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「あら、いらっしゃい。あの子たちの話を聞きたいだなんて、相変わらず物好きね。今回なんてアレよ? 初っ端から濡れ場よ?」
前回終わりに見せた拒絶は鳴りを潜め、シーラは砕けた口調で観客席に声をかけた。
仕草も、客を歓迎しているとは言い難い。
それなのに、接客用の立ち居振る舞いをしている時よりもよほど、歓迎されているように思える。
「それでも聞きたいのなら、語ったげる。今回、クラリス一行はアイチを経て東海道を進み、トウキョーへと至ることになるのですが……。クラーラは前回のショックから立ち直れず廃人同然。そのせいで路銀に困り、行き先も決められずに一行は困り果て、さらには道中、龍王に絡まれたりクラリスが求婚されたりで、今まで以上にカオスなお話です」
シーラは呆れながらも楽しそうに、一息に語りきった。
前回のように不機嫌になることはなさそうだが、隠しきれていない笑顔が邪悪だ。
さらにほくそ笑みながらブツブツと、「人に働かせて自分はゴロゴロと……誰に似たのかしら」とか「物好きな男もいたものね。まあ、あの子の好みも大概だけど」などと言っている。
「おっと失礼。ではさっそく、本編へとまいりましょう。タイトルはそうねぇ……。何にしよ。あ、そうだ『さあ! あたしのために争って!』とでも、しておきましょう」
邪悪な笑顔のままシーラがタイトルを告げると、劇場が不気味に暗転し始めた。




