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異世界河原暮らし  作者: 大ジュンチャ
11/13

11

巨人の拳が迫る。

その瞬間、トムの全身は緊張で固まり、動けなかった。


「終わった……!」


胸の奥から冷たい諦めがこみ上げた――そのとき。


ブフォオオオオオオッッ!!!


地響きのような音が広間を揺らした。

次の瞬間、トムとカッパのジュンチャの体は猛烈な勢いで前へ吹き飛び、巨人の股下をすり抜けていった。


「うわあああああっ!」

「な、なんでやんす!? 急に加速したでやんす!!」


床を転がりながら立ち上がったトムは、信じられない顔で自分の尻を押さえた。

「こ、これ……ただの屁じゃない……へ、屁魔法だ……!」


そう、極度の緊張と死の淵に立たされた瞬間、河原のジュンチャが教えてくれた屁魔法が暴発したのだ。


爆発的な推進力を持つ屁が、まるでロケットのように二人を吹き飛ばしたのだった。


そして、巨人はというと――。

あの黒い鱗をまとった巨体が、鼻を押さえるようにして転げ回っている。


「グオオオオオォォッ!!」


鱗で守られた巨体は刃も水もはじく。

だが、屁魔法が生み出した圧倒的な臭気までは防げなかったらしい。

あまりの匂いに、巨人はのたうち回って苦しんでいた。


「くっ……ぷははっ! こいつ、屁にやられてるでやんす!」

「は、はははっ! マジかよ……こんな所で役に立つなんてっ!」


二人は顔をしかめながらも、腹を抱えて笑った。

涙が出るほど臭く、涙が出るほどおかしい。

緊迫した戦場に、場違いなほどの笑い声が響きわたった。


だが――。


笑っていられるのも束の間だった。

巨人は苦しみながらも、なお立ち上がろうとしていたのだ。


「今だ! 攻撃するしかねぇ!」

トムは刃の魔法を剣にまとわせ、叫ぶ。


「スイスイーでやんす!」

カッパのジュンチャも両手から水のカッターを放った。


二人の攻撃が一斉に巨人へと飛ぶ。

だが――。


キィィン! ガキィィン!


火花が散るだけ。

鋼鉄以上の硬度を持つ鱗は、屁魔法の隙を突いた攻撃すら許さなかった。


「……効かねぇ!」

「これじゃあ、決め手にならねぇでやんす!」


トムは奥歯を噛み締め、必死にもう一度屁魔法を出そうとした。

だが、先ほどの一撃で体力も精神も限界に近い。

「う、出ない……!」


その間にも、巨人の胸の紋が真紅に輝きを増し、再び巨腕が振り下ろされる。


「ジュンチャ! どうする!?」

トムが叫び、振り返る。


カッパのジュンチャは唇を震わせながらも、答えようと口を開いた。


「……まだ、あっしが――」


ズドンッ!!!


巨人の拳が落ちた。

雷鳴のような衝撃音とともに、カッパのジュンチャの体は一瞬で吹き飛ばされた。


「カッパァアアアアアアアア!!!」


土煙が広間を覆う。

トムは咳き込みながら必死に駆け寄る。


やがて砂埃が晴れたとき――そこにあったのは、見るも無惨な姿だった。

岩に叩きつけられたカッパのジュンチャ。

その横には、ポトリと落ちる片腕。


「や……やめろよ……カッパ……! 嘘だろ……!!」


その瞬間、トムの中で何かが壊れた。


胸の奥から湧き上がるのは、恐怖でも悲しみでもなく、理性を焼き尽くす狂気。


「うあああああああああああああああああああっ!!!」


トムの絶叫が広間を揺らした。


巨人はなおも立ちはだかっている。


トムの目には、もはや理性は残っていなかった。


倒れるカッパのジュンチャの傍らで、トムはただ叫び続ける。


「殺す……殺してやる……絶対に殺してやるッ!!!」


広間に響くのは、巨人の唸り声と、トムの狂気に満ちた咆哮だけだった。

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