第15話 結構いい稼ぎ
ギルドの重厚な扉を開けた時、周囲の視線が突き刺さるのを感じたが、俺はあえて堂々と歩いた。
泥だらけでボロボロの格好だが、俺の背中には大量の薬草がある。
これは単なる泥まみれの遭難者ではない。
過酷な任務を完遂したプロフェッショナルの姿なのだと、自分に言い聞かせる。
「あら、受付のお姉さん、目がハートになってるわよ。あなたのその、泥にまみれたワイルドなエネルギーに当てられたのかしら」
サティアの言う通り、受付の女性は椅子から立ち上がって興奮した声で言った。
「コウさん! ……まさか、もう20本採集したんですか?」
「ええ。多少、地質学的なトラブルがありましたが、採取は完了しました」
俺は重たい袋をカウンターの上にどさりと置いた。
中から溢れ出すのは、真っ白で瑞々しいリクロータスの花々だ。
女性は震える手で袋の中を確認し、絶句した。
「これ……全部リクロータス!? しかも、まだ花が開き切る前の若い個体がこんなに……! これ、市場では三倍以上の値がつくんですよ!」
「え、そうなの? ただの未熟な個体かと思ってたけど」
「とんでもない! 若いリクロータスは薬効が凝縮されているんだけど、採取が極めて難しいんです。草に完全に隠れて見えないはずなのに……。一体、どうやってこれほど大量に?」
「……まあ、効率的な開墾作業を少々。物理的な衝撃を利用して、遮蔽物を取り除いただけですよ」
俺はあくまで涼しい顔で答えた。
ガス爆発で草原を禿山にしたのだとは言わないほうがいいだろう。
鑑定士が奥から出てきて、真剣な顔で花の数を数え始めた。
その間も、ギルドにいた他の冒険者たちが、遠巻きに俺のことを指差してヒソヒソと話している。
「…おい、あいつ……昨日看板を避けた奴だろ…」
「…演習場でブランを自爆させた無能力者か。若いリクロータスをあんなに採取してくるなんて、やっぱりただの新人じゃねえぞ…」
「…隠れスキル持ちか。魔法陣なしであんな的を飛ばすなんて、実力を隠した凄腕に違いない……」
勝手な憶測が、尾ひれをつけて広がっていく。
誤解されるのは本意ではないが、あえて否定するのも面倒だ。
「お待たせしました。鑑定が終わりましたよ、コウさん」
受付の女性が、トレイの上に何枚かの硬貨を載せて戻ってきた。
そこにあったのは、鈍く光る金色の輝きだった。
「基本報酬と、急ぎの追加報酬で金貨1枚と銀貨5枚。通常のリクロータスが32本で金貨1枚と銀貨6枚。希少個体のリクロータスが22本で、金貨3枚と銀貨3枚。……合計で金貨6枚と銀貨4枚です」
「金貨6枚!?」
俺は思わず声を上げそうになった。
あのボロいが清潔な宿の宿泊代が2食付きで銀貨3枚だった。
つまり、この一回の依頼で、21日分の宿代を稼いだことになる。
これは結構いい稼ぎだったんじゃないか?
蟹工船なみに体を張った甲斐がある。
「…リクロータスの採集で、金貨6枚だとよ…」
「…やっぱり、隠れスキル持ちはちがうわね…」
「…けっ! 新人のくせによお…」
なんだか先程よりも、注目している冒険者の数が増えている。しかも「隠れスキル持ち」は確定なのか?
「実際そうじゃない。コウくん、スピリチュアルのスキル書かなかったし」
サティアがすねたような言い方をしてくるが無視だ。そんなこと書くかってんだ。
俺は、金貨を掴んでポケットに突っ込んだ。
重い。
「やったわね、コウくん! これで今夜は特上スープどころか、フルコースが食べられるわよ! 私の脳内同期、最高解像度で準備しておくから!」
(……わかったよ。だが、これはあくまで確率の偏りだ。たまたま需要と供給のミスマッチが起きていたところに、俺が物理的な衝撃による効率化をぶつけた結果だ。スピリチュアルなんて言葉で片付けられるような、安い奇跡じゃないからな)
「さあ、コウくん。次はどこへ行く? お金もあるし、もっとワクワクする事を引き寄せちゃいましょうよ!」
ワクワクなんていらない。俺はただ、清潔な風呂に入って、まともな飯を食って寝たいだけだ。……まずは服を買う。こっちに来てから着替えてないし、今日は朝から倒れてばっかりだから泥だらけだ。
俺は、泥に汚れた背中に、かつてないほどの視線を浴びながら、ギルドを後にした。
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ようやくコウは自分の力でお金を稼ぐことができました。
まだこの世界に来て2日目なので、結構優秀なのではないでしょうか?
でもいつもなんだかんだで転ばされているので服はドロだらけです。
次回は、このどうしようもない格好をなんとかするお話です。
ちなみにコウが着ているのはユニクロの服らしいです。
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