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異世界河原暮らし  作者: 大ジュンチャ
5/18

5

屁魔法は、結局ほとんど役に立たなかった。

 スライムを吹き飛ばすどころか、ただ場を臭くするだけ。

 しかしある晩、三人で焚き火をしていたときのことだった。


「うーん……火力が足りないでやんすな。これじゃあカエルが半生でやんす」

「オレ、お腹すいた!」

「ぼ、ぼくも……。くそ、枝をもっとくべても火が弱い……」


 その時だった。トムがふと、自分の“唯一の魔法”を思い出す。


「ま、まさか……試してみるか……」


 彼はおもむろに焚き火の前にしゃがみ込み、力を込めた。


 ――ぷぅ。


 次の瞬間、炎がぼっ、と赤く燃え上がった。

 カエルの肉が一気に焼け、香ばしい匂いがあたりに漂う。


「おおー! 火力アップしたでやんす!」

「トム、すげー! 屁、すげー!」

「や、やめろぉぉぉ! そんな言い方するなぁぁ!」


 確かに役立った。

 だが“屁魔法が焚き火強化に便利”という評価に、トムは泣きべそをかきながら地面に突っ伏すしかなかった。


「ううっ……ぼく、なんでこんな情けない魔法しか……。カッコいい火球を撃つ未来を夢見てたのに……」


 焚き火を囲みながら落ち込むトム。

 しばらく沈黙が続いたが、ふと彼は前から気になっていた疑問を口にした。


「……そういえば、前から不思議に思ってたんだ。なんで二人とも“ジュンチャ”って名前なんだ?」


 その問いに、カッパのジュンチャは肩をすくめて笑った。


「そんなの単純な話でやんすよ。あっしらは“ジュンチャ一族”だからでやんす。みんな名前に“ジュンチャ”がつくのが決まりなんでやんす」

「オレ、ジュンチャ! あいつもジュンチャ! みんなジュンチャ!」

「そ、そんな適当な……いや、でも一族って言ったよな? つまり他にも?」


「もちろんでやんす。あっしら以外にも、森のジュンチャとか、山のジュンチャとか……色々いるでやんす。ただ、この異世界に来たのは、あっしと河原だけだったでやんすな」


 トムは目を丸くする。

 つまり、自分の知らないところに“ジュンチャ一族”という謎の集団が存在するということだ。


「な、なんなんだその一族……一体何者なんだよ……」

「なに者って言われても、ジュンチャはジュンチャでやんすなぁ」

「オレ、ジュンチャ!」


 焚き火の炎がぱちぱちと弾け、夜空に火の粉が舞った。

 異世界での河原暮らしは、まだまだ先が見えない。

 だが少なくとも、トムは今――謎と混沌に満ちた一族の物語に巻き込まれ始めていた。

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