「……」

 声を掛けても黙っている遥に、

「遥……どうかしたの?」と、翔子が遥の肩に手を置いた。

 遥は、反射的に翔子の方を向いて暫く翔子を見詰めていたが、

「……なんでもない」と言って、翔子から顔を逸らして再び俯いた。

「あの、毛利さん、気分でも悪いの?」

 委員長が心配そうに尋ねるが、

「……」遥は黙ったままだった。

「えっと、気分が悪いなら、私、静かな喫茶店知ってるから、そこで暫く休んだら?」

「……」

「其処の喫茶店ね、オリジナルのチーズケーキがね、とっても美味しくてね……」

「……今日は、ずいぶんとおしゃべりなのね……」

「えっ?」

「遥?」

 遥は俯いたまま、

「なによ……舞い上がっちゃって……」と、ぼそりと言った。

「ちょっと、遥……」

「何も知らないくせに、いい気なものね……」

「あ、あの……」

「遥!何言ってるの!」

 翔子が遥の肩を掴んで自分へと振向かせようとしたが、遥は顔を更に逸らした。

「あなたね、気分悪いよ、そんな言い方……えっ?」

 顔を逸らしている遥の頬が、少し赤くなっているのに気付き、

「遥、あなた……」と、翔子が遥の額に手をやった。

「ちょっと……やだ、熱、有るじゃない」

 遥は首を振って、翔子の手を振り払うと、

「何でも無いわよ……」と、ぼそりと言った。

「何でも無い事無いでしょ、小学校の時にも、よく熱出して……」

 心配そうに尋ねる翔子の言葉にも、遥は黙ったままだった。

「あ、あの、毛利さん、大丈夫?……」

 翔子の後ろから、委員長が心配そうに尋ねると、

「あ、ごめん、高倉さん、大した事無いのよ」と、翔子が答えた。

「原因はたぶん……この子ね、人ごみとか、ちょっと苦手だから……」

「えっ」

「たぶんね……他の事でも、この子ったら、昔から、よく熱を出してたのよ」

「……そうなの」

「ごめん、拗らせない内に連れて帰るわ」

「え、ええ……それが良いわね」

「ごめんね、せっかく色々と教えて貰おうと思ってたんだけど……」

「ううん、そんな事より、本当に大丈夫なの?」

 翔子が遥を立たせて、

「ごめんね、心配掛けて、大丈夫よ、ありがとう」と、微笑んで答えた。

「それじゃ、また明日、学校で」

 翔子が小さく手を振ると、

「ええ……」と、委員長も小さく手を振った。

 そして委員長は、遥を庇って寄り添って歩く翔子を見送った。

 地下鉄の中で、二人は並んで座っていたが、何も喋らなかった。

「遥、降りるわよ」

 翔子が遥の腕を持って、介添えするように立たせて二人は地下鉄を降りた。

 そして、自宅方面へと向う電車に乗ったが、やはり遥は黙ったままだった。

 そんな遥を見て、

「ふぅ……」と、翔子が大きな溜息を付いた。

「あのね、遥、何があったか知らないけど、何時まで拗ねてる気なの?」

 殆ど人の居ない車内で、隣に座っている遥を見ながら、

「高倉さんには、ああ言ったけど、貴方、昔から不機嫌になると、熱、出してたでしょ」と、少しきつい口調で言った。

「……本当に、気分屋なんだから……」

 翔子が、呆れたように首を振ってから、

「辛いんなら、(もた)れなさいよ」と、遥の肩に手を回して引き寄せようとしたが、遥は体を硬くして拒絶した。

「もう……何よ……」

 黙ったまま俯いている遥を睨んで、

「勝手にしなさい」と、翔子は腕を組んで、そっぽを向いた。

 翔子は黙ったまま、雨の降り出しそうな空を見ながら「なに怒ってんのよ……」と、遥が不機嫌な理由を考えたが、まったく思い当たる事が無かった。

 ただ、気分屋の遥でも、何時もは一時間もすれば機嫌を直すのに「ほんとに、どうしちゃったのよ……」と、何時までも拗ねている遥が少し心配だった。

 静かな車内で揺られながら、二人は黙ったまま座っていた。

 目的の駅に着いても降りようとしない遥の腕を掴んで、

「遥、着いたわよ」と、翔子は遥の手を引いて電車から降りた。

「あっ、雨……」

 二人が、誰も居ないホームに立つと、雨が降り始めた。

「どうしようかな……」

 改札を出て、翔子が駅の出口から空を眺めていると、雨は激しく降り出した。

「お兄ちゃん、家に居るかな……」

 翔子が携帯電話を取り出して、

「遥、お兄ちゃん呼んでみるから……」と、翔子が振り返った時、遥は黙ったまま駅舎から走って出て行った。

「えっ!」

 土砂降りの中を走って行く遥に驚いて、

「ちょっと、遥!」と、翔子は携帯をしまって、遥の後を追って走り出した。

 誰も居ない自転車置き場の前まで来て、

「待ちなさいよ!遥!」と、翔子が遥の肩を掴んで呼び止めた。

「なにしてるのよ!熱が有るのに!」

 雨に濡れない様に、翔子が遥を自転車置き場の屋根の下へと入れようと腕を引っ張ると、遥は翔子の手を振り払った。

「遥?……」

 何時もとは違う遥の態度に戸惑いながら、

「どうしちゃったのよ、遥……」と、翔子が尋ねた。

「……」

 遥は、黙ったまま雨の中で立っていた。

 そんな遥に翔子は段々腹が立って来て、

「もう、何なのよ!何考えているのよ!」と、遥の肩を引っ張り自分の方へと向けた。

「えっ?」

 翔子が遥の顔を見ると、雨なのか涙なのか分からないが、遥の顔が濡れていた。

「遥?……」

 悲しそうな顔で俯いている遥に、

「どうしたのよ、遥……」と、翔子は戸惑いながら尋ねた。

「……」

 激しく雨の振る中、二人は向かい合ったまま、黙って立っていた。

 その少し前、車に乗った長兄の雅仁が、駅前の信号で止まった時、

「あれ?」と、駅の出口に立つ二人を見付けた。

 翔子が電話をかけようとしているのを見て、

「おおぉ、これは、優しいお兄ちゃんを演出する、最高のステージじゃねぇか!」と、ウインカーを駅の方へと出した。

 信号が変わり、車を発進させロータリーを廻って翔子達に近付くと、二人が外へと走り出したのを見て、

「えっ?えっ?」と、雅仁は何が起きたのか分からず戸惑った。

 車を送迎用の駐車スペースに止めて、

「何やってんだ?」と、後部座席から傘を取って外に出た。

 翔子達が走って行った方を見ると、歩道から少し奥まった所に有る自転車置き場に立っている二人を見付け、

「どうしたんだ……」と、不思議に思った雅仁は、二人に近付いて行った。

 自転車置き場の前で、

「とにかく、中に入りなさい……」と、翔子が遥の肩に手を掛けた時、

「ほっといてよ!」と、遥が叫んだ。

「は、遥……」

 突然の事に戸惑う翔子に、

「もう、優しくしなでよ!」と、遥は再び叫んだ。

「な、何を言ってるのよ……」

 訳が分からずに茫然と立っている翔子の前で、遥は悲しそうに唇を噛んでいた。

「だ、だって……しょうが無いでしょぉ……」

「えっ?」

「だって、だって、好きなんだもん!しょうが無いでしょ!」

「遥……」

「小学校の時からぁ、ずっと好きだった……」

「……」

「翔子ちゃん、かっこ良くてぇ、優しくてぇ……ずっと、好きだった……」

「遥、あなた……」

「何時も一緒に居たいってぇ、翔子ちゃんの側に居たいってぇ……」

「……」

「だけど、翔子ちゃん、気持ち悪いって……」

「えっ?……」

 遥が翔子を睨み付け、

「そうよね、おかしいよね、女の子なのにぃ、女の子の事ぉ、好きになるなんて……」と、呟くように言って、

「だけど、どうしようも無いもん!好きなんだもん!」と、翔子に詰め寄った。

 翔子の目を真っ直ぐに見て、

「でも、翔子ちゃん、気持ち悪いって!」と、目にいっぱい涙を貯めて叫んだ。

「遥……」

 そして遥は、

「だけど……だけど、私、本気だもん!愛しているもん!」と、叫ぶと、その場から走り去った。

「遥!」

 翔子は、呼び止める事しか出来ずにその場に立っていた。

 色々な事が頭の中を駆け巡り、ぶつかり合って、翔子は混乱していた。

「……そんな……遥……」

 激しく降る雨の中で、翔子が茫然と立ち尽くしていると、突然雨が遮られた。

「追いかけなくて、良いのか……」

「えっ?」

 後ろからの声に翔子が気付いて振り返ると、兄の雅仁が立っていた。

「お兄ちゃん……」

 雅仁の差し出している傘の下で、翔子は雅仁を見詰めていた。

「どうしよう……私……」

「うん?」

 困惑した表情で雅仁に近付くと、

「ねぇ、どうしよう、私!」と、翔子は雅仁の胸に縋った。

「翔子?……」

「わかんないよ!どうして良いのかわかんないよ!」

「……どうしたんだ」

 泣きながら訴える翔子の頭を、雅仁は黙って撫でてやった。

「私……また、遥を傷付けた……どうしたら良いの……」

 胸に縋って泣いている翔子に、

「とにかく、遥ちゃんを追いかけろよ」と、優しく言った。

「こんな雨の中、放っとく訳にはいかないだろ」

「お兄ちゃん……」

「ほら」

 雅仁が傘を翔子に渡そうとすると、

「でも……」と、翔子は躊躇った。

「どうした?」

「……でも、追い掛けて、どうしたら良いの……」

「……」

「なんて言えば良いのよ、わかんないよ……」

 雅仁は小さく溜息を付くと、怯える小鳥の様に小さく震えている翔子に、

「……もう、遥ちゃんの事、嫌いになったのか?あんな事言われて……」と、尋ねた。

 雅仁の言葉を聞いて、翔子はビクッと身を震わせ、雅仁の顔を見た。

「どうなんだ?」

 尋ね直した雅仁から顔を逸らして、翔子が小さく首を横に振ると、

「だったら、追いかけろよ」と、雅仁は再び傘を翔子に差し出した。

「……」

 差し出された傘を翔子は暫く見詰めていたが、突然、傘を取って走り出した。

 翔子の後姿を見送って、雅仁は自転車置き場の下に入ると携帯を取り出した。

 呼び出し音が途切れ、

「なんだ?兄貴……」と、武仁が出た。

「お前、今、家だな」

「あ?ああ……」

「あのな、今、駅なんだけど……」

「うん」

「翔子と遥ちゃんが喧嘩したみたいで……」

「ええぇ!二人が!」

「ああ、それで遥ちゃん、傘も差さずに走って行って……たぶん、バスには乗ってないな」

「この雨の中をかよ」

「ああ」

 雅仁は聞いた内容を告げずに、現状を説明した。

「それで、お前、家の方から遥ちゃんを迎えに出てくれないか?」

「ああ、それは良いけど、翔子は?」

「俺の傘を持って、遥ちゃんを追い掛けて行ったよ」

「……そうか」

「頼んだぞ」

「分かった」

 雅仁は電話を切って溜息を一つ付くと、

「どうしたもんかね……」と、止めてある自分の車へと走って行った。

 真っ直ぐに続いているバス道を、十分ほど走っても遥の姿が見えない事に、

「……どうしたのよ」と、翔子の中に不安が湧き上がった。

「まさか、どこかで倒れてるんじゃ……」

 嫌な事が過ぎり、

「そんな事は無い……見落としては居ないはず……」と、翔子は打ち消した。

 走りながら、翔子の頭の中に色々な事が駆け巡っていた。

「遥が、私の事……好きって……愛しているって……何なのよ、それ……どう言う事なのよ……どうしたら良いのよ、私……」

 答えの見付からない質問を、翔子は走りながら自分に繰り返していた。

「翔子!」

 考えながら走っていた翔子の横に、雅仁の車が止まった。

 我に帰った様に翔子は立ち止まり、

「お兄ちゃん」と、車の中の雅仁を見た。

「遥ちゃん、見付からないのか?」

 雅仁に尋ねられて、

「うん……」と、翔子が不安そうに頷いた。

「おかしいだろ、これだけ来て……」

「どうしよう……」

「何処かで曲がったのかな?」

 考えている雅仁の顔を見て、

「あっ……」と、翔子は何かに気付いた。

「なんだ?」

「あ、あの子、あっちの道を行ったんじゃ……」

「あっち?」

 尋ねる雅仁を無視して、翔子は駅の方へと戻って行った。

「翔子!」

 呼び止める雅仁の声にも答えず、翔子は暫く戻ってから住宅街の方へと曲った。

「なんなんだよ……」

 雅仁は訳が分からないまま、再び車を発進させた。

「そうだ、こっちだ……」

 翔子は走りながら、遥がこの道を通った事を確信していた。

 中学生の時、お小遣いにしようと二人で(くわだ)て、駅までのバス代を浮かせる為に、二人で歩いた住宅街を横切る近道。

 狭く折れ曲がる住宅街の道を、二人は一緒に二年生の中頃まで歩いていたが、結局、親にばれてバスに乗るようになった。

 そんな道を走りながら、

「この階段で遥が転んで……」と、懐かしい記憶が蘇って来た。

「あの家の犬に吼えられて、遥が泣いちゃって……あそこで遥は……」

 そんな事を思い出していると、

「……私って……」と、翔子が小さく呟いた。

 住宅街の上り坂を抜けると、遥が住んでいる住宅街へと続く広い道路に出た。

 それから暫く走ると、道路の余剰地に作られた小さな児童公園が見えて来た。

「……あそこ……あそこだ……」

 遥が居る事を確信して、公園の方を見ながら走っていると、

「いた……」と、遥の姿を見つけた。

 遥は、背を向けて公園のベンチに座っていた。

 激しく降る雨の中、身を縮める様にして座っていた。

 そんな遥に近付くと、翔子は遥に傘を差し出した。

 それに気付いた遥が不安そうに振向き、翔子の顔を見上げると、翔子は優しく微笑んだ。

「翔子ちゃん……」

 遥は翔子を見詰めながら立ち上がり、

「来てくれたの……」と、翔子の前に立った。

「うん……」

「来てくれたんだ……」

「うん……」

「翔子ちゃん、来てくれた……」

「うん」

「来てくれた……」

「うん」

「翔子ちゃん……」

 そう言って遥は、大きな泣き声を上げて翔子の胸にしがみ付いた。

 翔子は、泣きながらしがみ付いている遥を見て、安堵と共に暖かい物が胸に込み上げて来るのを感じた。

 翔子は泣いている遥の肩に手を回し、優しく抱き寄せた。

「子供の時から、何時も一緒だったね……」

 大声で泣いている遥の頭を撫でながら、

「あのね、私……遥の事、何時も見ていたのよ……」と、静かに言った。

 遥が、しゃくり上げながら翔子の顔を見ると、

「女の子らしくて、可愛くて……憧れていたの」と、翔子の目にも涙が浮かんでいた。

「そんな遥と居る事が嬉しくて」

「……」

「一緒に居るだけで幸せで……」

「……」

「私も、遥の事、好きだよ……」

 翔子は傘を落として、遥を両手で抱き締めた。

「翔子ちゃん……」

 冷たい雨に濡れながら、遥は翔子の温もりに包まれて、至福の時に身を任せていた。

「仲直り、出来たみたいだな……」

 公園の入り口で車を止めて、翔子達を二人の兄が見ていた。

「みたいだね……よかった……」

「野暮な事はしたくないけど、このままじゃ風引くな」

「えっ?」

 傘を持って車から降りようとする雅仁に、

「何だよ?野暮って?」と、武仁が尋ねた。

 雅仁は苦笑いを浮かべ、

「なんでもねぇよ」と言って、車から降りた。

「おい、待てよ兄貴」

 その後を追って武仁も車を降りて、翔子達の所へと向かった。

 月曜日の朝。

 翔子は、遥の家の前でインターホンのボタンを押すのを躊躇っていた。

 昨日、遥を見つけてから、雅仁の車に乗って遥を家まで送った。

 翔子は、もっと色々と遥と話し合いたかったが、熱の上がって来た遥を早く休ませたかったのと、遥を着換えさせると両親が帰って来たので、翔子は中途半端な気持ちで家へと帰った。

「……」

 インターホンのボタンに人差し指を当てながら、暫く躊躇っていた翔子は、

「えいっ!」と、意を決してボタンを押した。

「はぁい、翔子ちゃん、おはよう」

 インターホンから、遥の母親の声が聞こえると、

「は、はい、おはようございます」と、翔子は少し焦りながら返事をした。

「昨日はごめんね、ちょっと待っててね」

「はい……」

 どんな顔で遥に会ったら良いのか分からず、不安な気持ちで暫く待っていると、玄関のドアが開く音がして、門を開けて遥が出て来た。

 遥も翔子と同じなのか、翔子に顔を合わせる事無く俯いていた。

 暫くの沈黙が続いて、

「あ、あの……おはよう……」と、翔子が恥かしそうに言った。

「……お、おはよう……」

 恥かしそうに俯いている遥に、

「えっと、熱は、大丈夫なの?」と、翔子が尋ねると、遥は黙ったまま頷いた。

「そっ……よかった……」

 二人の間に再び暫く沈黙が流れて、

「行こうか……」と、翔子が言うと、遥が頷いて二人はバス停へと歩き出した。

 二人は黙ったまま、少し距離を歩いている。

 バス停が見えて来た時、翔子が歩きながら、

「あのね、昨日、言った事、本当だよ」と、前を向いたまま、後ろを歩く遥に言った。

「遥の事……あの、その……好き……だって事……」

「うん……」

「だけど、勘違いしないでよね」

「えっ?」

「私は、遥の事が好きであって、決して女の子が好きなんじゃないんだからね」

 遥は翔子の言葉を聞いて、

「ぷっ……」と、噴出してしまった。

「な、何よ!」

 翔子は立ち止まって振向き、くすくす笑っている遥を睨んだ。

「何が、おかしいのよ!」

「ふふふ、はいはい、分かってますよぅ」

 遥は、微笑みながら翔子に近付き腕を組んで来た。

「ちょ、ちょっと……」

 腕に、しがみ付いている遥から離れようとしながら、

「あのね、だから、べたべたするの、嫌なんだからね!」と、訴えた。

「はいはい、分かってますようぉ」

 そう言いながらも、嬉しそうに翔子の腕に寄り添う遥を見て、

「……もう、しょうがない子ね……」と、翔子は苦笑いを浮かべた。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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