第46話 初めての野宿
岩山を降りた時には、再び足に力が入らなくなっていた。
街道まで出てきたが、既に午後になっている。
ゴルマン村に来る途中に宿泊したモーサスまでは徒歩で1日かかる。途中で野宿が確定だ。ゴルマン村に戻るなら、夕方には戻れる。
しかし、今朝送り出してもらった村に帰るのは、どうにも気が向かない。そもそもザケルの依頼を受けた時には、野宿を前提にしていたはずだ。
野宿上等! 前進あるのみ!
「コウくん、がんばれー」
サティアが、無責任な応援をしてくれるのが、うっとうしい。
俺はモーサスの町に向けて歩いた。
疲れたら休んで、回復したらまた歩き始める。
しかし歩き続けられる時間は、どんどん短くなっていく。これは、明日のために早めに休んだ方がいいかもしれない。次に休めそうな場所があったらそこで野宿しよう。
小さな川にかけられた橋の袂に、ちょっとしたスペースがあった。おそらく他の旅人や商人が休憩に使ったことのあるスペースなのだろう。焚き火の跡もある。
ちょうど「守り石」も設置されている。
セリアが「魔物を遠ざける魔法が組み込まれている」と言っていたし、ここなら安全だろう。
俺は荷物を下ろし、焚き火跡のそばにあった石に腰掛けた。
「よし、火を起こすか」
野宿と言えば焚き火。たしかそう義務教育で習った気がする。
着火材として枯れ葉や、よくわからない植物の繊維などを集めた。
「ワークマン」で買った火打石を取り出す。
使い方は習った。カチカチと打ち合わせ、火花を着火材に落とす。
カチッ。カチッ。
火花は出る。着火材の上に小さな火が落ちることもある。期待して見ているとすぐに消えていく。
何度やっても、着火材の上から燃え広がらない。
「……くそっ」
湿気ているのか、俺のやり方が悪いのか。
三十分ほど格闘したが、結局、火は点かなかった。
くそっ、こんなことならカッコつけずに火の魔道具を買えばよかった。なんか火打ち石にロマンを感じてしまったんだよな。
結局、火はあきらめた。
火がつかないなら、この冷たい石の上に座っている意味はない。俺は防水布を地面に敷き、その上に寝袋を展開した。
夕食は、冷たいままの干し肉と、堅パン。
硬い肉を噛み締めながら、夜の街道を見つめる。
味気ない。そして、寂しい。
昨夜の村での宴や、行きの馬車での賑やかな会話が思い出される。
これがソロの冒険者ってやつか。
「何、浸ってるのよ」
「邪魔するな。今、冒険者としてのレベルアップをしようとしてたのに」
「えー? そうなの? 邪魔してごめんね」
「まあいいか。…サティアは野営について詳しいのか?」
俺はあまり期待せずに聞いてみた。
「ええ。なんでも聞いて」
「本当かよ。じゃあ、さっきは何で火がつかなかったんだ?」
「そうね……最近は火打ち石じゃ火はつかなくなってるの……」
サティアの言葉は、想定外のものだった。
二箇所つっこみどころがある。
まず、火打ち石で火が点かないなら、なんで火打ち石なんてものが売られてるんだ。
そして「最近は」ってなんだ。
「でも、コウくんなら本当は点けられるのよ」
またわけのわからないことを言い始めた。
「簡単に言うとね、火打ち石で火を点けるのって、確率が低いできごとなのよ。でもコウくんは確率が低いことも「引き寄せ」ることができるじゃない」
「引き寄せじゃない。今まで起きたことだって全部物理現象で説明してきただろ。単に確率が低いことが偶然に……そうか……確率の問題か」
俺は今までのことを振り返ってみた。
水を飲もうとしたら「偶然」木が倒れたこと。グレートボアに「偶然」岩が倒れてきたこと。「偶然」金貨がころがってきたこと。「偶然」ガス爆発が起きて草をなぎはらったこと。「偶然」身を隠した場所で新しい服が買えたこと…
数えれば切りがない。
全ては「偶然」、可能性が低いことが起きただけのこと。物理法則がねじ曲がったわけじゃない。
そして俺は…日本にいた時から、確率の低いことが起きやすい。
…良し悪しは別にして…
サティアがいう「引き寄せ」ってのは、そういうことか。
奇跡とか宇宙なんたらを引き寄せるんじゃなくて、確率の低いことを引き寄せるってことなんだな。
0を1にするんじゃなくて、0.1を1にするってことか。
『引き寄せ=乗算』
俺の中で謎が一つ言語化された。
よし、この低確率の王である俺が、火打ち石で火をつけてやろうじゃないか!
俺は、一つの気づきを得たことで、ちょっとノリがおかしくなっていた。
「コウくん、まず——」
「わかっている。ビジュアライゼーションだろ」
「うわっ、コウくんが成長してる」
うるさい。茶化すな。
俺は焚き火の跡をにらみつけ、そこに火が燃えている様子をイメージした。《炎のゆらめき、顔に感じる熱。パチパチという音》
そしてもう一度、焚き火跡の傍に腰を下ろし、火打ち石を取り出した。
着火材に向けて、火打ち石を叩く。
「ハッ!」
火花が散って、着火材に小さな火が落ちた。
火はそのまま光っている。
消えない。
少しずつ大きくなって…炎になった。
「よし!」
俺は近くに用意していた小枝などを加え、火を燃え移らせる。
やがて木の枝も安定して燃え始め、「焚き火」といえるくらいに成長した。
暖かい。そしておもしろい。
植物に含まれる炭素が酸素と結合して熱エネルギーと光エネルギーを放出しているだけだが、その反応がどう伝わっていくか、炎がどう大きくなるかはわからない。それこそ「偶然」だ。
俺は「偶然」が形作る炎のゆらめきに見入っていた。
「ふふふっ」
しばらく黙っていたサティアが、笑い出した。
「なんだよ」
「『ハッ!』だって。コウくん火打ち石を打つ時に『ハッ!』って言ったわよ」
そういえば言った気がする。
絶対一発でつけてやるって気合が入ってたからな。
……俺って気合を入れる時には「ハッ」っていう癖があるのかな……何のアニメの影響だ?
「いいじゃない。コウくんらしくて。きっと子どもたちも真似するわ」
うるさい。
その後、俺は、川から汲んできた水を沸かすために、木の枝を組んだり、火傷をしそうになったりした。
そして、ふーふー言いながら熱い水を飲んだ。
本当はお茶とか飲みたいところだけど、用意してなかったので、ただのお湯だ。
雰囲気が大事なんだ。こういうのは。
それから寝袋に入った。
焚き火はまだ消えていないが、朝まではもたないだろう。
寝袋の近くに、これまたワークマンで買わされた、光魔法のランタンを置いておく。
真っ暗だと何かあった時に不安なので、小さな光をともしておいた。
寝袋で仰向けになって空を見上げる。
すごい星だ!
「満天の星」とはこういうのをいうのだろう。
日本にいたころ、冬になると星が多く見えると感じていたが、それの100倍くらいの数の星が見えている。
ここはどこなんだろう?
視界いっぱいに見えている星々の中に、地球のある太陽もふくまれているんだろうか?
そんなことを考えながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
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