12
カッパのジュンチャの腕が床に転がり、鮮血が石畳を染める――。
その瞬間、トムの頭の中で何かが切れた。
「カッパァァァァァァァアアアアア!!!!」
その叫びは、怒りでも悲しみでもなく、原始的な衝動そのものだった。
トムは我を忘れ、目の前の巨人へ飛びかかった。
「グオオオォォォッ!」
巨人が振り下ろす拳は、一撃で岩を粉砕する必殺の重さ。
ボロボロの体のトムに、何度も何度もその拳が迫った。
――だが、当たらない。
なぜかはわからない。トムの身体が勝手に動く。
巨人の拳が掠め、爪が髪を裂く。紙一重で避ける度に、心臓が激しく鳴り、視界の端が赤く染まっていく。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
トムは叫びながら剣を振るった。
刃の魔法を強化したその剣は、さっきまでは巨人の鱗に弾かれるばかりだった。
だが今、剣の刀身は青白い光に包まれていた。
ギィンッ!!!
振り下ろした瞬間、鱗が裂け、巨人の肉に深く食い込む。
「グ、グオオオオオオ……!」
初めて、巨人が苦悶の声をあげた。
トムはそれに構わず、次々と剣を振るい続けた。
青白い光はさらに強く輝き、斬撃の軌跡は残光となって空中に線を描く。
巨人の動きが鈍くなっていくのが見えた。
その巨体に刻まれる深い傷。鱗の隙間から黒い血が吹き出し、床に染みを広げる。
「……ハァ……ハァ……ハァ……」
ここまで奇跡的に避け、戦い続けてきたトムも、もう限界だった。
膝が笑い、息が荒く、視界が揺れる。
立っているのがやっとだ。それでも剣を握る手だけは離さなかった。
(最後の一撃だ……これで……倒せなければ……オレは死ぬ……)
自分にそう言い聞かせ、トムは青白い光を纏った剣を構えた。
刃が振動し、空気が裂ける音がする。
巨人が咆哮し、最後の拳を振り下ろしてくる。
トムは、全身の力を込め、ただ一歩、前に踏み出した。
――ここで決まるか、死ぬかだ。