表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/32

第30話 吸って、吐いて

ヴェルナーの執務室を出た俺は、案内の神官に向かって切迫した声を出した。

「すまない、トイレはどこだ」


「は? あ、ええと、この廊下を右に……」


「ありがとう!」


俺は神官の説明を最後まで聞かず、廊下を駆け出した。

体内の圧力が限界に達している。このままでは、神聖な教会の廊下で「粗相」をしてしまう。


トイレを見つけ、飛び込んだ。

よかった、窓がある!


俺は窓を開け、空に向かって右手を突き出した。


「ハッ!」


雲一つない青空に衝撃波が放たれた。


窓の外の空気が一瞬だけ歪み、そして静寂が戻る。


「はぁ……」


体内の圧力が抜けていく。この解放感。まさに排泄後の爽快感だ。


「コウくん……教会のトイレでそれやる?」

サティアが呆れた声を出す。


「生理現象だ。文句があるなら神に言え」


知るか。俺は悪くない。この教会の設計が悪いんだ。こんなに無属性魔力を充満させておいて、トイレに窓をつけるとは、…ある意味で良心的な設計だ。


トイレを出て、1階へと降りる。

ヴェルナーが言っていた聖品店は、大聖堂の入り口近くにあった。


店内には様々なサイズのお守りが並んでいる。壁掛け用の大きなものから、首から下げる携帯用まで。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

店員が近づいてくる。俺は棚を眺めながら答えた。


「お守りを。飾り用と携帯用を」

「かしこまりました。飾り用でしたら、こちらの壁掛けタイプが人気ですよ。銀貨5枚になります」


店員が示したのは、手のひらサイズの円形のお守りだ。中央に透明な粒——無属性の魔石が埋め込まれている。


「それを1つ。あと、携帯用の小さいのを10個」


「携帯用は銅貨5枚ですので、10個で銀貨5枚になりますね。合計で銀貨10枚です」


俺は代金を支払い、お守りを受け取った。


後で無属性の魔石を分離する。これで無属性魔力のチャージ手段は確保できた。


……だが、問題がある。

1階はやはり漂う無属性魔力の密度が濃い。なるべく吸い込まないように気を張っているつもりだが、また体内の圧力が高まってきている。


「コウくん、顔色悪いわよ」


わかってる。撤退だ


俺は足早に教会を後にした。

教会の門を出た瞬間、体が軽くなった。

普通の人間には感じられない差かもしれないが、俺の体は敏感に反応している。


「はぁ……やっと楽になった」


「コウくん、勝手に魔力吸収する癖、直したほうがいいわよ」

サティアが呆れたように言う。


そんなこと言われても好きでやっているわけじゃない。


「ちょうど無属性の魔石も手に入ったし、魔力の出し入れの練習をするといいわ。

吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー、って感じにね」


え、そんな練習なの?

でも、それができると便利そう…はっ!


それができるなら、魔料石の魔力を使い切ったら、教会でいっぱいに吸収して、空の魔料石に充填できるってことじゃないか! 非常に経済的だ。


俺は、お守りを分解するために、急いで宿に帰った。



宿に着くと、ルミナが目を輝かせて駆け寄ってきた。

「コウさん! お帰りなさい! 講義はどうでしたか!?」

「……講義?」

「英雄の極意の講義です! 教会の人たちに教えてきたんですよね!?」

ああ、そういえばそんな嘘をついて出て行ったんだった。

「ああ、まあ……滞りなく終わった」

「すごい! 教会の人たちも感動したんじゃないですか!?」

「……一部のマニアにはウケたよ。専門的すぎたかもしれん」

嘘は言っていない。ヴェルナーの興味は確実にひいていた。

「いつか私にも教えてくださいね! 英雄の極意!」

「……機会があればな」

この嘘、どこまで引っ張ることになるんだ。

「それより、朝食の残りはあるか? 食べそこねたんだ」

「あ、はい! すぐ用意します!」

ルミナは嬉しそうに厨房へ駆けていった。

「悪いが、部屋に持ってきてくれ」

俺はルミナに聞こえるように言うと、自分の部屋に戻った。


小さなデスクの上に、鞄からお守りを取り出した。 まずは携帯用を1つ、分解してみよう。

ペンチで外枠を慎重に外していく。 お守りの構造は単純だった。木製の外枠、中央に魔法陣が刻まれた金属板、そしてその中心に埋め込まれた米粒大の透明な石。

「これが無属性の魔料石か」

小さい。本当に小さい。だが、確かにエネルギーを感じる。 教会で体に溜まったあの圧力と、同じ性質のものだ。

「コウさん、お待たせしまし……何してるんですか?」

ルミナが朝食を持ってきた。 テーブルの上には、分解されたお守りの残骸が散らばっている。

「ああ、ちょっとした工作だ。気にするな」

「お守りを……壊してるんですか?」

ルミナの目が点になっている。 まあ、普通の人から見れば、買ったばかりのお守りを分解するのは奇行だろう。

「中身が欲しかったんだ。外側は要らない」

「は、はあ……」

ルミナは理解できないという顔をしながらも、朝食を置いてくれた。 パンとスープ、それに目玉焼き。シンプルだが、空腹には十分だ。

「ありがとう。助かる」

「いえ! ゆっくり食べてくださいね」

ルミナが出ていった後、俺は魔石を取り出すために指で摘んだ。


「うっ…」


身体の中に魔力が入ってきた。

魔石の輝きが消えた。


「ほら、吸ったら吐いてー」

サティアが楽しそうだ。こうなることがわかっていたな。


俺はとりあえず、魔力のなくなった空の魔料石をお守りから外して、手のひらに載せた。

本当に小さい。そして中にあった魔力も少なかった。

昨夜、いっぱいいっぱいになったのを100とすれば、この魔石の魔力量は1程度だろう。


とりあえず、魔力を出してみるか。

俺は衝撃波を放つ右手に、魔料石を持ち替えた。


「コウくん。衝撃波を撃つのとは違うわよ。あれは魔力が変換された魔法だから、魔料石に吸収させることはできないわ」


じゃあ、どうすればいいんだ?


「吸った時と逆よ。すぅーって吸ったんなら、はぁーって吐いて」


はあ?

そんなんでわかるか!

もっとわかりやすく!


「もう! …今、身体のなかにある魔力て、どこにどんな風に感じる?」


腹の中にモヤッと、…ガスが溜まっているみたいな感じだ。


「それをぐぅって、魔石を持っている手に押し戻すのよ」


ぐぅっってのがわからん。


「もう! イメージよイメージ。色々やってみて」


俺はとりあえず、腹式呼吸をしてみた。腹を出したり引っ込めたり。


「うん、魔力が動いてはいるわね。でももっとぐぅっと手まで持ってこなきゃ」


俺はゲップを吐き出す感じに腹を―横隔膜を動かした。


「あ、いい感じ。今魔力がどこにあるかわかる?」


モヤッとした感じは腹から胸に移動している。


「そのモヤッとした感じを手まで移動させるの。イメージして」


俺は一度空気を吸い込んで息を止め、腹に力を入れて身体の中の圧力を高めた。

胴体から腕に魔力を追い出すイメージ。


「ふんっ」


モヤッとした圧力が腕を通って手から抜けた。

魔石に輝きが戻った。


「うまい。うまい」

サティアが子供をあやすノリなのがムカつく。


「ほら、今は触っているのに、魔力を吸収してないわよ」


確かに。

何が違う? 腹に力を入れているかどうかか?


腹の力を抜いてみた。


魔力の吸収は起こらない。


力を抜いて息を吐いた。


また魔力を吸収した。


わからん!


もう一度腹に力を入れた。


しかし魔力は体内に残ったままだ。


「だから、イメージよ。モヤッという感覚が出たり入ったりするのをイメージして」



それから数十分。せっかくルミナが持ってきてくれた食事が冷めてしまった。

だが、俺はつかんだ。

要はゲップを腕から出す感覚だ。

やったことないけどな。


そして吸収するのは簡単、そこに魔力があると思えば吸収する。

吸収せずに触るのは難しい、そこに魔力なんて無い、ただの石だと自分に言い聞かせて、興味なさげな目で魔石を見ている間は、触っても吸収しないことがわかった。


全く持って物理的では無い。まるでエセ量子論だ。

納得はいかないが、うまくいくようにはなった。



俺は冷めたスープに浸してパンを食べ、目玉焼きをいただいた。

そして、残りのお守りからも無事魔石を取り外し、小袋に詰め込んだ。

小粒十個と中粒一つ。これが今の俺の残弾数だ。


小粒の威力がどれくらいかによって、俺の戦闘力が決まる。

さて、次はギルドだ。昨日の依頼の報酬を受け取らなければ。

そして、この魔法でこなせる討伐依頼を受けるんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ここで第一章は終わりです。第二章ではコウが手に入れた魔法を使った戦闘が始まります。


この先も読んでみたい。と思ってくれた方。

ぜひ、『ブックマーク』をお願いします。


面白い。面白そう。面白いかも。と思ってくれた方。

ぜひ、『評価』をお願いします。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ