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異世界河原暮らし  作者: 大ジュンチャ
9/18

9

ダンジョンの通路を、トムとカッパのジュンチャは慎重に進んでいた。

じめじめとした空気が肌にまとわりつく。壁に生えた苔から、ぽたり、ぽたりと水滴が落ちるたびに、二人の靴音が妙に大きく響いた。


「……静かすぎるな」

トムは剣を握り直し、前方をにらむ。


「油断禁物でやんすよ」

カッパのジュンチャはにやりと笑い、肩をすくめる。

その皿にはまだ冷たい水がたっぷりたまっており、淡い光を反射していた。


その時だった。


「ギギッ、ギャアッ!」


暗闇の奥から、甲高い叫び声が響いた。

次の瞬間、影のような小さな人影が五、六体、通路に飛び出してくる。手には錆びついた短剣や棍棒。緑色の肌に尖った耳、黄色く濁った目――ゴブリンだ。


「……来たな」

トムは一歩前に出た。

だが数は多い。初めての相手としては分が悪い。


「トム、一気にやるでやんす!」

カッパのジュンチャの声が響く。


ゴブリンたちは奇声を上げながら突っ込んでくる。

トムは右から迫る一体に刃の魔法を放った。

「刃の魔法!」


光の刃が閃き、ゴブリンの短剣ごと胴体を切り裂く。血しぶきが飛び散り、ゴブリンは地面に崩れ落ちた。


だが残りのゴブリンは止まらない。

左右から迫り、背後からも回り込もうとする。


「くっ、数が多すぎる!」

トムは必死に剣を振るが、汗がにじみ始めていた。


その時――。


「スイスイーでやんす!」


カッパのジュンチャが叫び、両手を勢いよく振り抜いた。

すると、手の動きに合わせて鋭い水の刃が空気を切り裂き、一直線に走った。


「ギャッ――!」


目の前のゴブリンが真っ二つに裂け、血と水しぶきが同時に飛び散る。

残りのゴブリンたちが一瞬怯み、後ずさった。


「な、なんだ今の……!」

トムは驚きの声をあげる。


カッパのジュンチャは涼しい顔で構えを解いた。

「これがあっしの魔法、“水のカッター”でやんす。スイスイーってやれば、ゴブリンなんざ紙みてぇなもんでやんすよ」


言い終わるが早いか、別のゴブリンが棍棒を振り下ろしてきた。

トムが剣で受け止めた瞬間――。


「スイスイーでやんす!」


もう一閃。

水のカッターが音もなく走り、ゴブリンの棍棒ごと腕を切り落とす。

絶叫が響き、緑色の体が床に転がった。


「す、すげぇ……!」

トムは息を呑む。これほどの威力を持つ魔法を、カッパのジュンチャが使えるとは思ってもいなかった。


「ぼさっとすんなトム! まだ来るでやんす!」


残りのゴブリン三体が怯えながらも、必死に突撃してきた。

トムは前に出て、刃の魔法を繰り出す。

「これで終わりだ!」


一体、二体を切り裂くが、最後の一体が背後に回り込んでいた。

「しまっ――」


トムが振り向くより早く、カッパのジュンチャの声が飛んだ。

「スイスイーでやんすッ!」


水のカッターが弧を描き、最後のゴブリンを斜めに切り裂いた。

断末魔の叫びが虚空に消え、通路は静けさを取り戻す。


水が床に滴り落ち、赤黒い血と混じり合う。

トムは大きく息をついた。


「……助かったよ、カッパのジュンチャ。お前がいなかったら、今ごろ俺は……」

「何言ってるでやんす。あっしとトムは仲間でやんす。背中は任せときなせぇ」


カッパのジュンチャは皿の水をちゃぷちゃぷと揺らし、にやりと笑った。


トムも剣を収め、笑みを返した。

「……そうだな。これなら、このダンジョンでもやっていけそうだ」


二人は並んで通路の奥へ進んでいった。

その足取りは、先ほどよりもずっと力強かった。

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