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第3話 スピリチュアルだと?!

「……は?」


時が止まった。

俺の脳内のファンファーレが、不快な音を立てて停止する。


「……いま、なんて?」


「だ・か・ら、『スピリチュアル』! 引き寄せの法則とか、ビジュアライゼーションとか、そういう目に見えない力を使って現実を動かす能力よ。素敵でしょ?」


サティアは「ジャジャーン」という効果音がつきそうなポーズを決めている。

俺は数秒間、その笑顔を凝視し、

そして、自分の中で何かが「プツン」と切れる音を聞いた。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!」


俺の怒号が白い空間に反響する。

丁寧語だとか、処世術だとか、そんなものはもうどうでもいい。


「なんで異世界に来てまで、そんな胡散臭いもんに関わらなきゃいけないんだよ! 俺が一番嫌いな言葉を知ってるか!? 一位が『好転反応』で、二位が『宇宙の采配』、三位が『スピリチュアル』だ!」


「あら、奇遇ね。全部あなたの能力に関係ある言葉よ」


「いらねえよ! 返品だ! クーリングオフさせろ! 俺はもっとこう、手から火を出したり、空を飛んだりしたいんだよ! 物理的に分かりやすい力が欲しいんだ!」


俺は地団駄を踏んだ。

母さんと姉さんの顔が脳裏をよぎる。

『波動が足りない』『感謝が足りない』『宇宙銀行から引き落としが……』

あのわけのわからない説教の日々が、異世界でも続く?

冗談じゃない。それは転生じゃなくて、ただの地獄の延長戦だ。


「落ち着いて、コウ君。あなたはまだ、自分の力の凄さに気づいていないだけよ」


サティアは俺の剣幕にも動じず、涼しい顔で宙に浮いている。


「魔法なんて、この世界じゃ誰でも使えるわよ? でも、あなたの力は『宇宙そのもの』と対話する力なの」


「出たよ、その『宇宙と対話』って言い回し。詐欺師の手口その1だ」


「詐欺じゃないわよ。証拠に、そのカエル。あれもあなたの能力が引き寄せたのよ」


「……あ?」


俺は手に持ったカエルの串焼きに視線をやった。

確かに、あれは不可解だった。

唐揚げをイメージしたら、焼かれたカエルが落ちてきた。

タイミングが良すぎる。


「説明してあげるわ。あの時、コウ君は脳内で『唐揚げ』をリアルにイメージしたわね」


なぜ知ってる? 脳内を監視してたのかよ。


「そして、あなたは極限の空腹だった。つまりイメージする力に真剣さがあったわ。揚げたての衣、ジューシーな肉、味の記憶……」


サティアが指を振ると、空中にウィンドウのようなものが現れた。

そこには、RPGのステータス画面のような文字が浮かんでいる。




【ビジュアライゼーション:Lv1】(アクティブスキル)

【引き寄せ:Lv1】(パッシブスキル)




「あなたが無意識に使ったのが、この『ビジュアライゼーション』。鮮明なイメージを宇宙にオーダーするスキルよ。そして、あなたの『引き寄せ』が、そのオーダーにあったものを呼び寄せたの。あなたの『鶏肉が食べたい』というオーダーと、『焼かれた状態で持ってきてほしい』という都合のいい願望が、焼きカエルという形で実現したのよ」


サティアは得意げに胸を張る。


「実際に起こったことといえば、たまたま上空を飛んでいた鳥が、手に入れたばかりのカエルを、うっかり落としちゃった。しかもそのカエルは、誰かが焚き火で焼いたものを鳥が奪ったものだった……という奇跡的な因果の連鎖が起きたのよ」


彼女の説明を聞いて、俺は鼻で笑った。


「ばっかばかしい」


「え?」


「それが能力? 笑わせるなよ。そんなのただの『偶然』だろ」


俺は理系の端くれとして、そのフワッとした解説を真っ向から否定する。


「いいか、サティアさん。鳥が獲物を落とす確率はゼロじゃない。たまたま俺がカエルを食いたいと思ったタイミングと、鳥が獲物を落とすタイミングが重なった。それだけだ。確率論的な偏りに過ぎない」


「コウ君……」


「それを『引き寄せ』だなんて仰々しい名前をつけて、さも自分の手柄みたいに言うのは、人間の認知バイアスだ。俺は騙されないぞ。これはただの物理現象だ。重力と、鳥の握力不足と、俺の座標が重なっただけの、物理的な現象だ」


俺は早口でまくし立てた。

認めたくない。

自分の人生が、またあの「目に見えないあやふやなもの」に支配されるなんて。

俺は科学の子だ。再現性のない現象は信じない。


サティアは、そんな俺の頑なな態度を見て、呆れるどころか、いっそう愛おしそうに目を細めた。


「ふふっ。いいわね、その意固地なところ。懐かしいわ」


「なんだよ。懐かしいって!」


「いいわよ、偶然ってことでも。あなたがそう定義するなら、世界はそういう風に振る舞うでしょうね。……でも、これだけは覚えておいて」


サティアの体が、徐々に薄くなり始めた。

どうやら、お時間のようだ。


「この世界は、あなたの『意識』が偶然のサイコロの目に干渉する世界よ。あなたが『不運だ』と思えば、世界は全力であなたを不運にするし、『幸運だ』と思えば、嬉しいことが起きるわよ」


「説教か?」


「ううん、アドバイス。……あ、そうそう。言い忘れてたけど」


消えゆくサティアが、最後にいたずらっ子のような顔をした。


「その『ビジュアライゼーション』と『引き寄せ』のスキル、まだレベル1だから、精度ガバガバなの。唐揚げを願ってカエルが来るくらいにはね。次はもっと具体的にイメージしないと、とんでもないものが落ちてくるかもよ?」


「はあ!? ちょっと待て、おい! 魔法! せめて火の玉が出せる指輪とかくれよ!」


「頑張ってね、コウ君。愛してるわよー!」


「おいっ!!」


俺の叫びも虚しく、白い空間は霧のように晴れていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

拙作をお読みいただきありがとうございます。


素敵なチート能力を手に入れられてよかったですね。

コウは気に入ってなかったようですが。

でも、もう異世界に放り出されちゃったし、これでなんとかやっていくしかないですね。

がんばれコウ!


ひきつづきコウを見守ってくださる方は、

ぜひ、『ブックマーク』と『評価』をお願いします。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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