表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界河原暮らし  作者: 大ジュンチャ
8/18

8

街の外れにある丘を越えた先、ひっそりと口を開けている古い石造りの階段。そこが、かつて数多の冒険者が挑み、多くが帰らなかったというダンジョンの入口だった。


トムは階段の前に立ち、吸い込まれるような暗闇をじっと見つめていた。ひんやりとした風が奥から吹き出し、苔むした石段はまるで底知れぬ地獄へ誘うかのようだ。


「……ここが、ダンジョン……」


少年の喉が、ごくりと音を立てる。心臓は早鐘を打ち、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいた。これまで野に潜むスライムや、畑を荒らすゴブリンを倒したことはある。だが、それはすべて地上の出来事。ダンジョンの奥には、未知の魔物と罠が待ち受けているという。


その肩を、後ろからドンと叩く者がいた。


「おーい、トム! 何を突っ立ってるでやんすか!」


緑色の手が伸び、皿をのせた頭がにゅっと覗き込む。カッパのジュンチャ――皆からは単に“カッパ”と呼ばれている存在だ。河原での奇妙な暮らしぶりから、町の人々には変人扱いされているが、トムにとっては唯一無二の相棒だった。


「カッパ……その、なんだ。オレ、本当に入っていいのかな。中にはすごく強い魔物もいるんだろ?」


不安げに問いかけるトムに、カッパはにやりと笑って甲羅をトントン叩いた。


「なぁに、心配いらねぇでやんすよ。あっしとトムがいれば十分でやんす。河原のスライムを斬った時のことを思い出すでやんす。あれだって最初はビビってたけど、今じゃトムの刃の魔法で一撃でやんす!」


「そ、そうだけど……」


トムはまだ迷っていた。冒険者会館で仲間を探した時、誰も彼を受け入れてはくれなかった。みんな彼のことを「裸のやつと住んでいる変人」と噂し、避けていった。その屈辱を思い出すと、胸が重くなる。


「オレ……みんなに笑われた。カッパと一緒にいるからって」


言葉を濁すトムを、カッパは真っ直ぐに見つめた。


「ふん、くだらねぇことで笑いやがって。だがな、トム。あっしから見れば、お前さんは立派な冒険者でやんすよ。笑いたいやつには笑わせておけばいいでやんす。あっしらは、あっしらのやり方で強くなればいいんでやんす!」


その言葉に、トムの胸の奥で何かが小さく燃え始めた。孤立しても、笑われても――隣に立ってくれる者がいる。ならば一歩踏み出す勇気を持てるはずだ。


「……よし! 行こう、カッパ!」

「おうとも! さぁ、ダンジョンで一暴れでやんす!」


二人は並んで石段を踏みしめた。

薄暗い階段の奥からは、得体の知れぬ湿った空気が流れてくる。だがトムの瞳には、怯えだけではなく、新たな決意の光が宿っていた。


こうして――孤独な少年と奇妙なカッパの、二人きりのダンジョン挑戦が幕を開けたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ