第19話 俺の使命
岩風呂で心身ともに融解した俺は、宿の食堂で肉料理を提供してもらった。
何の肉かわからないが、やはり言葉を失って集中してしまうほど美味かった。
大変な一日だったが、この料理で報われる。
それに今日は風呂もついていた。このボロ宿は俺的には大満足だ。
他の異世界宿に泊まったことはないが、今のところ宿を移ろうとは思えない。
肉料理を平らげて部屋に戻った俺は、ベッドに横になると同時に眠りについた。
気がつくと、俺はあの真っ白な空間に立っていた。
「あら、コウくん。夢の中でもそのピンクの作業着を着ているなんて、よっぽど気に入ったのね。お洒落さんなんだから、うふふ」
目の前でぷかぷかと浮いているサティアが笑っている。
俺は自分の格好を見下ろした。
確かに、夢の自分まで鮮烈なショッキングピンクに包まれている。
「気に入ったわけではない。これはイメージの定着だ。潜在意識下でもこの色彩情報を維持することで、認識のハックをより強固なものに……」
「はいはい。そんなことより、お楽しみ。ステータス報告よ」
彼女がパチンと指を鳴らすと、俺の目の前に半透明のパネルが出現した。
【ビジュアライゼーション:Lv3】(アクティブスキル)
【引き寄せ:Lv3】(パッシブスキル)
【直観:Lv1】(パッシブスキル)
【プラントメディスン:Lv1】(パッシブスキル)
俺はそれを見て、眉間に深い皺を刻んだ。
「……ふざけるな。勝手にバージョンアップするな。特にこの『引き寄せ』という項目。得体の知れないバックドアが勝手に拡張されているようで非常に不気味だ。システム上の脆弱性が成長して喜ぶ管理者がどこにいる」
「えーっ、レベルが上がって文句を言うなんてコウくんくらいよ? 直観は危ない予感に気づく力、プラントメディスンは植物の成分がなんとなくわかる力。便利じゃない!」
「俺が文句をいいたいのは『引き寄せ』だ。
ビジュアライゼーションはまあいい。イメージする時に映像が精細に浮かびやすくなるってことだろう。何かをイメージするなんて普通に行う行為だし、それが精細になるのは困らない。
『直観』って直観のことだろう。無いよりはあった方がいい。それを信じて検証を行わないのは危ないがな。
…『プラントメディスン』? 植物の成分がわかる? 薬剤師や、この世界では錬金術師になるなら役に立つだろうな…」
「あら、冒険者でも役に立つわよ。採集依頼で、似たような別の植物を採集しなくなるし、同じ植物でもより薬効が他可能なものを選べるようになるわよ」
サティアはふわふわと浮いたまま、くるくると回っている。
妖精か! 落ち着け。
「だから問題なのは、『引き寄せ』だ! この『引き寄せ』ってやつが、『ビジュアライゼーション』と独立していることには重要な意味がある。
『ビジュアライゼーション』などのスキルでしっかりとイメージしない場合でも、何かを『引き寄せ』るってことだろう!」
俺はサティアに人差し指を突きつけて続けた。
「こちらが意図しない事も、それが厄介事であっても致命的なトラブルでも勝手に引き付けるってことだろう! そんなセキュリティーがガバガバなスキルはいらないんだよ!
あと、いいから止まってろ!」
サティアがくるくると飛び回っているので、俺が突きつけた指もそれに合わせて動かさなければならない。すごく間抜けだ。
サティアはくるくる回るのをやめ、俺に近づいて来て言う。
「あら、それは元々コウくんが持っている能力でもあるわよ。このステータスの『引き寄せ』レベルはこの世界に来てからの成長分で、元々コウくんが持っている引き寄せる力は、かなり高いわよ。
コウくんが『ダイフコウ・クオリティー』って言ってた力よ」
あの不運を呼び寄せてしまう体質が、スピリチュアルの『引き寄せ』と同じ力だと……
……
俺は少しショックを受けていた。
俺はこの事について考えるタスクを後回しにすることにして、話を変えた。
俺は指を下ろしてサティアを真っ向から見据えた。
「俺に何を期待している。この世界で何をさせたいんだ。俺にもサティアにも何か使命があるんだろう。
もしくはサティアに使命があって、それに俺を利用したいとかか。
まあ、別にそれでも悪くはない。俺にも利益があるならな。お互いに何を相手に供与できるのかはっきりさせようじゃないか」
サティアはくるりと空中で回転し、無邪気な顔で言い放った。
「この世界の『もやもや』を、パーッとスッキリさせてほしいの!」
「……却下だ。表現が抽象的すぎて理解不能だ。パーッと、などという擬音語で指示を出すな。上司なら無能の極みだぞ」
「もう、理屈っぽいわねえ! コウくんの特技を活かしてほしいのよ。スピリチュアル能力じゃなくて、コウくんが元々持っている能力……不運を呼び寄せる特技をね!」
……話が戻ってしまった。
「……つまり、どういうことだ。俺が不運を呼びよせる体質なのが、何の役に立つ?」
サティアは動きを止め、俺の目を直視した。
「そうね。この街にも、この国にもね、色々なもやもやが溜まってるのよ。それはそのまま放っておくと、いつか大爆発しちゃうの。それはわかる?」
「わからん。……だが、推論は可能だ。もやもや、というのは社会的な汚職やインフラの老朽化、あるいは地殻に蓄積された物理的な歪みエネルギーのことか? それとも魔力的な滞留か」
「うん、そういうの全部!」
「そりゃあ、どこにだってそういう問題はあるだろうな。だが、それを俺がどうにかする、というのが結びつかない」
「そこでコウくんの特技が火を吹くのよ! そういう問題はエネルギーとして膨れ上がっていって限界を迎えるとドッカーン。だけど、限界を超える前でも、きっかけがあれば噴出するわ。それを世間では事故とか不運な出来事と呼ぶの。……わずかな可能性を実現させて、不運を引き寄せるのはコウくんの得意技じゃない!」
俺は数秒間絶句し、それから震える声で抗議した。
「つまり俺に、世界が溜め込んだストレスの避雷針になれと言うのか? 施工ミスで壊れそうな建物に俺が入っていって崩壊をおこし、小規模な事故として処理しろと?」
「さすがコウくん! その通りよ!」
「断る! なんで俺が他人の不始末の肩代わりしなきゃならない。第一、それは俺にダメージが集中するってことだろうが!」
「なんでって、理由は無いけど、コウくんが歩けば不運が寄ってくるじゃない。これはもう運命なのよ」
「運命で片付けるな! 他人が貯めたストレスを俺にぶつけるなんて、俺が死んだらどうする? 俺の人権はどこにいった!」
「コウくんなら大丈夫。スピリチュアル能力も上がってるんだから! これまでも不運をきっかけにして、最後には幸運に持っていけてるでしょ? 自信を持って!」
「励ますな! そんなことはやらないと言っているんだ! 自信が無いからできないなんて言ってないだろ!」
俺たちの口論はしばらく続いた。俺は論理で武装して拒絶し、彼女は天真爛漫な直感でそれを回避し続ける。
結局、最後には「私が何をしようと、今まで通り不運は勝手に寄ってくるんだから、腹をくくりなさい」という、暴力的なまでの正論らしきものに丸め込まれる形となった。
納得はいかないが、俺は前の世界でのあがきを憶えている。不運ってヤツは俺の都合など無視してやってくるんだ。色々な方法を試してみたが、何1つうまくいかなかった。
しかし、この世界に来てから、不運はやってくるが、最終的な不幸な結果は避けられている。労力とダメージは支払っているが。
ここは不運を避けることよりも、不運に襲われた時の対抗手段を増やした方がいいかもしれない。
「……勝手に不運の標的にされるのは御免だ。せめて自分を守るための、物理的な干渉手段を要求する」
「そうね、協力してあげる。剣がいい? それとも魔法?」
俺は腕を組み、しばらく悩んでから結論を出した。
「剣は練度に左右される。魔法……この世界の魔法陣システムは非効率だが、出力の自由度は高そうだ」
「どんな魔法がいいの?」
「無属性の衝撃波を、掌から放つ。指向性を持たせた純粋な運動エネルギーの放射だ」
「いいわね! じゃあ、やってみて。ちゃんと衝撃波をイメージして。あそこの的に当ててみてよ」
サティアが指さした先には、木製の的が出現していた。
「……できるわけないだろ。俺には魔法スキルなんてないんだ」
「忘れてるんじゃない? ここは夢の中、コウくんの意識が支配する空間よ。しっかりイメージすれば、それが実現する場所なの」
そうだった。ここは夢の中だ。魔法くらい想像できる。
「呪文とか唱えたいなら、それもやってみて」
「いらん。そんな無駄な遅延を発生させるくらいなら、思考から直接出力を誘導したほうが早い」
俺は半身に構え、右手を真っ直ぐに突き出してイメージする。
《掌の先に、電荷を持たない素粒子が集まって、亜光速で運動している。
その素粒子の密度が限界になった時、運動方向が一瞬で揃い、ターゲットに向かって亜光速で飛んでいく。
一瞬後にターゲットは粉々になる》
「ハッ!」
掌から放たれた目に見えない衝撃波が、的を粉砕した。
バンッ!
木片が真っ白な空間に四散する。
右手の掌と甲がムズムズしていた。
「ワオ! 素敵な魔法! 今の感じ、今の風景をしっかり覚えておいて。起きても何度も何度も思い出すのよ」
「……思い出すだけで、これが現実になるのか?」
「コウくんには、少ない可能性を引き寄せて実現する力があるじゃない? それって、自分自身にも有効なのよ。コウくんに、魔法を使える可能性が一兆分の一でもあるなら、それはきっと現実になるわ!」
つまり、自分ができていることを精細にイメージするってことだな。
しかし、俺はそれが簡単じゃないことを知っている。そんな事、自分にできるはずが無いっていう言葉がすぐにわきあがるんだ。
…自分以外のことなら、そんなことはないのに…なぜだろう…
意識が遠ざかり、視界がぼやけてきた。
俺は夢の中の掌に残る、熱い振動を強く握りしめた。
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