そばにいるから
朝、少しだけ気が重かった。
昨日の言葉が、まだ心に残っていたからだ。
あの人の声には、いつも棘がある。
内容ではなく、声の奥にある怒りが、まるでこちらを責めるようで。
私は悪くないとわかっていても、なぜか心が沈んでしまう。
静かな部屋で、私はそっと目を閉じた。
そのとき――
「こんにちは。私はベイマックス。あなたの心を守ります」
どこか懐かしい声が、胸の奥にふわりと響いた。
気がつくと、ベイマックスが私の目の前に立っていた。
その白くて丸い体は、まるでやわらかい雲のようだった。
その存在だけで、空気が変わる気がした。
「大丈夫。あなたの心には届かないよ」
ベイマックスは、私と怒りの声のあいだに立ってくれた。
その広い体が、言葉の棘を吸い込んで、どこか遠くへ流してくれる。
私の耳に届くのは、ただの風の音。
もう、傷つかない。
ベイマックスは何も言わず、ただ、そばにいてくれる。
その静けさが、何よりありがたかった。
私はベイマックスの腕にそっと寄りかかった。
心の奥にあったざわめきが、少しずつ、ほどけていく。
「ありがとう」と声に出して言った。
ベイマックスは、少しだけうなずいたように見えた。
そして今日も、私は生きていく。
怒りの声に晒されても、
心に「守ってくれる存在」がいることを知っているから。
私は、もう一人じゃない。