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第29話 ヴェルナーの興味

昨夜、俺が集合住宅の上で雲に穴をあける魔法を放ったことをヴェルナーは知っているようだった。


「ええ、雲に穴を開けたのは私です。危険なエネルギーを空に逃したのですが、雲は街の財産だったのでしょうか?」

俺は魔力を出したい欲求を我慢しながらジョークを交えて答えた。


「ははは。何も雲の弁償をしろと言う気はないよ。もしかしたら神から請求書が来るかもしれんがね」


「その時は、教会に請求書を寄進します」


「いいだろう。それよりも危険なエネルギーをどうやって空に逃したのかね? 君の魔法はどう言うものなのかね?」


ジョークの応酬は終わりらしい。

ここからは重要な判断を要する。教会におかしな疑いを待たれてはまずい。とはいえ、俺には何が地雷なのかわからない。基本的には正直に答えていこう。


「いいわ。たぶん大丈夫よ。いざとなったら衝撃波どーんで逃げればいいから」


サティアは物騒なことをいうが、俺の身体ががまんできなくなったら、不可抗力でそうなる可能性はある。


「私の魔法は、無属性魔法を手から衝撃波として放つものです。私は冒険者ですが剣を使えませんからね。護身用です」


「護身用にしては威力が強そうだが……それは、街で噂の必殺技というやつじゃないのかね?」


ヴェルナーは聞き捨てならない単語を口にした。本当に流行っているのか、それともヴェルナーの諜報能力が子供にまで及んでいるのか。


「なんでそれを…あれは子供達がふざけて真似してるだけです。俺は必殺技なんて言ってません」


「確か右手を突き出して…ハッ」

ヴェルナーは、座ったまま俺の衝撃波のマネをする。恥ずかしさが耳まで上がってきた。


「すみません。恥ずかしいのでやめてもらえますか?」


恥ずかしさのあまり身体のコントロールができなくなったらどうするんだ。


「おっと、すまなかったね。私も興味があるのだよ。そんな魔法は見たことが無いからね。

君は杖とか、魔石デバイスを使わずに魔法を生成するのかね?」


話が変わった。助かる。


「ええ、使ったことはないですね。使った方が良いでしょうか?」


「そうだね。その方がコントロールがしやすいだろうね」


俺は、橋の事件の時、ヴェルナーが杖から放出した温風の魔法を思い出した。あのコントロールは見事だった。


「あの時の温風みたいなことですね。でも、無属性魔石のデバイスなんて手に入らないですよ」


…教会が独占してるんでしょ。わけてくれませんかね。


「ああ、それもそうだね。無属性の魔石は教会が全て買い上げているからね」

何に使っているか知ってるかな?」


お、なんかカマをかけてきたぞ。


「お守りに入ってると聞いています」

これは錬金術屋から聞いた情報だ。別に秘密ではないだろう。


「そうお守りにも使ってるね」


ヴェルナーはふところから、お守りを取り出した。


「この真ん中の透明な粒が、無属性の魔法石だ。そしてお守り自体が魔石デバイスになっている。周りの形が「安寧化」の魔法陣だ」


ヴェルナーは俺にお守りを突き出した。中央に小さな―米粒程度の透明な石がはめ込まれている。


「教会は、世界を安寧にするために、無属性の魔法石を必要としているのだよ」


橋の事件の時、サティアは『教会は『揺らぎ』を嫌うの。予測できない事象、想定外の出来事……そういうものを排除しようとしている』と言った。世界を安寧にするというのはそういうことだろうか?


「そのお守りを全ての人が持てば、世界が平和になると?」

俺は、そうじゃないと推測しているが、カマをかけてみた。


「いや、お守りはその人が病気にならないようにしたり、不運な事故に遭わないようにする為のものだよ。個人を安寧にするものだ。

この小さなデバイスで世界を平和にはできない」


だろうな。俺のこの尿意に似た感覚の元になった、膨大な魔力を使っている施設が教会のどこか、おそらく地下にあるはずだ。


「では、大きなデバイスで世界を平和にしようとしているんですね。それは、教会そのもののことですか?」


教会が持っている大きなデバイス。それは教会の建物という考えは、当然の推測だ。俺のこの妙な能力があってもなくても思いつくだろう。


ヴェルナーは一瞬鋭い目をしたが、すぐに笑顔で誤魔化した。


「ははは、鋭いね。と言っても別に秘密にしているわけじゃないからね。安寧化は全ての人の為のものだし、教会がそのためにあることは周知の事実だからね」


今はこれ以上突っ込んで聞くのはやめておこう。


「ところで、俺はなんでここに呼ばれたんでしょうか?」


「もちろん事情聴取だよ。

高出力の無属性魔法発現と、魔導管ケーブルの破損に関するね。

魔導ケーブルの破損については、特にわからないことがあるわけじゃないが、現場にいた君から事の次第を話してくれないかね」


やはりそれは避けては通れないか…体の中の圧力も次第に高まってきている気がするし、手短に話すとしよう。


「わかりました。私が魔法制御室に入った時……」

俺は昨夜の出来事を、物理的な現象に絞って説明した。ところどころに俺の行動の理由になった仮説も入る。


ヴェルナーは静かに、しかし興味深そうに聞いていた。特に俺の仮説の部分を。

こいつもしかして理系か?



「なるほど。

ところどころ危なっかしい場面はあったが、その場で可能な対処を行ってくれた事に感謝する。あの集合住宅の住人に被害が出なかったのは何よりだ」


説明を終えた俺に、ヴェルナーは感謝を述べた。


「しかし君は魔力の属性の違いを周波数の違いと判断した。その魔力理論を知っていたのかね?」


「いえ、私は唸りが発生していることからそう判断しただけです」


「それに和周波といったかね。君の推測では二つの周波数の異なる魔力が合わさると別の周波数の魔力になるということになるのかね?」


やはりこいつは理系だ。関心の対象が俺の仮説になっている。


「それも推測に過ぎませんが、避雷針の周囲に無属性魔力が発生していた原因はそれしか考えられません」


「もしそれが本当で再現可能なら、魔力の研究が一段階進むだろう。無属性魔力を生成できるなら、新たな魔力も発見されるかもしれない」


ヴェルナーは目をキラキラさせている。


「魔教会にも魔力や魔法の研究機関があるのですか?」


「魔力の研究は民間でも国でもやっているが、教会のマギケン…いや、「魔法技術研究所」がトップだろうね」


マギケンか。略称で呼んでしまうって事は、その機関はヴェルナーにとって、親しみのあるところなのだろう。もしかしたらそこに所属していたのかもしれない。


「そうだ、そこの知り合いに君の事を紹介しようか? 君の魔力理論を深める役に立つかもしれないよ」


おお、こいつ、いいやつかもしれない。魔法の研究には、興味があるぞ。


「コウくん、コウくん。そんなところに行ったら、ずっと研究室にいることになるわよ。この世界の事何も知らずに歳をとっちゃうわ」

サティアが水を差す。


確かにそのとおりだ。


「ありがたいお誘いですが、今は辞退しておきます。まだ冒険者として色々と回ってみたいので」


「そうかね…」

ヴェルナーは一瞬残念そうな顔をした。


「だがつまり君はいずれこの街を出ていくということだね」


「ええ」


「ふむ。ところで君はこの街に来てまだ数日だが、橋の件といい、今回の件といい、事故が発生する場面にちょうど出会っているようだね。

私は、君が事故を起こしているとは思っていないが、事故を呼び寄せているんじゃないかと疑っているんだよ。君が意図していようと意図してなかろうとね」


そう。それは前にも言われた。

話がやばい方に転がり始めた気がする。俺の体内圧力も高まってきた。


「そう言われても困りますね。

少なくとも私は意図してませんよ。

自分から自分の命を危険に晒したくはないじゃないですか?」


「そうだろうね。君が意図していたのなら、私は君を拘束して一件落着になるんだけどね。

そうじゃないなら君の事は、見守るしかなくなるね」


ああ、見守ってくれ。そして早く俺を解放してくれ。

俺はもう会話を打ち切りたいという意志を伝えるために黙っていることにした。


「ふむ。今日のところはこれくらいにしておこうか。

君とはもっと話したいが、もう少し情報を集めてからにしよう」


ヴェルナーが椅子から立ち上がって、ドアに向かったので、俺も立ち上がった。


「今日はご苦労様だったね。次の機会を楽しみにしているよ」


ドアを開いて、俺を外へと促す。


「帰りに、お守りを買っていくといい。君の目的に叶うようなサイズのものもあるかも知れないよ」


どうやら俺が無属性の魔料石を探していた事もご存知のようだった。


しかし俺はそれよりも先にこの体内の圧力をなんとかしたいのだ。


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