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第57話 旅は道連れ

出発の前日、まずは乗合馬車で翌日のモーサスまでの席を確保した。馬車でも歩きでも一日の距離だが、やっぱり馬車がいい。脚を棒にするよりは尻を腫らす方を選ぶ。


次に錬金術屋で、薬を準備した。怪我した時用のポーション、胃腸薬、筋肉痛や尻が腫れた時の塗り薬。


「コウくん、干果物は頭の疲労回復のためだけじゃないわ。旅路にはおやつが必要よ」

そんなサティアの言葉に唆されて乾物屋で追加の干果物も買った。


その後ギルドに行って余計な現金を預ける。

とりあえず手持ちは金貨10枚もあれば十分だろう。


「コウくん、楽しそうね」


「ああ、久しぶりの旅行だからな」


「この間ゴルマンまで行ったじゃない」


「あれは……軍事行動だ。ガルドがそう言ってた」


そう、先日のグラウラー討伐は、行って戦うという事が決まってた。気を抜くと命が危ない旅だった。

それは旅行ではない。


今回は何かと戦うために行くわけじゃない。向こうに行ってやるべきことはあるけど、出発時から気を張っておくようなことじゃない。


「それにしては張り切ってるようだけど」


早めに風呂に入り、夕食を取って寝た。

明日の朝は早い。



翌朝、ルミナとザケルに挨拶して宿を出た。


東門の手前に馬車が準備されている。今回は護衛じゃなく客として馬車に乗る。


「今日はよろしくお願いします」


俺はそこを仕切っている人と御者に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。


「よう」


声のした方を見るとレンがいる。


俺は乗り込んだ体勢のまま固まってしまった。


「えっ? なんで?」


レンは、自分の横のクッションを叩いた。まあ座れよ、ということだろう。


俺は屈んだ姿勢でそこまで行って腰掛けた。


「コウはこれからブルサンの方まで行くんだろ。俺も一緒に行きたいと思ってさ」


えっ、それってどういうこと?

俺の頭の中は思考が急ピッチで回り始めた。


まず思ったのはヴェルナーが俺の監視役としてレンをつけたという事。


「ヴェルナーさんに言われたのか?」


「何を?」


「俺について行けって」


「ああ、そういう事? 違うよ。俺がコウと旅をしたかっただけだ。大体コウは、ずるいんだよ。自分だけ旅行に行かせてもらえるなんて」


こいつは何を言ってるんだ?


「コウくん、コウくん。直観を働かせて。レンくんの顔を見て、どう思う?」


サティアの言葉に、俺はレンの顔を見た。最初に会った時から思っていたが、こいつは子供みたいな顔をしている。好奇心の塊みたいな顔だ。あまり後先考えてなさそうな……


うん、こいつはただのバカだ。

俺の直感がそう告げている。


「なあ、一緒に行ってもいいだろ。俺が途中の町で美味しい食事の情報とか手に入れてやるからさ」


ああ、こいつはそういう奴だ。


そもそもヴェルナーが、教会の息のかかった人間を俺につける訳がない。今回の調査は教会に関わりのない俺に先入観を持たずに調べて欲しいという依頼なんだから。


「もうブルサンにある美味しい宿屋は調べてあるんだぜ。知ってるか? ブルサンってのは海の街なんだ」


こいつは騎士団所属のはずだが、教会関係者だよな。俺について行くってヴェルナーに知られてないのか?


「騎士団には、俺について行くって言ったのか?」


「ガルドの旦那には言っといたぜ。そもそもお前がブルサンに行くっていう情報をくれたのがガルドの旦那だ」


「何も言われなかったか?」


「えっ? なんか言われたっけな……ああ、迷惑かけるなよって言ってたな」


「そうか……」


まあ、いいか。

こいつはあんまり教会関係者って感じじゃないもんな。この間の遠征の時だって教会に泊まったのに、こいつがお祈りしてるのは一度も見かけなかったし。


「出発します」

御者が俺たちに声をかけ、馬車が動き出した。


「よし! 旅の始まりだな。仲良く行こうぜ」

レンが俺に向かって拳を出してきた。

俺は拳を合わせた。


「ふふっ。コウくん、楽しい旅になりそうね」


楽しいのか、うるさいのか……



馬車が街道に出ると、レンは早速しゃべり始めた。


「モーサスから先のルートなんだけどな。まずモーサスから北に一日行くとウェランドっていう町がある」


「知ってるのか?」


「騎士団にいると各地の情報が入ってくるんだよ。ウェランドは川沿いの町でさ、川魚の燻製が名物らしい。脂ののった白身を低温でじっくり燻すんだと」


こいつ、まず食べ物から入るのか。


「その先が、サンシェイ。ここが面白くてさ、高原の町なんだ。坂道が多くて馬車の馬が嫌がるらしい」


「高原か。涼しそうだな」


「チーズが美味いらしいぜ。高原の牧草を食った羊のミルクで作る——」


「お前はガイドブックか何かか?」


「あら、ガイドならわたしの方が先輩よ」

サティアが妙な対抗心を見せている。お前らは張り合うところが違う。


「で、サンシェイからさらに北に一日下るとブルサンだ。ここがすごいんだよ。山と海に挟まれた街でさ、海の幸が何でもある」


レンの目が輝いている。こいつ本当に食べることしか調べてないな。


「ブルサンまではどうやって行くんだ? 乗合馬車はあるのか」


「モーサスからウェランドまでは定期の馬車がある。ウェランドからサンシェイまでも、荷馬車に乗せてもらえることが多いらしい。問題はサンシェイからブルサンだな。登って下りるルートだから、馬車の便が少ない」


「歩きか」


「まあ一日だし、下りだからそんなにきつくないだろ」


こいつは楽観的だな。俺は前回の徒歩移動で疲労困憊した記憶がまだ新しい。


「そうね。あの時は大変だったわ」

サティアがしみじみと言った。


「お前は応援してただけだろ」


レンが不思議そうな顔でこちらを見た。


「えっ? 声に出してた?」


「お前、たまにそれやるよな。グラウラー討伐の時も何回かあった」


なんだと。俺は人前じゃサティアと喋る時も声に出さないようにしてたはずなのに。

もしかして、他の人の前でもやってる?

みんな俺のことを独り言の多い変なヤツだと思ってる?


「……癖だ。気にしないでくれ」

俺は努めて冷静に言った。


「ああ」

レンはそれ以上突っ込んでこなかった。こいつの「深追いしない」ところは、正直ありがたい。


とはいえこれからは気をつけないと。


「自分で気をつけてね。私にはコウくんが声に出していても、頭の中で喋っても同じ様に聞こえるから」



馬車は順調に進み、昼過ぎにはモーサスの街が見えてきた。

石造りの建物が並ぶ堅実な町だ。三度目の訪問になる。


「さて、宿だが——」


「石焼き料理の宿があるんだ! 前に聞いたことがあってさ、石の上で焼いた——」


「モーサスには教会の宿坊がある。タダだ」


レンの顔が固まった。さっきの俺みたいだ。


「は?」


「ヴェルナーさんに、途中の教会の宿坊には泊まれると言われている。使わない手はないだろう」


「お前、せっかくの旅行だぞ」


「旅行だからこそ、宿代を節約して飯に金を使うんだろ。食事は外で食えばいい」


俺の計画は合理的だ。寝るだけの場所に金をかけるより、限られた予算を食事に集中投下する。投資効率の最適化だ。


「いや待て、宿坊の飯を知ってるか?」


「質素だろうな。祈りと瞑想の場だからな。というかこの間一緒に食ったろ?」


「せっかくの旅行にあんな飯を食うなんて」


「だから外で食うって言ってるだろ。石焼き料理でも何でも好きなものを食えばいい。寝床がタダなんだから、その分飯に回せる。合理的だろ?」


レンは腕を組んで唸った。


「……まあ、確かに飯に金を回せるのは悪くない、か?」


「そういうことだ」


「でもベッドが硬かったら俺は文句言うからな」


「宿坊に文句を言う騎士団員ってどうなんだ」


「休暇中だ。騎士団は関係ねえ」



モーサスの門をくぐり、まっすぐ教会に向かった。

宿坊の手続きはあっさり終わった。ヴェルナーの名前を出すと、受付の神父は丁寧に部屋を案内してくれた。


部屋は質素だが清潔だ。石造りの壁に、木のベッドが二つ。窓からは水車の音が聞こえる。


「よし。じゃあ飯を食いに行こうぜ」

レンは窓の外を指さした。


「まだ早くないか?」


「コウ。あの水車が止まった時が勝負だ。石工たちの作業が終わったと見て、食堂が営業を開始する。そしてその後に一斉に客がやってくるんだ。営業開始した直後なら客も少ない」


「どれだけ、食う事に命かけてるんだ、オマエは……」


確かに俺も腹は減っている。前に食べた石焼きのオークステーキは確かに美味かった。

あの、石の上でジュウジュウと脂が跳ねる音と、焦げた肉の匂い。


「……行くか」


「よっしゃ!」


レンが拳を突き上げた。


外に出ると、夕暮れのモーサスの通りに石を削る音が響いていた。水車の回る低い唸りと、職人たちの掛け声。前に来た時と変わらない、堅実で地味な町の音だ。


だが、明日からは違う。

ウェランド、サンシェイ、ブルサン——行ったことのない町、知らない土地だ。


「コウ、こっちだ。この先の通りに——」


レンが早足で先を行く。

俺はうっすらと漂い始めた料理の匂いをかぎながら、その背中を追いかけた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

拙作を読んでくださりありがとうございます。

是非続きも読んでください。


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