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第49話 帰還

早朝、俺はギルドに向かった。


昨日のギルドマスターが、カウンターで待っていた。


「来たな。馬車は準備できている」


「ありがとうございます」


「これが依頼書だ。護衛として馬車に同乗し、イケリアまで商人を送り届ける。報酬は金貨1枚」


金貨1枚。悪くない。馬車代を払わずに済む上に、報酬まで貰えるとは。


「ただし、条件がある」


おっさんが俺の目を見て言った。


「道中で魔物を倒しても、討伐証明の採取は禁止だ。馬車を止めずに進むことを優先しろ」


「了解しました」


当然だ。護衛の仕事中に素材採取なんて始めたら、本末転倒だ。


「よし、商人を紹介する」



ギルドの外に、荷馬車が停まっていた。

荷台には木箱がいくつも積まれている。モーサスで加工された石製品だろう。

御者台に座っているのは、恰幅のいい中年の男だった。


「こちらが今回の護衛、コウだ」

おっさんが紹介してくれた。


「よろしくお願いします」

俺は頭を下げた。


「おお、あんたが噂のピンクの冒険者か! 俺はバルトス。よろしく頼むぜ」


バルトスは人懐っこい笑顔で手を差し出してきた。俺はその手を握り返した。


「じゃあ、頼んだぞ」

そう言って、おっさんはギルドに戻った。


俺は御者台に乗り込んだ。バルトスが手綱を取り、馬車が動き出す。


モーサスの町が、ゆっくりと後ろに遠ざかっていった。



「いやあ、助かるよ。最近この街道も物騒でね」


バルトスが話しかけてきた。


「ファングウルフですか?」


「ああ。先月なんか、仲間の馬車が襲われてな。馬を一頭やられちまった」


「それは災難でしたね」


「まったくだ。だから今回、護衛を頼めて安心だよ。しかも遠距離攻撃ができるってんだから、こっちは馬車を止めずに済む」


バルトスは上機嫌だった。


「あんた、イケリアの冒険者なんだろ? なんでモーサスにいたんだ?」


「依頼でゴルマン村に行ってました。その帰りです」


「ゴルマン村? ああ、グラウラーが出たって話か。あんたが討伐したのか?」


「パーティーで、ですけどね」


「へえ、すげえな。A級の魔物だろ? そりゃギルドマスターも頭を下げるわけだ」


バルトスは感心したように頷いた。


全く、この世界はどこも噂が回るのが早い。


「コウくん、すっかり有名人ね」


うるさい。



馬車は順調に進んだ。


昼頃に森に入った。この前はこの森でファングウルフと戦った。


俺は警戒度を一段階上げた。


森の中の道をしばらく進んだ頃、前方に動く影が見えた。


ファングウルフだ。五頭。


「出たな」


バルトスが手綱を握り直す。


「止めなくていいです。そのまま進んでください」


ファングウルフは、真っ直ぐこちらに向かって走ってくる。まだ距離が遠い。俺は左手で御者台を掴んで体を安定させ、右手を構える。


デコピン。


パンッ。


指弾がファングウルフの眉間を叩いた。一頭目、沈黙。


残りのファングウルフを、俺のいる右側に誘導したい。群れの左側の地面に向けて威嚇射撃する。


パパパンッ!


地面が爆ぜ、ファングウルフは逆方向に跳んだ。


成功だ。四頭とも俺のいる右側に流れた。


揺れる馬車から動く的全てには当てられない。俺は、馬車の右側に身体を乗り出すようにして、デコピンを連射した。数で戦う。



パンッ…パンッ…パンッ…パンッ…

2匹目…3匹目…


パンッ…パンッ…

命中。残り1。


パンッ。

命中。制圧完了。


「ふう……」

俺は御者台に座り直して、息をついた。


「すげえ……」

バルトスが呆然と呟いた。


「馬車、止まってますよ」


「お、おう。すまん」


バルトスは慌てて手綱を振り、馬車を進めた。


ファングウルフの死体と、怪我で走れないファングウルフが馬車の後方に去ってい


「あんた、本当にすげえな。すごい連射だ」


「一発必中とはいかないもので」


「いやいや、謙遜すんなよ」


バルトスは興奮した様子で、その後もずっと俺の射撃を褒め続けた。


照れくさかったが、逃げ場がなかった。



まだ夕方になる前に、イケリアの街が見えてきた。

俺は懐かしさを感じた。イケリアに暮らしたのは数日、イケリアを離れていたのも数日なのに、おかしな事だ。


馬車は門をくぐったところで止まった。


「着いたぜ。いやあ、あんたのおかげで無事に帰れたよ」


バルトスが満面の笑みで言った。


「こちらこそ、乗せていただいてありがとうございました」


「また買い付けの時には、あんたに護衛を頼みたいね。ギルドに言っておくよ」


「ありがとうございます」


俺は依頼書に完了のサインをもらって、バルトスと握手を交わし、御者台から降りた。


馬車が街の雑踏に消えていく。



まずはギルドに向かった。


「コウさん、お帰りなさい。グラウラー討伐、お疲れ様でした」


受付の女性が笑顔で迎えてくれた。


「帰りに護衛依頼も受けたので、こちらもお願いします」


俺は、先ほどサインしてもらった依頼書をカウンターに乗せた。


「はい、少々お待ちください」


しばらくして、受付の女性が戻ってきた。


「グラウラー討伐の参加報酬、金貨5枚。護衛依頼の報酬、金貨1枚。合計、金貨6枚になります」


金貨6枚がカウンターに並べられた。


「成功報酬は、教会からの支払いになりますので、ヴェルナー様にご確認ください」


「わかりました」


俺は金貨を受け取り、ギルドを出た。


「コウくん、お金持ちね」


久しぶりにサティアの声を聞いた。寝てたのか?


「馬車に乗ってるだけじゃ、ツッコミどころが無いじゃない」


おいおい。ツッコミ役は俺の方だろ……



安らぎの灯火亭に戻ってきた。


扉を開けると、ルミナがカウンターから飛び出してきた。


「コウさん! お帰りなさい!」


「ただいま」


「もう、心配したんですよ! レンさんたちが先に帰ってきて、コウさんだけ別行動だって聞いて」


「悪かったな。親父さんの依頼は一人でこなしてたんだ」


厨房から、ザケルが姿を現した。


「おお、帰ってきたかい」


「ただいま戻りました。これ、お土産です」


俺はバッグから布包みを取り出し、カウンターに置いた。


「開けてみてください」


ザケルが布を開く。


中から現れたのは、拳大のゴツゴツした木の塊。岩楠瘤だ。


「おお!」


ザケルの目が見開かれた。 彼はカウンター越しに身を乗り出し、まるで壊れ物に触れるかのように、震える指先で瘤に触れた。


「この、詰まった年輪……そして、この香り……」


ザケルは瘤を顔に近づけ、深く息を吸い込んだ。


「間違いない。最高級の岩楠瘤だ……本物だ」


「ゴルム岩山で採ってきました。運良く見つかって」


ザケルは瘤を両手で大事そうに包み込むと、ゆっくりと顔を上げ、俺を見た。その目は潤んでいた。


「ありがとう……本当に、ありがとう」


言葉を絞り出すような声だった。


「師匠は——トミトクさんは、ここのところ、包丁を握る気力すら失っていた。だが、これがあれば……この『幻の香り』があれば、あの人の魂を呼び戻せるかもしれない」


ザケルは俺の手を、瘤ごと強く握りしめた。


「コウさん、あんたは俺の恩人だ。約束通り、一ヶ月と言わず、あんたがいる限り宿代なんていらないよ!」


「いや、約束通り一ヶ月でいいですよ」


俺が苦笑すると、ザケルは子供のように顔をくしゃくしゃにして笑った。


「今すぐ、師匠に届けさせてもらうよ。……ルミナ! 店番頼むよ!」


「はい! お父さん、いってらっしゃい!」


ザケルは岩楠瘤を宝物のように抱え、エプロン姿のまま店を飛び出していった。


「コウさん、すごいです! 父があんなに喜んでるの、久しぶりに見ました」


ルミナが目を輝かせている。


「そういえば、レンさんから預かり物があります。お部屋に届けておきましたよ」


ああ、そうだった。グラウラーの素材を預けていたんだった。すっかり忘れていた。


「ありがとう。部屋に戻るよ」


「はい! お風呂、沸いてますよ! コウさんが今日帰ってくると思ったから、準備しておきました!」



部屋に戻ると、隅に布包みが置いてあった。

開けてみる。土属性の魔石と、グラウラーの爪が八本。ちゃんと届いていた。

これは、やっぱりギルドで買い取ってもらうのがいいんだろうな。


俺は荷物を置いて、風呂に向かった。



湯船に浸かりながら、この数日間を振り返る。


グラウラー討伐、岩山登り、野宿、ゴブリン戦、長距離歩行、護衛依頼。


濃い数日だった。


「コウくん、冒険者として成長したわね」


そうか?


「うん。火も起こせるようになったし、パーティーでの戦闘も経験したし」


まあ、確かに色々あった。


俺は湯船で体を伸ばし、疲れを癒した。



風呂から上がり、食堂に向かった。


今夜のメニューは、オーク肉の煮込みシチューとパン。

ザケルの料理は、やはり美味い。モーサスの石焼き料理も良かったが、ここの味付けの方が俺の好みだ。


食事を終えて食堂でそのままのんびりしていた時、ルミナが声をかけてきた。


「コウさん、教会からお使いの方が来てます」


教会?


食堂の入り口に、白い法衣を着た若い男が立っていた。


「コウ様でいらっしゃいますか? ヴェルナー様からの伝言をお預かりしております」


「はい」


「明日の午前中、教会までお越しいただきたいとのことです。グラウラー討伐の件で、お話があるそうです」


報酬の受け取りだな。金貨50枚。


「わかりました。明日の午前中に伺います」


「かしこまりました。お待ちしております」


使者は一礼して去っていった。


「コウくん、明日は大金持ちね」


まあな。


俺は部屋に戻り、ベッドに潜り込んだ。


明日はヴェルナーとの面会。それから、レンたちとの打ち上げだ。


楽しみだな。


そう思いながら、俺は目を閉じた。


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