婚約破棄された才女は、もう王国を支えない
王立学院の卒業記念舞踏会。
シャンデリアの光の下、第二王子アルベルトは満足げに微笑んでいた。
「本日をもって、私はセレナ・アルヴィスとの婚約を破棄する!」
ざわめきが広がる。
視線の中心に立つのは、青いドレスの令嬢――セレナ。
王国随一の才女と呼ばれる女だ。
だがアルベルトにとっては違った。
真面目すぎる。愛想がない。可愛げがない。
隣に立つのは、最近編入してきた可憐な少女ミリア。
「セレナは冷酷で、貴族たちを見下している! 私は心優しいミリアを選ぶ!」
拍手がぱらぱらと起きた。
セレナは静かに頭を下げた。
「……承知いたしました、殿下」
怒りも悲しみも見せない。
その態度が、アルベルトには最後まで気に入らなかった。
「最後まで可愛くない女だな」
そう思った。
――その時までは。
三日後。
王城は大混乱に陥った。
「第二結界が停止しています!」
「魔導炉の出力低下! 王都の防衛術式が崩壊寸前です!」
報告が次々と飛び込む。
アルベルトは苛立った。
「魔術師団は何をしている!」
宰相が青ざめた顔で答える。
「……殿下。それらの管理はすべて、元婚約者セレナ嬢が担当しておりました」
「は?」
沈黙。
「結界維持、魔導炉調整、貴族領の収穫予測、財政最適化……王国運営の八割が、彼女の設計です」
アルベルトの背筋が冷えた。
「代わりは?」
「……存在しません」
さらに一週間後。
地方領で魔獣被害が発生。
物流停止。
税収減少。
貴族たちは王家へ抗議を始めた。
そして決定的な報告が届く。
「セレナ嬢ですが……隣国に迎えられ、王立研究院の長に就任しました」
「なに?」
「すでに隣国の結界性能が三倍に向上したとのことです」
アルベルトの手から書類が落ちた。
ようやく理解した。
彼女は地味な婚約者ではなかった。
王国そのものを支えていた存在だったのだ。
数か月後。
舞踏会で寄り添っていたミリアは、すでに別の貴族へ取り入って去っていた。
残ったのは崩れかけた王政と、自分への非難だけ。
「……セレナ」
名前を呼んでも、もう届かない。
彼女が去った日から、王国はゆっくりと衰退していった。
誰もが囁く。
「第二王子が、国を捨てたのだ」と。
一方その頃。
隣国の研究塔。
窓辺で書類に目を通しながら、セレナは小さく息を吐いた。
「ようやく、仕事がしやすい環境ですね」
無駄な政治も、感情的な命令もない。
純粋に才能を評価される場所。
新しい同僚が微笑む。
「あなた一人で国の未来が変わりました」
セレナは少しだけ笑った。
「いいえ。私はただ――」
ペンを走らせる。
「正当に扱われる場所を選んだだけです」
その日、隣国は黄金期を迎えた。
そして元婚約者の王国が再び栄えることは、最後までなかった。
――終。
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