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愛、おぼれていますか?(上巻)

高天ヶ原女子高等学校 茶道部日記 第一部完結話の上巻です。

軽~く読める百合っ子コメディです。

とは言っても、女子高生の日常をだらだらと書いいているだけなので、過度な期待はしないで下さい(^^;)>


 高天ヶ原女子高等学校 茶道部日記

 

    第十話 愛、おぼれていますか?(上巻)

「却下」

「ええぇ、どうしてよぉ!」

 茶道部の部室で、お弁当を食べながら遥が不満そうに頬を膨らませた。

「あっ、弥生ちゃん、たこさんウインナー頂戴ね」

「ええ、どうぞ」

「ミートボール食べる?」

「うん、ありがとう」

 遥を無視して、翔子と弥生が楽しそうにおかずを交換していると、

「部室に誘き出す作戦は成功したのよぉ」と、遥が翔子を睨んだ。

「それは、一歩前進した、と、言う点に、置いては、評価します……うぐっ……が、」

 たこさんを食べ終わった翔子が、

「その後の、押し倒してって何なのよ!」と、遥を睨み返す。

「だってぇ、裸にして恥ずかしい写真を撮ればぁ……」

「するか!」

「じゃぁ、心が折れるまで陵辱するとかぁ……」

「しません!」

「もう、じゃぁ、どうやって説得するのよ!」

「遥!あんたね、説得って言葉の意味分かってるの!」

「分かっているわよ、失礼ね!」

 唇を尖らせてそっぽ向く遥を見て、

「……いや、分かってねぇと思う……」と、翔子は頭を抱えた。

「ま、結果がどうあれ……」

 食事を終えて、翔子がお茶を飲みながら、

「二人には感謝します」と、弥生と遥を見た。

「え?」

 何の事か分からずに翔子を見ている二人に、

「本当は、茶道部のため、なんだろうけど、なんか、二人には私のために動いて貰ったみたいで……」と、笑顔を送った。

「翔子ちゃん……」

「だから、私としては、どんな結果になっても、運命として受け入れる覚悟が出来ているわ」

 穏やかな微笑を浮かべる翔子を見て、

「やっと、女王様になる覚悟が出来たのね……」と、遥が哀れみにも似た目を向けた。

「……」

 黙って青ざめている翔子を見て、弥生は悶々と翔子の女王様姿を思い浮かべていた。

「あ、あのね、そっちの覚悟が、出来ているって事じゃないんだけど……」

 飲み終えた湯飲みを座卓において、

「伊達さんが駄目だったら、ラスト一日の放課後、私一人でも旗を持って校門に立つわ」と、神妙な面持ちで決意表明した。

「恥ずかしいけど……コスプレする事に比べたら、雲泥の差、月とすっぽんぽん……」

「翔子ちゃん……」

 遥は態と突っ込まず、翔子の手を両手で握って、

「翔子ちゃんを一人で晒し者になんてしないわ!」と、熱く訴えた。

「遥……」

 遥の言葉に翔子の目頭が熱くなる。

「私、そっと木陰から見守っているから!」

「見守るんかい!」

 遥かに突っ込んでいる所に、

「あ、あの、私も一緒にがんばります!」と、弥生が両手に拳を握り締めて翔子を見詰めた。

「弥生ちゃん……」

 気の弱い弥生の決意に、

「ありがとう……」と、翔子は素直に感動した。

「ごめんください」

 玄関の方から声がして、

「はぁい」と、翔子が立ち上がった。

 玄関の引き戸を開けると、伊達が一人立っていた。

「ようこそ、来てくれて嬉しいわ」

 にこやかに迎える翔子に、

「貴方に歓迎される覚えは有りませんわ」と、伊達は冷たく応えた。

「えっ?」

「私は、毛利さんと高倉さんに誘われて、茶道部の部室を見に来ただけですの」

「はあ……」

「良いですわね、見に来た、だけですからね」

「え、ええ……」

 そんな受け答えをしている所に、

「いらっしゃい!」と、遥と弥生がやって来た。

「あら、毛利さん、高倉さん」

 翔子の時とは打って変わって、にこやかに声を掛ける伊達に、

「来てくれたのね、嬉しいわぁ」と、遥が笑顔で礼を言った。

「えっとぉ、とりあえず、外から案内しましょうか」

「ええ」

 温度差の激しい伊達の対応に、

「あれぇ?……」と、翔子は複雑な心境で遥達を見送った。

 庭を案内してから部室に入り一通りの案内を終えて、四人は部室に集まった。

「どうぉ?素敵でしょうぉ」

「ええ、古い建物ですのに、とても手入れが行き届いていて素敵ですわ」

「でしょ」

「それと、お庭も風情があって、貴女方が気に入られるのも分かりますわ」

「ね、ね、ほら、私達、気が合うじゃないぃ」

「え?ええ、そうですわね」

 フレンドリーな笑顔の遥に、伊達は少し戸惑った笑顔を返した。

 遥が前に座る伊達に身を乗り出して、

「ねぇ、だからね、一緒にやりましょうようぉ、茶道部」と、誘ったが、伊達は黙って俯いてしまった。

「……どうかしたの?」

「いえ……」

 無作法に伊達の顔を覗き込む遥から顔を逸らして、

「教室でも、申しましたが……、私、色々と予定がありまして……」と、呟く様に言った。

 そんな伊達を見て、

「予定って、何をしてるの?」と、遥の隣から翔子が尋ねた。

「私のプライベートな事ですので、申し上げる必要はございませんわ」

 冷たい口調できっぱりと言った伊達に、

「ねぇ、ねぇ、何してるのぉ?」と、遥が甘える様に訊ねた。

 暫く黙っていた考えていた伊達が、

「習い事と、学習塾の予定がありますの」と、ぼそりと言った。

「あ、あの、習い事って、その、何を……何を習ってるの?」

 会話を途切れささない様にと気を使い、少し慣れてきた弥生が隣に座る伊達におずおずと尋ねると、

「英会話、絵画教室に書道、ピアノとバイオリン、日舞にお花、後はゴルフと乗馬にスイミングですわ」と、弥生の方を向いて伊達が答えた。

「……」

「それと、御爺様と一緒に俳句の会にも参加させていただいていますの」

「……どんなけぇ……」

 習い事のオンパレードに、三人の目が点になった。

「だったらぁ、何時勉強しているのぉ?伊達さん成績良いのに?」

 遥に尋ねられて、

「月曜日から金曜日の午後十時から十二時まで家庭教師の先生にお勉強を見ていただいて、月水金は学習塾にも通っています」と、当然の様に答えた。

「……」

 伊達の殺人的スケジュールを聞いて、三人の顔が青ざめた。

「でも、それじゃ、遊ぶ時間なんて無いじゃない」

 呆れながら尋ねる翔子に、

「それが、私に必要だとは思ってはいませんわ」と、冷たく答えた。

「私は伊達家の娘として当然の事をしていますの」

「だけど……」

「私が望んでしてますの、貴方にとやかく言われる筋合いは御座いませんわ」

「……」

 そんな翔子と伊達の会話を聞いていて、遙が翔子に近付き、

「翔子ちゃんは黙ってた方が良い見たいね……」と、そっと囁いた。

 どんな理由が有るのかは分らないが「確かに温度差が激しいわね……」と、翔子は場の空気を読んで無言で頷いた。

「あの、伊達さん、要らないお世話かも知れませんけど……」

 隣に座る弥生が、

「大丈夫なの?本当に?」と、伊達の顔を見ながら心配そうに尋ねた。

「何の事かしら?」

「体、壊さない?」

 大きな目で見詰める弥生の顔を見ながら、

「……ええ、大丈夫ですわ」と、伊達は微笑んで答えた。

「でも、少し顔色が悪いみたいで……」

「ありがとう、でも心配有りませんわ、本当に大丈夫ですから」

「そう……」

「だけどぉ、無理してない?」

 弥生同様、心配そうに遥が尋ねると、

「ええ、無理だなんてしていませんわ」と、伊達は遥を見ながら微笑んで答えた。

「私のぉ常識からすると、無理をしているとしか思えないけどぉ……」

「大丈夫ですわ」

 余裕を持って答える伊達に、

「でも、それってぇ、嫌じゃないの?」と、遙が遠慮気味に尋ねた。

「どうしてですの?私が望んでしていますのよ、それに、御爺様も伊達家の娘に相応しい様にと進めて下さいますし……」

「御爺様が?」

「ええ、私としては、御爺様に喜んで頂いただけましたら喜ばしい事ですし、嫌だなんて思った事も有りませんわ」

「……そう」

 心配そうに顔を曇らせる遙かに、

「ごめんなさいね、せっかく誘って頂いたのに、その様な理由で部活をする為の時間が有りませんの」と、静かに言った。

「ふぅうん、そうなんだ」

 不機嫌そうな顔で、両足を投げ出し両手を後ろに付いて天井を見ながら、

「伊達さんは、それで良いんだ……」と、わざと大きな声で翔子が言った。

「翔子ちゃん……」

 突然の事に皆が翔子を見る中、

「貴女が好きでやってる事を、私がとやかく言う筋合いなんて無いんだろうけどさぁ……」と、続けた。

「翔子ちゃんたら、ちょっとぉ……」

 ぞんざいな態度で、明らかに敵意を感じる翔子の言葉を聞いて、遥は戸惑いながら翔子の袖を引いた。

 そんな遥を気にも留めず、

「貴方、本当にそれで良いと思っているの?」と、伊達に尋ねた。

「ええ、思っていますわ」

 翔子の態度に対して、不快感を露に睨み付ける伊達に、

「つまんない人ね……」と、翔子は馬鹿にした様な哀れみの目を送った。

「……なんですって……」

「良く考えなさいよ」

「何をですの」

「私達は今、高校生だって事」

「それがどうかしまして」

「高校生の時にしか出来ない事も有るって事」

「……」

 翔子は体を起こして座卓に肘を付いて凭れ掛り、

「伊達家の娘だとか爺様がどうのって言ってるけどさ、貴女、まだ高校生だよ」と、伊達を睨む。

 伊達も、

「もう、高校生ですわ」と、負けずに睨み返した。

「そうよね、じゃ、自分自身が、伊達の家とか爺様に縛られてるって気付きなさいよ」

「失礼な方ね、自分の意思で望んでやっている事です。縛られてなんか居ませんわ!」

「そうかしら、習い事を自分から進んでやっている事は本当かも知れないけど、そこに脅迫めいた義務感や、詰まらないプライドに雁字搦めになっている自分が居る事に気付かないの?」

「脅迫だとか詰まらないだなんて、侮辱しないで頂きたいわ!伊達家の娘として義務感とプライドを持つ事が悪い事ですの!」

「はぁ……」

 言い合う二人を、遥と弥生がハラハラして見ている中、翔子が大きな溜息を付いた。

「そりゃね、お嬢様として自分を磨く事は大事でしょうけど……」

 気だるそうに翔子は伊達から顔を逸らして、

「もっと、今を大事にしても良いんじゃないの……」と、呟く様に言った。

「どう言う意味ですの……」

「……」

 何処を見るでも無く壁の方に目線をやっている翔子を、伊達が睨み続けていると、

「……今の伊達さんに、言っても分らないよ」と、翔子は投げ遣りな口調で言った。

「そうですか……」

 伊達は翔子を睨みながら、

「それでは、これで失礼します」と言って、立ち上がった。

「伊達さん……」

「ごめんなさい、せっかく誘って頂きましたけど、やはり無理ですわ」

 呼び止める弥生を見ずに、伊達は寂しそうに玄関の方へと向かった。

 玄関の引き戸が閉まる音を聞いて、

「翔子ちゃん……」と、遥が心配そうに声を掛けた。

「……あぁあ、しょうがないかぁ」

 翔子は立ち上がって、

「今日の放課後から、旗持って立つかぁ」と、勝手口の方へと向かった。

「翔子ちゃん、待ってよぉ」

 呼び止める遥の言葉で立ち止まり、土間の上がり框で翔子は暫く黙って立っていた。

「翔子ちゃんったらぁ、どうしてあんな言い方したのよぅ……」

「だって、しょうがないじゃない……」

 後ろを向いたまま翔子は、

「私、絶対に認めないから……」と、呟く様に言った。

「えっ?」

 翔子の後ろに立って、

「何の事?」と、遥が尋ねた。

「……伊達さんの事、絶対に認めない……」

「でも、それはぁ、伊達さんの考え方だから……」

「分っているわよ、でも、私は絶対に嫌……」

「翔子ちゃん……」

 そして、翔子は土間に降りて勝手口から出て行った。

 お昼休みが終わる頃、教室に戻って来た伊達に、

「あ、鈴ちゃん」と、島津が声を掛けた。

「ねぇ、どうだった?」

「何の事かしら?」

「もう……」

 何も無かったかのように席に座る伊達を見て、島津が苦笑いを浮かべた。

「茶道部の部室に行ったんでしょ?」

「ええ」

「で、どうするの?」

 興味津々の目で見ている島津に、

「どうもしませんわ」と、あっさりと答えた。

「入らないの?」

「ええ、昨日もそう言ったはずですわ」

「そっかぁ……残念」

「どうして、久美ちゃんが残念なんですの?」

 訳が分からずに島津を見いてる伊達に、

「いやぁ、鈴ちゃんが茶道部に入ったら、久遠寺さんとの距離も近くなるかなぁって……」と、島津が少し頬を染めて照れながら言った。

 暫く島津を睨んでいた伊達は、

「久美ちゃんと静香ちゃんが、どれだけ久遠寺さんに興味がお有りでも、私は絶対にあの人の事は認めませんから」と、きっぱりと言った。

「鈴ちゃん……」

「だって……ずるいですわ……」

 不満そうに頬を膨らませて、

「どうして、久遠寺さんばかり……」と、呟いた。

「毛利さんも、高倉さんも取られちゃったから?」

「し、失礼ね!」

 行き成り立ち上がった伊達に、

「ご、ごめんなさい……」と、島津は苦笑いを浮かべながら謝った。

「ふん!」

 そっぽを向いて席に座った伊達に、

「だけど、中学の時から久遠寺さんと毛利さんは仲がよかったよ」と、島津がしゃがんで小声で言った。

「でも、毛利さん……可愛いもの……」

「……鈴ちゃん、ちっちゃくて可愛い子好きだもんね」

「……」

「中学三年の時、高倉さんには色々とちょっかい掛けてたもんね」

「失礼ね、ちょっかいじゃありません」

「じゃぁ、なに?」

 唇を尖らせている伊達に、島津は嫌味な笑顔を送った。

「……高倉さん、大人しいから、クラスの仕事をする事で、少しでも皆と交流出来る様にと委員長に推薦したんですわ」

「……ふうぅん……」

 意味ありげな目で見ている島津に、

「何ですの?」と、伊達は不快感の篭った目線を返した。

「困った時には、自分を頼って来てくれる、かも、なんて思っていたんでしょ」

「そっ、そんな……私は……」

「ふっふっふっふっ……修学旅行の時だって……」

「あ、あの時は、どちらのグループにも入れないで居た高倉さんが不憫で、誘ってさし上げただけですわ」

「一緒に居たいからね」

「……」

 顔を赤くして更に不機嫌そうに唇を尖らせる伊達を、島津はにやにやと笑ってみていた。 

 午後からの五時間目が終わり、遥と弥生が翔子の所へと集まった。

「なんか、吹っ切れたよ……」

 遠い目で窓の外を見ている翔子に、

「女王様になる事にぃ?」と、遥が翔子の顔を覗き込んで尋ねた。

「……あのね」

 翔子は徐に遥へと向いて、

「伊達さんの事は諦めたって事」と、静かに言った。

「ああぁ、まだその段階なのね」

「……ええ、そうですよ」

 不機嫌そうに頬を膨らませる翔子の前方で、島津と畠山が伊達の所へと集まっていた。

「結局、断っちゃったの?」

「ええ」

 残念そうに尋ねる畠山に、伊達はあっさりと答えた。

「私、部活をする時間なんて御座いませんから」

「そうでしょうけどぉ……」

 顔を見合わせる島津と畠山に、

「お二人には残念な事なんでしょうけど」と、冷たく言い放った。

「でも、鈴ちゃん」

「何かしら?」

 しゃがみ込み、椅子に座っている伊達の横で、

「大丈夫なの?」と、島津が尋ねた。

「何がです?」

「……顔色、悪いよ」

 下から顔を覗き込んでいる島津に、

「そうかしら……少し、寝不足気味のせいかしら?」と、伊達は自分の額に手を当てて答えた。

「無理してんじゃないの?」

「……無理なんかしてませんわ」

「絶対無理してるって、高校生になって、習い事増えたんでしょ?」

「ええ」

「どれだけやる積りなのよ……もうちょっと、余裕持ったら?」

「……」

 茶道部の部室で遥と弥生に言われた事を、伊達は思い出していた。

「週に何回か、お茶でも飲んでゆっくりした方が良いわよ」

「……どうしても、そちらのお話になるのですね……」

「へへへへ……」

 睨み付ける伊達に、島津は誤魔化す様に笑った。

 





最後まで読んでいただいてありがとう御座います。

感想等一言いただけたら嬉しいです。

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