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第44話 再会の約束

俺はその場に座り込んだ。魔力の吸収と衝撃波を連続して行った疲れで動けない。

意識が朦朧とする。

身体は疲れていないはずなのに、力がはいらない。


「演技じゃなかったのか?」


ガルドが尋ねた。


俺は答えを喋る気力がなかった。


「コウが回復するまで、俺達も休憩だ」


「おつかれさま。コウくん」

サティアの声が優しく響く。



しばらく休むと、俺は動けるまでに回復した。でも今は魔力を吸収しろと言われても拒否したい気分だ。


グラウラーの首は討伐の証明として、ガルドが村に持ち帰ることにした。


「コウへの依頼の討伐証明は、特に必要ないぞ」


ガルドが血まみれの首を布で包みながら言った。


「そもそもギルドへの依頼は『討伐への参加』だ。教会が参加を確認したと報告すれば、依頼達成だ」


なるほど。つまり成功報酬の金貨50枚は、ヴェルナーから直接もらうことになるわけか。

ギルド経由ではなく、教会からの支払い。まあ、金が入るならどちらでも構わない。


俺は、横たわるグラウラーの死体に背を向け、村に向けて歩きだした。


「おいコウ、素材を取って帰らないのか?」


レンが声をかけてきた。


「え?」


なぜ俺に聞くんだ?


「俺達は、教会の任務で来ている。素材を持って帰っても、教会に渡すだけで俺たちの懐には入らねえ。でもオマエの場合は、自分の戦利品として売ることもできるじゃないか」



なるほど。そういうことか。だが、俺は今まで、討伐証明部位の回収以外は全てギルドにまかせていた。オークの時もグレートボアの時もそうだ。そもそも、解体なんてやったことがない。


どうする? ここで諦めて帰るか? A級魔物の素材なら、それなりの金になるはずだが。


俺が悩んで立ち尽くしていると、レンがじれてきた。


「なんだよ、A級の素材なんて滅多に手に入らねえぞ。……わかったよ、俺が手伝ってやる。取ってこうぜ」


「……わかった。ありがとう」


レンの好意に甘えることにした。


「じゃあ俺たちは先に村に戻り、村長に報告しておく」


ガルドがグラウラーの首を持って去った。セリアもそれに続く。


森の中に、俺とレン、そして首の無いグラウラーの死体が残された。



「どうせわかることだから言うけど」


俺はレンに告白した。

「俺は解体をしたことがない。今までは全部ギルド任せだ」


「そんなことだろうと思ったよ」

レンは特に驚いた様子もなく、腰から解体用のナイフを取り出した。


「いいか、まずは魔石だ。魔物の心臓の近くにあることが多い。刃を入れるときは、筋肉のラインを意識しろ」


レンが、講義しながら見本を見せる。器用に皮を剥ぎ、肉を切り分けていく。俺も自分のナイフを取り出して、レンの指示通りに刃を入れる。


「コウくん、なかなか様になってるわよ」


サティアが脳内で囃し立てる。


うるさい。集中させろ。


生温かい肉の感触。独特の鉄錆のような臭い。胃の奥から酸っぱいものがこみ上げてくるが、ギリギリで抑え込む。


ただ、救いだったのは、首がないことだ。グラウラーは猿型で、顔つきもどこか人間に似ていると聞いていた。もしあの死んだ顔と目が合いながらの作業だったら、間違いなく吐いていたと思う。首がないことで、これは単なる「肉塊」としての作業対象に見える。人型の魔物であることの忌避感が、幾分か薄れていた。


腹を切り開き、内臓をかき分けて魔石を取り出した。


「土属性の魔石だ。結構デカいな」

茶色がかった半透明のゴルフボールくらいの石だ。


「きれいだけど、あんまり私好みじゃないなあ」


聞いてない。あげるとも言ってない。


「次は爪だ。こいつの爪は硬くて鋭いから、武器の素材として高く売れる。根元から関節を外すように……こうだ」


レンの手際を真似て、俺も爪を切り離していく。


「あ、そこは力を入れすぎ。もっと優しく。関節の隙間を探るんだ」


言われた通りに刃先をこじ入れると、ブチリと嫌な音を立てて筋が切れた。


「コウくん、優しくだって。優しくね」


だから黙れ。



最終的に、土属性の魔石一つと、鋭い爪を8本採取することができた。毛皮は戦闘のダメージでボロボロになっていたため、諦めた。



村に戻ると、宴会の準備が始まっていた。


広場に長テーブルが並べられ、村人たちが料理を運んでいる。


「これは?」


「弔いと祝いだ」


村長が答えた。


「亡くなった者を弔う気持ちと、災厄が去った祝い。両方の意味がある」


村人たちの表情は複雑だった。悲しみと安堵が入り混じっている。


俺たちもご相伴にあずかり、もう一泊することになった。


宴会の料理は、素朴だが温かみがあった。教会の食事とは大違いだ。

焼いた羊肉、茹でた野菜、焼きたてのパン。どれも丁寧に作られている。


「コウ、飲め」


ガルドがエールの入ったジョッキを差し出してきた。


「ありがとうございます」


俺はジョッキを受け取り、一口飲んだ。

苦い。だが、悪くない。


「お前の腕がなければ、もっと被害が出ていたかもしれん」


ガルドが静かに言った。


「礼を言う」


「いえ、皆さんのおかげです」


「謙遜するな。あの一撃は見事だった」


上司的な人間にストレートに褒められて、俺は意外なほど嬉しかった。



翌朝、俺たちは馬車に乗り込んだ。


村人たちが見送りに出てきている。村長が深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございました」


馬車が動き出す。


俺は窓からゴルム岩山を見上げた。

灰色の岩肌が、朝日を浴びて白く輝いている。


「隊長、あの辺りで降ろしてもらえますか」


俺は岩山の岩肌がよく見える場所を指差した。


「わかった」


馬車が停まり、俺は荷物を持って降りた。


「レン。戦利品は『安らぎの灯火亭』に預けておいてくれ」


馬車に残した布包を指さして言う。


「あれが打ち上げの費用になるから無くすなよ」


「おう! 任せとけ」

レンが胸を叩く。


「コウ、気をつけろよ」

ガルドが言う。


「コウさん、神のご加護を」

セリアが胸の前で手を合わせて言う。


「みんなも気をつけて」


馬車が走り去っていく。

俺は手を振って見送った。



さて、二つ目の依頼の開始だ。


岩楠瘤を見つけて、宿屋の主人——ザケルに届ける。

そうすれば、一ヶ月の宿泊無料が手に入る。


「今回はちゃんとビジュアライゼーションしなさいよ。昨日みたいにコウくんの作戦が一発でうまくいくとは限らないんだから」


サティアがいきなり釘を刺してくる。


「はいはい」


たしか、うまくいったところをイメージすればいいんだよな。


とはいえ、何をイメージすればいい。


岩楠瘤の実物は見たことがない。絵で見ただけだ。それに、成功報酬である「一ヶ月無料宿泊」ってのも、具体的な映像としてイメージしにくい。

ザケルの師匠がやる気を取り戻しているシーンか? いや、そもそもその師匠に会ったこともない。


「レンくんたちと打ち上げで盛り上がっているところでいいんじゃない? それは無事に帰れたってことだし」


そうか。それならイメージしやすい。


安らぎの灯火亭で、四人で乾杯しているところでも想像するか。


ガルドとレンはエールだな。昨夜もガブガブ飲んでいた。

セリアは昨夜も飲んでなかったし、ぶどうジュースってことにしておくか。

俺は……まあ、エールでいいだろう。


四人で乾杯。ジョッキがぶつかる音。テーブルにはなんだかうまそうなスープ。

レンが何か馬鹿なことを言って、ガルドに小突かれる。セリアが困ったように微笑む。俺はそれを見ながら、エールを飲む。


うん、悪くないイメージだ。


俺はそんな能天気な想像をしながら、岩山に続く坂を登っていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

拙作を読んでくださりありがとうございます。

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