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制服は鷹の獲物

 高天ヶ原女子高等学校 茶道部日記


    第三話 制服は鷹の獲物

 平成二十四年四月十二日 木曜日 晴 茶道部部長 二条琴音記録。

 部長の名前は二条琴音、そして、副部長の名前は久遠寺蛍。

 極普通の二人は、極普通に茶道部に入り、極普通にコスプレをしました。

 でも、ただ一つ違っていたのは……ああぁ、だめ、落ちが思い付かない……

 正直、後悔している……ネタが尽きた……

 第一、こんな古いOP、知っている人も少ないでしょうね。

 ともかく、私達、茶道部部員は、真剣に新入部員を確保すべく、行動を起こさなくては成らない。

 昨日は、残念ながら雨の為、外での勧誘は中止して、勧誘の手法に付いて再び話し合った。

 会議で、あくまでも正攻法を主張する久遠寺翔子とは、袂を分かつ結果となった事は悲しいが、我々は我々のやり方で作戦を遂行する事にした。


「神々が(おわす)高天ヶ原に集う乙女達がぁ、今日も天女のような無垢な笑顔でぇ、背の高い門を潜り抜けて行くぅ」

「はぁ?」

「汚れを知らない心身を包むのはぁ、灰色の制服」

「もしもし……」

「スカートのプリーツはぁ乱さないようにぃ、ブレザーのカラーはぁ翻さないようにぃ、ゆっくりと歩くのがぁ、ここでの作法……」

「……どうすりゃ翻るんだ?この襟……」

「私立、高天ヶ原女子高等学校、ここはぁ、乙女の園……」

「……おーい、はるかあぁ、帰ってこぉーい……」

「えっ?」

 昼休みの教室で、窓の外を眺めながら、コバルト色の別世界へとトリップしていた遥が、翔子の反魂の呼びかけで我に帰って振向くと、

「大丈夫?」と、翔子が尋ねた。

「ははは、いえ、なんかぁOPでえ、部長が困ってる様な気がしてぇ……」

「はぁ?」

「ちょっとぉ、応援しようかなって……」

「何ぶっ飛んだ事言ってるの……それより、勧誘の事」

「ええ、そうね……」

 恥かしそうに頭をかきながら椅子に座った遥に、

「昨日の会議で決まった通り、部長達は校舎裏でコスプレ勧誘、私達は表で普通に勧誘、てっ、事で良いわね」と、翔子が話を切り出した。

「うん、そうね」

「ああ、でも、読み違えたなぁ……」

「えっ?何をぉ?」

「此処ってさ、結構、お嬢様が揃ってるでしょ」

「うん、結構居るねぇ」

「だから、茶道部なんてとこでも入ってくれる子は、沢山居ると思ってた訳よ」

「そうなんだぁ……」

「でもさ、千里ちゃんや夏樹ちゃん……松平さんに香ちゃん……お嬢様方は興味無いってさ……」

「頼子ちゃんとぉ、新田さんは?」

「声掛けた……でも、撃沈……」

「撃沈かぁ……」

「あと、中等部で仲が良かった、洋子と加奈子、それに裕子ちゃんとミッチーにも声掛けたけど、撃沈……他の子はもう、部活やってるし」

「天気晴朗なれどぉ、波高しかぁ……」

「茶道部の興廃、この一戦にあり、なんだけど」

「各員一層奮励努力しなきゃねぇ……」

 なかなか上手く行かない事に、二人は黙り込んでしまった。

 腕を組んで何かを考えていた遥が、

「やっぱぁ、最終手段としてぇ……」と、徐に顔を上げた。

「えっ、何か良い方法があるの?」

「此処は、色仕掛けでぇ……」

「はぁ?」

 遥かは横目で翔子を見ながら、

「翔子ちゃんの実力ならぁ……」と、呟いた。

「わ、私?」

「いやぁ、駄目かなぁ……本人に自覚が無いからねぇ……」

「な、何の自覚よ!」

「背が高くてさぁ、それだけでも目立ってるのにぃ……おしいぃわぁ……」

「何が、惜しいのよ!」

「いやいや……惜しいぃ、実に惜しいぃ……」

「背が高くて目立ってるって言うなら、私より、柔道部のターミネーターの方が、ずっと目立ってるでしょ!」

「あのね……ターミネーターじゃなくてぇ、タミちゃん……田宮さんはぁ、私の友達なんだからぁ、悪く言わないで」

「あぁ、はいはい……でもね、遥……」

「なに?」

「あまり、私の身長の事、言わないでよ……これでも気にしてんだからぁ……」

「百七十五cmだっけぇ?」

「百七十うぅ三っ!」

「体重はぁ?」

「だまれ……」

 不機嫌そうに横を向く翔子を見て、

「……やっぱ、おしいぃわぁ……」と、遥が呟いた。

「あ、あの……」

「え?」

 後ろからの声に、翔子が振向くと、

「く、久遠寺さん……」と、如何にも気の弱そうな少女が声を掛けて来た。

 丸い眼鏡を掛けた小柄な少女は、両サイドに垂らした長い三つ編みの端を、恥かしそうにいじりながら立っていた。

「あ、高倉さん……何?」

「えっと、あの、樫山先生が、久遠寺さんの、その、通学路の申請書が、まだ出てないって……」

「……あっ!忘れてた!」

 慌てて翔子は鞄を開き、中に入れたままのプリントを取り出した。

「あ、他にも、まだ出してない人のも集めたから……あの、私が先生に届けに行くから……」

「あっ、分かった、直ぐに書くわ、委員長」

「ええ……」

 翔子はプリントに通学路と駅名を記入して、

「ごめん、お待たせぇ」と、委員長に差し出した。

 少し頬を染めて微笑み、プリントを受け取ると、

「……じゃ……届けとくね……」と言って、委員長は教室を出て行った。

「ありがとうねぇ」

 手を振る翔子の隣で、

「……高倉さん、大変だねぇ」と、遥が腕を組んで、委員長の後姿を見送った。

「うん?何が?」

「だって、委員長なんか押し付けられちゃって」

「押し付けられたは無いでしょ」

 苦笑いする翔子を見て、

「分って無いわねぇ、高倉さん大人しいから断れないのよぉ」と、委員長に同情した。

「うぅん、そうかも知れないけど……立候補する子も居ないしさ」

「だからって、伊達さんたら、何も推薦なんてしなくても良いのにぃ……」

「まぁ、誰かはやらなきゃ成らない事だし、やってくれそうな子って言えば、高倉さんぐらいでしょ」

「そりゃそうだけどぉ……中等部の時だってぇ……」

「まぁ、八割が中等部からの顔見知りなんだし、高等部になったからって、急に変る事なんてないわよ」

「でもぉ……」

 不満そうに唇を尖らせる遥に、

「なに?遥、随分と高倉さんの事、庇うじゃない」と、翔子が不思議そうに尋ねた。

「……高倉さんからはぁ、私と同じ匂いがするの……」

「はぁ?……餃子でも食ったか?」

「違うわよ!」

「じゃ、何よ……」

 頬を膨らませて翔子を睨んでいた遥が、

「……ふん、鈍感……」と言って、そっぽを向いた。

「な、なによ……」

「だから、さっきも言ったでしょ、翔子ちゃんはぁ、自分自身を分かって無いわ」

「だから、何の事よ」

「背が高くてぇ、ボーイッシュな髪型、その上、男っぽい性格……自分がぁ、この味気ない女子校に、潤いを与える存在だと、自覚してないって事よ」

「はいぃ?潤いって、なに?」

「もう、良いわよ!」

「なによ、気になるわよ、なんな……」

「はいっ、このお話はおしまい!」

 遥は、手を差し出して翔子の言葉を遮り、にっこり笑って、

「そんな事より、翔子ちゃん」と、椅子に座りなおした。

「なんでぇ、そんなに熱心なの?」

「熱心?」

「翔子ちゃん、元々、部活なんてぇ、全然する気無かったのにぃ」

「うん、まあぁね……」

「久遠寺先輩が従姉妹だからってぇ、何で、其処まで義理立てするのぉ?」

「うううん……まぁ、それはそうなんだけど……」

「どうせ、新入部員が入らないとぉ、自然消滅しちゃうんだしぃ、穏便に辞められるでしょ」

「そんな事を、考えていた時代もあったわね……」

「時代って……どんなけぇ……」

「まぁ、蛍ちゃんには悪いけど、正直言って、やめちゃう気も有ったのよ」

「うん」

「でもね、一昨日(おとつい)初めて茶道部の部室を見たでしょ」

「うん」

「そうしたら、考えが、ころっと、変ったのよ」

「ええ、どうしてぇ?」

「そうねぇ……あの純和風的な所に感動したと言うか……」

「えっ?」

「そんな雰囲気に包まれた所で、静かにお茶を点てるなんて、素敵じゃない」

「えっ?」

「ほら、やっぱ私も日本人なんだなあって、わびとか、さびとか……何となく感じちゃったのよねぇ……」

「嘘だあっ!!」

「ぐっ……」

「翔子ちゃんは、嘘をついている……」

「……」

 立ち上がった遥に睨まれ、翔子は気まずそうに顔を逸らし、俯き加減で、

「う、嘘じゃないもん……」と、呟いた。

「う、そ、正直に仰い……」

「……」

「翔子、まぁ、座れ……」

「えっ?座ってる……けど……」

「さぁ、正直に吐いてぇ、楽になれ……田舎のお袋さんが泣いてるぞぉ……」

「いえ、同居してますから……」

「カツ丼、食べるかぁ?……」

「今さっき、お昼、食べましたけど……」

 上から目線で睨み付ける遥の目を、ちらっ、ちらっと見て、

「だって、畳の部屋が使えるから……」と、翔子は小さな声で言った。

「畳の部屋がぁ、何なの?」

「……お昼ご飯食べて、お昼寝……なんか、しちゃおう……かなって……」

「……なるほどぉ、納得した」

「……納得するの?」

「翔子ちゃんと、わび、さびは繋がらないけどぉ、お昼寝なら繋がるもの」

「繋ぐな……」

 不機嫌そうに唇を尖らせる翔子に、

「でも、放課後どうするのぉ?校舎前に立つのぉ?」と、不安を隠せない遥が尋ねた。

「うん、そうねぇ……」

「ビラとか配るのぉ?」

「いや、蛍ちゃんが持っていた『茶道部へようこそ!』って、描いてある旗が二つあるから、それを一本持って……あっ……」

 説明の途中で黙ってしまった翔子に、

「ねぇ……それってぇ、恥かしくない?」と、遥が眉を顰めて尋ねた。

「……うん、今気付いたけど、思いっきり恥かしい……」

 生徒達が大勢帰る道で、派手な旗を持って立っている自分達の姿を想像して、翔子と遥の顔が青ざめた。

「どうするのぉ、翔子ちゃん……」

「どうしよう……」

「私、嫌よぉぅ、そんな恥かしいのぉ……」

「私だって嫌よ……」

 二人は再び黙り込んでしまった。

「声を掛けられる子はぁ、一通り掛けちゃったからねぇ」

「そうねぇ……あっ!」

「えっ?」

「……もう一人、いた……」

「えっ?誰、誰ぇ」

「ふふふふ……」

 狙った獲物は逃がさぬ鷹の様に、瞳を金色に光らせ、冷酷な笑みを浮かべる翔子に恐怖を感じて、

「……どうしちゃったのぉ、翔子ちゃん、怖い……」と、遥は椅子から立ち上がって後退る。

「いい、遥、要するに、後一人入れれば良いわけよ」

「う、うん……」

「何も、勧誘して同意を求める必要なんて無いんだわ」

「えっ?どう言う意味……」

「ふっ、高倉さんよ……」

「高倉さん?」

「そう、高倉さんなら、簡単に落ちるわ」

「お、落ちるって、ちょっと、翔子ちゃん!何をする気!」

「へへへ、あんなアマ、去らって、ちょいと脅してやれば、こっちのもんでさぁ、お代官様、へへへ……」

 立ち上がっていた遥が、悪代官の手下の様に笑う翔子に駆け寄り、

「貴方!自分が言っている意味、分かってるの!」と、怒鳴り付けた。

「なあに、命まで取ろうってんじゃありやせん、服を剥いで、痛め付けてやりゃ、こっちの言いなりですぜ、へへへ」

「ばかあぁぁ!」

 ばぁっしぃぃぃぃん……と、遥が翔子の頬を叩いて、

「翔子ちゃんの馬鹿!お昼寝の為に、人間捨てるの!」と、泣きながら叫んだ。

「は、遥……」

 頬の痛みに戸惑う翔子の両肩を掴んで、

「そんなの翔子ちゃんじゃ無い!お願い目を覚まして!何時もの翔子ちゃんに戻って!」と、遥が血を吐くような思いで訴えた。

「……」

「苦しくったってぇ、悲しくったってぇ、コートの中では平気なはずよ!」

「えっ?」

「人間に成れなかった妖怪人間でさえ、正義の血が流れているのよぉ!」

「早く、人間に成りたあぃ!」

「なのに、翔子ちゃんは高倉さんのプライドを踏み躙り、陵辱の限りを尽くし、犯そうと言うのぉ!」

「言ってません!」

「あ、あれ?」

 翔子は、赤くなった頬を押さえながら、

「悪かったわよ……ごめん」と、ばつが悪そうに謝った。

「……放課後、旗を持って校舎の前に立つわよ……それで良いでしょ」

 諦めた様に項垂れる翔子に、

「高倉さん、脅すならぁ、放課後、部室に連れ込みましょう」と、あっさりと言った。

「……あんたね……」

「やっぱ、人目に付くとぉ、色々とやり難いしぃ……ふふふふ……」

 薄気味悪い笑みを浮かべる遥に、

「……な、何する気……」と、翔子は底知れぬ恐怖を感じた。

「何ってぇ、ふふふ、拒絶したらぁ、心が折れるまでぇ、色々とぉ……」

「まじで、何する気……」

「高倉さんには悪いけどぉ、そんな旗を持って立つなんて、やっぱり恥かしいもん!」

「お前の背中に、黒い羽が見える……」

 翔子が、怯えた目で遥を見ている時、

「あ、高倉さん……」と、職員室から委員長が帰って来たのを、遥が見つけた。

「よし」

 意を決して翔子が立ち上がり、

「高倉さん」と、委員長を呼び止めた。

 名前を呼ばれて立ち止まり、翔子の方へと顔を向けた委員長に、

「ごめん、ちょっと話があるの」と、微笑を浮かべながら近付いて行った。

「……」

 委員長は、翔子の微笑みに少し戸惑い、緊張して見詰めている。

 委員長の直ぐ前まで来た翔子は、

「ちょっと、良いかな?」と、優しく声を掛けた。

 初めて翔子の方から声を掛けられ、

「ええ……」と、期待と不安に少し頬を染める。

 翔子は少し屈んで、背の低い委員長の耳元に顔を近付けると、

「放課後、少しだけ、時間、取れるかな?」と、優しい声で囁いた。

 翔子の熱い吐息を、頬と耳に感じて、

「……」委員長の体に、甘い刺激が走る。

「大切な、話があるの、貴方に……」

 委員長は顔を真っ赤にして、近過ぎる翔子の唇を見詰めながら、

「ぁ……」と、アルトの響きに、心を酔わせる。

 間近に見る翔子の赤い唇に抱いた、自分の欲望を面映く思い、

「た、大切な、話……私に……」と、思わず顔を背ける。

「ええ、是非聞いて欲しいの……だめ?」

 過度の期待と淫らな欲望が、脳内を駆け抜け、

「あぁ……」と、妄想を押さえ切れずに、委員長は小さく震えた。

「どうかしたの?」

 妄想が膨らみ、快楽の甘い世界を浮遊していた時、顔を覗き込む翔子と目が合って、

「えっ?あっ、いえ……あの、何でも、無いの……」と、委員長は、楽園から引き戻された。

「そう……委員長の仕事、忙しいとは思うけど、少しだけ、お願い……」

 体を起こして微笑む翔子の言葉に、

「……は、はい……」と、心は抗う等忘れてしまい、条件反射の様に小さく頷いた。

「そう、良かった、嬉しいわ」

 優しく微笑んでいる翔子の顔を、委員長が顔を真っ赤にして見詰めていた時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

「じゃ、放課後」

 手を振って席に戻る翔子に、

「はい……」と、委員長は、陶酔した笑みを浮かべ、再び小さく頷いた。

 遠目で二人の様子を見ていた遥が、

「なかなか、やりおるのぅ……本能的にぃ、色仕掛けの才能が有るみたいねぇ」と、呟いた。

 戻って来た翔子に、

「どうだったぁ」と、遥が尋ねると、翔子は「OK」と、ウインクしてサインを出した。

「放課後、話を聞いてくれるって」 

「おお、それは祝着じゃ」

 二人は顔を見合わせて、にっこりと笑うと、委員長の方へと振向き、

「ふっ……」と、不気味な笑みを浮かべた。

 そして、放課後。

 翔子と遥は、部室前の小ぢんまりとした日本庭園の東屋で委員長が来るのを待っていた。

「高倉さんは、日誌とか先生に届けてから来るってぇ?」

「うん……」

「ちゃんと場所説明したぁ?」

「うん……」

「……翔子ちゃん、どうしたのぉ?」

「うん……」

 屋根だけで壁の無い東屋の、四方に立っている柱の一本に凭れながら、翔子は何か考え事をしていた。

「あのさぁ、遥……」

「えっ?」

「やっぱ、止めない?……」

「なんでぇよぅ……」

「なんか、気が引けるのよねぇ……」

「何よぉ、今更」

「これが他の子だったら、少々強引でも良いかなって、思うんだけど……」

「うん……」

「やっぱ、高倉さんじゃねぇ……」

「なに弱気になってるのよぉ」

「だってさぁ……」

「じゃぁ、色仕掛けにぃ、切り替える?」

「だから、何なのよ!色仕掛けって!」

「高倉さんならぁ、いちころなのにぃ……」

「だから、何の話よ!」

 翔子が遥に詰め寄った時、

「あら、こんな所に居たの」と、着替えを終えた琴音と蛍が部室から出て来た。

 校内では、違和感満開咲き乱れる、華やかな花魁と、艶やかなバニーガールの二人を見て、

「うっ……ごきげんよう……」

「ご、ごきげんよう……」翔子と遥かは半歩後退る。

「はい、ごきげんよう!」

 大きな旗を持って、バニーガール姿で元気に手を振る蛍に、

「今日も気合入ってるね……」と、翔子が呆れながら声を掛けた。

「当然よ」

「でも……改めて見ると……」

「感動する?」

「しません!呆れてるんです!」

「まあまあ……」  

 興奮状態の翔子を遥が宥めていると、

「翔子ちゃん達も、早く旗を持ってポジションに着いてよ」と、蛍が言った。

「あ、その事なんだけど」

「なに?今更、嫌だとは言わないでしょうね」

「ぐっ……」

 言葉に詰まる翔子に、

「そうそう、昨日の会議で決めた事よ」と、花魁姿の琴音が追い討ちを掛ける。

「……ええ」

 翔子は、内心を見透かされた様な気まずさを感じながら、

「あの、部長、今日これから、一人、クラスの子が、茶道部を見学に来るんです」と、琴音に状況を説明した。

「えっ、釣り上げたの?」

 期待に目を輝かせて尋ねる琴音に、

「あ、いえ、まだ、魚信(あたり)が、あったかな、って、ぐらいで……」と、翔子は報告した。

「手ごたえは?」

「ええ、まぁ、これからかな?って、感じで……」

「そう……ここは、慎重に行かないとね」

「はい……」

「蛍ちゃん」

 急に部長に呼ばれた蛍が、 

「はい」と、何事かと振向き返事した。

「今日は、その獲物を、皆でお迎えしましょう」

「えっ!」

 予期しなかった琴音の提案を聞いて、翔子が驚き目を丸くしていると、

「なるほど、取り逃がしたりしたら大変ですからね」と、蛍が真剣な顔で頷いた。

「ええ、十分に網を張って、逃げられないよう万全の体制を取って……」 

「あっ、ちょっ、ちょっと待ってください!」

「なに?」

 慌てて止める翔子に二人が振向いて、

「何か問題でもあるの?」と、琴音が尋ねた。

「部長、まさか、そんな格好で迎えるんじゃ無いでしょうね!」

「えっ?いけないかしら?」

「だめ!ぜえったあぁぁい、駄目!」

 手を胸の所で、ばつ印を作って激しく抗議する翔子に、

「ど、どうしてよ……」と、琴音がたじろぎながら尋ねた。

「その子、大人しい子なんです!気の弱い子なんです!普通の子なんです!だから、そんなもの見たら、絶対に、恐怖を感じて、泣き叫びながら逃げ帰ります!」

「……私達は、お化け屋敷か……」

「ある意味ぃ、そうかもぉ……」

「くわあいえっとっ!」

 遥を睨み付けて怒鳴る部長に、

「お願いです、私達に任せてもらえませんか」と、翔子が頼んだ。

「うううん、そうねぇ……」

「中等部から知っている子なんです、其の子の事、良く分かっているんです」

「でも……」

「大丈夫です、全身全霊、全知全能を持って説得しますから」

「いや、今の台詞、おかしいでしょ……」

「とにかく、私達に任せて下さい!」

 翔子の真剣な訴えに、琴音と蛍が顔を見合わせて、

「どうします、部長」と、蛍が尋ねた。

「そうね……」

「なんか、普通の子みたいですよ……良いんですか?」

「そうね……」

「そんな子、入っても面白味が無いですよ……」

 渋っている二人に、

「あのね!新入部員が欲しいの!欲しく無いの!」と、翔子が怒鳴り付けた。

「だってぇ……」

 詰まらなそうに頬を膨らませる蛍に、

「だってじゃ無い!蛍ちゃんは、危機感と言う物を感じないの!」と、翔子が詰め寄った。

「そりゃ、危機感は持ってるけど……」

「だったら!」

「この衣装に、ときめいてくれる様な子が、入って欲しいのに……」

「いねえぇよ!そんな子!」

 そんな二人を見ていた琴音が、

「分かったわ」と言って、二人の前に歩み出た。

「蛍ちゃん、この子達に任せて見ましょうよ」

「部長……」

 琴音は暫く考えてから、

「もう、この子達も茶道部の部員なんですもの、信じて任せて見ましょうか」と、蛍に向かって微笑んだ。

「しかし部長……」

「まだ一年生だから、頼り無く思えるのは仕方がないわ、でもね……」

「でも?」

「蛍ちゃん、この子達の成長を見守ってあげるのも、先輩としての役目だと思うのよ」

 慈愛に溢れる琴音の笑顔を見て、

「部長……」と、蛍は感動して声を詰まらせた。

 二人の会話を聞いて、

「普通の格好で言ってれば、感動する台詞かも……」

「……そうねぇ……」と、翔子と遥は呆れていた。

「それじゃ、其の子の事、任せても良いのね?」

「はい、部長!」

「それじゃ、頼んだわよ……蛍ちゃん、行きましょうか」

「はい」

 琴音と蛍が校舎裏へと向うのを見て、

「ほっ……」と、胸を撫で下ろす二人であった。

「あんなの居たら、即アウトよ……」

「マジで、泣いちやうかもねぇ、高倉さん」

 翔子が元の柱に凭れかかって、

「ねぇ、遥、高倉さんが来たらどうする?」と、遥に尋ねた。

「どうするってぇ、とりあえず部室の中に入ってもらうんでしょ」

「うん、それから?」

「そうねぇ、翔子ちゃんが押し倒してぇ、私が両手を押さえてぇ……」

「何の話よ!」

「えっ?」

「高倉さん部室に連れ込んで“なに”する気なの!」

「えっ?犯さないのぉ?」

「犯すかあぁぁ!」

「でもぉ、犯して、恥かしい写真とってぇ、弱みを握ったらぁ、こっちのもんでしょ」

「……あんたのお尻に、尖った尻尾が見えて来たわ……」

「翔子ちゃんだって、言ってたじゃ無いのぉ」

「私は、単に『脅す』と、言っただけよ!何も強姦なんてする気は無いわよ!」

「ええ、でもぉ……」

「でもぉ……じゃ無い!第一、どうやって犯すのよ!私達、女同士よ!」

「へへへ、それはそれでぇ、色々とありましてぇ……」

 右手の人差し指と中指を、微妙にくねらせる遥を見て、

「こ、この小悪魔が……」と、たじろいだ。

「第一、本気で脅す積りなんて無いわよ」

「ええ、なんでよぅ?」

「……あのね、そりゃ、少々強引には誘う積りでは居るけど、現実、脅すなんて出来無いわよ!」

「じゃ、やっぱり色仕掛けでぇ……」

「するか!」

 その時、人の気配を感じて翔子が振向くと、

「あ、高倉さん……」と、石段を登りきった所で、ぽつんと立っている委員長を見つけた。

 一瞬、二人に「さっきの話、聞かれて無いでしょうね……」と言う、不安が走ったが、委員長はぺこりと小さく頭を下げて、翔子達に近付いて来た。

「あっ、ごめんね、忙しいのに」

「ううん、大丈夫……」

 翔子に微笑む委員長を見て「どうやら聞かれて無い見たいね」と、二人はホッとした。

「えっとね、此処じゃなんだから、中に入って」

「中?」

「うん、茶道部の部室なのよ、あの建物」

 翔子が指差す数奇屋を見て、

「茶道部?……」と、委員長が呟いた。

「中は座敷になっていて、落ち着く所よ」

 部室の中、座敷、落ち着く、それらのキーワードで、

「……」人目が無い、二人っきり、迫られる、押し倒される……と、一瞬のうちに、委員長の中で妄想が膨らむ。

「だから、ゆっくりと話が出来るわ……さっ、入って」

 膨らみ続ける妄想が、少し怖くなって、

「あっ、でも……」と、委員長は躊躇い少し身を引いた。

 顔を真っ赤にして見詰める委員長を見て、

「どうかしたの?」と、翔子が不思議そうに尋ねた。

「顔、赤いけど、具合でも悪いの?」

「い、いえ、大丈夫……」

「そう、だったら良いけど……じゃ、行きましょうか」

 委員長の背中に手をやって翔子が促した時、委員長は翔子から顔を背け

「……そんな……心の準備が……」と、嬉しそうに小さく呟いた。

「えっ?なに?」

 聞き返す翔子の言葉も聞こえず、されるがままに身を任せ、身も心もとろける様な翔子との、目眩めくしとねでの愛の時間を妄想し、委員長は顔を背けたまま、

「……えへ、えへ……」と、薄笑いを浮かべていた。

「……」

 委員長の様子を、不思議そうに見ている翔子に、

「なによぉ、結局、連れ込む気ぃ、満々じゃない……」と、遥が不満げに言った。

「何言ってるのよ、遥も来なさいよ」

「ええぇ、私もぉ?」

「当たり前でしょ、一緒に来なさい」

「はあぁい……」

 三人が部室に入って行く時、委員長の顔は残念そうに曇っていた。

「ささ、座って」

 翔子が座布団を進めると、

「ありがとう」と、委員長は詰まらなさそうに、翔子の隣に座る遥をちらっと見て、翔子の向かいに座った。

「あのね、こんな所に呼び出したのは、実は、高倉さんに茶道部に入ってもらえないかなぁって、思って……」

「茶道部?久遠寺さん、茶道部なの?」

「うん、二年生の従姉妹にね、誘われちゃって」

「そうだったの」

「それでね、部長を含めて、今は私達部員は四人なのよ」

「……」

「でも、五人いないと部活として学校は認めてくれないのよ」

「そうなの?」

「うん、それでね、高倉さん、どうかなって……ちょっとでも興味が在ったら、是非、入って欲しいのよ」

「でも、私なんか……」

「あっ、委員長の仕事で忙しいのは分かっているのよ、まあ、其処をなんとか……」

「……」

「それと、心配しなくても良いのよ、私達だって、茶道の『さ』の字も知らない、ど素人なんだから、これから一緒に習いましょうよ」

「一緒に……」

「うん、だから、入ってくれると嬉しいなって……」

「嬉しい……」

「うん、どうかな?」

 笑顔の翔子をじっと見詰め、再び妄想が膨らみかけた時、遥かの姿が目に入り、

「……でも、私なんか……」と言って、委員長は俯いてしまった。

 翔子は中腰で身を乗り出し、俯いてしまった委員長の両肩に手を置いて、

「そんな事言わないで、お願い……」と、微笑みながら訴えた。

「あっ……」

 自分の両肩に手を置く翔子とのシュチュエーションに、恋愛ドラマのワンシーンを重ね、妄想を広げながら暫く翔子の顔を見詰めて、

「……はい」と、委員長は恥かしそうに言って、横を向いてしまった。

「えっ!」

「あの、こんな私でよかったら……」

「えっ?本当に良いの?茶道部に入ってくれるの?」

「はい……」

「いや、待って、もう一度良く考えて!」

「えっ?」

「翔子ちゃん!」

「いい、良く考えるのよ、必ず後悔するわよ……」

「あ、あの……」

「ちょっと、翔子ちゃん!」

 遥が隣に立っている翔子の腕を引っ張って、

「なに言ってんのよぉ!高倉さん、入るって言ってくれたのよ!」と、怒った。

「あっ、でも……」

 戸惑っている翔子に、

「まぁ、座りなさいよ」と、翔子を座らせた。

 そして、委員長に聞こえないように翔子の耳元で、

「何馬鹿な事言ってるのぉ!せっかくの獲物を逃す気!」と、小さな声で怒鳴った。

「で、でも……」

「旗持ってぇ、校舎の前に立つ?」

「うっ……」

 睨み付ける遥に、

「わかった……」と言って、翔子は改めて委員長の方を向いた。

「あ、ありがとう、嬉しいわ」

「高倉さん、ありがとうぉ、先輩達も喜ぶわぁ」

 二人が委員長に微笑むと、

「あの、宜しくお願いします」と、委員長は丁寧に頭を下げた。

「あ、此方こそ、宜しく」

「宜しくねぇ」

 挨拶をして翔子は直ぐに立ち上がり、

「よし、帰ろう」と、二人に言った。

「えっ?もう帰るのぉ?」

「うん、早く帰ろう」

「でもぉ、先輩達に高倉さんの事報告しないと」

「今、高倉さんに“今の”部長達に、合わせる気?」

「あっ……」

 翔子の言葉を聞いて全てを悟った遥は、

「そうねぇ、帰りましょうかぁ」と、鞄を持って立ち上がった。

「部長達には、書置きをしておくから」

「うん」

「高倉さんには、徐々に慣れてもらうと言う事で」

「そうねぇ、それが良いわぁ」

 二人の会話の意味が分からずに、

「あの……」と、戸惑っている委員長に、

「さっ、一緒に帰りましょ」と、翔子が微笑んだ。

「あっ……はい」

 翔子達は部室を出ると、周囲を見回し、

「よし……」と、安全を確認してから、グランド方向へと向かって行った。


 たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体。

 鉄の悪魔を叩いて砕く……

 私がやらねば、誰がやるうぅぅ!との、気構えで新入部員の勧誘を行ったが、これが中々上手く行かない。

 今日も、敗北感に打ちひしがれて副部長と部室に帰って見れば、なんと「新入部員、一名ゲットだぜぇ!」と、描かれた置手紙があった。

 良くやった、後輩達よ……これで、何も思い残す事は無い。

 これで、私は心置きなく、この冬に引退出来ると言うものだ。

 しかし、何故、この様な慶事を私達に報告せずに、帰宅の途に着いたのであろうか。

 私としては、当然、副部長も、共に喜び会いたかったのに。

 最近の若い者の行動は、聊か理解しかねる。

 以上、茶道部部長 二条琴音記録。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。


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