魂を震わせるその神の姿は…
この作品は、私が考えたストーリーと文章を、AIにわかりやすくしてもらっています。
ステージの最前列で、彼は『神』だった。
人気ロックバンドのボーカル、min。漆黒の軍服に身を包み、銀の装飾がスポットライトを反射して煌めく。切れ長の瞳を僅かに細め、冷ややかな流し目を観客に送るだけで、最前列のファン達は呼吸を忘れ、目眩に襲われたように膝を折る。
——だが、その『楽園』は、一瞬で崩壊した。
ライブが最高潮に達したその時、ミンが突如として胸を抑え、苦悶に顔を歪めて崩れ落ちた。静まり返る会場。数万人のファンが息をのみ、心配の声をあげようとしたその時、マイクが『あってはならない音』を拾った。
「…ギ、ギチチ、チチ…!」
それは声帯から発せられる悲鳴ではない。硬いもの同士が擦れ合う、乾燥した昆虫の摩擦音。
会場にざわめきが広がる。誰もが機材の故障か、何かのハプニングだと自分に言い聞かせた。だが、異変は止まらない。
ぷちっ…。
張り詰めた沈黙の中、ミンの軍服の銀ボタンが一つ、内側からの圧力に耐えかねて弾け飛んだ。床に広がる硬質な音。
メキッ、メキメキメキッ!!
肉の内側で、骨が強引に折れ曲がり、未知の構造へと組み変わる悍ましい音が響く。
ぶちぶちぶちぶちっ…!!
瑞々しかった皮膚が裂け、その隙間から『何か』が噴き出していく。
駆け寄ったギター担当のメンバーが、ミンの肩に手をかけた。
「おい、ミン!大丈夫か、今の音は一体……ヒッ!?」
肩を揺さぶった直後、メンバーは弾かれたように後退りした。その手には、粘着室な液体と剥がれ落ちた『人間の皮膚』がこびりついている。彼は蒼白な顔で、かつて親友であった男を指差し、絶叫した。
「ばっ……化け物!!!」
「ギチチチチ、ギチチ…!」
マイクが拾い続けるその音は、もはや音楽を冒涜するノイズでしかない。
無常にも、追尾式のスポットライトがミンを最高輝度で照らし出した。
ゆっくりと顔を上げた『彼』に、かつての端正な面影は一ミリも残っていなかった。黒光りする硬質の甲殻。数万の絶望を映し出す巨大な複眼。細かく震え、唾液を滴らせる鋭利な顎。そこにあったのは、黒い軍服を内側から食い破って現れた、巨大な昆虫の貌だった。
「…ひっ……うわあああああああああッ!!!!?」
誰かの悲鳴を合図に、会場は地獄絵図と化した。
先程まで「愛してる」と叫んでいたファン達が、今はただの『生理的な嫌悪感』に突き動かされ、出口へと殺到する。ミンの側から1秒でも早く離れたい。それは、美貌という皮を剥がれた彼に対する、剥き出しの拒絶であった。
だが、そのパニックを切り裂いたのは、スピーカーが爆発せんばかりに増幅された、『人ならざる声』だった。
「…オ……オ…オレノ…サケビ…キケ…ッ!」
逃げ惑う群衆の足が、その声の『圧』に縫い付けられた。
昆虫の顎を震わせ、ミンは狂気混じりの意志を咆哮する。
「オレノココロノ……メイ…ヲ。……俺は、俺だッ!!」
声に、かつての鮮やかさは微塵もない。電子音と摩擦音が混ざり合った、鼓膜を抉るような響き。だが、その中には、人間だった頃よりも激しい『魂』が宿っていた。
「最期までこの声にのせるのは、お前らが望む『綺麗な偶像』じゃないっ!!俺が望む、世界への反抗だっ!!」
彼は、多脚と化した腕でギターを力任せに掻き鳴らした。弦が切れ、指(爪)が剥がれることも厭わない、破壊的な旋律。
「俺が作り上げる世界の美しさを理解できないのならば、お前らは所詮、皮一枚の『見せかけ』しか見てねぇ顔ファンだ!!…最期まで、俺の『本当の歌』を聴けッ!!」
そうして、昆虫の王は再び歌い始めた。
それは、かつてのファン達を絶望させ、同時に、真の意味で『彼』という存在を刻みこむための、美しくも悍ましいレクイエムだった。
『ギイイイイインッ』
アンプが悲鳴を上げ、鼓膜を直接針で刺すような超高音のフィードバックが会場を蹂躙する。
逃げられない。
生理的な嫌悪感で内臓がせり上がり、吐き気を催しているはずなのに、背骨を貫く凄まじい『音圧』が、彼らの逃走本能を上書きした。
昆虫の摩擦音と、かつてのミンの艶やかな声が、魂の深淵で混ざり合ったような不思議な響きの歌声だ。それは、人間が一生をかけても出せない音域を行き来する、不気味で、そして恐ろしいほどに美しい咆哮だった。
「…ッ、…アアアアアアアアアアアアアッ!!!」
歌詞など、もはや言葉としての意味を成さない。
だが、その一音一句に込められた「俺は俺だ」という強烈な自我が、目に見える振動となって会場の空気を震わせる。漆黒の軍服から突き出した六本の脚が、リズムに合わせて激しく床を叩く。その度に、地響きが観客の足元から心臓へと駆け上がった。
観客達は自分の身体が信じられなかった。
目の前にいるのは、黒光りする甲殻に覆われた、生理的に受け付けないはずの『巨大な虫』だ。それなのに、彼が奏でる旋律に、指が、膝が、そして心臓が勝手に共鳴し始めている。
「……嘘…、…だろ…。あんな姿なのに…なんで…っ」
一人の少女が、涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
彼女は吐き気を堪えるために口を押さえながらも、ミンの複眼に見つめられると、言いようのない昂揚感に包まれた。かつての『端正なミン』を愛していた自分たちが、いかに薄っぺらな上辺だけを見ていたか。今、目の前で毒毒しく、悍ましく、けれど誰よりも自由に叫んでいる『この怪物』こそが、真のミンなのだ。
ミンの背中にある漆黒の翅が、高速で振動を始めた。
ブゥウウウウン…!
その重低音が会場の音響システムと共鳴し、壁が、天井が、観客の骨の芯までもがガタガタと震え出す。それはもはやライブではなく、『ミンの世界』への強引な引き摺り込みだった。
逃げ出そうとしていた者たちも、いつしか立ち尽くし、その異形から目が離せなくなっていた。嫌悪感で顔を歪めながらも、その圧倒的な『悍ましき美しさ』に魅入られ、喉を鳴らす。
それは、生存本能すらも凌駕する、『魂の支配』。
ミンは、もはやマイクすら必要としていなかった。彼の肉体そのものが楽器となり、会場の空気すべてを震わせている。
ライトが彼を照らすたび、黒い甲殻は真珠のように妖しく輝き、飛び散る体液さえもが、ステージに咲く宝石のように見えた。
「聴けッ!これが俺の、魂の形だッ!!」
その叫びとともに放たれた最後の一節は、会場のすべての音を呑み込み、静寂さえも塗り潰した。
観客たちは、もはや悲鳴を上げることさえも忘れていた。
ただ、ステージの上で、ボロボロになった軍服を纏い、不気味な六本の脚で立ち尽くす『新たな神』を、恍惚とした絶望の中で見上げるしかなかった。




