17
その夜。明日の冒険に備えて寝床に入ろうとした時だった。
「うおおおおぉぉぉおおおーッ!」
女の叫び声が暗闇に響いた。声はどんどん近づいてくる。
トムが飛び起き、たいまつを掲げると、そこに現れたのは――赤毛をきちんと三つ編みに結った女。年はトムと同じくらい。だが顔は真っ赤に染まり、千鳥足でこちらに突っ込んでくる。
「きっもちいいー! 夜はこれからだぁぁ! 神の御名において、酒だ酒だぁぁあ!」
手に持った木の杖を振り回し、意味不明な言葉を叫んでいる。
「おおっ!まつり!まつりだ!」
河原のジュンチャは大はしゃぎ。
「でやんすでやんす! 祭りでやんすか!」
カッパのジュンチャも飛び跳ねて、三人で訳の分からない乱痴気騒ぎが始まった。
そのまま夜明けまで続き、トムは頭を抱えていた。
――そして朝。
鳥の声が響き始めるころ、赤毛の女はようやく目を覚ました。
「……っ、あ、あの、昨夜は……本当に失礼を……」
顔を伏せ、両手をそっと膝に重ねる姿は、まるで別人だった。声も落ち着いて柔らかく、恥じらいすら漂わせている。
「私の名はサラと申します。僧侶の見習いで……昨日まで冒険者の一団に加わっておりました。ですが……酒に弱く、宴の席で取り乱してしまい……居場所を失いました」
おしとやかな口調で事情を語るサラ。昨夜の暴走が幻だったかのようだ。
「オマエ、よっぱらい。ダメ」
河原のジュンチャは片言でばっさり切る。
「でやんすでやんす、昨夜の暴れっぷり、すごかったでやんすよ……」
カッパのジュンチャも不安げに首を振った。
こいつら一緒になって騒いでいたよな?どの口が言うんだとトムは呆れた。
しばらく黙って彼女を見つめた。
――素面の時は礼儀正しい僧侶。
僧侶。回復役。正直言って欲しかった仲間だ。
だが酔えば怪物と化す。どうする?仲間に誘ってみるか?
迷いが胸をよぎる。しかし、先程の言葉がどうも頭に残っていた。
「居場所を失いました」――あの小さな声。自分もまた、居場所を探してこの河原に流れ着いたのだ。
トムは深く息を吸った。
「……サラ。昨日はめちゃくちゃだったけど、素面のお前は誠実な人だ。回復役も必要だし……俺たちと一緒に来ないか?」
サラの目が大きく見開かれる。驚きと、かすかな喜びが混じった瞳だった。
「わ、私を……誘ってくださるのですか?こんな酒癖の悪い女をですか!?」
「ただし、条件がある。冒険の間は絶対に酒は飲むな。それを守れるなら、仲間として歓迎する」
サラは小さく震えながら、深く頭を下げた。
「……はい。必ず、守ります。ありがとうございます」
「えぇぇ!? 本当に仲間にするでやんすか!?」
カッパのジュンチャは目をむく。
「オレ、まだイヤ。でも……トム、決めた。しかたない」
河原のジュンチャはぶっきらぼうに答えた。
こうして、清楚でおしとやかな僧侶――しかし酒を飲めば暴走する女、サラが仲間に加わった。
河原の朝日は、奇妙な四人を静かに照らしていた。




