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屁魔法は、結局ほとんど役に立たなかった。
スライムを吹き飛ばすどころか、ただ場を臭くするだけ。
しかしある晩、三人で焚き火をしていたときのことだった。
「うーん……火力が足りないでやんすな。これじゃあカエルが半生でやんす」
「オレ、お腹すいた!」
「ぼ、ぼくも……。くそ、枝をもっとくべても火が弱い……」
その時だった。トムがふと、自分の“唯一の魔法”を思い出す。
「ま、まさか……試してみるか……」
彼はおもむろに焚き火の前にしゃがみ込み、力を込めた。
――ぷぅ。
次の瞬間、炎がぼっ、と赤く燃え上がった。
カエルの肉が一気に焼け、香ばしい匂いがあたりに漂う。
「おおー! 火力アップしたでやんす!」
「トム、すげー! 屁、すげー!」
「や、やめろぉぉぉ! そんな言い方するなぁぁ!」
確かに役立った。
だが“屁魔法が焚き火強化に便利”という評価に、トムは泣きべそをかきながら地面に突っ伏すしかなかった。
「ううっ……ぼく、なんでこんな情けない魔法しか……。カッコいい火球を撃つ未来を夢見てたのに……」
焚き火を囲みながら落ち込むトム。
しばらく沈黙が続いたが、ふと彼は前から気になっていた疑問を口にした。
「……そういえば、前から不思議に思ってたんだ。なんで二人とも“ジュンチャ”って名前なんだ?」
その問いに、カッパのジュンチャは肩をすくめて笑った。
「そんなの単純な話でやんすよ。あっしらは“ジュンチャ一族”だからでやんす。みんな名前に“ジュンチャ”がつくのが決まりなんでやんす」
「オレ、ジュンチャ! あいつもジュンチャ! みんなジュンチャ!」
「そ、そんな適当な……いや、でも一族って言ったよな? つまり他にも?」
「もちろんでやんす。あっしら以外にも、森のジュンチャとか、山のジュンチャとか……色々いるでやんす。ただ、この異世界に来たのは、あっしと河原だけだったでやんすな」
トムは目を丸くする。
つまり、自分の知らないところに“ジュンチャ一族”という謎の集団が存在するということだ。
「な、なんなんだその一族……一体何者なんだよ……」
「なに者って言われても、ジュンチャはジュンチャでやんすなぁ」
「オレ、ジュンチャ!」
焚き火の炎がぱちぱちと弾け、夜空に火の粉が舞った。
異世界での河原暮らしは、まだまだ先が見えない。
だが少なくとも、トムは今――謎と混沌に満ちた一族の物語に巻き込まれ始めていた。




