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異世界河原暮らし  作者: 大ジュンチャ
13/18

13

トムは剣を振りかぶる。

最後の力を振り絞り、青白い光をまとった刃を巨人に叩き込もうと――その瞬間だった。


ドゴォォォォォォォンッ!!!


轟音と共に、目の前の巨人が壁に吹っ飛んだ。

石の壁がひび割れ、破片が降り注ぐ。

トムは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。


「……えっ?」


自分はまだ剣を振り下ろしていない。

じゃあ、いったい誰が――?


恐る恐る後ろを振り返ったトムの目に映ったのは、

ちっちゃな体にぽっちゃりしたお腹、そして場違いなほど呑気な表情の男だった。


「……ジュ、ジュンチャ……?」


そう、そこに立っていたのは河原のジュンチャだった。


巨人の胸には、ドリルでえぐったような大穴が開いている。

その巨体はぐらりと揺れ、最後にガクンと崩れ落ちた。

目の奥にあった不気味な輝きも、もう完全に消えている。


「お……お前が……やったのか……?」


トムの声は震えていた。

返事はなかった。河原のジュンチャはただ、鼻をかきながらそこに立っているだけ。


次の瞬間、トムは堪えきれず、その小さな体に抱きついた。

「ジュンチャぁぁ……! ありがとう……ありがとう……!」


涙が止まらなかった。

生きていること、そして助かったことに胸がいっぱいになった。


だが、抱きつかれた河原のジュンチャは、少しうざそうに眉をひそめた。

「オレ……カッパいない。デカい魚、とった。でも、下処理……できない。」


「はぁっ!?」


トムは涙を流したまま、意味のわからない返答に顔をあげた。

今の状況を理解していないのか、この男は。

いや、きっと理解していない。


(……そうだ、カッパのジュンチャ……!)


トムは我に返り、震える声で告げた。

「ジュンチャ……カッパは…………………………死んじまったんだ……!」


河原のジュンチャの視線が、静かに動く。

その先には、床に横たわるカッパのジュンチャの姿。

ピクリとも動かず、倒れたまま。

そして、そのすぐ横には――無残に切断された腕。


トムは目を背けたくなった。

だが、河原のジュンチャはおもむろに歩み寄る。


「……おい、ジュンチャ……やめろ。見るな……」

必死に止めようとするトムを無視して、河原のジュンチャは倒れている腕を拾い上げた。


そして。


――ぺっ。


「は……?」


河原のジュンチャはその腕に、ためらいもなくツバをつけた。

そして、カッパのジュンチャの肩口にぐいっと押し当てたのだ。


「お、おい……お前、なにして……っ!?」


するとどうだろう。

みるみるうちに、肉と肉がつながっていく。

血が止まり、筋肉が伸び、皮膚が閉じていく。

腕は完全に元の位置にくっつき、跡形もなく繋がってしまった。


「な、ななな……なんだこれ……!」


そして――。


「……んぐ……」


カッパのジュンチャのまぶたが、ぴくりと動いた。

次の瞬間、ガバッと上半身を起こした。


「はぁっ!? うそだろおおお!!!」


トムは腰を抜かしそうになった。

カッパのジュンチャは、まるで昼寝から目覚めたかのようにケロッと立ち上がり、腕を回している。


「ふぅ……いやぁ、ちょっと寝すぎたでやんすな。」


「……!?」


「お前、さっき確かに腕がもげて……死んだんじゃ……」


震えるトムの言葉に、河原のジュンチャは平然と答えた。

「ジュンチャ一族……これくらいじゃ死なない。」


トムは頭を抱え、絶叫した。

「つばで手なんてくっつかないだろぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」


その声が、ダンジョンの洞窟全体に木霊した。

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