表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/157

8-5

 心と体が切り離されたような状態になって、どれくらい時間が経ったのでしょう。

 夢に見る母の記憶の時系列がバラバラなことも手伝って、時間間隔がバグっています。

 

「ウィロウ! 魔族たちをこっちに誘導して! パンデモニウムまでの門を開くわ!」

「かしこまり! まっかせといて!」

「シルバーバインは好きなように暴れて良し! エイトゥスとフローリストは援護してあげて!」


 今回の夢の舞台は、建築様式を見る限りで言えばフランセーズの城郭都市。

 どうやらそこに攻め込んで、奴隷となっていた魔族たちを救い出しているようです。

 エイトゥスと思われる青年が植物を操る魔術で防壁を作ったり、拘束したり貫いたりして騎士団の侵攻を遅らせ、シルバーバインと思われる17~8歳くらいの魔猫族の少女が、蜘蛛の足が欠損していないフローリストとともに左右から挟撃して追手の騎士団に満足な攻撃をさせずに蹂躙しています。


「殺す殺す殺す殺す、ぶっ殺してやるニャ! 人間は皆殺しだニャ!」

「ちょ、待ちなさいシルバーバイン! 追い返すだけで良いのよ!? 城壁の中まで追わなくていいの!」

 

 オオエ山の隠れ集落でわたしが改良した空間直結魔法(ヨグ・ソトース)、そのオリジナルと思われる魔法で魔族たちをパンデモニウムとやらへ逃がしながら、悲鳴に近いフローリストの声がした方へと母は視線を向けました。

 母の目に映し出されたのは、血煙を纏いながら再び城壁内へ突入しようとしているシルバーバインと、それを止めようと必死に追いかけるフローリスト。その後ろ姿を、エイトゥスが呆れ顔で見ています。

 この光景を見てぱっと思い出せるのは、母と言うよりはシルバーバインの残虐性を伝えるエピソードで最古と言っても過言ではないない、オーレアン虐殺ですね。

 今から九十年以上前、フランセーズの城壁都市の一つだったオーレアンに攻め込んだシルバーバインは老若男女問わず虐殺し、死肉を貪ったと伝えられています。

 このまま母が止めなければ歴史通りの結果になりそうですが、伝わっていないことからもわかる通り、この都市の人間が魔族を奴隷として使役していた事実はなかったことにされています。

 そういえば、オーレアン虐殺を生き残り、神の声を聞けるとうそぶいてフランセーズ軍を率いてシルバーバインへの復讐に生涯を捧げたジャーヌ・ダークのエピソードが、フランセーズでは劇になるほど有名でしたね。

 まあ、結局復讐は果たせず、それどころかブリタニカ軍を魔王軍と誤認して襲撃した際に捕まり、その咎で火あぶりに処されて生涯を閉じたそうですが。


「あ~あ、魔王ちゃんが好きに暴れて良いなんて言うから、シルバーバインちゃんが暴走しちゃってるよ。どうするの? あのままじゃあ、女子供まで本当に皆殺しにしちゃうよ?」

「いやぁ……。ホント、どうしよ」


 母な何かを諦めたかのように目を細めて、空を見上げました。

 その間にもシルバーバインに引き裂かれていると思われる人間たちの断末魔の悲鳴や、何かを破壊するような音が響いていますが母は魔法を維持すること以外しようとしません。

 いや? もしかしてできないのでは?

 仮にわたしがユグ・ソトースを使った場合、クラリスさえいれば魔法を維持しながら複数の魔術や魔法を同時に使えますが、それは本来なら一級を冠されている魔術師ですら至難の業。公式に認められている史上最高の魔術師であるアリシア様ですら、同時に五つか六つが限界だと聞いたことがあります。

 わたしからすれば息を吸うようにできるほど簡単な技術なのですが、二つの魔術を同時扱うようになることすら、才能のある人でも数年から十数年を要するそうです。


「魔王ちゃん、まだ放っとくつもり?」

「もうちょっと待って。この魔法って、門を閉じきるまで気を抜けなくて……」

「やっぱり、魔法はまだ難しい?」

「難しいと言うか、気を使うわね。ほら、あたしが不慣れなまま魔法を使ったせいであの子は……」


 言い切る前に、母の視界が歪みました。

 会話から予想するしかありませんが、この記憶は母が時空間転移魔法(クロノス)でわたしを未来のブリタニカ王国へ送ったあとなのでしょう。

 それを悔やんでいるから、他の魔術や魔法を同時に扱えるかどうかは別にして、魔法の扱いに慎重になっているのだと思います。

 

「ごめん。無神経だった。魔王ちゃんからすれば、魔法はトラウマなのに……」

「気にしないで、ウィロウ。あれは、あたしが未熟だっただけよ」


 母はウィロウを気遣うように自虐をしましたが、避難が完了したことを確認して門を閉じると同時に唇を噛みました。

 この頃の母にとって、愛するわたしを未来へ飛ばしてしまった記憶はまだトラウマと呼べるほど風化しておらず、確かな後悔として母を傷つけ続けていたのでしょう。

 ですが、疑問が湧いてしまいました。

 わたしの仮説が合っているのなら、母が魔法を使っている時点で矛盾が生じてしまうのです。



 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ