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第34話 弾薬の補充

翌朝、俺は教会へ向かった。

目的は弾薬の補給だ。


昨日の戦闘で、小粒6個と中粒1個を消費した。

試射でも1個使ったので、残りは小粒3個のみ。これでは心もとない。


赤いシャツと白いズボンで街を歩く。

すれ違う人々は、俺に特別な視線を向けない。子供たちも駆け寄ってこない。


「目立たないって、こんなに楽なのか……」


「寂しい?」


「全然」


ピンクの作業着を着ていないだけで、こうも違うとは。

俺はただの一般人として、平穏に街を歩いていた。


教会に到着し、聖品店に入る。


「いらっしゃいませ」


店員が営業スマイルで出迎える。

「また来たのか」という視線はない。赤白の服では、俺が誰だか分からないらしい。


「飾り用を1つと、携帯用を10個ください」


「かしこまりました」


店員がてきぱきとお守りを包む。

飾り用が銀貨5枚、携帯用が銅貨5枚×10で銀貨5枚。合計銀貨10枚。


何の問題もなく、スムーズに購入完了。


「ありがとうございました。神のご加護がありますように」


「どうも」


俺はお守りを受け取り、聖品店を出た。


さて、ここからが本番だ。


教会の床から、無属性の魔力が溢れ出ている。

前回来た時は、体が勝手に吸収してしまって苦しんだ。だが、今は違う。吸収と遮断のテクニックを身につけた。


俺は聖堂の通路を歩きながら、意識を集中させた。

必要な分だけ、吸い上げる。


……来た。

体内に、圧力が満ちていく。


ここで止める。「ただの石」と思い込む。

遮断成功。これ以上は吸収しない。


「上手くなったわね、コウくん」


練習の成果だ。


体内に溜めた魔力は、後で空になった魔料石に充填する。教会で吸収して、宿で充填。これを繰り返せば、実質的に無限に弾薬を確保できる。


「教会から武器の支給を受けるなんて騎士様みたいね」


いや、教会の配給を受ける貧民だ。


「貧民はお守りをあんなに買わないわよ」


一応言っておくが、これは教会が運営する魔道具が、整備不良か設計ミスかで垂れ流しているバグだからな。俺が技術的にそれを遮断しているが、本来は体に悪影響を与える公害なんだ。


「さすが屁理屈は得意ね」


屁理屈で結構だ。


俺は体内に魔力を溜め込んだまま、教会の出口に向かおうとした。

そのとき——


「おや、コウ殿ではないですか?」


聞き覚えのある声。

振り返ると、白い法衣を纏ったヴェルナーが立っていた。


「服装が変わっているから騙されるところでした。今日はお忍びですか?」


別に騙そうとは思ってない。


「洗濯中なんです。これは着替えで」


「なるほど。しかし、お会いできて良かった。昨日の件、聞きましたよ」


「昨日の件?」


「オークボスと17匹のオークを単独で殲滅したとか。大した腕前ですね」


……もう伝わってるのか。いや当然か。ヴェルナーは俺を「見守って」いるんだもんな。


「たまたま上手くいっただけです」


「ご謙遜を。いったい、どうやったのですか?」


ヴェルナーの目が、好奇心で光っている。

体内の魔力が圧迫感を訴えているが、ここで逃げるわけにもいかない。


「……衝撃波で、河原の砂利を弾きました」


「……なるほど。そのような使い方が。これは勉強になります」


ヴェルナーは顎に手を当てて、感心したように頷いた。


「しかし、あの場所には無属性の魔力は湧いていません。どこから魔力を調達されたのですか?」


「それは……」


「ああ、なるほど」


ヴェルナーが、俺の手元 —聖品店の袋— に視線を落とした。


「あなたは先日も、お守りを大量に購入されていましたね。きっと、神のご加護があったのでしょう」


ヴェルナーは俺が、お守りに使われている無属性魔石を魔力源として利用した事を知っている。そもそもそれを唆したのはコイツだったような気がする。


「……まあ、そういうことにしておいてください」


「でも、まさか教会の床から魔力を盗んでいるとは気づいてないわね」

サティアが揶揄うように言う。


盗みじゃないって言ってるだろ。


「神のご加護で魔物を退けるとは、まさに教会の理想とする姿。ぜひ騎士団に欲しい戦力ですが……」


「いえ、ご勘弁を」


俺は即座に断った。

組織に属するのは御免だ。自由に動けなくなる。


「わかっています。無理強いはしません」


ヴェルナーは微笑んだ。だが、その目は笑っていない。


「ただ、その力……近いうちに、教会から協力をお願いする案件があるかもしれません。その時には、よろしくお願いしますよ」


「ギルドを通しての依頼なら、検討します」


「いいでしょう。その時には、指名依頼を発注させていただきます」


「ヴェルナー様、お時間が」

後ろから、部下らしき人物が声をかけた。


「おっと、失礼。では、コウ殿。また会いましょう」


ヴェルナーは軽く会釈して、足早に去っていった。


「……教会からの依頼って何かしらね。怖いわ」


同感だ。


俺は教会を出て、宿へと戻った。



宿に戻ると、ルミナが洗濯済みの作業着を持ってきてくれた。


「コウさん、お待たせしました! 綺麗になりましたよ」


「ありがとう」


ピンクの作業着を受け取り、部屋へ上がる。


まずは、空になった魔料石への充填だ。


ポケットから、昨日使い切った中粒の魔料石を取り出す。

透明になった結晶。ここに、体内の魔力を流し込む。


ゲップを指先から押し出すイメージ。


透明だった結晶が、中心に小さな白い輝きが灯り、それが徐々に大きくなって縁まで届くと、最後に『チッ』という微かな音がした。フルチャージの合図だ。


「お、成功だ」

持って帰った魔力の半分が無くなった気がする。


続けて小粒7個すべてに魔力を充填。

体内にはまだ少し魔力が残っているが、さほど気にならない。以前よりも耐えられるようになっている。慣れてきたのかもしれない。


続いて、新たに購入したお守りを分解する。

飾り用から中粒を1個、携帯用から小粒を10個。


これで手持ちは、小粒20個、中粒2個。


俺は小さな袋を取り出し、小粒の魔料石を入れた。

袋ごと、ピンクの上着の左ポケットに収納。使ったら袋からポケットの中に落としておけば、使用済みと未使用を区別できる。


中粒は右の胸ポケットに別にしておく。


「これで効率的に補充ができる」


「几帳面ね、コウくん」


「弾薬管理は基本だ」


作業着に着替え、鏡を見る。

やはり、ピンクの方がしっくりくる。……いや、気の迷いだ。


さて、課題を整理しよう。


一つ目。体内の魔力を分割して放出できるようになること。

今は「全部出す」か「出さない」かの二択だ。これでは使い勝手が悪い。


二つ目。ショットガンのような衝撃波を撃てるようになること。

昨日の「河原のクレイモア」は、地形を利用した即興だった。地形に頼らず、掌から直接散弾を撃てれば、戦術の幅が広がる。


三つ目。魔法を射出した後も感覚が繋がっていることを利用する方法を見つけること。

あの「手応え」のフィードバック。何かに使えるはずだ。


「自主練が必要だな」


「街の外に出るの?」


「ああ。体内に残ってる魔力も放出したいし」



まだ行ったことのない方角——東の岩山を目指すことにした。

人気がなければ、思い切り撃てる。


東門を出て、しばらく歩く。

街道を外れ、岩がちな丘陵地帯に入った。


ゴツゴツとした岩が点在する荒れ地。

人の気配はない。訓練には最適だ。


「さて、まずは——」


俺が右手を構えた、その時。


足元の地面が、微かに震えた。


「……?」


地震か?

いや、違う。振動が断続的だ。何かが近づいてくる。


直観が、チクチクと警告を発している。

地面の小石が、一定のリズムで跳ねている。……周期的な振動。推定重量、数トンクラス。単なる野生動物じゃない

「コウくん、何か来るわ。大きいの」


サティアの声が緊張している。


岩の向こうから、土煙が上がった。


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