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婚約破棄された才女は、もう王国を支えない

作者: ふうりん
掲載日:2026/03/28

王立学院の卒業記念舞踏会。


シャンデリアの光の下、第二王子アルベルトは満足げに微笑んでいた。


「本日をもって、私はセレナ・アルヴィスとの婚約を破棄する!」


ざわめきが広がる。


視線の中心に立つのは、青いドレスの令嬢――セレナ。


王国随一の才女と呼ばれる女だ。


だがアルベルトにとっては違った。


真面目すぎる。愛想がない。可愛げがない。


隣に立つのは、最近編入してきた可憐な少女ミリア。


「セレナは冷酷で、貴族たちを見下している! 私は心優しいミリアを選ぶ!」


拍手がぱらぱらと起きた。


セレナは静かに頭を下げた。


「……承知いたしました、殿下」


怒りも悲しみも見せない。


その態度が、アルベルトには最後まで気に入らなかった。


「最後まで可愛くない女だな」


そう思った。


――その時までは。


三日後。


王城は大混乱に陥った。


「第二結界が停止しています!」


「魔導炉の出力低下! 王都の防衛術式が崩壊寸前です!」


報告が次々と飛び込む。


アルベルトは苛立った。


「魔術師団は何をしている!」


宰相が青ざめた顔で答える。


「……殿下。それらの管理はすべて、元婚約者セレナ嬢が担当しておりました」


「は?」


沈黙。


「結界維持、魔導炉調整、貴族領の収穫予測、財政最適化……王国運営の八割が、彼女の設計です」


アルベルトの背筋が冷えた。


「代わりは?」


「……存在しません」


さらに一週間後。


地方領で魔獣被害が発生。

物流停止。

税収減少。

貴族たちは王家へ抗議を始めた。


そして決定的な報告が届く。


「セレナ嬢ですが……隣国に迎えられ、王立研究院の長に就任しました」


「なに?」


「すでに隣国の結界性能が三倍に向上したとのことです」


アルベルトの手から書類が落ちた。


ようやく理解した。


彼女は地味な婚約者ではなかった。


王国そのものを支えていた存在だったのだ。


数か月後。


舞踏会で寄り添っていたミリアは、すでに別の貴族へ取り入って去っていた。


残ったのは崩れかけた王政と、自分への非難だけ。


「……セレナ」


名前を呼んでも、もう届かない。


彼女が去った日から、王国はゆっくりと衰退していった。


誰もが囁く。


「第二王子が、国を捨てたのだ」と。


一方その頃。


隣国の研究塔。


窓辺で書類に目を通しながら、セレナは小さく息を吐いた。


「ようやく、仕事がしやすい環境ですね」


無駄な政治も、感情的な命令もない。


純粋に才能を評価される場所。


新しい同僚が微笑む。


「あなた一人で国の未来が変わりました」


セレナは少しだけ笑った。


「いいえ。私はただ――」


ペンを走らせる。


「正当に扱われる場所を選んだだけです」


その日、隣国は黄金期を迎えた。


そして元婚約者の王国が再び栄えることは、最後までなかった。


――終。

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